
ECを取り巻く環境は、ここ数年で変化を続けていますが、2025年に入り、その変化がより「実務の論点」として立ち上がってきました。SNS上で広がる新しいコマース機能や広告メニュー、生成AIの実装が進む検索・制作の現場、そして決済をめぐる構造的な課題。いずれも、EC事業者にとって判断を先送りしにくいテーマです。
コマースピックでは、2025年に入ってからも100本以上の専門家コラムを掲載してきました。すべてを紹介することはできませんが、本記事では、その中から私、竹内が特に「変化の読みどころ」と感じた論点に絞り、SNS・AI・決済という3つの切り口でご紹介します。
この記事の目次
SNS:新しいコマース機能・広告メニューをどう捉えるか
新しいコマース機能や広告メニューが登場すると、「今すぐ取り組むべきか」「様子を見るべきか」と判断に迷う場面も少なくありません。ここでは、TikTok ShopとThreads広告をテーマにした2本のコラムを取り上げ、それぞれの立ち上がりフェーズをどう捉えるべきかに注目しました。いずれも、短期的な成果だけで判断しない視点が示されており、新たなチャネルと向き合う際の参考になる内容です。
TikTok Shop:単体ROIでは見えない、日本市場ならではの広がり
2025年6月末にTikTok Shopが日本でも正式にサービスを開始してから、約6か月が経過しました。Firework Japan社の瀧澤優作さんは、米国の先行事例から、TikTok Shopを単体のROIで評価するのではなく、他チャネルへの波及効果まで含めて捉える重要性を指摘しています。
一方、米国では食品・飲料はTikTok Shopに向きにくいとされてきましたが、オークファンの調査レポートが示すように、日本市場では「まとめ買い文化」と結びつくことで同カテゴリが存在感を高めるなど、米国とは異なる動きも見られています。
Threads広告:成果を急がず、初期フェーズで何を試すべきか
2025年に入り、Metaはテキスト中心のSNS「Threads」に広告メニューを正式に実装しました。オプト社の野嶋友博さんは、Threads広告はまだ実装初期にあり、既存のMeta広告と同じ配信ロジックや評価軸で成果を判断すべきフェーズではないと整理しています。初期のThreads広告はCPMが抑えられやすい一方で、CTRは安定しておらず、アルゴリズムやユーザーの広告受容も形成途上にある状況です。
今後予定されている動画広告フォーマットの導入を見据え、野嶋さんはその前段階として、テキスト中心のフィードに適した静止画や訴求軸を検証しておく必要性を示しています。競争が本格化する前に「Threadsらしい広告表現」を見極めておくフェーズといえるでしょう。
AI:検索と制作の実務はどう変わり始めているか
生成AIの進化により、ECを取り巻く環境は検索体験から制作体制まで、静かに変わり始めています。ここでは、AI OverviewsがSEOに与える影響と、画像生成AIが制作業務にもたらす変化をそれぞれ扱った2本のコラムを紹介します。いずれも、AIを過度に恐れるのではなく、EC実務の中でどこに目を向けるべきかを示した内容です。
AI Overviews:SEOは悲観せず、どこを見直すべきか
GoogleのAI Overviewsは、日本でも2024年8月から提供が始まり、すでに1年以上が経過しています。2025年5月にシンクムーブ社とキーワードマーケティング社が共同で実施した調査では、6割以上のマーケターが自然検索流入の減少を実感していることが示されました。
一方でシンクムーブ社の豊藏翔太さんは、影響は主に「情報収集(Know)」クエリに集中しており、「購入(Buy)」クエリへの直接的な影響は現時点では限定的だと話します。重要なのは、AIによってユーザーの比較・検討プロセスが見えにくくなりつつある点だと指摘しています。
こうした変化を踏まえ、購入後アンケートやレビューといった一次情報をどう活かせているかを見直す必要性を豊藏さんは提示しています。AI OverviewsをきっかけにSEOを悲観するのではなく、自社がすでに持つ情報資産をどう再編集するかを考える内容といえるでしょう。
