【ゲストスピーカー】
望月 卓郎さん
株式会社ヤッホーブルーイング コンシューマー部門 事業統括
クラフトビールよなよなエール公式サイト「よなよなの里」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
認知してもらうことを意識した広報戦略
柳田さん:ヤッホーブルーイングさんはECからスタートし、現在は店舗への卸も好調とお聞きしています。
望月さん:ありがたいことに、コンビニチェーンでも取り扱っていただけるようになり、多くの方の目に触れる機会が増えてきたと感じます。
柳田さん:店舗での展開が進んだ背景には、大規模イベントの開催だけでなく、広報活動にも戦略的に取り組まれてきたことがあると伺っています。広報にどのように力を入れてこられたのか、お聞かせいただけますか?
望月さん:私たちは星野リゾートグループの一員なのですが、親会社が実践している広報のあり方には大きな影響を受けています。全国各地のホテルや旅館それぞれの魅力をメディアに丁寧に伝え、話題をつくっていく。その手法は本当にすごいと感じています。
やはり、まずは認知がなければ製品を手に取っていただけませんし、ECでも検索の対象になりません。どの店舗様でも同じだと思いますが、まずは「名前を知っていただくこと」が非常に重要で、私たちもそこに注力してきました。
「軽井沢に面白いビール会社があるらしい」と認知していただけるよう、楽天市場のイベントなどでは、あえて奇抜な格好で目立つ工夫をしてきました。代表が被り物をして登場することもあり、そこまで振り切ると他社が簡単には真似できない領域になります(笑)。
後になって気づいたのですが、星野リゾートの星野佳路さんが雑誌で語っていた「サザンオールスターズ戦略」にも通じるところがありました。サザンのデビュー曲は非常に個性的で、「変な曲だけど面白そうなアーティストが出てきた」と話題になり、その後の2〜3枚目で「実力もある」と評価が定まったそうです。星野さんは「あの戦略は天才的だ」と述べておられました。
実際に、初期のヤッホーブルーイングのプレスリリースや新製品発表では、星野さん自身が着物にカウボーイハットという“和風ガンマン”の格好で登壇していました。当社の井出が行っていたこととまさに同じで、話題づくりの手法には、親会社から受け継いだDNAがあるのだと感じました。
柳田さん:今の星野さんからは、なかなか想像がつきませんね。
望月さん:あくまで当時のヤッホーブルーイングの話ですね。ヤッホーブルーイングは、「面白い」「個性的」「キャラクターが立っている」といったブランドイメージでお客様に親しんでいただくのが得意です。最初に注目を集めて、そこから商品へとつなげていくという戦略は、親会社の方針を参考にしてきました。
当時はECで販売できる商品が限られていたため、どれだけお客様に興味を持っていただけるか、どれだけ話題や支持を得られるかという点を重視していました。
そして、「楽天市場で売れているらしい」「Yahoo!ショッピングでも好調らしい」といった情報が広まることで、クラフトビールの棚が設けられた際に、1~2アイテムでも取り扱っていただける可能性が高まるんです。
私が入社した当時はちょうどそのような状況で、楽天市場上で目立つこと、ランキングに入ることなど、認知を広げるための工夫を意識して取り組んでいました。流通向けの営業担当からは、「楽天市場で1位を取ったなら、その実績を店頭販促に活用したいのでデータを共有してほしい」と声をかけられたこともありました。オンラインでの成果が、オフライン営業の現場でも有効に機能するのだと実感しました。
初期の頃は、「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」や「楽天うまいもの大会」など、モール側が積極的に宣伝してくれる場をできる限り活用しようと取り組んでいた時期もあります。
クラフトビール文化を作ることを意識した取り組み
柳田さん:2010年頃は、クラフトビールを飲むのは本当にビール好きの方に限られていて、ここ数年でようやく盛り上がってきた印象です。ヤッホーブルーイングさんの取り組みが、ブームの火付け役になったのではないですか?
