商品コンセプトの創り方 資生堂の人気商品を多数生み出したプロに学ぶ、ヒット商品の要となるコンセプト創りの3つのポイント【セミナー体験レポート】
イベントの概要

外部プロ人材の経験・知見を複数の企業で活用するプロシェアリング事業を運営する株式会社サーキュレーション(以下、サーキュレーション)が、2021年9月22日(水)に、セミナー「商品コンセプトの創り方 資生堂の人気商品を多数生み出したプロに学ぶ、ヒット商品の要となるコンセプト創りの3つのポイント」を開催しました。今回のセミナーでは、他社との差別化を図り、消費者に刺さるための商品コンセプト創りについて、資生堂で数々のヒット商品を生み出した冠典子さんと、サーキュレーションのプロシェアリング本部マネジャー樋口達也さんがお話しくださいました。

【登壇者】
冠 典子さん
資生堂ヒット商品の生みの親、EC市場でも活躍する商品企画開発のプロ

資生堂にビューティーコンサルタントとして入社し、その後、商品開発・マーケティング企画、販売に携わり、ブランドマネージャーとして長期に渡り活動を続ける。その間に「肌水」「ウォーターinリップ」などのヒット商品を開発・育成し、数々の記録を達成。独立し、商品づくりの要となるコンセプト設計力を強みに大手メーカーや通販メーカー、異業種からの新規参入メーカー等、コンサルティング実績多数。現在は、EC市場で活躍するブランドのディレクションも行っている。

【モデレーター】
樋口 達也さん
株式会社サーキュレーション
プロシェアリング本部 マネジャー

商品飽和時代、差別化には技術力強化しか道はないのか?

樋口さん:現在の小売市場は、高品質・低価格の商品が毎日提供されており、商品の品質やコストで差別化を図るのが困難な時代ではないでしょうか。そのなかで大切とされるのが、コンセプト創りです。

樋口さん:コンセプトとは、意図のある制作物をつくる際にベースとなる考え方・構想であり、全てがブレないような一貫した考えです。本日のセミナーでは、「実践を通してご紹介する、他社と差別化し消費者に刺さる商品コンセプト創りのポイント」をテーマとして、冠さんにお話をお伺いしていきます。

商品創りのプロが手掛ける新商品開発の裏側とは?

樋口さん:冠さんはECと店販どちらの支援実績もお持ちですが、コンセプト創りの点で、ECと店舗販売の共通点はありますか?

冠さん:売れる商品を作るという意味で、強いコンセプトが必要なのは同じですね。

商品開発の実績事例 ①:老舗化粧品メーカーの商品開発

樋口さん:この事例に挙げられる企業では、販売商品のラインナップが低価格商品であることがお悩みだったのでしょうか?

冠さん:低価格ではあるものの市民権を得ているブランドをお持ちでした。しかし、長く存続するには心もとないため、第二の柱を作りたいという事例です。ただ、何を作りたいかは真っ白な状態でした。

樋口さん:そこで、冠さんが「国産オーガニック」をコンセプトにしたとのことですが、決めるにあたってどこに着目されましたか?

冠さん:当時は「ナチュラルスキンケア」がカテゴリとして注目されていて、そのなかにオーガニックカテゴリがありました。しかし、そのほとんどが輸入品で構成されていたのです。日本の女性は、スキンケア製品に対して世界でもっとも厳しい選択眼を持っているといわれるほどで、それでは物足りないはずだと考えました。そこに着目して、日本女性をうならせる「国産オーガニック」のスキンケアというコンセプトを創ったのです。

商品開発の実績事例 ②:OEMメーカーの商品開発

樋口さん:OEMというと製造を生業としているイメージですが、ブランドを持ちたいという相談があったのでしょうか?

冠さん:そこまで明確な意思ではなかったのですが、OEMはクライアントの事業運営に左右されやすいので、安定した商売をしたいとお考えでした。あるとき、「これで何かできないだろうか?」と社長から紹介された洗顔料のサンプルを使ってみたところ、独特のテクスチャが印象に残りました。そのテクスチャーを武器に考えたのが、「泥練洗顔」です。

樋口さん:印象的な名前ですよね。商品の中身がコンセプトになったのでしょうか?

