新型コロナウイルスの影響を受け、逆境下にあるワイシャツ専門店ozieの取り組みとは?
インタビューの概要

創業から97年の歴史を持つ株式会社柳田織物(以下、柳田織物)ですが、時代に合わせて絶えず変化してきました。新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務が当たり前になり、ワイシャツを着る機会が減っています。そんな中、ワイシャツ専門店ozieを運営する柳田織物は、どのように対応していったのでしょうか。代表取締役の柳田 敏正さんにお話を伺いました。

withコロナのニーズに合わせて変化するozie

―― 新型コロナウイルスが小売業に与えた影響について、柳田さんはどうお考えでしょうか?

柳田さん:新型コロナウイルスに限らず、世の中の変化というのは、良いこともあれば悪いこともあります。世の中の変化に対し、これからどうしていくかが大事です。私自身、今回の新型コロナウイルスの影響は、変わるチャンスだと捉えました。事実、変わるきっかけになったことも多いです。

―― 具体的にどのようなことを変えたのでしょうか?

柳田さん:特に大きく変えたことは次の2点です。

社内の働き方

柳田さん:1つは、社内での働き方が在宅勤務中心になったことです。もともとオリンピックを東京で開催することが決まったときに、国や都からの要請でテレワークを推奨する動きがあったものの、実際に対応するにあたって、優先順位は高くはありませんでした。

しかし、2020年2月から、新型コロナウイルスがまん延し始めたため、スタッフが安心して仕事ができるように、在宅勤務の体制を急ピッチで取り入れました。システムをクラウドに変え、電話対応もIP電話でPCから受電できるようにしています。

今でも、社員の半分くらいは在宅でやっていますし、コロナが収束しても在宅体制は続けようと思っています。やはり、通勤に充てている時間を、スキルアップのようなプライペートな時間に充てられようになれば、スタッフにとって良いことだと考えているからです。

ECにおける接客

ECにおける接客

柳田さん:2つ目は、ECに対する考え方が変わりました。特にECにおける接客の重要性についてです。緊急事態宣言を受け、営業時間の短縮や休業をする実店舗が増えました。その中で、LINEなどのコミュニケーションツールの活用や、オンライン接客を可能にするSTAFF STARTの登場などにより、普段は店頭に立っている人が、ECの接客に加わるようになったと聞いています。そういった動きが、今後EC専門でやっている人たちにとっては厳しくなるのではないかと感じています。

もともとECは実店舗と比べて、少人数で効率的に運用できることが強みです。そのため、接客をできるだけ減らして、コミュニケーションの効率化を追求する風潮がありました。あえて電話番号を掲載しないEC事業者もいるくらいです。

しかし、実店舗で働いていた人たちがECで接客を始めることで、EC業界における接客レベルが上がると思っています。

ozieの接客の変化

―― ozieではどのような接客を行っているのでしょうか?

柳田さん:電話やメルマガから始まり、今ではSNSやチャットツールなど様々な方法で、お客様とコミュニケーションをとっています。

メルマガ以外のコミュニケーション手段としてYouTubeを選択

柳田さん:一昔前まではメルマガが非常に効果的で、流入経路のTOP5にはメールが入っていました。しかし、モバイルの普及と共に、キャリアメールが使われるようになります。キャリアメールは、プランによってパソコンからのメールを受信拒否する設定がデフォルトでされてしまい、メルマガを届けられません。またLINEの登場によって、徐々にメルマガからの流入が減っています。

そんなとき、もともと取り組んでいたYouTubeに力を入れ始めました。理由としては、ショールームに来るお客様がYouTubeを見て来ていると話すからです。また、モールのレビューにもYouTubeにある動画を見て安心して購入できたという声も上がっています。

ozieのYouTubeチャンネル
ozieのYouTubeチャンネル

YouTubeを続けて、大きく変化があったのは2020年4~5月頃です。Google検索からの流入の伸びが下がり、代わりにYouTubeからの流入がかなり伸びました。緊急事態宣言を受け、外出する代わりに動画を見る人が増えたことが理由だと思います。

YouTubeの動画を商品ページなどECサイト内に活用することで、商品を購入するにあたって参考となるコンテンツとなり、結果それが検索対策にも繋がっています。フォロワー数は決して多くないため、1回の配信で売上が大きく変わることはありません。しかし、続けることで徐々に効果として現れています。

2021年はインスタライブに挑戦

柳田さん:今年からインスタライブを始めました。きっかけはスタッフからYouTubeが良いならインスタライブもやってみてはどうですかと提案があったからです。YouTubeの方は私一人で話していますが、インスタライブはスタッフと2人でやっています。

ライブコマースは中国ではうまくいっていますが、日本ではまだ中国のように盛り上がってはいません。そういった背景もあり、運用の目的として売上に直結させようとは考えていません。インスタライブを行っている理由は、特定のファンとコミュニケーションを取るうえで有効だからです。

ライブ動画は、アーカイブとして残るIGTV(Instagramの長尺動画投稿機能)にも投稿しています。ライブ動画はリアルタイムで見る人よりも、アーカイブで見てもらう人のほうが圧倒的に多いからです。アーカイブで動画を残すことで、見てもらえる機会を増やすことを大切にしています。また、インスタライブで紹介した商品は、Instagramでコーディネート写真を掲載し、商品ページへ飛ばしています。YouTubeと同様に、作ったコンテンツをしっかりと活用すること、そして継続することが大事だと思っています。

ozieのIGTV
ozieのIGTV

現在はチャット接客に注力

柳田さん:最近はチャット接客に力を入れています。弊社の顧客は、40~50代の男性が多いです。その年代の男性の方は、Instagramは普段はあまり利用していないと思いますし、LINEも連絡手段として利用することが多いため、接客のツールとしては活用するのは難しいかもしれません。