望月さん:いえ、私たちだけの力ではなく、業界全体で取り組んできた結果だと思っています。クラフトビールは嗜好性が強く、特殊な商品です。日本のビール市場では、いわゆる大手4社がシェアの99%を占めており、そうした中で、普段の飲用習慣にないクラフトビールを定着させていくのは非常に難しい挑戦でした。
柳田さん:たしかに、味も良くて価格も手頃なビールを選ぶのは、ごく自然なことですよね。
望月さん:その通りです。ただ、海外では国ごとにビール文化が異なり、クラフトビールのような多様性のあるビールを楽しむ文化が根づいています。ですから、日本でも必ずクラフトビールの時代が来ると信じていました。
クラフトビールを単なる“商品”ではなく“文化”として根付かせていくこと。これを実現するには1社だけの力では足りません。そこで、創業当初から「クラフトビール文化を日本に作る」という意志を掲げ、業界全体でムーブメントを起こす意識を持って取り組んできました。
柳田さん:最初から文化の醸成を見据えて行動されていたからこそ、今ではコンビニにもクラフトビールの棚があるという状況に繋がっているのですね。
望月さん:クラフトビール専用の棚が常設されることは、私たちメーカーにとっても大きな目標でした。ここ5〜6年で、ようやく文化として定着し始めた実感があり、その一端を担えたのであれば嬉しい限りです。
柳田さん:クラフトビールは個性が強い分、当然ながら好みが分かれますよね。でも「美味しい」と思ってもらえることが前提としてあり、その上で“文化”として浸透させていくという発想に至っているのがすごいと思います。多くの企業が目先の売上にとらわれがちな中で、長期的な視点を持って取り組むのは、簡単なことではありません。
そうした思いがあったからこそ、リアルイベントの開催など、認知を広げる取り組みにもつながっていったのだと感じます。楽しむ人が増えれば、結果としてお店側も「消費者の声に応えよう」と動いてくれますよね。
望月さん:そうですね。まずはお客様に選んでいただくこと、楽しんでいただけることが何より重要です。そこがなければ、文化として広がっていくこともありません。
柳田さん:私がよく行くスーパーでは、「この商品を入れてほしい」と要望を出すと実際に導入されることがあります。もちろん、すべてのお客様が声を上げるわけではないですが、需要があることが伝われば、お店も採用を検討してくれます。
そう考えると、クラフトビール文化を広めていく過程で、ECでの販売実績やランキング入りといった“目に見える結果”が、お客様の関心や支持を証明する役割を果たした面もあるのではないでしょうか。
SNSやコンテンツを活用、UGCが増えるコミュニケーション
柳田さん:ここ数年、「デジタルシェルフ」という言葉がよく使われています。アメリカ発祥の考え方で、「Amazonで注目を集める商品は、リアルの小売でも無視できなくなる」といった背景から来ているのですが、ヤッホーブルーイングさんの商品も、同じような影響を受けているのではないでしょうか。
望月さん:実は2年ほど前から、ECモールを担当しているチーム内でも、まさにそのような話題が挙がるようになってきました。以前は、ネット上で完結していて、メルマガを配信して楽天市場の売上を確認するというような運用でしたが、最近では指名検索が増え、SNSやLINE、メディア露出など、さまざまなチャネルから話題が波のように広がるようになってきました。
いまのECで重要視されているのは、「お客様が慣れている場所で購入する」という前提のもと、検索されたときに“しっかりと表示されるか”という点です。商品ページとしての面積を取れているかが非常に重要になっています。
柳田さん:たしかに最近は飲食店や観光地を調べるときも、GoogleよりSNSで検索する人が増えていますよね。今やメーカーもSNSを運用しないわけにはいかない時代です。
望月さん:おっしゃる通りです。当社でも2010年にSNSアカウントを開設したものの、当初はフォロワー数の拡大にはあまり注力していませんでした。ただ最近では、数の重要性も高まっていて、投稿の“濃度”も反応の“ボリューム”も、メルマガよりSNSのほうが大きくなってきました。
柳田さん:お客様との接点が確実に広がっていますよね。以前は検索とメルマガが中心でしたが、若い世代はSNSで情報収集することが多い。SNSで認知を獲得できれば、フォロワー数やコメントといった“証拠”を小売店へのアピール材料にもできます。
望月さん:本当に、ユーザーの声というのはとても強力です。SNSを通じて集めやすく、見せやすくなったことで、私たちにとっても1つの“武器”になりました。地道に、我慢強く取り組んできた成果だと思っています。
柳田さん:最初はなかなか結果が出なくても、あるタイミングで一気に伸びることってありますよね。私自身も、最近は自社のコンテンツをSNSで発信するようにしています。ヤッホーブルーイングさんでも、テレビ出演やイベント登壇などの後に、検索経由で自社制作のコンテンツにたどり着くケースもあるのではないですか?
