
都内に自社工場を2拠点構える武内製薬株式会社(以下、武内製薬)は、2013年の創業から着実に売上を伸ばし、2021年度の年商は14億円を上回りました。特にAmazonや楽天市場などのECモールでの売上が好調です。現在は販路を増やし、ブランドとしての認知を広げることに挑戦しているといいます。自社で化粧品を企画から製造まで行う同社が実績を伸ばすために、どのような取り組みを行っているのかを代表取締役CEOの武内左儒さんに伺いました。
この記事の目次
都内に商品開発の拠点を持つに至った背景
――化粧品を販売している事業者様の中でも、都内に自社の工場を構えている事業者様は非常に少ないかと思います。自社で工場を運営することで生まれる強みについて教えていただけますか?
武内さん:OEMなどで化粧品を作る場合、1から企画をして販売できる状態になるまで、短くても4ヶ月ほど時間がかかります。市場調査をして売れると思った商品であっても、世にお披露目する前に、競合が出てきたり、市場環境が変わったりと、せっかく作った商品が売れなくなってしまう可能性があるのです。加えて、最低ロットとして1,000個からでないと仕入れられないとなると、事業者にとって新商品を開発するリスクが非常に高いものとなってしまうでしょう。
自社で工場を持ち、商品開発を行えることで今お伝えした課題を解決できます。当社では、商品の企画・開発から生産を行うまで3週間で実行可能です。また、まずは100個作って売れ行きを確認しながら生産を強化するかどうか判断することもできます。
原料の調達から生産、商品の販売まで小さなSCM(サプライチェーンマネジメント)を社内で持つことで、マーケティングの機動力が増すのです。

マーケティングを見据えた商品開発のノウハウ
――新商品の企画から生産まで3週間でできるのは圧倒的なスピード感ですね。どのような判断軸で商品開発を行っているのか気になりますが、教えていただけますか。
武内さん:商品開発はマーケットインで行っています。ですが、レッドオーシャンに飛び込むのではなく、日本ではボリュームが小さいものの、韓国やアメリカで盛り上がっているキーワードを探しています。また、既に販売している商品のレビューや流入元のキーワードから顕在化されていない顧客ニーズを見つけることもポイントです。
顧客ニーズがある程度捉えられた段階で、市場にある競合となりえる商品の分析が必要です。このとき、機能や品質、商品価格を比較し、どの要素で差別化するのか探っていきます。そして楽天市場やamazonで販売した場合に、何ヶ月後に黒字になるのか仮説を立てた上で勝負をかけています。
このような流れでスピード感を持って新商品を販売していき、月商100万~300万円ほどのニッチなニーズに応えられる商品を数十から百SKUほどもっている状態です。
市場の変化から転換した販売戦略
――隙間のある市場に対して、小ロットかつスピード感のある自社生産体制がマッチしているように伺えます。もともと今のような販売戦略で新商品を増やしていたのでしょうか?
武内さん:2018年頃までは「メンズゴリラ」というブランドでワックス脱毛だけを販売していました。業界内でトップシェアを持っていたものの、除毛クリームにトレンドが移っていき、ワックス脱毛の市場が小さくなってしまったのです。
新しい打ち手として、モノを作るノウハウもモノを売るノウハウも持ち合わせている強みを活かして、マーケットドリブンで商品を作っては売るサイクルを高速で回していくことにしました。先程お伝えしたマーケットイン型の商品開発になったのは、2019年頃のお話です。
2021年の後半から2022年にかけて、楽天市場やamazonなどのECモールで売上が伸びたブランドを、更に認知拡大するために動いています。一般名詞で検索流入を継続的に取り続けることはこれまでの経験から大変だということがわかっています。ブランド名で指名検索の流入数を増やすことで、継続的にお買い求めいただきやすくなり、結果的にコスト面の負担を減らすことができるでしょう。そのために、今はECモールで出た利益をSNSと実店舗の卸に向けて投資しているのです。