事実、弊社でもチャット接客として、LINEを利用していますが、問い合わせはあるものの、数があまり多くはありません。チャットツールを導入することで、問い合わせの数が増えました。問い合わせから購入にも繋がるため、施策として手応えを感じています。

チャットはボットではなく、繰り返し質問を重ねてコミュニケーションを取らないと効果が出ないとやっていくうちに気づきました。チャット対応のために、人を配属させるのは難しいという企業さんもいると思います。しかし、そこをしっかりやることがチャンスだと私は思います。それがリアルと戦うために重要になってくると考えているからです。

もともと弊社は電話での問い合わせを受け付けていました。電話でわざわざ連絡するぐらいなので、購入を前向きに考えているお客様が多いです。そのため、しっかりと対応すれば、お客様の質問にピンポイントかつすぐに回答を出せるため、購入に繋がりやすい傾向があります。今まで力を入れていなかったチャット接客でのコミュニケーションでも、効果がでているのは顧客と一対一で向き合う電話対応の土壌が合ったからかもしれません。

メルマガや電話などのクオリティを上げる努力をしていましたが、YouTubeやInstagram、チャットツールといったWeb全般の接客に力を入れて対応するようになったきっかけは新型コロナウイルスの影響が大きいです。時代の後押しで、導入しないといけない波がきたからこそ取り入れやすかったと思います。もしコロナがなければ「電話でいいんじゃない?」となっていたでしょう。

今後の取り組み

初めてECで買い物をするお客様だからこそ丁寧な接客を

初めてECで買い物をするお客様だからこそ丁寧な接客を

柳田さん:今まで実店舗での買い物が中心だったお客様が、新型コロナウイルスの影響を受け、ECで買い物をするようになりました。初めてECで買い物をするようなお客様だからこそ、丁寧な対応を心掛けてECでの買い物を嫌いにならないように対応しなければなりません。

また、ECに参入する企業が増え、インターネット上の商品が増えてしまい、欲しい物を探すのが大変になってしまいました。いつでも安く商品を購入でき、ポイント還元やセールが頻繁に行われていると、どこかで行き詰まってしまいます。だからこそ接客を頑張らないといけないと思っています。

お客様とどういう形で接触していくのか、どうやって頻度を上げていくのか。メルマガやYouTube、LINE、Instagram、チャットツールなどを活用し、お客様とコミュニケーションを取りながら、ニーズに応えていきたいです。

経営理念について改めて考える

―― afterコロナに向けて今後取り組みたいことについて教えていただけないでしょうか。

柳田さん:経営理念について改めて考えようと思っています。弊社の経営理念は、「自由で快適なシャツスタイルの提案を通じて、ライフスタイルの変革・改善に貢献します」というものです。

しかし、在宅勤務が当たり前になった今、コロナ前と比べるとワイシャツが売れなくなりました。大手のスーツ専門店では、在宅勤務でもオンオフのスイッチを切り替えるためにワイシャツを着ようといった啓蒙活動をしていますが難しいと思います。

Web会議の際はしっかりとした恰好をしますが、そうでなければTシャツや短パン、中にはパジャマで仕事する人もいるでしょう。ワイシャツのニーズが減ってしまったら、私たちの経営理念を成し遂げることが難しくなります。

コロナ前から、クールビズなどの影響もあり、カジュアルスーツやアクティブスーツが流行っていました。ユニクロの感動ジャケット・パンツもそうです。カジュアルスーツやアクティブスーツにはワイシャツではなく、Tシャツで合わせる人が多いと思います。そこで、ワイシャツ専門店ならではのTシャツを作ったのです。

スーツやジャケットにぴったりなozieのTシャツ
スーツやジャケットにぴったりなozieのTシャツ

通常のTシャツより首周りの真ん中から後ろに
かけて高くなっているため、ジャケットの首周りが
汗などで汚れないよう工夫されています

ozieはワイシャツ専門店ではありますが、財布をはじめ、ビジネスアイテムも扱っています。ただ、Tシャツを扱うのはワイシャツ専門店として、ある意味自分たちを否定することにもなりますし、大きな変化が伴うので、なかなか踏ん切りがつきませんでした。

そんな中、在宅勤務が当たり前になり、ビジネススタイルの在り方が変わり、それによってニーズも変わってきました。それに答える必要があると思い、Tシャツを作る決断をしたのです。

売れるかわからないので、たくさんは作らなかったですが、それでも2~3週間で完売してしまい、予想よりはるかに売れました。

今は「自由で快適なシャツスタイルの提案を通じて、ライフスタイルの変革・改善に貢献します」という企業理念ですが、お客様のニーズと弊社でお応えできる内容を踏まえて、「シャツスタイル」から「ビジネスアイテム」に変えていくのも手だと考えています。

時代、そしてお客様のニーズに合わせて、私たちだからこそ、できることを提供し続けていきたいです。衣食住の衣だけでなく、食や住にもいずれは挑戦するかもしれません。

取材を終えて:変化をチャンスに変えるためには

変化をチャンスに変えるためには

現代表の柳田さんは4代目ですが、柳田織物は代ごとに販路が異なっています。工場で販売、生地卸、製品卸、そしてECと変わっているのです。

柳田さんは、コロナがあったから変われたと話されますが、普段から試行錯誤しており、情報収集されているからこそ、変化を迫られてもすぐに対応できたのだと思います。

時代のニーズに合わせて応えていったからこそ、逆境にも負けず、多くのファンを得ているのではないでしょうか。それが創業から97年も経営を続けられる理由の一つだと今回の取材を通じて感じました。小売業を営む皆様のヒントになれば幸いです。

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