記事の概要

楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っているサヴァリ株式会社が運営するYouTubeチャンネル『ECの未来』では、ECに関わるさまざまな方をお呼びして、その方たちの得意ジャンルのお話をMCである株式会社柳田織物の柳田敏正さんと対談形式でお届けしています。

今回は、株式会社クラシコム 代表取締役社長である青木耕平さんに、「広告に頼らないコンテンツ戦略」をテーマにお話いただく回をご紹介いたします。

【ゲストスピーカー】
青木 耕平さん
株式会社クラシコム 代表取締役社長
北欧ビンテージ雑貨店「北欧、暮らしの道具店

【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)

ビンテージ食器の限界と伸びない利益

柳田さん:北欧のビンテージ食器は需要がある商品だからこそ、供給体制の整備に注力されたと伺いました。一方で、今の「北欧、暮らしの道具店」といえば、圧倒的なファンの多さが印象的です。どのような考えのもと、どのような取り組みを経て上場に至ったのか、お聞かせいただけますか。

青木さん:ビンテージ食器というのは、今はもう生産されていないものを販売するビジネスです。いわば、化石を売っているようなもの。安定的に入荷できる仕組みは整えましたが、売れば売るほど在庫が枯渇していく宿命のビジネスであることは、当初から理解していました。

実際、ビンテージの北欧食器を本格的に扱っていたのは、1年半ほどにすぎません。利益がしっかり出ているうちに、次の展開に取り組み、早めに撤退しようと考えていたのです。2007年にビジネスをスタートし、翌2008年には北欧の現行商品の取り扱いを始めました。つまり、他の店でも購入できるような商品を扱うようになったわけです。

そうなると、やはりモールへの出店や広告活用が必要になります。そうした施策にしっかり取り組んだことで、売上は順調に伸びていきました。しかし、売上が伸びても利益は伸びません。これはよくある話だと思います。現行品を少量のロットで仕入れていたため、粗利が小さく、そこにモールの手数料や広告費などの販管費が加わり、最終的に残る利益は本当にわずかでした。一方で、売上が伸びるほど運転資金が必要になり、借入だけがどんどん増えていく。

Eコマースを始める際、「とりあえず月商1,000万円を目指す」という話をよく耳にしますが、実際に3〜4年かけて月商1,000万円に到達したとき、残ったのは利益ではなく、個人保証付きの借入だけという状態でした。売上が1億円、借入が3,000万円。このまま3年続ければ、売上とともに借入が増え、元本を返せなくなる。そうなると、辞めたくても辞められず、自由が利かなくなってしまうだろう。そんな予測が立ちました。であれば、今のうちに、3,000万円の借金で済んでいるうちに辞めたほうがいいのではないか、とも思ったのです。

2010年頃には、「やめる」という選択肢も頭にありました。それでも、どうすれば利益を残しながら成長できるのかを模索していた時期でもあります。当時は、広告費やポイント施策などの販管費に売上の15%程度を費やしていたため、このコストを抑えられるのではないかと考え始めました。

楽天市場の静かな撤退と自社ECのメディア化

柳田さん:最初は広告も使われていたのですか?

青木さん:はい。リスティング広告では1万個のキーワードを運用していましたし、楽天市場には大量に出稿していました。アフィリエイト広告も使っていましたね。私は「独自のやり方だけを試すのはよくない」と考えていて、まずはセオリー通りに全部試してみる方針です。その上で、うまくいかなければ次の手を考えるようにしています。

実際にセオリー通りやってみると、広告費は売上の15%ほどかかることになりました。仮に売上が2億円なら、広告費は3,000万円です。もし広告費がなくなれば、いきなり営業利益が15%出ることになります。もちろん、すぐにゼロにすることはできませんが、最初はそういった発想でした。

多くの人には「そんなの無理だ」と言われましたが、当時私が考えていたのは、Webサイトには「広告をもらうサイト」と「広告を出さなければいけないサイト」があるということです。でも、どちらも同じように画像とテキストを掲載しているデジタルメディアであるにもかかわらず、なぜ一方は広告収入を得られて、もう一方は広告費を払わなければならないのか。それが疑問でした。

知名度の違いかとも思いましたが、たとえばAmazonや楽天市場は圧倒的な出稿先である一方で、Yahoo!ニュースはそれほど広告を出していません。でも、それぞれの知名度に大きな差があるとは思えなかったのです。

最終的に私が行き着いた結論は、「買う人や予約する人など、トランザクションを起こす人にフォーカスしているサービスは、広告を出さなければならない」ということ。一方で、「サイトに訪れたすべての人に“お土産”(情報や体験の提供)がある場所は、広告をもらえる」と。そんな考え方です。

Eコマースが広告を出さなければいけないのは、“買う人”にフォーカスしているから。だとすれば、“買わない人”にフォーカスして集客し、その人数がある閾値を超えたとき、広告をもらえるサイトになれるのではないかと考えました。そうして2012年頃から始めたのが、「Eコマースのメディア化」です。売れるかどうかにかかわらず、サイトを訪れた人にとって楽しい場所をつくろうという試みでした。

柳田さん:そのような思考が、コンテンツへの取り組みにつながったのですね。深掘り力が素晴らしいです。広告って、表示されたタイミングでたまたま欲しい人が買うケースが圧倒的に多く、結果として広告コストだけがかかって終わることも多いと感じています。

