
前回は、SNS施策を「やって終わり」にしないために、UGCを「多軸コミュニティ分析」の3つの軸で読み解くという考え方をご紹介しました。
今回はその最初の軸である「ヒト軸」、つまり「誰がブランドを語っているのか」を掘り下げます。
柴岡 幸輝
株式会社ホットリンク
ソリューション営業部 部長
新卒で広告代理店に入社し、デジタル領域のマーケティング支援に従事。その後、インフルエンサーマーケティング専業会社でのクライアント支援を経て、2022年にホットリンクへ入社。アカウント運用・SNS広告・UGC活用を横断した支援経験を積み、現在はソリューション営業部の部長として新規案件の獲得を牽引。2026年6月には、現場で得た知見とノウハウを凝縮した書籍『SNSマーケティング「超」攻略事典88』を発売。
クチコミは「数が多ければよい」わけではない
SNS施策の成果として、UGCの件数を追っている企業は多いと思います。もちろん件数も大切な指標ですが、SNS上のクチコミは、数が多ければよいというものではありません。どの層から生まれているかによって、その意味は大きく変わります。
たとえば、UGCが100件生まれたとして、その多くが自社商品を買う可能性の低い層からの投稿であれば、購買や指名検索にはつながりにくいものです。
逆に、件数は少なくても、狙ったターゲット層やブランドと親和性の高いコミュニティから生まれたUGCであれば、次のUGCを呼ぶ起点になる可能性があります。
見るべきは、自社が狙う顧客層から語られているか。既存顧客だけでなく、これから獲得したい潜在顧客にも広がっているか。ブランドと相性の良いコミュニティの中で話題になっているか。「何件生まれたか」だけでなく「誰が語っているか」に目を向けることが、ヒト軸分析の出発点です。
ヒト軸分析でわかること
ヒト軸では、UGCを投稿しているユーザーが「どんな人か」を分析します。主に見るのは次の3つです。
投稿者のプロフィール・ターゲット合致率
投稿者のプロフィールから属性を読み取り、狙ったターゲット層とどれだけ一致しているかを把握します。
プロフィールに含まれるキーワードだけでなく、普段の投稿内容もあわせて見ることで、投稿者がどのような関心や属性を持っているのかを、より具体的に捉えられます。また、施策前後やキャンペーン前後で比較すれば、UGCの語り手がどのように変化したかを確認することもできます。
競合との比較
同じ分析を競合ブランドにも行うことで、自社が相対的に強い層と、競合が先行している層が見えてきます。
自社だけを見ても、その投稿者構成がカテゴリの中で特徴的なのか、一般的な傾向なのかは判断しづらいものです。競合と同じ観点で比較することで、自社が相対的に強い層、競合が先行している層、参入するかどうかを検討すべき層が見えやすくなります。
フォロワー規模分布
UGC投稿者のフォロワー規模を確認し、どのような規模のユーザーから語られているかを把握します。
ただし、フォロワー数が多ければよいとは限りません。フォロワー数が少ないユーザーでも、身近な人との強いつながりの中で、商品選びに影響を与えている場合があります。フォロワー規模は、投稿者の価値を判断するものではなく、UGCが生まれているコミュニティの特徴を捉えるための一つの情報として確認します。
ヒト軸分析はどのように進めるのか
ヒト軸分析では、まず企業が現在狙っている顧客像や、今後獲得したい顧客像を整理します。
そのうえで、自社ブランドと競合ブランドのUGC投稿者について、投稿者のプロフィールに含まれるキーワード、フォロワー規模、普段の投稿内容などを比較します。共通する関心や属性を持つユーザーをコミュニティとして捉え、自社と競合で構成にどのような違いがあるかを見ていきます。
たとえば、自社ブランドでは忙しい会社員や在宅勤務者が多く、競合ブランドでは筋トレ・ボディメイク層や子育て中のファミリー層が多い、といった違いです。
さらに、投稿者の属性だけでなく、その属性の人がどのようなUGCを投稿しているかも確認します。忙しい会社員がどのような場面で利用しているのか、筋トレ・ボディメイク層が商品のどのような点を評価しているのかまで見ることで、そのコミュニティの中でブランドがどのような意味を持っているかを把握できます。
事例で見る、ヒト軸分析の使い方
