鍛冶職人によるDX!能登から世界へ届ける「ふくべ鍛冶」のサービス開発と集客
ふくべ鍛冶
四代目の干場 健太朗さん
インタビューの概要

さまざまな業界でDXへの取り組みやECへの参入が増えている昨今、意外な業界でもDXやECに挑戦する企業が現れています。カラーミーショップ大賞2025で中部エリアの地域賞を受賞した「ふくべ鍛冶(かじ)」はまさにそんな企業で、「鍛冶」と「EC」という異色の組み合わせにより事業を成長させています。

ふくべ鍛冶がECに参入したのは2016年。当初は集客に苦戦したそうですが、今や国内だけでなく海外からも求められる商品やサービスを生み出しています。その成長の鍵となっているのが、自社にとって効果的な集客の方法と体制づくり、そして集客さえできれば購入につながる、競合とは一線を画す商品やサービスを生み出していることです。

ECサイトを立ち上げた経緯から、現在の成長を遂げるまでの取り組みについて、四代目の干場 健太朗(ほしば けんたろう)さんにお話を伺いました。

原点はお客様の喜ぶ顔、そんな事業を続けるためにEC参入へ

――「鍛冶」と「EC」というのは意外な組み合わせに感じますが、ふくべ鍛冶さんがどのような事業をされているのか、また干場さんが事業を継ぐときにどのような考えがあったのか、お教えください。

干場さん:弊社は創業明治41年、今年で117年目になる老舗の鍛冶屋です。もともとは家族経営の鍛冶屋で、12年前に私が継ぎました。当時の私は地元の能登町役場に勤めていて、12年前に母親が亡くなったことで家業を畳む話が出たのですが、地域の鍛冶屋がなくなるとお客さんたちが困ってしまうと考え、役場を辞めて継ぐことを決めました。

昭和初期の店舗の様子

干場さん:この12年の間、さまざまな取り組みをしてきましたが、変わらず大切にしているのが、お客様の喜ぶ顔を見たいということです。弊社は「野鍛冶」と言われる暮らしのなかの道具を扱う鍛冶屋です。包丁を中心とした刃物、鉈、鍬などの製造から販売、修理までを手掛けており、そのなかでお客様の困りごとが多く集まってきます。それを「よかった」に変える、課題解決型の会社といえます。

――これまでの取り組みのなかでも、ECサイトの立ち上げは大きなことのひとつかと思います。そのきっかけは何だったのでしょうか?

干場さん:もともと弊社は店舗を運営していて、その売上が9割以上を占めていました。また、お客様の9割以上は地元、能登半島の方でした。

ただ、能登半島は高齢化が進んでいる地域で、年々人口が減っています。そうするとお客様も減っていき、売上も下がっていきます。将来のことを考えると、商圏を広げないと事業が成り立たないと感じていて、ECは絶対に必要だと考えました。

サイトがあるだけでは売れない、集客成功の鍵は広告運用と新サービス

――実際にECサイトを立ち上げてから、困ったことはありましたか?

干場さん:ECサイトを作っただけでは売れないという話は聞いていましたが、実際、最初は全然売れませんでした。集客にすごく苦労しましたね。

――そういった状況からどのように集客を行い、売上を上げていったのでしょうか?

干場さん:主に2つの方法をとりました。

1つは、新聞やテレビなどのメディアの活用です。弊社は地域資源をうまく合わせた商品作りが得意だったので、地元の新聞の取材を積極的に受け、それが全国紙の取材やテレビ出演につながることもあり、宣伝効果を生んでいました。

もう1つがリスティング広告です。ただ、すぐに売上につながったわけではなく、最初は広告費だけがどんどん消化されていって、職人さんたちが汗水たらして作った利益をどんどん流していってるのではという罪のような意識もあったくらいです。

それでも、クリック数などの数字が徐々に伸びていたので、いつか必ず売上につながるはずだと考えて広告費を増やしていきました。最終的に広告費が月に30万円くらいのころからうまく回りはじめました。今は、売上でいうとECが3~4割、店舗が1割で、あとは卸という感じです。