冠さん:この事例は、ターゲティングに秘密があります。普通のユーザーではなく、今まで洗顔にこだわって、いろいろな商品を使いつくしてきた、超こだわり層の「洗顔マニア」をターゲットにしています。その層に対して、他の商品と差のつけにくい「洗浄力」ではなく、「独特のテクスチャー」を武器にして商品に落とし込み、かなり高めの価格設定で展開しました。

2つの支援事例に共通すること

樋口さん:2つの支援には、「商品の根幹を担うコンセプト創りに徹底してこだわる」点が共通しています。コンセプトがしっかりしていると、商品や打ち出し方も決まってくるのでしょうか?

冠さん:コンセプト設計は、商品開発においてもっとも重要なプロセスです。良いコンセプトができると、おのずと商品設計はコンセプトに寄っていきます。コンセプトをなんとか具現化しようと訴求力のあるデザインが生まれやすくなる傾向も強いですね。

消費者に選ばれる商品コンセプト創りの3つのポイント

“戦うため” のコンセプトを考える

樋口さん:「戦うため」というのは、かなり強い言葉ですね。

冠さん:戦うレベルまで行っていないと、消費者の心に刺さりません。よくある落とし穴が、コンセプトが商品の成分や機能の話になっていること。それはコンセプトではなく商品特徴です。

樋口さん:それに対して、冠さんはどのようにコンセプトを創られるのでしょうか?

冠さん:コンセプトというのは「他にはない唯一無二の価値」です。商品を少し離れたところから引いて見て、上から下から斜めから、成分や機能以外にもさまざまな視点で商品の魅力になりそうな要素を洗い出します。その洗い出した要素から、キーセンテンスを料理します。

樋口さん:商品の魅力になりそうな部分を探る作業が難しいように思うのですが、冠さんは普段どのようにされていますか?

冠さん:いろいろなことに興味を持つことが大事ですね。商品の中身だけでなく、商品をとりまく環境にも目をやれば、ヒントはたくさんあります。

たとえば、資生堂の「ウォーターinリップ」の事例では、リップクリームの乳化技術に特化した訴求を行いました。当時のリップクリームはべたつき感のある油性タイプのものがほとんどでしたが、乳化技術により軽いつけ心地のリップクリームが実現しました。この乳化技術という言葉を、「ウォーターinリップ」と変換したのがひとつの成功要因だと思います。

また、ターゲットを工夫することでコンセプトに近づけたり、使い方を工夫することでコンセプトに近づけたりするのも、よく行う作業です。

たとえば、単に「子どもを持つお母さん」をターゲットとするより、「一人っ子のお母さん」まで絞ったほうが強いコンセプトができそうです。あるいは、使用シーンとして朝夜ではなく日中、日常ではなく旅行、屋内ではなく屋外と絞りこむことで、秀逸なコンセプトになることがよくあります。こういう工夫をいろいろな角度で行います。

中身情報 “以外” の要素にも着目する

冠さん:商品の中身が良いことはもちろん大事ですが、それが必ずしも強いコンセプトになるとは限りません。そこにばかり注目してしまい、強いコンセプトを生み出す弊害になることもあるので注意が必要です。

また、新しい成分や技術は頻繁には生まれないので、それを待っていてはいつまでも商品開発ができません。そこで、商品の棚卸しだけでなく、自社の環境すべてを棚卸して、市場のニーズとマッチングできる要素はないか探っていくのです。商品の技術や成分だけでなく、たとえば、顧客の特徴、ブランドの評価・強みと弱みなどを、市場のニーズとパズルのように組み合わせていきます。

コンセプトの “引き出し” を豊かにする

樋口さん:コンセプトの引き出しというのは、情報のインプットのようなことでしょうか?

