オムニチャネル化はなぜ「中途半端」になるのか?組織構造から読み解くオムニチャネル化の進め方【現場のオムニチャネル実践論:第1回】

この記事をお読みいただいている小売業様の中には 、店舗とECなどの販売チャネルの体験を統合するオムニチャネル化について 「まだ実現できていない」、あるいは「取り組んではみたものの、推進しきれていない」など、中途半端になってしまっている…という方も多いのではないでしょうか。

「ポイントは統合したけれど、ポイント以外のメリットは特にない」「プロジェクトを立ち上げたものの、部門間に温度差があって前に進まない」など、顧客体験や事業成果まで踏み込みきれていない、という状況は、多くの事業者で発生しがちです。

私は、ECシステムとPOSレジをつなぐオムニチャネル基盤「Omni Hub」のカスタマーサクセスの東山と申します。この連載では「現場のオムニチャネル実践論」と題し、日々多くの企業様に向き合う中で実感するオムニチャネル化成功のポイントについて、導入の進め方から店舗の巻き込み方、評価方法、施策まで、 幅広いテーマで執筆していきます。

今回は、「オムニチャネル化」が難しくなりやすい構造を整理し、それを踏まえたプロジェクト推進の全体像を考えていきます。

この記事の執筆者

東山 周平
株式会社リワイア
Omni Hubチーム カスタマーサクセス

新卒で株式会社フィードフォースに入社し、オムニチャネル会員連携アプリ「Omni Hub」のセールス・カスタマーサクセスを担当。アパレル・飲食を中心とした小売業界向けに、店舗を巻き込んだ機能活用やデータ活用のサポートまで幅広く手がける。2025年に株式会社リワイアへ出向後、ポイントや会員ランク制度、顧客分析など、OMO・オムニチャネルを通じた小売事業の顧客体験向上に向けて広く活動中。

オムニチャネル施策はなぜ難しいのか

「店舗・EC共通のポイントプログラム」に代表されるように、チャネルをまたいでお客さまの購買体験を統合する「オムニチャネル」は、いまや目新しいものではなく、お客さまにとって「あって当然」の取り組みと捉えられる場面も増えています。

オムニチャネル化により、ポイントの共通化に加え、ECサイトでの店舗在庫確認や店舗受け取り予約、店舗購入品の自宅への配送など、チャネルをまたいだ便利な体験をお客さまに提供できるようになります。

「お客さまの購買体験を統合する」ということは重要な概念ではあるものの、実際に検討を進めようとすると、腰が重くなっている会社も多いのではないでしょうか。

このように、検討が進まない背景には、組織・知識・目標設計という3つの要因があると考えています。

社内の関係者が多く、部門間の調整コストが高い(組織)

「オムニチャネル」は「店舗」と「EC」やその他のチャネルを横断するため、必然的に複数の部門が関わります。企業運営上、それぞれの部門に個別の目標が設定されていることも多いため、横断的な業務は「自分の目標には直接関係のない仕事」「自部門の成果や売上が他部署に奪われてしまうかもしれない」といった負のインセンティブが働きやすく、調整が難しくなりがちです。

たとえば店舗の売上目標だけで評価されているスタッフからすれば、「店舗のお客さまがECに取られてしまうのではないか」と感じてしまうのは、ある意味自然なことです。

また、特に店舗数が多く、多くのスタッフが雇用されている場合には、経営や本部の意思決定から、オペレーション担当者までの階層も遠くなります。本部の方針が現場の一人ひとりに正しく伝わり、腹落ちするまでには相応の時間とコミュニケーションが必要です。現場を巻き込むには、経営層から店舗スタッフまで、多くの関係者の理解を積み上げていくことが欠かせません。

システムやオペレーションの広い理解が求められ、現状と理想の整理の難易度が高い(知識)

店舗とECの統合は、システムとオペレーションを正しく理解しなければ進みません。

「ポイント共通化」を例に取ると、店舗とECで会員データがどのように蓄積され、ポイント付与・利用されているかを整理したうえで、新しいポイントシステムの付与・利用ロジック・運用手続きを構築する必要があります。

こうした「現状のシステムで何が起きていて、どう運用しているのか」「今後どのようなシステムを作り、どう運用するのか」を整理することが、オムニチャネル化を始める最初の一歩と言えるでしょう。

また、データ移行についても、店舗とECで同じお客さまが別々の会員として登録されている場合の名寄せなども検討が必要です。ポイントはお客さまの資産でもあるため、あらかじめあらゆるケースを洗い出し、発生しうる問い合わせと対処法を整理することが重要です。

結果が見えづらく運用成果判断が難しい(目標設計)

「店舗とECのデータ統合」それ自体は、収益を生みません。

統合されたデータをもとに顧客を正しく理解し、顧客に合わせたアクションを行うことで、はじめて顧客の反応が上がり、収益につながっていくものです。

そのため、顧客データを統合することで、どのような指標が改善するとよいのか、どのような状態を目指したいのかが曖昧なままだと、プロジェクトの推進力も生まれません。仮にシステム統合が完了したとしても、「統合されたシステムをどう活用するか」というところまでたどり着かず、プロジェクトが尻すぼみになってしまうケースも多いです。