青木さん:当時、広告費を削減するにはどうすればいいかを考えたとき、最初に着手したのは楽天市場の更新を止めることでした。私たちは楽天市場店と自社サイト(本店)の両方を運営していましたが、楽天市場店については出店は継続しつつも、新商品の投入は止めました。在庫は自動連携していたため、1年半かけて少しずつ売上を落とし、全体の35%を占めていた楽天市場店の売上比率を、最終的には9%まで下げた上で、出店を終了しました。

その頃にはすでに自社サイトへの広告投資をしっかり行っていたため、アフィリエイト広告の停止やリスティング広告の予算削減(4分の1にカット)といった形で、影響が少ない部分から段階的に止めていきました。一方で、メディア的な取り組みに予算を振り向け、少しずつ成長させていったのです。

柳田さん:「やめよう」と思ってから1年半かけて実行するという判断ができるのは、やはり強いですね。多くの会社は「手数料がつらいから」とすぐに撤退を決断してしまいますし、楽天市場に出店したまま更新しないという選択も、非常にユニークで参考になります。

プラットフォーム転換期を支えた「主体的に選べる力」

青木さん:楽天市場を更新しなければ、そこにかかる手間はゼロになります。トップページすら一切更新しないので、徐々に売れなくなっていきますが、手間がかかっていないので構わないと割り切っていました。

実際、更新を止めても楽天市場では商品が売れていたのです。これは、本店(自社サイト)で商品を知った方が、楽天市場で購入していたということでしょう。楽天市場の更新を止めた1年半の間に、その事実がはっきりとわかりました。楽天市場に出店し続ければ一定の売上は見込めますが、売上構成比が10%台まで下がった段階で、「ここに手間をかける必要はない」と確信しました。

その後、楽天市場から撤退し、メディア化へと舵を切ったのが2011年頃です。当時はスマートフォンの保有率が高まり、さらに震災の影響もあってSNSの利用率が大幅に伸びました。

2011年時点では、サイト訪問者の利用端末の割合がPC8割、モバイル2割程度でしたが、2013年頃にはこの割合が逆転します。PCの利用が減ったというよりも、スマートフォンの爆発的な普及により、アクセスの総量が一気に増えたのです。

そして、スマートフォンを持つほとんどの人がSNSを利用するようになりました。それまで、集客手段といえばモールか検索エンジンしかありませんでしたが、そこにSNSという新しい巨大な集客チャネルが登場したのです。

当時のSNSに足りなかったのが「コンテンツ」でした。役に立つ情報よりも、心を動かされるような、素敵だな、綺麗だなと思える雑誌のようなコンテンツがあまりなかった。私たちはそれを予見していたわけではありませんが、メディア化を進めて2〜3年が経っており、すでに綺麗な写真や、読んで心が動くようなコンテンツのストックが大量にありました。いわゆる「Instagramらしい」写真も豊富にあり、これらをSNSに投稿することでフォロワーがぐんぐん増えていった時代が、数年続くことになります。

検索エンジン・モール・PCという世界観から、スマートフォンとSNSという新しい世界が急に現れました。そのとき、ECプレイヤー側の準備がまだ整っていないなか、私たちはたまたま準備ができていた。運が良かったと思いますが、その波とともに、上場までの約10年は大きく成長できた実感があります。

当時はまだ事業規模が大きくなかったので、スマートフォンへの最適化もスムーズに進みました。2013年には全ページをスマートフォン対応に切り替えています。ただ、当時はまだスマートフォンで買い物をする習慣が広く浸透していなかったため、切り替えた直後はCVR(コンバージョンレート)が大きく下がりました。

しかし、CVRは半減しましたが、トラフィックは3倍に増えたため、売上全体としては成長しました。とはいえ、CVRの低いモバイルからのアクセス比率が高まるたびに、当時はかなりヒヤヒヤしていましたね。

柳田さん:2011〜2013年頃、コンテンツを意図的にストックし続け、プラットフォームが伸びるタイミングで“出していくだけでいい”という状態を作ってこられた。その数年が、今の成果につながっているということですね。

青木さん:全く予想していたわけではないので、本当に「運が良かったな」と感じています。ただ、軸として持っていたのは「自分たちで主導権を持ってビジネスを進めるにはどうしたらいいか」という問いです。

マーケティングの4P(プロダクト・プライス・プレイス・プロモーション)に対して、自分たちの意志でどう取り組むかを自由に決められる状態こそが、ビジネスの独立だと思っています。それを実現したいという思いが、常にありました。だからこそ、自立に近づける方向へと舵を切り続けてきた。その結果が今につながっていると思います。

おわりに:広告に頼らず、体験価値で選ばれる存在へ

「北欧、暮らしの道具店」の歩みからは、Eコマースの常識にとらわれず、ブランドの本質と向き合い続けてきた姿勢が伝わってきます。

広告に依存するのではなく、「訪れるだけで楽しい」体験を設計することで、買う人以外にも価値を届ける。その発想の転換が、ブランドの独自性を形づくってきました。その背景には、コンテンツを地道に積み重ねる姿勢、環境変化への柔軟な対応、そして「自分たちで選ぶ」自由を獲得するための明確な意思があります。

情報や選択肢があふれる時代において、どのようなブランドが選ばれるのか。その問いに対するヒントが、ここには詰まっているのではないでしょうか。

EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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