ECから実店舗へ販路を増やす
――数多くの商品を生産・販売するサイクルの中から、人気が出た商品のブランドを強める動きへと変わっているのですね。お客様に商品を直接手に取ってもらう機会として、実店舗の卸はとても重要な動きのように思います。卸の展開について、詳しく教えていただけますか?
武内さん:最初に注力したブランドである「メンズゴリラ」で卸の経験がありました。この頃の経験で問屋さんとのお付き合いのお作法であったり、実店舗で販売する上でのECとの違いだったり、基本的な型について学ぶことが多くありました。
卸を展開する上で、問屋さんとの付き合い方がとても重要だと思います。販路を増やすためにお付き合いする問屋さんを増やせばいいというわけではありません。例えば、販路がバッティングすると、違った問屋から同じ販売店に商品を卸すような流れになってしまうため、問屋さんはモチベーションを上がりづらくなってしまうでしょう。1社1社と深い関係を築いて、当社とお付き合いいただいているからこそご提示できるメリットを提供できるように努めています。
ECとは異なる実店舗の販促方法
――売り方や商品の見せ方を考える上で、ECと実店舗でどのような点に違いがあるのでしょうか?
武内さん:ECと実店舗ではお客様が購入しやすいスウィートプライスが明らかに違います。また、同じ実店舗という販路でもドラッグストアとLOFTや東急ハンズのようなバラエティショップだと売れやすい商品単価が異なります。バラエティショップの場合、1,000~2,000円代の商品の取り扱いが多いため、当社の商品ラインナップとも相性が良く、粗利を取りやすいため問屋さんとも話を進めやすいです。
一方で、ドラッグストアに販売する場合は、ドラッグストア向けの容量やパッケージ、店頭販売価格を専用に用意しています。このとき、転売ヤーを考慮して送料や手数料を含めて粗利が取れないような価格設定にすることも検討事項に含まれています。
店頭用に商品を再設計している事例としては「mamacharm(ママチャーム)」というブランドから子ども用の粉はみがきを出しています。歯磨きの後に口をゆすぐ必要がないため0歳児から使える商品です。ECでは30袋入りを2,980円で販売していますが、店頭では入数を変えて1,000円未満の設計とすべく、現在商品開発をしています。
入数や価格以外にもインターネットと実店舗では売れやすいパッケージのデザインが違います。ECで販売するときに商品ページのコンテンツを充実させるように、実店舗で販売する商品は目立つデザインであったり、POPであったり、手に取ってもらうための工夫をしなければなりません。
今お伝えしたような違いを元に、実店舗用に再設計した商品を資料に落とします。その内容を問屋さんと壁打ちし、良さそうであればすぐに商品化に向けて動く流れになっています。

店頭で商品が取り扱われるための工夫
――今のお話はネット専売でやっていた事業者様が知らずに始めると躓きやすいポイントになりそうですね。卸売の際に問屋さんにどういったポイントを抑えられると良いでしょうか?
武内さん:卸売をするためにはそれなりの実績や他の商品との優位性を明確に出さなければなりません。よく商品POPに楽天市場のランキング実績を付けているケースを見るかと思います。正直な話、カテゴリーランキング1位ではインパクトが弱いため、総合ランキング1位ぐらいの実績がないと問屋さんには刺さりづらいでしょう。
ECモールにおいては、該当する商品が一般名詞で検索されたときにどれくらいの検索順位にいるかといった要素も判断基準に入ります。瞬間的にランキングが上位になっても販売実績が伴わないと検索順位は上になりません。営業の際に問屋さんがその場で検索することもあるので、実際はヒヤヒヤすることもあります(笑)。

武内さん:また、他社商品と比較した際の優位性については、商品開発のときから考えています。同じ棚に並ぶ商品を、価格や容量を始めとした様々な点で比較していま。また、比較した内容を表に落とし込み、自社商品の強みを示しやすく、ひと目で商品の優位性が伝わる工夫は大切です。
――今回のお話でECの実績を持って、実店舗で販売をするための流れについて少し詳しくなれた気がします。最後に武内製薬として伝えたいメッセージがあればお聞かせいただけますか?
武内さん:当社の商品開発はECモールで売れる商品を作るところから始まります。高すぎると売れませんし、品質が悪いとすぐにレビューが悪化します。広告で集客して買っていただく商品では、商品価格に広告費を乗せる必要が出るため単価が上がってしまいます。安くて良い商品を原点としているので、お客様に向き合って一つ一つの声を反映することが大事だと感じています。
これまではモノづくりの筋トレをECモールでしてきました。これからは外にも出ていって、長く続くブランドを育て、お客様に真摯なメーカーになれるように日々頑張っていきたいです。
インタビューを通して:商品力を追求してブランドを育てる
様々なブランドを展開している武内製薬ですが、特に「mamacharm」と「THE PROTEIN」の売上が伸びているようです。Amazonや楽天市場などのECモールでの売上が好調ですが、売り方について最適化はできても、他社と比べて特別変わったことはしていないと武内さんは言います。ECモールで着実に売上を伸ばせているのは、武内製薬が力を入れているマーケットイン型の商品開発が、お客様に受け入れられているからなのではないでしょうか。
Amazonや楽天市場などのECモールは、毎月数千万規模のアクセスを集めていることもあり、他の販路と比べると消費者ニーズに合わせたマーケットイン型の商品が受け入れられやすい傾向にあるといわれています。しかし、一般名詞で検索流入を獲得しているマーケットイン型の商品は既に市場を獲得している大手メーカーの商品と競合になりやすいため、継続的に売上を拡大するのは大変なことだと思います。そこで、ECモール以外に新しい販路を持つために、どのような販売方法でシェアを拡大するのか悩んでいる事業者は多いようです。
今回の取材で卸売りの開拓をするにあたって、価格設定やパッケージのデザインから、問屋とのコミュニケーションの取り方まで幅広く教えていただきました。ぜひ、自社の販路開拓の参考になれば幸いです。
▼「THE PROTEIN」関連リンク
https://lit.link/theprotein
▼「mamacharm」関連リンク
https://lit.link/mamacharm
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