他にない商品やサービスを生んできていますので、集客がうまくいけば買ってもらえる自信はありました。特に、包丁研ぎ宅配サービスの「ポチスパ」を始めてから急激に数字が伸びました。商品購入後の安心感もセットで提供できるようになったことで、お客様がかみ合ってきたんだと思います。

注文集中も不安なし、サービスを支える独自の受注管理システムと経営体制

ポチスパのイメージ動画

――ポチスパを始められた経緯はどのようなものだったのでしょうか?

干場さん:ポチスパを始めるにあたっては、3つの要因がありました。

1つ目は、ECを始める前に移動販売をしていたのですが、そこで修理の依頼が殺到したことです。道具はすでにたくさんあるという方が多くて、ものは売れなかったんですが、毎回、何十本と修理の依頼が集まってきたんです。

2つ目は、店舗に修理や研ぎの問い合わせの電話がかなり来ていて、その対応を簡素化したかったことです。地域に鍛冶屋や研屋がなくなってきたことで、ネットで検索して問い合わせてくれる方が増えていたようです。

3つ目は、包丁を持ち歩かずに修理や研ぎを頼めるようにしたいと考えたことです。巨大消費地である首都圏での包丁研ぎについてリサーチしたところ、かっぱ橋やデパートなど研師がいるところに包丁を持っていっている人が多いことがわかったんです。

――ポチスパの仕組みを考えるにあたって、競合他社を参考にされたことはありますか?

干場さん:ポチスパは、送料込みの一律料金で、どんなに錆びていてもその料金内で対応しますという安心感がポイントです。これは当時流行りはじめていたネットクリーニングの仕組みを参考にしました。ネットクリーニングはうちでもよく利用していたのですが、一律料金でTシャツも革もクリーニングに出せて、すごく便利なサービスだと思いましたね。

ただ、その仕組みだけだと競合も同じようなサービス展開が可能です。そこで弊社の強みとなっているのが、独自の受注管理システムです。

包丁研ぎを宅配で受け付けるのは、本来受注に手間がかかるため、間違いなく対応できる受注件数に限界があります。そのため、サービスの露出をあまり積極的にできないという状況になりやすいはずです。しかし弊社は独自のシステムのおかげで、何千件でも間違えることなく対応できて、自信をもってサービスの露出や売り込みができ、売上を伸ばすことができています。

――事業の成長にともなう受注管理への負荷は、EC運営において必ずといって良いほどぶつかる壁ですよね。そのシステムはどのようにして作られたのでしょうか?

干場さん:実はもともとは苦し紛れに作ったシステムなんです。当時、現場が対応できる以上の注文を取ってしまっている時期があって、スタッフから猛抗議されていたんですね。それを解決するにはDXしかないと考えました。

ちょうど石川県からDXの補助金が出ていたこともあり、それを利用して県内のシステム会社さんに依頼して独自のシステムを作り上げました。

スタッフの細かい声を形にすることをかなり意識して、それにシステム会社さんが柔軟に対応してくれたので、かゆいところに手がとどくシステムを作ることができたと思います。

――サービスに合わせた独自のシステムがあるのは心強いですね。では、ECサイトを運営している体制についてはどのようになっていますか?

干場さん:ECの運営にあたっているのは2~3人です。商品ラインナップや仕様の作成、受注管理などを内製化しています。写真などは地元のデザイン会社に依頼しています。

また、発送を担当するスタッフが別にいて、受注量に応じて人員を調整しています。以前は繁忙期と閑散期の波が大きかったのですが、今は広告を調整することで年間を通して一定の受注がある状態です。

――受注量が安定しているのは、オペレーションにおいて重要ですよね。

干場さん:そこも弊社の強みです。鋼から製品を作るところから、卸、販売、修理まで一貫して自社で対応しているので、受注量を調整しつつ、多少受注に波があっても影響されない経営ができています。

たとえば、修理の依頼が多いときは鍛造の職人が修理に回り、修理の依頼が少ないときは鍛造の手伝いに回るというように、人員をフレキブルに振り分けることができます。

新商品にクラファンを活用、リピーター向けには商品以外の情報発信も大切に

――EC立ち上げ当初、集客に苦労されたお話を伺いましたが、今はどういった集客を行っていますか?

