記事の概要

楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っているサヴァリ株式会社が運営するYouTubeチャンネル『ECの未来』では、ECに関わるさまざまな方をお呼びして、その方たちの得意ジャンルのお話をMCである株式会社柳田織物の柳田敏正さんと対談形式でお届けしています。

今回は、株式会社クラシコム 代表取締役社長である青木耕平さんに、「選ばれるショップの作り方」をテーマにお話いただく回をご紹介いたします。

【ゲストスピーカー】
青木 耕平さん
株式会社クラシコム 代表取締役社長
北欧ビンテージ雑貨店「北欧、暮らしの道具店

【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)

プラットフォーム依存からの脱却と、頭の中に残るコンテンツへの挑戦

柳田さん:クラシコムはSNSの伸びに乗って成長されてきたと伺いましたが、最近はまた違う取り組みをされているように見受けます。現在、コンテンツについてどのようにお考えでしょうか。

青木さん:インターネットでビジネスをしている人の多くが抱える課題だと思いますが、お客様との接点となるチャネルのほとんどを他社が握っているという現状があります。例えば検索エンジン経由であればGoogle社、Instagram経由であればMeta社といった具合です。

以前はブラウザにブックマークを残す習慣があり、ある意味で誰にも支配されていないブラウザというプラットフォームが存在していました。しかしスマートフォンの時代になり、その価値は有名無実化してしまいました。

そうなると、自分たちのサイトやサービスに来ていただくためには、他社のプラットフォームを経由するしかない。つまり、他社の都合次第で有利にも不利にもなる。不確実性が非常に高いのです。

私たち自身も、2013年頃からFacebookが伸びてきた時期に、Facebookページにそれなりの投資をしました。しかしその後、Facebookの運営方針が変わり、ページの価値はほとんどなくなってしまったという経験があります。どのチャネルで成功しても、プラットフォームに左右されてしまう。その繰り返しであれば、まず依存度を分散しなければならないと痛感しました。

完全に依存をなくすことはできませんが、依存を分散し、各チャネルの変化に影響を受けにくい仕組みや、お客様との新しい繋がり方を考えなければならないと、2018年頃に強烈に意識したのです。

柳田さん:2018年というと、EC業界全体が好調だった印象があります。その時期にすでにそうした課題意識を持っていたのは早いですね。

青木さん:SNSがこれ以上革新的に伸びていくイメージは持てなかったのです。その後、ディズニー社がNetflixやAmazon Prime Videoからコンテンツを引き上げ、「Disney+」を開始しました。その瞬間、一夜にして数億人規模の有料会員が生まれました。それを見て、プラットフォームに依存せず、むしろプラットフォームを脅かす存在になることもできるのだと気づいたのです。

なぜそうなれたのかを考えると、お客様の「頭の中」というレイヤーに、自社の価値観や世界観をインストールできている。つまりマインドシェアを獲得できているコンテンツや事業者は、その下にいるプレイヤーやプラットフォーマーの支配を受けないのだと考えました。

柳田さん:「頭の中のレイヤー」という発想は非常に面白いですね。

青木さん:例えば私が柳田さんの恋人だったとして、仮にLINEが使えなくなっても「もう連絡を取らない」にはならないでしょう。SMSでも手紙でも、何とかして連絡を取ろうとしますよね。マインドレイヤーを押さえるとは、そういうことです。

ディズニー社はそれができていました。NetflixやAmazon Prime Videoで観られないなら、Disney+に加入してでも観たいと思わせるマインドを勝ち取っていたのです。そのためには、ちょっとした便利情報や美しい写真の投稿だけでは不十分です。ディズニー社のように、コストと時間をかけて完璧な世界観を築き上げてこそ、マインドシェアを得られる。そう気づいたのが2018年頃です。

その気づきが、後にドラマ制作につながりました。偶然WebCMを作ろうと相談に行った際、相手の方から「クラシコムでCMはらしくない。ドラマを作ったらどうですか?」と提案を受けました。それまでドラマを作るなんて一度も考えたことがありませんでした。

柳田さんもきっと同じだと思いますが、私たちは365日24時間自分のビジネスのことを考えています。だからこそ、人から提案を受けても「一度も考えたことがないアイデア」というのは滅多にありません。ドラマ制作はまさにそれでした。

私は「自分が一度も考えたことのない提案」であれば、それが成功するか否かにかかわらず、予算が許す範囲であれば挑戦すると決めています。それはDisney+の事例とも結びつきました。そして、これまでのSNS中心のライトなコンテンツとは異なる、お客様と深く結びつくドラマ、ドキュメンタリー、ポッドキャスト、音楽など、人の感受性に強く訴えるコンテンツを作っていこうと考えるようになったのです。