望月さん:そうですね。まず、お客様がよく使っているSNSで発信するのが基本だと思います。今一番反応がいいメディアを、商売としてきちんと活用する。やってみると、各SNSの特性も見えてきます。
当社ではよくアンケートも実施しています。例えば、年末に販売する“福袋用ビール”の味を、お客様の投票で決めるといった企画です。以前はメルマガでアンケートを配信しても、回答数は1,000〜2,000件程度でしたが、LINEで約20万人に投票を呼びかけたところ、2日で4万件もの回答が集まりました。メディアごとの特性を理解し、それに合わせた設計をすることの重要性を実感しています。
さらに、当社の自社ECサイトも数年前に大きく方針転換しました。以前は典型的な“販売特化型”のECサイトでしたが、実際の売上は楽天市場などモールに集中しており、本店サイト単体での販売は苦戦していました。独自商品を展開していない以上、買い物目的の流入だけでは厳しいと判断したのです。
一方で、ビールのことを調べたい方、会社の活動に興味を持ってくださった方、テレビで見て検索した方など、多様な目的での訪問が増えていました。そこで、「ただのECサイトではニーズと合っていない」と考え、思い切ってコンテンツサイトに切り替えました。
コンテンツ制作は手間もかかりますが、「まずは我慢。記事が500〜1,000本になってくると成果が見えてくる」と言われた通り、3〜4年地道に続ける中で、アウトドア×ビールなど趣味文脈での反応が良いことも見えてきました。今ではサイト全体のアクセスも増え、SNSとの相乗効果も出始めています。
カスタマーサービスの担当者は、普段からお客様の声に直接触れていますが、最近ではSNS上でも多くのUGC(ユーザー生成コンテンツ)に出会えるようになっています。たとえば「“水曜日のネコ”って気になるけど、どんなビール?」という投稿に対して、「こちらでご紹介しています」と自社コンテンツのURLをリプライすると、とても喜んでいただけます。
柳田さん:わざわざ説明を書く必要もなくなりますし、お客様も喜んでくれる。運営側にもメリットがありますね。
望月さん:さらに「ありがとうございます!」とリツイートしてくださることもあります。これが1つのUGCです。私たちは、お客様の声がネット上にどれだけ蓄積されているかを重視しています。
たとえば、「どこで買えますか?」という投稿に対して、「お住まいはどちらですか?」→「そのエリアならこのお店にあります」といったやり取りが1つずつUGCになっていく。実際に、営業チームと連携して、該当地域のお店に電話確認したうえで返信することもあります。とても喜ばれますし、購入にもつながっています。
柳田さん:そこまでパーソナルに対応されているのは本当にすごいですし、「1つのUGCを増やす」視点で取り組んでいらっしゃるのが印象的です。
望月さん:当社では、SNSでの話題量やインプレッション、エンゲージメントを“ホットな指標”として扱っています。キャンペーンやイベントを展開する際も、「SNSでどれだけ反応があったか」を皆で意識しており、最重要指標のひとつとして取り組んでいます。
美味しいだけでない価値ある体験の提供を目指して
柳田さん:最後に、ヤッホーブルーイングさんが今後目指していく方向性について、展望をお聞かせいただけますか?
望月さん:あくまで私個人の考えですが、最終的に目指すのは「お客様に価値ある体験だった」と感じていただくことです。
単に「ビールが美味しかった」というだけでなく、例えば「ヤッホーブルーイングのイベントに参加してよかった」「あの会社のやっていることって面白いよね」といった、より深い関係性を築けるような体験を増やしていきたいと思っています。
その実現のために、ネットの果たす役割は非常に大きいと感じています。お客様一人ひとりとのOne to Oneの関係性の中で、まだまだできることがたくさんあるはずです。
大手流通の店頭棚に自社製品を継続的に並べていただくのは、非常にハードルが高いことです。それでもありがたいことに、少しずつお客様が増え、店舗での採用にもつながっています。ただ、実際に店頭に並べていただけるのは、主力製品である「よなよなエール」や、そこに加えて2〜3アイテム程度で、当社のフルラインナップを展開するのはなかなか難しいのが現状です。
そこで重要になるのがECの存在です。メジャーな商品を入り口にして、「よなよなエールを作っている会社は、他にどんなビールを出しているんだろう?」「季節限定のビールはあるのかな?」「軽井沢の会社だから地元限定の商品もあるのでは?」と、もう一歩踏み込んでくださったお客様に対し、ECはその期待に応える場になります。
ECとリアルの流通には相乗効果があります。ECで売れれば、流通での採用にもつながりやすくなります。流通で採用されれば、認知が広がり、主力以外の製品にも関心を持っていただけるようになります。
一方で、ECは流通ではリーチできないお客様や、そもそも提案が難しい商品も届けられるチャネルです。いわばECは、当社のもう一つの“棚”であり、重要な役割を担っていると感じています。
時代とともにECの役割は変化し続けていますが、その中で私たちEC担当者が果たすべき使命は、お客様にネットの力を通じてより豊かな体験を提供すること。その姿勢は今後も変わらず持ち続けていきたいと思っています。
柳田さん:これからも、より多くの方にヤッホーブルーイングさんのビールを楽しんでいただけるよう応援しています。
おわりに:認知から文化へ、ファンと育てるクラフトビールの未来
ヤッホーブルーイングさんの取り組みには、単なるクラフトビールメーカーの枠を超えた、強い意志が感じられました。
ECを起点に、リアルイベントやSNS、自社サイトのコンテンツを通じて、多様なチャネルでお客様との関係を築いてきた同社。クラフトビールという“商品”にとどまらず、“文化”として定着させていく。その歩みは、まさにファンと共に楽しみながら育てていくブランドの姿そのものです。
市場環境の変化が激しい今だからこそ、ヤッホーブルーイングさんの姿勢は、これからのブランドの在り方に一つのヒントを与えてくれているように思います。
EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。
■サヴァリ株式会社へのお問い合わせはこちら
https://savari.jp/contact/
あわせて読みたい