ここからは、分析方法を説明するために架空の冷凍宅配弁当ブランドを例に考えてみます。
同ブランドが、自社と競合2社のUGC投稿者を分析したところ、次のような違いが見えてきました。
・自社ブランド:
忙しい会社員や在宅勤務者が多く、仕事や家事で時間に余裕がない人から語られている。
・競合A社:
筋トレやボディメイクに取り組む人が多く、食事の栄養バランスやたんぱく質を重視する人から語られている。
・競合B社:
子育て中の人やファミリー層が多く、家族の食事を効率よく用意したい人から語られている。
この比較から、自社ブランドは「忙しい平日に、自分の食事を手軽に用意したい会社員や在宅勤務者」から支持されていることがわかります。
競合2社と比べて、この層からのUGCが相対的に多いことから、「忙しい会社員や在宅勤務者に選ばれていること」が、自社の強みだと捉えられます。まずは、仕事が忙しい日や食事を作る時間がないときに選ばれている理由を確認し、投稿や広告でも継続的に強化することが考えられます。
一方で、競合A社が獲得している「筋トレ・ボディメイク層」へ参入するかどうかは、自社ブランドがその領域で勝てるかを見極めて判断します。
自社商品にも、たんぱく質量や栄養バランス、メニュー構成などで競合A社と戦える強みがあるのであれば、筋トレ・ボディメイク層への訴求を強める余地があります。
反対に、商品特性やブランドイメージの面で勝ち目が薄いのであれば、あえて同じ層を狙わず、現在支持されている会社員・在宅勤務者に集中することも戦略です。
競合B社が獲得している「ファミリー層」についても、同様に考えます。
家族向けの容量やメニュー、価格設計などで競争力を持てるのであれば、参入を検討できます。一方、自社商品が一人分の食事や個食に適した設計であれば、ファミリー層を無理に取りに行くよりも、「忙しい人が自分の食事を短時間で用意できる」という固有の強みを守るほうが効果的です。
ヒト軸分析の役割は、単に次に狙うべき層を探すことではありません。
競合との比較を通じて、自社が相対的に強く、他社とは異なるポジションを見つけることです。そのうえで、競合が強い層へ参入するのか、あえて競争を避けて自社の強みに集中するのかを判断します。
分析によって見つかったすべての層に接点を広げる必要はありません。どの層であれば自社が勝てるのか、どの層はあえて狙わないのかまで決めることで、SNS施策の優先順位が明確になります。
分析結果をSNS運用にどう反映するか
ヒト軸分析の目的は、UGC投稿者の属性を分類することではありません。分析結果を、次の施策に反映することです。
たとえば、自社ブランドが忙しい会社員や在宅勤務者から多く語られているとわかった場合は、その層に向けた発信を継続し、現在の強みを維持します。
一方で、競合が獲得している層については、自社ブランドがその領域で勝てるかを見極めます。優位性を発揮できるのであれば参入を検討し、勝ち目が薄い場合は、あえて同じ層を狙わないことも戦略です。
分析結果は、次のような施策に活用できます。
- 投稿テーマや訴求内容を見直す
- 広告で届ける対象や訴求を見直す
- 起用するインフルエンサーの選定基準を変える
- 優先的に接点をつくるコミュニティを見直す
- 一定期間後に、UGC投稿者の構成が変化したかを再分析する
重要なのは、ヒト軸分析を「どんな人がいるか」の把握で終わらせないことです。各コミュニティが、どのような購買・利用文脈、つまりCEP(カテゴリーエントリーポイント)と結びついているかまで見ることで、次に打つべき投稿テーマや広告訴求、インフルエンサー起用の方向性に落とし込みやすくなります。
まとめ
UGCは「何件生まれたか」だけでなく「誰が語っているか」で捉えることが重要です。
自社ブランドと競合ブランドの投稿者を同じ観点で分析することで、自社が相対的に強い層と、競合が強い層が見えてきます。その結果をもとに、どの層を狙い、どの層はあえて狙わないのかを判断しやすくなります。
ただし、誰に届けるべきかがわかっても、その層に何を伝えるべきかは、ヒト軸だけでは判断できません。
次回は2つ目の軸「コト軸」に着目し、生活者がどのような文脈でブランドを語っているのか、競合との違いをどのように捉えるのかを解説します。
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