現代のECは一周まわって"良い物を作らないと売れない"

いわゆるマーケティング2.0:"良いものを作れば売れたのは過去の話。市場をセグメントしてポジションを取り(STP)、『誰に・何を・どうやって・いくらで』売るのかを考える必要がある(4P)"のはご存知だと思いますが、現代のECではこれでも足りません。

なぜなら、同じポジショニングをする競合がほぼ必ず存在しているため、「そのポジショニングの中で選ばれる理由」が必要だからです。

この状況に対するソリューションとして、「"マーケティング3.0"の考え方が必要だ」なんて言われたりします。
つまり「同じセグメントで同じポジションを取っている商品群の中で選ばれるために、会社自体のミッションやビジョンへの共感などの、"感情的・精神的な価値"を伝えよう」という考え方です。

SDGsやCSRがその例です。
要は、「似たような商品・サービスなら良いことをしている会社から買いたい」と思わせる取り組みですが、あまりにキレイゴトですし、内容的にもこの記事の読者には現実的ではないでしょう。

なのでわたしは、現実的にできる取り組みとして、マーケティング2.0の考え方を踏まえて今一度マーケティング1.0に立ち返って商品自体の改善をする、マーケティング2.0+1.0の考え方をおすすめしています。

理由1:広告の運用では差がつかない

以前の記事で言及した通り、よっぽど変なことをしようとしない限り、広告の運用による差は無視できる程度のものです。

ターゲティングや入札が自動化されていなかった時代は、広告運用の能力がないと見てもらうべき人に広告を見てもらえない可能性がありました。
広告が見られなければ消費者にとっては"ないのと同じ"なので売れるわけがありません。いわば、広告運用の能力がないと土俵に上がることすらできなかった時代です。
逆に言うと、上がれた土俵で勝てればよかったので、マーケット全体で見たときの競争力がイマイチでも勝てる土俵を見つけられれば売れました。

しかしながらこれらが自動化された現在では、誰でも上がるべき土俵に上がれるようになりましたので、"勝てる土俵を広告運用で見つける"という行為がほぼ不可能となり、マーケット全体での競争力の有無が、広告運用で上がった土俵での競争力の有無とほぼ同じになっています。

理由2:カスタマージャーニーは一本道ではない

AIDMAやAISASなどのカスタマージャーニーモデルの名前を聞いたことがある方も多いと思います。さまざまなモデルがありますが、共通するのは「消費者はいくつかのステップを段階的に経て購入に至る」と考えている点です。つまり、"各段階にいる消費者に、どう働きかけたら次のステップに移行してくれるのか?"と考えています。

ところが、"マーケティング4.0"で「カスタマージャーニーは『らせん状』である」と表現されていたり、Googleもカスタマージャーニーでは説明ができない消費行動を「パルス消費」、パルス消費に至る探索行動を「バタフライ・サーキット」と名付けたりしています。もはや、実際の消費者の行動はカスタマージャーニーモデルの想定するような一本道になっていません。

わかりやすさのために、Google 検索で英会話スクールを探している場面を考えてみましょう。

Google 検索で「英会話」と検索をした→検索結果に表示された見出しと説明を読んで「ここを見てみようかな」と思ったリンクをクリックした→ランディングページの内容を読んで「まぁここでいいかな」と思った→体験授業を申し込んだ。

このような流れを想定するのが従来の一本道のカスタマージャーニーモデルです。
極端な表現をすると、"消費者は、一社だけに向き合って、次に進むかどうかを考えていて、進むか辞めるかの二択しか存在してない"かのような想定です。

ところが実際の消費者の行動は一本道ではなく、何度も行き来をすることもしばしばです。これは、競合に対しても同じことをしているため、一社だけに向き合っているなんてことはありません。ランディングページを読んでいるときもその会社だけに向き合っているのではなく、頭の中には他の会社の存在があり、常に比較されています。

消費者と1対1で向き合って"何を伝えるか"を考えていても効果は限定的で、競合との関係にも思いを致して"何を伝えるか"を考えなければなりませんし、そもそも"伝えて意味がある特徴"がなければどうにもなりません。

理由3:広告ができるのは"選択肢に入れる"ところまで

物が溢れて供給のほうが上回っている現代において、特定の商品が"唯一無二の選択肢"になれる可能性は極めて低いものです。同じセグメントで同じようなポジションを取る商品が他にも必ずあります。

そのため、どんなに広告の運用を効果的にしたとしても、それだけで買われることはありません。広告をきっかけに商品を「なんとなくいいな」と思ってもらえても、同じような候補が他にもあるため「選択肢の中の1つ」にしてもらえるのが関の山です。

この選択肢のことを"エボークト・セット"(『確率思考の戦略論』 森岡毅/今西聖貴著、KADOKAWA)と言ったりします。このエボークト・セットに入らなければ買われることはありませんが、エボークト・セットに入ったからといって買われるとは限りません。

買われるためには、このエボークト・セットから選ばれる必要があります。

商品がすでに有している特徴が消費者に魅力として伝わっていないのなら、広告で伝えることで買われる可能性もあります。が、存在していない魅力を広告によって作り出すことはできませんし、消費者にとってどうでもいい特徴を広告によって魅力にすることはできません。

エボークト・セットの他の商品に対して商品力が劣っている場合、値引きくらいしかできなくなります。

広告で売れるためにも商品の改善が必要

カスタマージャーニーが一本道ではないように、ECのマーケティングも一本道ではありません。

市場調査をした→市場をセグメントした→ポジショニングをした→マーケティング・ミックスを考えて商品を作って価格を決めた→これを広告を使ってどうするのかを考えた

のように、段階的に進行するものではありません。

消費者のエボークト・セットがどうなっていて、そのエボークト・セットで選ばれる可能性を高めるための行動を取り続けなければなりません。

そして、エボークト・セットから選ばれる可能性を高めるためには、エボークト・セットの他の商品と見比べて商品自体を変えていく必要があります。

つまり、マーケティング2.0的に考えて正しいエボークト・セットに入れた上で、そのエボークト・セットで選ばれるようにマーケティング1.0的に商品を改めて考える、マーケティング2.0+1.0的なアプローチが現代のEC事業者には必要であり、一周まわって"良いものを作らないと売れない"時代になっています。

合わせて読みたい

コマースピックLINE公式アカウント

コマースピックメルマガ