その取り組みの一つとして、2018年から2020年に映画を制作し、全国で配給しました。これが現段階での最上位コンテンツだと考えています。

「ブランディング」ではなく、過去へ投資する「ブランデッド」

柳田さん:映画をクラシコムさんで販売しても、飛ぶように売れるわけではないでしょうし、データも取得できない。それでもマインドレイヤーに訴えかけるために取り組まれた、ということですね。

青木さん:ある本を読んでいたときに、「ブランディング」ではなく「ブランデッド」という言葉が紹介されていました。私は本当にその通りだと思ったんです。私の解釈では、ブランドを“作ろう”とするニュアンスのブランディングではなく、ブランド化されるようなエピソードの地層が積み重なっている状態を指すのだと思います。

柳田さん:なるほど、すごくわかります。

青木さん:やってきたことが積み重なってブランドになる。だからこそ、愛着やロイヤルティにふさわしいだけの価値を持つエピソードがたくさん必要なのです。その一つひとつの取り組みがどれだけ売上につながったかは関係ありません。例えばルイ・ヴィトンであれば、数百年にわたってさまざまなエピソードを積み重ねてきました。個々のROIはさておき、時間をかけて積み上げたエピソードが、結果として大きなブランド価値を証明しているのです。

柳田さん:確かにそうですね。お話を伺っていると、「ブランディング」という表現には違和感があります。ブランディングって、そんなに簡単にできるものではありませんよね。

青木さん:少し俗っぽい例えになりますが、ブランドを作ろうとすることは「モテよう」とすることに似ていると思います。モテたい気持ちが透けて見えると案外モテない。でも、そんなことを意識していなくても、モテるにふさわしいエピソードが積み上がっていれば自然とモテたりしますよね。

柳田さん:すごくわかりやすい例えです。

青木さん:私たちは、自分たちのリソースや予算で賄える範囲で、コツコツと「過去を作っていく」ことを大事にしています。私はそれを「過去に投資する」と呼んでいます。未来には投資できても過去には戻れませんから。

例えば最近では、映画の主題歌をアナログレコード(バイナル盤)として制作・販売しました。私たちのお客様でレコードプレーヤーを持っている方はほとんどいないので、当然ほとんど売れません。でも私が思い描いたのは、30年後に誰かが中古レコード店でその一枚を偶然見つけて「かっこいいじゃん」と思い、調べてみたらクラシコムの作品だった。そんなエピソードです。

柳田さん:そこまで考えていらっしゃるのですね!

青木さん:さらに、今後ミュージシャンの方とお仕事をする機会があったときに「私たちが作ったレコードです」とお渡しできれば、本気度が伝わりますし、ご一緒できる確率も高まると思います。そうした“道具”としてエピソードを積み重ねられるのであれば、レコード制作のコストはむしろ安い投資だと考えています。

リソースの余白から生まれたアプリが、事業成長を支える存在に

柳田さん:先ほど「時間をかける」というお話がありましたが、今のWeb業界はどうしても目先ばかりを見がちな印象がありますね。

青木さん:私たちも日々バタバタしています。ただ、その中でもできる範囲でエピソードをコツコツと積み重ねていく。それを作るためのリソースを確保しておくことが大事だと考えています。

柳田さん:おっしゃる通りですね。例えば「たくさん売るために安売りで対応する」といった施策にリソースを割くと、どうしても短期的な売上にしか資源を投じられなくなります。

青木さん:やはり余力がないと、すべての取り組みが「必達」になってしまい、失敗できない状況になります。私たちの場合は、ほとんどの施策を「うまくいったらラッキー、だめならやめればいい」と割り切って取り組んでいます。

実は2020年以降、売上の約60%を占めるまでに成長したアプリも、当初は必要に迫られて作ったものではありませんでした。

当時、とある有名ベンチャー企業でPdM(プロダクトマネージャー)をしていた方が入社することになったのですが、すでにECサイトは稼働しており、彼に任せられる明確な仕事がありませんでした。「入社すれば何か仕事があるだろう」と言ってもらえたものの、このままではもったいない。そこで、入社までの約3か月間で彼の役割を作らなければならないと考えました。

ちょうどその少し前に、Sun Asteriskの小林社長とご縁があり、「ぜひ一緒に仕事をしたい」と思っていたのですが、お願いできる案件がありませんでした。そこで、今回のPdM入社をきっかけに、社内で開発をリードできる体制が整うと考え、アプリ開発に踏み切ったのです。

もちろん、アプリを作ったからといって必ず成功するわけではありません。ただ、PdMにとって意義ある仕事が1年ほどは確保できるし、だめならクローズすればよい。そんな気持ちで始めました。ところが、このアプリがその後、私たちを大きく支える存在になるとは想像していませんでした。

Webの世界はプラットフォームに支配されがちですが、アプリはGoogleやAppleのプラットフォーム上にあるものの、ユーザーのホーム画面に居場所を確保できます。これは昔の「ブックマーク」に近い存在で、比較的自前でお客様との接点をコントロールできるのです。

柳田さん:ただ、ブックマークよりはハードルが高いですよね。ブックマークは無限に保存できますが、スマホの画面は限られている。アプリを入れてもらうだけで稼働率が高まりそうですが、完成直後からアプリに注力されたのですか?