冠さん:インプットも常に大事ですが、すべてをインプットするのは無理です。そこで、いつでもコンセプトを創り出せるようにコンセプト視点の引き出しをたくさん持っておくことが、プランナー視点ではすごく重要です。

そのために、たとえば電車の中吊り広告やビルの看板など、いろいろなものを見るのが癖になっています。ただ、同じ業界にずっといるとありきたりになりがちなので、化粧品はほとんど見ずに、異業種の商品や広告、いろいろな媒体を見て参考にしています。

大きなヒントになった例として、缶コーヒーの「モーニングショット」があります。これは、「朝飲むためのコーヒー」という使用シーンの提案がすばらしいと感じました。これをコンセプトの引き出しに収納しておいて、あるとき、スキンケアのコンセプト創りにおいて、普通は朝夜ケアするものを、日中にスキンケアをすることこそが大事だと提案をして、うまくいったことがあります。

樋口さん:冠さんのクライアントが期待しているのは、そういった、視野を広げたり、新しい気づきをもらったりすることなのかもしれませんね。

冠さん:経営者の方とお話ししていると、「コンセプトワークはセンスですよね?」といわれることがよくあるのですが、「トレーニングです」とお答えしています。スタッフのアイデアに対して、コンセプトワークによる成功体験をたくさん持っている人から、どこをどう深掘れば良いのかヒントをもらうという作業がすごく大事です。

樋口さん:そのトレーニングが「商品企画マラソン」なんですね。

冠さん:商品企画マラソンでは、1週間で1人10案くらいの企画案を出してもらいます。完成度は問わず、考え続けるトレーニングです。企画案を基に、商品開発チームでディスカッションを行い、良いところは伸ばし、足りないところは補います。そして、良さそうな企画案は商品化に向けて完成度を上げていく作業を行います。

樋口さん:実際に使用したワークシートを見ると、かなり細かく記入されていますね。フィードバックが重要なポイントのように思います。

冠さん:ヒントは必ずどこかにあります。それを粘り強く考えることです。商品は子ども、担当者はお母さんのようなものです。お母さんが子どもをどう育てていくかという視点が大事です。そのときに、導いてくれる人がいればベストです。私は、担当者のアイデアをブラッシュアップしたり、ヒントを差し上げたりということを日常的に行っています。

樋口さん:ご支援の際に、普段から気を付けていることはありますか?

冠さん:これまでお話ししたことを踏まえ、そうはいっても企業様ごとに慣習、制約があります。それに寄り添う形で、さらにそのなかから素敵な要素を見つけ、強いコンセプトにしていくのが大事なんじゃないかと思います。

Q&A:参加者からの質問と冠さんの回答まとめ

Q:コンセプトは、トレンドをどこまで追うのが良いですか?
A:トレンドは無視できませんが、トレンドを念頭に置きながら、トレンドにしばられないバランスが重要です。トレンドにしばられると、他社と同じになってしまいます。

Q:コンセプトは、マーケットイン的・プロダクトアウト的どちらの考え方でしょうか?
A:スタートはどちらの場合もあります。ただ、選ぶのは消費者なので、最終的にはマーケットインに着地させる必要があります。

Q:何をもって筋が良いコンセプトと判断しているのですか?
A:秀逸なコンセプトは、強弱はあっても、他にない唯一無二の要素を必ず持ち合わせています。かゆいところに手がとどく、消費者にとってありそうでなかったと感じさせる要素があります。

Q:マーケティング施策のターゲット(ボリューム重視)と、コンセプトのターゲット(尖った人物像)は必ずしも一致しない場合があると思いますが、そのギャップはあっても良いのでしょうか?
A:あっても良いです。私がよくやる方法では、ターゲットを絞れるところまで小さく尖らせます。そうすると、必ず刺さる人がいる。その人たちから強いメッセージが発信されるので、結果的に底辺が広がります。こういう成功事例は多いのではないかと思います。

Q:冠さんは、化粧品以外の支援実績もあるのですか?
A:女性向け消費財を中心に、化粧品以外にもいろいろな支援実績があります。たとえば、着物や宝石、あるいは老舗の加工食品屋さん、飲食業などの支援も行ってきました。化粧品以外の支援は全体の2割くらいです。

