
EC市場で長期的に利益を創出していくには、選ばれ続けるブランド作りが重要です。しかし、ブランド立ち上げは複雑で、どこから手をつければいいのか迷う方も多いでしょう。
そこで今回は、成功への道筋を明確にする「ロードマップ」作成術を解説します。ブランディングの基盤となるMVV、市場分析から、差別化戦略、実行計画、評価指標まで、考慮すべきポイントを具体的に紹介します。
山本 達巳
つきみ株式会社
静岡市出身、関西学院大学卒。地元医療系の企業で修行後、父親の経営する医療介護系企業に入社。経営とバックオフィス業務を学ぶ傍ら、留学がきっかけで以前から関心が高かった輸入品雑貨のネット販売事業を開始。令和元年に独立し、複数の海外メーカー取引きの経験を経て、自社アウトドアブランドを展開。
その後、自社ブランドを伸ばしていきたい事業者を応援したいという思いから、令和6年につきみ株式会社を設立。商品ページ作りや広告運用、SNSなどECに関係する領域を幅広く対応しつつ、商品ブランディング支援を行っている。
つきみ株式会社
https://tsukimi.ne.jp
【X:https://x.com/tatsumin_ec】
【note:https://note.com/tatsumin_ec】
ブランド立ち上げのロードマップ:全体像を把握する

ECブランドを立ち上げる際、ロードマップを作成することは、航海に出る前に地図を用意するようなものです。目的地(ブランドの成功)にたどり着くためには、どのような航路を進むべきか、事前に計画を立てておく必要があります。
なぜ作成するのか?
ロードマップは、ブランド立ち上げという複雑なプロセスを可視化し、各段階で何をすべきかを明確にすることで、目標達成の確率を向上させます。事前に課題やリスクを予測し、対応策を検討することで、トラブル発生時の対応をスムーズにし、ブランドの成長を妨げるリスクを最小限に抑えます。
作成のメリット
また、ロードマップは、必要なリソース(時間、資金、人材)を明確にし、適切に配分することで、無駄を省き、限られたリソースを最大限に活用することを可能にします。さらに、チーム全体で目標を共有し、各メンバーの役割を明確にすることで、連携を強化し、一体感のあるチーム作りにも貢献します。
ロードマップを作成する最大のメリットは、ブランドの成功確率を高めることです。具体的な目標を設定し、達成までのステップを明確にすることで、チーム全体が同じ方向に向かって進むことができます。また、ロードマップは、投資家やビジネスパートナーにブランドの将来性を示すための強力なツールにもなります。
ロードマップには、以下の要素を含めることが一般的です。


これらの要素を網羅することで、ブランド立ち上げから成長までの全体像を把握し、具体的なアクションプランを策定することができます。
ステップ1:ブランドの基盤を築く

ブランドを立ち上げる上で、まず初めに取り組むべきは、ブランドの基盤となる要素を明確にすることです。このステップは、いわば建物の土台を作るようなもので、ブランドの成長を支える重要な役割を果たします。
MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)の策定
MVVとは、Mission(ミッション:存在意義)、Vision(ビジョン:将来像)、Value(バリュー:価値観)の頭文字を取ったものです。これらを明確にすることで、ブランドの進むべき方向性を定め、チーム全体で共有することができます。
ミッションは、なぜこのブランドが存在するのか、どのような社会的な課題を解決したいのかを定義します。ビジョンは、将来的にどのようなブランドになりたいのか、どのような世界を実現したいのかを具体的に示します。バリューは、ブランドが大切にしている価値観や行動指針を明確にします。
MVVは、ブランドのアイデンティティを確立し、顧客や従業員との共感を生み出すための重要な要素です。
市場分析(3C/5C、SWOT分析)
市場分析は、ブランドが参入する市場の状況を把握し、成功の可能性を評価するためのプロセスです。
3C分析(自社・顧客・競合)や5C分析(自社・顧客・競合・流通・環境)、SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)などのフレームワークを活用することで、市場における自社の立ち位置や競合との関係性を客観的に分析することができます。
市場分析の結果は、後のステップで策定するマーケティング戦略や販売戦略の基礎となります。
顧客の課題とニーズの把握

ブランドが成功するためには、顧客の課題やニーズを深く理解することが不可欠です。ターゲット顧客は誰なのか、どのような課題を抱えているのか、どのようなニーズを持っているのかを明確にすることで、顧客に響く商品やサービスを提供することができます。
顧客調査やインタビュー、アンケートなどを実施することで、顧客の生の声を収集し、ニーズを的確に把握しましょう。
オルタネイトモデル、CEP(カテゴリーエントリーポイント)の検討
オルタネイトモデルとは、顧客が自社の商品やサービスの代わりに利用する可能性のある代替手段のことです。
例えば、ある人が高級レストランでのディナーを検討している場合、そのオルタネイトモデルは、自宅で料理をする、ファストフード店に行く、カジュアルなレストランに行く、などがあります。オルタネイトモデルを把握することで、自社商品の競争優位性を明確にし、差別化戦略を立てることができます。
CEP(Category Entry Point)とは、顧客が特定のカテゴリーの商品やサービスを購入する際に最初に接触する場所や情報源のことです。例えば、ファッションアイテムであれば、ECサイトやSNS、雑誌などがCEPとなります。CEPを把握することで、効果的なマーケティング戦略を立てることが可能になります。
ステップ2:ブランドの差別化戦略