オムニチャネル化を推進する組織体制

ここまでのような難しさを前提にして、実際にオムニチャネル化はどのように推進するのが良いのでしょうか。

トップダウンであるべき姿と目標を設計する

オムニチャネル化に最も重要なのは「トップダウンの推進力」です。経営陣が顧客体験づくりの意義を理解し、明確に方針を示していること。実務担当者や影響を受ける現場メンバーが、その方向性に共感し、自分事として変革を進めていること。こうした環境が整っていると、オムニチャネル化は格段に進みやすくなります。

そのうえで、現場がわかる担当者が中心となって部門横断の目標設計を進めていきます。先述の通り、システムと店舗運営の現場への関与が必要となるため、それらに詳しい担当者をアサインすることをおすすめします。

とはいえ、「経営層が理解してくれない」という担当者の方も多いはずです。大きなプロジェクトになる分、「オムニチャネル化をやるべきか」という抽象的な議論ではなく、たとえば「店舗とECの両方を利用しているお客さまの購買情報サンプル」のような実データを持って、現状の顧客体験の課題とあるべき姿を具体的に提言することが有効な手立てになります。また、POSやECシステムの更新・保守期限に合わせて再設計を提案するパターンも多いです。

いかに店舗を巻き込むか

オムニチャネル化は、「システムを切り替えて完了」というわけではなく、お客さまとの関係性を長く作り続けていく取り組みです。

そのような中長期的な観点に立つと、オムニチャネルに成功している企業では共通して「店舗スタッフが積極的に施策に関与している」という傾向があります。

店舗スタッフは、日々商品の細かな知識を覚えて接客し、商業施設の販促施策にも対応するなど、様々な取り組みに忙しい状況です。新たな取り組みが加わることは、「さらにやることが増える」「お客さまは喜んでくれるのだろうか」「自分や店舗の売上・成果につながるのだろうか」という不安につながりやすいものです。

なぜやるのかや、その取り組みがどう自分や店舗の実績につながるのかを明確にし、丁寧なコミュニケーションを取りましょう。忙しい店舗スタッフのために、テキストのマニュアルだけでなく、動画などを使って落とし込むこともおすすめです。加えて、新しいオペレーションに切り替えた直後は、負担が増えたと感じる声が出やすいタイミングでもあります。たとえば「導入から3か月は運用が落ち着くまでの移行期間」と見込んでおき、現場の声を拾いながら細かく調整していくことも大事です。

また、店舗を巻き込むうえで、評価制度の再検討も重要です。店舗やスタッフの直接的な売上だけではなく、ECを含む会社全体での目標を設定し、全社売上貢献や顧客満足度向上への取り組みも評価することが考えられるでしょう。

オムニチャネル化に成功した企業の例

実際の事例として、弊社が提供するOmni Hubをご導入いただいている株式会社生活の木様をご紹介します。

生活の木様は、ハーブ・アロマテラピー関連商品の輸入・製造・販売を手がけるメーカー兼小売業で、全国に約100店舗の直営店を展開するほか、カルチャースクールの運営なども行っています。

生活の木様では、店舗とECの顧客情報・購買情報が連携されておらず、お客さまの行動を把握しきれないこと、また、ポイント付与などにおいて店舗スタッフの手動対応が大きな負荷となっていること、という2つの課題を抱えていました。こうした課題に対し、2024年にECサイトのリニューアルと店舗POSの切り替えを行うとともに、Omni Hubを導入し、店舗とECの顧客情報・購買情報の一元化を実現しました。

このプロジェクトを推進する体制には、参考になる点が多くあります。プロジェクト推進のマネージャーの下には、店舗での実務経験を積んだ、システムに明るい若手社員が参加し、POS側の対応や部門間をまたいだ調整を担当しました。現場を理解しているメンバーがプロジェクトに参画したことで、店舗スタッフの不安の声を一つ一つ解消し、負荷を削減することができました。

また、システム統合をゴールとせず、次のアクションにつなげています。お客さまの実際の行動が可視化されたことで、社内組織体制を再編し、店舗とECの目標を共通化しました。店舗は「商品を体験する場」、ECは「お客さまに便利に商品を購入していただく場」として捉え、店舗やECの特性を活かしてお客さまとの接点を磨き上げることで、お客さまに「生活の木」というブランドを楽しんでもらう体制を整えています。

チャネルを横断してお客さまの体験全体を最適化していく、というオムニチャネル化の本来の目的に向けて、着実に歩みを進めている好例だと思います。

生活の木様の事例については、より詳しいインタビュー記事も公開していますので、ぜひあわせてご覧ください:https://omni-hub.jp/case/treeoflife/

まとめ

「現場のオムニチャネル実践論」の第1回として、なぜオムニチャネル化が難しいのか、どのような体制で進めるべきか、という点について解説してきました。

組織・知識・目標設計という3つのハードルを振り返ると、いずれも「部門やチャネルごとに、目標や現状の理解がバラバラである」ことが課題の根底にあります。つまり、オムニチャネル化の成功は「華やかな施策」や「独自性のある施策」の有無ではなく、まず「全員が同じ目標を見ていること」にあるということです。

第2回以降では、目標を揃えてオムニチャネル化の効果を最大化するコツや、統合された顧客データの評価、活用方法、といった実践的なポイントについて踏み込んでいきます。

Omni Hubでは、オムニチャネル化の支援ツールとして、ツール導入にとどまらず、現状や理想の整理などからお手伝いさせていただきます。

「なんとかしたいけど、どこから考えたらいいかわからない」という場合でも、お気軽にお問い合わせください。

Omni Hub:https://omni-hub.jp/

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