
2024年も昨年に続き、100本以上の専門家コラムを掲載しました。ご寄稿いただいた専門家の皆さんには心から感謝しています。どのコラムもEC運営に役立つものばかりですが、すべてを紹介するのは難しいため、本記事では、この1年を振り返り、私が特に注目したキーワードに関連するコラムをピックアップしました。
今回取り上げるキーワードは、「コンセプト設計」「タッチポイント創出」「CX(顧客体験)向上」の3つです。
この記事の目次
コンセプト設計
EC事業の成功に欠かせない要素の一つが「コンセプト設計」です。11月28日に開催された「本気(マジ)でECに取り組む研究会」の第1回研究会に参加させていただいたのですが、ネクトラス社の中島さんも、「EC事業が伸びない理由は、コンセプトがないから」と指摘されています。このように、コンセプトの重要性は多くの専門家が口を揃えて語るテーマです。
ブランドコンセプトは核となる価値観やメッセージ
ブランドコンセプトは「ブランドの核となる価値観やメッセージを一言で表したもの」です。つきみ社の山本さんは、ブランドコンセプトの設計にあたって、下記を意識することが大切だと話します。
- 強みや独自性の表現:市場分析や顧客分析を踏まえ、自社の価値を端的に伝える。
- ブランド活動の指針:商品開発、マーケティング、コミュニケーションなど、全ての基盤となる。
競争が激しいEC業界では、ブランドコンセプトを明確にすることで、他社との差別化を図り、顧客にブランドを印象づけることが可能です。ブランドコンセプト設計に関する具体的な手法や事例については、「ECブランド立ち上げのロードマップ【第2回】」に詳細が記述されています。詳しく知りたい方はこちらのコラムをご覧ください。
コンセプトがマーケティングの起点になる理由
EXIDEA社の塩口さんは、「コンセプトこそが全ての起点」と述べています。コンセプトとは「マーケットが求める新しさ」と「自社が提供する価値」の交点に位置づけられるもので、これが確立されることで以下のようなメリットが得られるとのことです。
- マーケティング施策の明確化:流行に流されることなく、自社に最適な手法が見えてくる。
- 他社との差別化:テクニック中心のマーケティングが限界を迎える中、コンセプトに基づくアプローチがより重要になる。
塩口さんは、EC事業で成果が出ない理由として「自社コンセプトの不明確さ」を挙げ、まずはコンセプトの見直しから始めるべきだと提言しています。詳しくは「ECサイト運営に欠かせないコンセプトに基づいたマーケティングについて」をご覧いただければと思います。
SNS運用におけるコンセプトの落とし込み
SNS運用でも、コンセプト設計は重要です。インスタ兄弟こと櫻井さんは「インスタグラム運用の成功はコンセプト次第」と述べ、運用にあたって次のプロセスを提案しています。
- コンセプトの定義:ブランドのビジョンや価値観を具体化する。
- 世界観の構築:コンセプトに基づいたビジュアルやストーリーを発信する。
- 商品との関連付け:商品やサービスを活用して、ブランドが目指す世界を表現する。
櫻井さんは、インスタグラムは「世界観や好みを表現する場」であるため、コンセプトの明確化が運用の成否を分けると強調しています。詳細は「インスタはビジョンから始まる!ブランドの世界観を表現するインスタ運営とは」をご覧ください。
タッチポイントの創出
EC運営(特に自社ECサイト)がうまくいっている事業者さんとお話しすると、SNSやコンテンツマーケティングに注力しているケースが多く見受けられます。一方で、「運用はしているけど、なかなか効果が見えない」と悩む声も少なくありません。ここでは、SNSやコンテンツマーケティングに取り組む際の考え方について触れたコラムを紹介します。ポイントは「タッチポイントの創出」です。
循環する購買行動に対応するタッチポイント
これまでのマーケティングは「認知→比較検討→購入」といった一方通行のファネル型が主流でした。しかし、実際には検討期間が長くなったり、一度忘れたサービスを再検討したりするなど、より複雑な行動が増えているとオプト社の野嶋さんは言います。
こうした背景から、Google社が提唱する「バタフライ・サーキットモデル」が注目されているとのことです。このモデルでは、ユーザーが選択肢を広げる「さぐる」行動と、絞り込む「かためる」行動を交互に繰り返すことを前提としています。そのため、どちらのフェーズでもタッチポイントを用意し、情報提供を行うことが重要だと野嶋さんは指摘するのです。
SNSは「さぐる」行動にフィットする情報提供が可能で、広告が中心となる「かためる」行動を補完します。これにより、「さぐる」と「かためる」の双方で顧客との接点を構築し、パルス型消費行動を促す効果が期待できるとのことです。詳しく知りたい方は野嶋さんのコラムをご覧いただければと思います。