EC市場は競争が激化しており、数多くのブランドがしのぎを削っています。そこで重要となるのが、自社ブランドを他のブランドから際立たせる「差別化戦略」です。このステップでは、独自のポジションを確立し、顧客に選ばれるブランドになるための戦略を練り上げます。
独自のポジションを確立する(カテゴリーメンバーシップ、POD、POP)
差別化戦略を考える上で、カテゴリーメンバーシップ(属するカテゴリー)、POD(Point of Difference:競合との違い)、POP(Point of Parity:競合との共通点)の3つの要素を明確にすることが重要です。
カテゴリーメンバーシップは、自社ブランドが属するカテゴリーを明確にすることで、ターゲット顧客を絞り込みます。PODは、独自の技術、高品質な素材、優れたデザイン、特別なサービスなど、顧客に選ばれる理由となる要素を明確にします。POPは、ECサイトであれば、使いやすさやセキュリティなど、競合と同等レベルで満たすべき要素を指します。
ブランドエクイティピラミッドの構築

ブランドエクイティピラミッドとは、ブランド資産を可視化するフレームワークです。Salience(顕著性)、Performance & Imagery(機能・イメージ)、Judgments & Feelings(判断・感情)、Resonance(共鳴)の4つの階層で構成され、各階層を積み上げていくことで、ブランド価値を高めることができます。それぞれの階層における具体的な施策を検討し、ブランドの成長を促進しましょう。
コンセプトの明確化
ブランドコンセプトは、ブランドの核となる価値観やメッセージを一言で表したものです。顧客にブランドを印象づけ、共感を呼ぶための重要な要素となります。
MVV、市場分析、顧客分析の結果を踏まえ、自社の強みや独自性を端的に表現する言葉を選びましょう。ブランドコンセプトは、商品開発、マーケティング、コミュニケーションなど、ブランドに関わる全ての活動の指針となるものです。
ステップ3:実行計画と評価指標

ブランドの基盤が固まったら、次は具体的な実行計画を立て、その進捗を測るための評価指標を設定します。このステップは、ブランドの成功に向けた具体的なアクションプランを策定し、目標達成に向けて着実に進むための道しるべとなります。
実行可能な計画の立案
実行計画は、ブランドの目標を達成するために、いつ、誰が、何を、どのように行うのかを具体的に落とし込んだものです。計画を立てる際には、具体的なアクションを明確にし、各アクションの担当者と期限を設定します。
また、各アクションに必要なリソース(予算、人員、時間など)を確保し、起こりうるリスクを想定し、対応策を事前に検討しておくことも重要です。実行計画は、柔軟性を持たせ、状況に応じて修正できるようにしておくことも大切です。
評価指標の設定(KGI、NSM、KPI、OKR)
ブランドの成長を測るためには、適切な評価指標を設定する必要があります。代表的な指標として、KGI(Key Goal Indicator)、NSM(North Star Metric)、KPI(Key Performance Indicator)、OKR(Objectives and Key Results)があります。
KGIは、ブランドの最終的な目標を数値化したもので、市場シェアやブランド認知度などが該当します。NSMは、ブランドの成功を測る最も重要な指標であり、例えばECサイトであれば、月間売上高や顧客数などが該当します。KPIは、NSMを達成するために必要な中間指標で、ウェブサイトへのアクセス数やコンバージョン率などが挙げられます。OKRは、組織全体の目標と、それを達成するための具体的な成果指標をセットにしたものです。
これらの指標を設定することで、ブランドの現状を客観的に把握し、改善すべき点を明確にすることができます。
顧客ロイヤリティの向上

ブランドの長期的な成長には、顧客ロイヤリティの向上が不可欠です。顧客ロイヤリティとは、顧客がブランドに対して抱く愛着や信頼感のことで、リピート購入や口コミなど、さまざまな形でブランドに貢献することが期待できます。。
まとめ
今回は、ECブランド立ち上げのロードマップについて、その重要性と具体的なステップを解説しました。ブランドの基盤となるMVV、市場・顧客分析、競合との差別化、そして具体的な実行計画と評価指標まで、一つ一つ丁寧に検討し、計画を立てていくことで、EC市場での成功に大きく近づくことができます。
ロードマップは、ブランドの成長を支える羅針盤のようなものです。常にロードマップを見直し、状況に合わせて修正しながら、ブランドを成功へと導きましょう。
次回はMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)をテーマにお話しさせていただきます。
つきみ株式会社 https://tsukimi.ne.jp/
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