画像生成AI:制作を効率化し、検証に時間を使う発想
画像生成AI「Nano Banana Pro」は、2025年11月に日本語対応モデルとして提供が始まりました。つきみ社の山本達巳さんに、EC支援の立場からNano Banana Proを試してみた経験をもとに、制作業務にどのような変化が起きたのかを具体例とともにお話しいただいています。
特に山本さんが手応えを感じたのは、デザインを作り込む前に、ラフ案やバリエーションを一気に出せる点です。バナーや販促物を短時間で複数生成し、迷う時間を減らしてテストに回すことで、勘や好みに頼っていた判断を、数字で確かめられる状態に近づけられるとしています。
デザイナーを不要にする話ではなく、人が判断すべき部分に時間を使うための下支えとしてAIをどう使うか。Nano Banana Proを実務で試す中で見えてきた、現実的な使いどころが示されています。
決済:見えない失注と、新たな選択肢をどう捉えるか
決済は、ECにおける「最後の処理」でありながら、これまで構造的に語られる機会が多くありませんでした。しかし近年、不正対策の強化や制度整備が進むなかで、売上に直結するはずの決済プロセスそのものが、事業成長の制約条件になり得る状況が見え始めています。
ここでは、既存のカード決済が抱える課題と、前提の異なる決済手段の可能性という、異なる角度から決済を捉え直す2本を取り上げます。決済を「通す・通らない」の話にとどめず、ECの構造としてどう向き合うべきかを考えるための視点が提示されていますので、参考にしてみてください。
3Dセキュア義務化:顕在化した決済承認率の低下
ECの売上改善というと、集客やCVRに目が向きがちですが、決済の最終段階に潜む「決済承認率」は見落とされやすいポイントです。YTGATE社の高橋祐太郎さんは、2025年4月に実質義務化された3Dセキュア導入以降、不正対策の強化と引き換えに、正規ユーザーの決済まで弾かれてしまう構造が生まれている点を指摘しています。
広告やUIを改善して購入意欲を高めても、決済で承認されなければ売上にはつながりません。決済承認率は、マーケティング施策の成果を静かに打ち消してしまう“見えないボトルネック”になり得ます。
だからこそ、決済体験を単なるオペレーションではなく、経営指標として捉え直す視点が重要になる。EC成長の次の打ち手を考えるうえで、一度立ち止まって確認しておきたいテーマです。
ステーブルコイン:「実験」から「検討フェーズ」へ
暗号資産は技術的な可能性がある一方で、価格変動の大きさから、ECの決済手段としては扱いづらい側面があります。Tempura technologies社の上田剛大さんは、その前提を踏まえたうえで、ステーブルコインがECにとって現実的な選択肢になりつつある理由をまとめています。
実際、2025年10月には、日本円建てステーブルコイン「JPYC」が法制度をクリアしたうえで正式発行を開始しました。価格を円と連動させながら、低コスト・高速・24時間稼働といった暗号資産の特性を活かせる点は、従来の決済手段とは異なる価値を持ちます。「将来の話」ではなく、検討段階に入ったテーマとしてどう向き合うかを考えるためのヒントになるでしょう。
最後に
今回の記事では、2025年に入り特に変化が表面化してきた「SNS」「AI」「決済」という3つのテーマを軸に、専門家コラムの一部を紹介しました。
いずれのテーマも、正解がすぐに見えるものではありません。一方で、「知らずにいる」「後回しにする」ことで、判断の選択肢が狭まってしまう可能性がある領域でもあります。今回取り上げたコラムは、そうした変化を煽るのではなく、今どこを見ておくべきかを整理する材料として読める点に共通点があります。
本記事で紹介した以外にも、コマースピックには多くの専門家コラムが掲載されています。気になるテーマがあれば、ぜひ他の記事にも目を通してみてください。
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