青木さん:もちろん注力しました。初日は非常に多くのダウンロードがあり、国内の無料アプリランキングに入るほどでした。ただし、それはリリース直後だけで、継続して伸ばすのは難しいと実感しました。

そこからは、マーケティングの「勝ちパターン」を見つけるために開発チームに予算をつけ、数か月間テストを繰り返しました。伸ばし方が見えてきたタイミングで大きく投資し、アクセルを踏んだことで成長軌道に乗ることができたのです。

柳田さん:なるほど。クラシコムさんは映画やSNSなどコンテンツが豊富にありますし、今や流入の6割を占めるアプリとあわせて、スマホを軸に置いた戦略が結果につながっているのですね。

「競争しない」ための覚悟を持って。クラシコム流、持続するブランドの築き方

柳田さん:青木さんのお話では「時間」や「余裕」がキーワードになっています。ただ、それは資金があってこそ可能になることでもあります。つまり、安定したビジネスでしっかり稼げる体制を築いておく必要がありますね。その基盤があるからこそ、「北欧、暮らしの道具店」のお客様に向けて提案すれば選んでいただける商品を、お客様との対話から見つけてこられたのだと思います。そうなると、商品の価格も大きな問題ではなくなってきますね。

青木さん:そうですね。どちらかというと安い店ではありません。大量生産を目的としていないので、原価率も安くはありません。

柳田さん:今日のお話を伺っていると、視聴者の方は青木さんを「競争とは無縁の、柔らかな人」と感じるのではないかと思います。実際、青木さんご自身も「競争しよう」という気持ちは持っていないのですよね。

青木さん:自ら進んで競争することはありません。ただ、株式会社としてすべてのステークホルダーとともに健やかに幸せになっていくことが目的であり、その舵取りを担うのが経営者です。その際、競争を通じて幸せや権益を守らざるを得ない状況に追い込まれないことが非常に重要だと考えています。追い込まれてしまえば、最終手段は競争です。

ただし、いざ競争しかないという状況に直面したときに、戦う覚悟や自衛力がなければ、それもまた問題です。私はもともと競争的な人間ではなく、争って勝てるという強い自信があるタイプでもありません。しかし極論、追い込まれないようにしていても、もし追い込まれたら戦う覚悟は持っています。

競争せざるを得ないのであれば、仲間を守らなければなりません。その局面では競争しますが、できれば短期間にとどめ、再び競争から離脱する方法を探るでしょう。そして「誰も攻めてこない安全な土地を新たに開発できないか」と考えるのだと思います。

柳田さん:クラシコムさんが上場されたとき、正直「上場しなくてもいいのでは?」と感じました。でも今のお話を伺うと、競争を余儀なくされる局面に備える意味があったのだと理解できました。

また、今回改めて気づいたのは、クラシコムさんは取り組みの手段を次々と変えているということです。「北欧、暮らしの道具店」という入口は一貫していても、その魅力を伝える手段は数年単位で変化しています。

青木さん:そうですね。だいたい2年は持ちません。ミッションとして掲げている『フィットする暮らし、つくろう。』に一歩でも近づくために、商品やコンテンツを通じてアウトプットするのが私たちの仕事です。そのための手段はなんでもいいと思っています。

柳田さん:青木さんの取り組みは非常に筋が通っていますが、実は状況に合わせて柔軟に手段を変えてこられているのですね。一本筋の通った理念を愚直に続けているからこそ「ブランディング」と見える。それが青木さんであり、クラシコムなのだと思います。

おわりに:変化に対応しながら、揺るがぬ軸を持ち続ける

クラシコムの取り組みには、環境の変化に柔軟に対応しつつも、「フィットする暮らし」という軸を一貫して貫く姿勢が見られました。SNS、アプリ、映像作品と手段は変わっても、目的はぶれない。その積み重ねが顧客からの信頼やブランド価値につながっています。

また、「競争を避けながらも備えを怠らない」という姿勢にも、持続可能なビジネスを築くための示唆が込められていました。

EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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