
はじめまして、Fireworkでグローバルのレベニューオペレーションを担当している瀧澤 優作です。2016年から米国に在住し、2017年からは動画コマースサービスを提供するFireworkで働いています。過去4年間はFireworkの日本市場立ち上げに携わっていました。
現在、日本でTikTok Shopの導入が話題になっていますが、「何を期待すべきか」「期待外れに終わらないためには?」という疑問を抱いている方も少なくないでしょう。米国では2023年にTikTok Shopがリリースされており、日本より一足早くその結果が見え始めています。本稿では、米国でのTikTok Shopの利用実態と傾向を分析し、日本市場で成功するための示唆を提供したいと思います。
瀧澤 優作
Firework Japan株式会社
慶應大学在学中にシリコンバレーへ留学し、2017年、創業3か月のFireworkに7人目のメンバーとして参画。
2021年よりFireworkの日本事業立ち上げを指揮。2024年までカントリーマネージャーとして、統合型動画ソリューション「Firework」の日本市場立ち上げを推進。現在はFireworkのGlobal Revenue Operationを統括。
米国市場におけるTikTok Shopの軌跡
TikTok Shopは、動画コンテンツに購入ボタンが付いており、動画から直接商品を購入できる新しいサービスとして2023年に米国で導入されました。当初、TikTokはブランドのプロモーション費用(配送費や広告費など)を5億ドル規模で負担し、多くのブランドが参入して大きな話題を呼びました。Tarte Cosmeticsのようなブランドは、30日間で約800万ドル(約11億円)の売上をTikTok Shopのみで達成し、そのほとんどがアフィリエイト経由でした。特に、コンテンツクリエイターが作成したオーガニックの動画が大きな収益を上げていました。ある女性が携帯電話で撮影した1分44秒の動画がTarte Cosmeticsに76万2,000ドルの売上をもたらし、3万個の商品が購入された事例もあります。
しかし、2024年に入ると状況は一変します。TikTokによるプロモーション費用が大幅に削減され、さらに取引手数料が従来の2%から8%(一部取引では30セントも追加)に急増しました。これにより、多くのブランドで利益率が大幅に減少。
また、TikTok Shopのユーザー層と商品単価にも特徴が見られました。平均購入単価は他のプラットフォームと比較して圧倒的に低く、平均43ドルでして、これはInstagramやFacebook Shopの平均95ドルと比べると約半分です。TikTokのユーザーは若年層が多く購買力が低いこと、そしてTikTok Shopがビジュアル訴求による衝動買いを促す特性を持つため、低価格帯の商品(SheinやTemuのような中国からの安価な製品など)が中心となっていきました。
結果として、多くのブランドがTikTok Shopからの撤退や、購入導線を自社ECサイトやAmazonへ変更する動きを見せました。例えば、初年度に100万ドル以上の売上を達成したBeachwaverのようなブランドも、現在はTikTok Shopでの販売を縮小している可能性があります。さらに、TikTokアプリのUIからも「ショップ」タブがメイン画面の下部からなくなったことも、その推進力の低下を示唆しています。

中国市場におけるTikTok Shopの成功要因
一方で、TikTok Shopは中国市場では大きく成功しています。その理由としては、主に以下の点が挙げられます。
- EC商習慣の違い:中国では、そもそも自社ECサイトを持つ商習慣があまりありません。ブランドはWeChatやAlibabaといったSNSや大手ECプラットフォーム内に店舗を出展するモデルが一般的です。そのため、必然的にプラットフォームが推進するメディアやコンテンツに売上が依存する構造になっています。
- 低い配送費:中国や東南アジアでは、米国と比べて配送費が非常に安価です。これにより、平均単価が低い商品でも十分な利益を確保できる構造になっています。
日本市場への示唆と成功戦略
日本市場はEC商習慣において米国に近く、TikTok Shopも同様の道をたどる可能性があります。日本でのTikTok Shop導入直後、最初の1年間は「カオス」な状態になると予測されます。多くの事業者が参入し、怪しい商品や「安かろう悪かろう」な製品が氾濫する可能性があります。
しかし、適切に活用すれば、TikTok Shopは強力な新規顧客獲得チャネルになり得ます。成功のカギは、「売りたい商品」ではなく「売れやすい商品」を見極めることです。
日本市場でTikTok Shopに向いている商材としては、以下の特徴を持つ商品が挙げられます。
- 低価格帯:高校生や大学生が衝動買いしやすい価格帯の商品。
- ビジュアル訴求が重要:動画で商品の魅力が伝わりやすいもの(例:コスメ、雑貨、ファッション)。
- インフルエンサーが紹介しやすい商品
- 安い美容家電
- 洋服
- スマートフォンアクセサリー
- 日用品(例:無印良品のスポンジなど)
一方で、米国市場の事例から、食品・飲料品はECでの購買習慣の違いからTikTok Shopではあまり流行らない可能性もあります。高単価商品や比較検討が多い商品(例:家具、ガジェット)もTikTok Shopには向いていないでしょう。
TikTok Shopは、クリエイターが商品を紹介することで売上を大きく伸ばせるアフィリエイトプログラムも提供しています。クリエイターは、まるで友達に勧めるかのようなオーガニックでリアルな動画(スマートフォンで撮影されたものも含む)を投稿し、それが数百万ドルの売上につながるケースも少なくありません。クリエイターは売上の20%から50%もの高額なコミッションを受け取ることが可能であり、ブランドは彼らにリテイナー契約や高コミッション、無料商品を提供して関係を強化します。
また、ライブストリームはクリエイターにとって安定した収益源となり得ます。特別なスキルがなくても、商品を見せたり質問に答えたりするだけで、TikTokのアルゴリズムが視聴者をライブストリームに誘導し、10%から20%の高いコンバージョン率につながることもあります。
重要なのは、TikTok Shop単体でのROI(投資収益率)だけでなく、「スピルオーバー効果」にも着目することです。TikTokでのバイラルな露出は、Amazon、自社ECサイト、Google検索、さらには実店舗での売上にも大きな影響を与えます。TikTok Shopは新規顧客獲得に強いチャネルですが、そこで獲得した顧客をいかにロイヤルカスタマーに育成し、自社ECサイトや他のチャネルへ誘導していくかが長期的な成功には不可欠です。
TikTok Shopは魔法のツールではありませんが、適切に使えば強力な新規獲得チャネルになります。米国での経験を教訓として、日本企業がこの新しい波に乗るためには、「売れやすい商品」の見極めと、得られたコンテンツ(動画資産)を自社ECや広告など他チャネルに二次活用する発想が不可欠です。
動画コマースの未来とFireworkの役割

TikTok Shopが米国で直面した課題はあったものの、動画コマースという概念自体は消費者が好むフォーマットとして今後も拡大し続けるでしょう。米国では「ユニファイドコマース(Unified Commerce)」という言葉が当たり前のように使われており、これはSNS、ECサイト、実店舗といったあらゆる接点で、一貫した購買体験を提供することを目指しています。
私たちのFireworkは、このような動画コマースの進化を支えるグローバルテック企業として、ブランドが自社サイトやアプリ、店舗などでショート動画を自在に活用できる環境を提供しています。TikTokで注目された動画コンテンツを、ECサイトや実店舗など、顧客とのあらゆる接点で活用することで、一貫したブランド体験を構築し、新規顧客の獲得からロイヤルカスタマーへの育成までをサポートしています。こうした新たな顧客体験の潮流にどう向き合うかが、今後ますます重要になっていくと感じています。TikTok Shopをはじめ、動画を起点とした購買体験やその可能性について、関心をお持ちの方と情報交換できれば幸いです。
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