コンテンツマーケティングによる長期的なタッチポイントの構築
日本ではコンテンツマーケティングは、「新規の獲得ツール」となっていることが多いとサンドディー・アイ・ジー社の青木さんは言います。しかし、コンテンツマーケティング発祥の地であるアメリカでは、コンテンツマーケティングは「顧客から信頼を得るためのツール」として活用されているそうです。
「買う気のある人」に何かを売るのなら、広告を使うべきですが、「買う気がない人」を「買う気にさせる」目的であれば、広告は決して効果的ではないと青木さんは指摘します。そして、ここにコンテンツマーケティングの出番があると言うのです。
「興味はあるが、まだ買う気はない人」に向けた情報発信の手段として、コンテンツマーケティングは広告では補えない持続的なタッチポイントを提供します。だからこそ、コンテンツマーケティングに取り組むにあたっては、CVよりもLTV志向で運用する必要があるとのことです。詳細は、「日本流コンマケは、どこで間違えたのか?|日米コンマケ事情」をご覧ください。
CX(顧客体験)向上
「顧客体験の向上」が大切であることはわかっても、具体的に何をすればよいかわからない。売上につながるのか疑問に感じる方はいると思います。ここでは、顧客目線を取り入れながら売上を伸ばすための考え方や、実際に成果を上げた事例を専門家の解説とともにご紹介します。
ユーザーの「買いたいタイミング」で購入できる設計
定額制コンタクトレンズ「dicon」における「SNS広告」×「LINE公式アカウント」の施策について、ホリプロデジタルエンターテインメント社の久保山さんにお話しいただきました。
「定額制コンタクトレンズ」という商品の特性上「新しいコンタクトが必要になるタイミング」はユーザーによって違います。そのため、SNS広告を見て「dicon良いな。乗り換えようかな」と思ってもらえたとしても、例えばそのタイミングで未使用のコンタクトレンズが1か月分残っていれば「いまはまだ買わなくていいかな」と離脱してしまう可能性があるそうです。
そこで、そういったユーザーに「LINE公式アカウント」を登録してもらい、継続的にコミュニケーションを取れる状態にすることで、ユーザーそれぞれの「買いたいタイミング」で購入していただくような設計をされたと言います。
リスティング広告などを活用することで「顕在層」を獲得でき効果が出ていたものの、「潜在層」にはアプローチできておらず、以前と比べて売上推移の鈍化やCPAが少しずつ悪化している事業者さんは少なくないと思います。
「SNS広告」と「LINE公式アカウント」を組み合わせて「潜在層」にアプローチすることで、EC売上が160%増加した「dicon」の取り組みは参考になるのではないでしょうか。
「買い物時だけ開かれるアプリ」という課題からの脱却
小売業のアプリ活用について、メグリの篠田さんが課題と可能性を指摘しています。篠田さんは、多くのアプリが「買い物時だけ使われる存在」にとどまり、購入のきっかけや気づきを提供できていない現状が、顧客生涯価値(LTV)向上の妨げになっていると言うのです。
メグリ社のクライアントであるアパレル企業では、スタッフによるコーディネート提案コンテンツが成功例として注目されています。この「見るだけでも楽しい」コンテンツは、アプリの利用頻度を高め、購買行動を促す効果があります。特に、このコンテンツを導入した企業では、ユーザーの8割が満足しているという調査結果があり、LTVの向上に寄与しているとのことです。
さらに、篠田さんは顧客体験が「購買」のみに限定されるべきではないと強調しています。認知や検討などの購買前フェーズから、返品対応やサポート、不用品回収などの購買後フェーズまで、全ての接点で体験を充実させることが重要だと言うのです。
こういった対応が不十分な企業では、知らないうちに認知や検討フェーズで顧客が他社に流れ、気づかない間に顧客を失っているケースも十分に考えられると警鐘を鳴らされています。また、購買以外の接点を強化することで、「買い物時だけ開かれるアプリ」という課題からの脱却が可能であるとも指摘されています。
最後に
2024年に個人的に注目した「キーワード」を踏まえながら、専門家コラムの一部を紹介させていただきました。上記で挙げた以外にもさまざまなコラムが掲載されていますので、目を通していただき、気になるものがありましたらぜひご覧いただければと思います。
コマースピックでは、専門家の皆さんの寄稿を募集しています。寄稿したい方はご連絡ください。お待ちしております。
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