干場さん:集客はやはり一番大事なところで、引き続き注力しています。数で言えば10くらいの施策を手がけています。

たとえば、LINEやメルマガ、CRM・MAツールを使った自動販促もしています。また、BtoBtoCの食品宅配サービスで会員向けにチラシを入れています。これは500~800件くらいの注文が一気にくることがあって、効果が大きいですね。

最近では、インフルエンサーマーケティングも始めまして、マッチングプラットフォームを使って月10~20人くらいに依頼しています。デジタルデータは、さまざまな施策にどんどん転用できるのが魅力ですよね。

――たくさんのツールやサービスを活用されてきたなかで、特にうまくいった集客施策としてはどのようなものがありますか?

干場さん:新商品を発売する際に、クラウドファンディングの割が良いと感じていて、毎年1~2件活用しています。

クラウドファンディングでは1,000万円以上の実績を作る(Makuake

干場さん:クラウドファンディング自体は収支がトントンか少しプラスくらいで着地するのですが、そこで用意した写真などデジタルデータを、一般販売でも使えるというのが大きいですね。

クラウドファンディングで3か月~半年くらいの期間を設け、国内や海外にも展開することでデジタルデータがたまり、お客様の声を反映した改良もできます。そこから一般販売すると利益率が高くなりますね。

また、やはりリスティング広告はすごく良いですね。いくつかの広告を試しましたが、弊社の場合、スポットの刈り取り型の広告を必要に応じて出すのが効果的だと感じています。

――御社のお客様はリピーターの方も多いのではないかと思うのですが、集客で獲得したお客様との関係性構築については、どのような取り組みをされていますか?

干場さん:リピーターの方にはただ商品紹介をするだけでは関係性が希薄になってしまうので、メルマガやLINEを活用して、能登の情景や季節の祭礼、職人たちがどういう生活をしていて、どんな想いで仕事に向き合っているのかといったことを発信するようにしています。それに合わせてクーポンも配信して、商品につながるようにしています。

能登から全国さらに世界へ、商品と一緒に安心も届ける存在に

――最後に、今後の展開についてお伺いできますか。

干場さん:今、ちょうど面白いチャレンジをしていまして、カラーミーショップで「DAIJINI (大事に)」という修理プラットフォームを作り、7月にローンチしました。

修理プラットフォーム「DAIJINI (大事に)

干場さん:これはポチスパの仕組みを転用したもので、ご注文いただくと弊社から専用の箱をお送りします。たとえば木製のまな板や漆器など、修理したいものを箱に入れて発送いただくと指定の工場に届き、そこで修理された品がお客様のところに戻ってくるというサービスです。ポチスパと同じように、一律料金でご利用いただけます。

このサービスにより、全国のお客様に非常に手軽に修理をご依頼いただくことができるようになりました。

もう1つの取り組みとして、インバウンドや海外へ卸す包丁を数千本単位で作っているのですが、そこに標準的に修理がつくよう販売の仕組みを設計しています。

今後は、越境ECにも取り組もうとしています。そのために、越境EC対応化サービスをECサイトに入れて、多言語対応できるようにしました。越境ECでも、修理が必要になったら弊社に届く仕組みを作れるよう、物流会社と調整中です。

弊社の包丁を世界中で使ってもらい、最後のメンテナンスまでお任せくださいという形を実現して、刃物業界のゲームチェンジャーのような存在でありたいですね。

ふくべ鍛冶
コーポレート:https://fukubekaji.jp/
ECサイト:https://fukubekaji.shop-pro.jp/

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