Q:コンセプトを因数分解するとどんな要素が揃う必要がありますか?
A:概念的にするのではなく、具体的にするほど強いコンセプトができます。たとえば、40歳女性を想定する場合、「どんな40歳なのか?」「なにをしている40歳なのか?」と具体的に落とし込みます。

Q:今ある商品を、コンセプトを変えることでよみがえらせることはできますか?
A:十分に可能です。実際にそういった支援も行ってきました。

Q:商品の背景となるストーリーづくりはどのタイミングで考えていますか?
A:ケースバイケースですが、商品開発で商品が完成に近づくにつれ、ストーリーづくりを行うケースが多いです。ただし、ストーリーづくりというのは落とし穴で、ストーリーづくりにおぼれてしまうことが結構あります。消費者が使うのはあくまでも商品なので、商品の差別性は必要不可欠です。ただし、今はものが良いだけで売れる時代ではないので、その背景に消費者がわくわくするストーリーがあったほうが望ましいといえます。

Q:今売れている商品をリニューアルするとき、何に気を付けたら良いでしょうか?
A:商品の上り調子が頂点に達する手前でリニューアルすることが大事です。「今、売れているのに本当に良いの?」というときに、思い切ってリニューアルに踏み切る。同時に、マイナーチェンジは毎年行っても多すぎることはありません。

Q:顧客ニーズがあることはわかっていても、市場参入を判断するにはマーケットボリュームも重要だと思います。そのボリュームを見積もる際にはどのような方法で算出されていらっしゃいますか?
A:「兆し」のようなものが重要です。データは過去のものなので、これからどうなるのか、どうしていくのかは別の話になります。過去のデータを読みながら、世の中の環境をさまざまな視点で観察して、化ける可能性のある「兆し」を読みとります。

Q:商品名はどの段階でどのように決めていますか?成功パターンがあれば伺いたいです。
A:商品のコンセプトを決めた直後に決まります。商品名は、コンセプトを消費者に伝える最も重要なポイントの一つです。そのときに、どれだけ言葉の引き出しをもっているかが重要です。自分ですべて考えることもありますが、コピーライターにアイデアを出してもらい、その言葉の引き出しを借りて、最終的な商品名を作ることもあります。

セミナーに参加して:コンセプト創りは実践し続けることが重要

冠さんのコンセプト創りで印象的だったのが、とにかく、商品をとりまくあらゆるもの、日頃の生活で目に入るあらゆるものをいろいろな角度で見る、ということです。見方が変わることで、すでにあった商品がはるかに魅力的になったり、競争の激しい市場に新たな売れる道を見つけたりすることができます。

冠さんのような視点をすぐに身につけることは難しいですが、まずは、今まで何気なく見過ごしていたものをあらゆる角度から見るようにする習慣をつけることが、コンセプト創りの第一歩ではないかと感じました。

今回のセミナーでは、多くの事例を基にお話が進みました。また、コンセプト創りは「トレーニング」という冠さんの言葉にも表れているように、コンセプト創りのポイントは、数字や言葉で理解するよりも、実践して身に着けていく面が強いようにも感じました。その際に、成功したコンセプトの経験を持つ人からのアドバイスがあることが、コンセプト創りの嗅覚のようなものを早く身に着けるために重要だとも感じます。

株式会社サーキュレーションが運営するプロシェアリング事業は、こうした外部プロ人材の経験・知見を複数の企業でシェアし、あらゆる経営課題を解決する新しい人材活用モデルです。雇用でも派遣でもなく、プロジェクト単位で外部の専門性の高い「プロ人材」の知見・経験を活用できるので、外部アドバイザリーを必要とする場合は、活用を検討してみてもいいのではないでしょうか。

今回の他にも、サーキュレーションでは月4〜8本のプロ人材とのウェビナーを実施しています。興味のある方はチェックしてもいいかもしれません。

▼「プロシェアリング」について
https://circu.co.jp/service/

▼ サーキュレーションのウェビナー情報
https://circu.co.jp/pro-sharing/seminar/

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