
EC市場は今も成長を続けていますが、その裏側では事業者が知らないうちに売上機会を失っているケースが多く存在します。その要因のひとつがクレジットカードの「決済承認率(オーソリ承認率)」です。顧客が商品を購入しようとカートに入れ、支払い情報まで入力しても、決済が承認されなければ取引は成立しません。決済直前の失注は、広告費やマーケティング投資を無駄にしてしまう重大な事業課題です。
本記事では、決済承認率がEC事業に与える影響と、事業者が取るべき対策について解説します。
高橋 祐太郎
株式会社YTGATE
代表取締役
早稲田大学国際教養学部を卒業後、2014年4月にGMOペイメントゲートウェイ株式会社へ新卒入社。最年少でグローバル営業部長に就任し、海外の大手企業向けに決済ソリューションを提供。国内EC事業者の成長と成功を支援。2023年10月に株式会社YTGATEを創業。不正利用防止および決済承認率の改善を軸とした事業を立ち上げ、現在サービスを展開中。
決済承認率の改善支援の詳細:https://ytgate.jp/service/payment/
この記事の目次
「決済承認率」とは?
クレジットカード決済における「決済承認率」とは、購入者がカード情報を入力して決済を試みた際に、実際に承認される割合を指します。一見すると、承認されるか否かは利用者の残高や限度額の範囲内かどうかで決まるように思われがちです。しかし実際には、カード会社側の不正利用対策やリスク管理のアルゴリズムが複雑に関係しており、正当な取引であっても承認されないケースが一定数発生しています。
この背景には、2025年3月に義務化された「EMV 3Dセキュア」が関係しています。クレジットカードの不正利用被害額は2024年に555億円にまで増加し、その内訳をみると「番号盗用」による手口が9割以上を占めています。(※)これまで不正利用発生時の損失負担は、EC事業者(加盟店)が負っていましたが、3Dセキュア採用店では原則としてカード会社側へと移行(ライアビリティシフト)しています。
※出典:日本クレジット協会 公表資料

たとえば、不正利用を警戒してカード会社が慎重になりすぎた結果、問題のない取引まで拒否されてしまうケースもあります。EC事業者にとっては、ようやく購入意思を固めた顧客を、決済段階で失注させてしまう「見えづらい損失要因」となるため、軽視できない課題となっています。市場の拡大に伴い、EC事業者は「不正利用への対策強化」「承認率向上」「カート放棄(カゴ落ち)防止」など、相互に関連し合う課題に取り組む必要があります。
実際に当社がヒアリングを行ったところ、自社の決済承認率を正確に把握できているEC事業者は1割程度というのが現状です。ここにこそ、売上改善の伸び代が潜んでいます。
課題の影響:放置すればどうなるか
決済承認率の低下は、事業のあらゆる部分に悪影響を及ぼします。具体的に、次の3つの課題が生じます。
売上の機会損失
高額商品、旅行、家電、ブランド品など、金額の大きい商材ほどカード会社が慎重になりやすく、承認されない取引が増える傾向にあります。実際に当社が支援した旅行業界のクライアントでも、カード会社によっては承認率が30〜40%台まで落ち込んでいたケースがあり、そこを是正することで数億円単位の売上回復につながりました。顧客の購入意欲が高くても、決済が通らなければ売上はゼロです。
顧客の離脱
決済失敗が起こると、消費者は他社サイトやマーケットプレイスに移動してしまうことが多いです。たとえば、自社ECで購入を試みて決済失敗した顧客が、Amazonや楽天市場などに流れてしまうケースは日常的に発生しています。一度の決済エラーが長期的な顧客離脱につながるリスクがあるのです。
集客効果を打ち消す要因
UI改善や広告投資、SEO施策などで獲得した流入数も、決済段階で失注してしまえば投資の成果が発揮されません。決済承認率は、マーケティング活動の最終成果を左右する重要なボトルネックとなります。たとえば広告CPAが適正でも、決済が通らなければLTVに反映されず、広告効率そのものが悪化してしまうわけです。
解決の方向性:今、事業者が取るべきアクション
では、この「見えづらい課題」にどう向き合うべきでしょうか。ここでは4つの具体策を紹介します。
(1)まず「現状を可視化」する
最初に着手すべきは、現状の承認率を正しく把握することです。
決済データを金額帯別、カード会社別、エラーコード別に細かく分析することで、課題の発生箇所を特定できます。たとえば、全体では承認率が高く見えても、特定のカード会社だけ50%台まで低下しているといったケースは決して珍しくありません。
また、カード会社ごとのエラーロジックは非常に多岐にわたり、代行会社を挟んでいると加盟店側では可視化が困難になりがちです。ここを整理して見える化することが出発点となります。
(2)不正利用対策を強化
不正利用の手口は年々巧妙になっています。盗まれたカード情報を使ったSuicaチャージ詐欺や新幹線チケット転売、家電やブランド品の高額転売など、犯罪組織が役割分担しながら組織的に行動しています。こうした状況下では、EC事業者自身も本人確認の強化や不審アカウントの監視など、多層的な不正対策を講じる必要があります。不正対策が甘い加盟店はカード会社側でも警戒され、承認率を低く設定される要因にもなり得ます。
(3)カード会社と対話する仕組みを持つ
決済承認率の改善には、カード会社とのコミュニケーションが欠かせません。多くのカード会社は自社の取引情報しか見えておらず、他社加盟店の承認率水準との比較はできません。そこで加盟店側から「他社と比べて御社の承認率が低く抑えられています」「不正対策もしっかり実施しています」という材料を提示することで、承認基準の見直しを促すことが可能になります。
(4)決済体験そのものを経営指標に組み込む
承認率は単なるオペレーションのKPIではありません。成約率向上、顧客体験の向上、広告投資効果の最大化といった事業成長の最終成果に直結します。今後は経営陣が注視すべき重要指標のひとつとなっていくでしょう。マーケティング部門、決済担当、経営陣がこのテーマで横断的に連携することが、これからのEC成長戦略に欠かせない視点になりつつあります。
まとめ:決済承認率に向き合うことがEC成長の新たな打ち手に

決済承認率はこれまで多くのEC事業者にとって「ブラックボックス」になっていました。
しかしEC市場が成熟する今、決済承認率は売上回復のみならず、顧客満足度や広告投資の効率改善にも直結する、経営上の重要課題となりつつあります。
EC成長の新たな伸び代として、今後ますます注目すべきテーマと言えるでしょう。
サービス紹介
YTGATEでは「決済承認率の健康診断」を入口に、承認率改善に向けた伴走支援を提供しています。独自のSaaS型プロダクト「YTGuard(ワイティガード)」では、開発工数不要で決済状況の可視化・不正検知・再決済支援を可能にし、幅広い事業者の売上向上をサポートしています。
決済承認率の改善支援の詳細:https://ytgate.jp/service/payment/
決済の可視化プロダクト「YTGuard」:https://ytgate.jp/service/#supportThree
サービスお問合せ先:https://ytgate.jp/contact/
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