
2025年のEC・ネット通販業界では、市場環境やルール、テクノロジーを取り巻く動きが相次ぎ、事業の前提条件そのものが変わり始めた一年となりました。個別のニュースを追っていると見えにくくなりがちですが、年末という節目で振り返ってみると、業界全体として共通する変化の流れが浮かび上がってきます。
本記事では、2025年のEC業界を俯瞰するうえで押さえておきたいニュースを整理しました。各トピックを深掘りするのではなく、「この一年で何が起きたのか」「どんな前提が変わったのか」を振り返ることを目的としています。
年末年始のタイミングでの情報整理や、今後の判断・情報収集の起点としてご活用いただければ幸いです。
この記事の目次
BtoC-EC市場は約26兆円規模に拡大、成長率は鈍化傾向に
2025年を振り返るうえで、まず確認しておきたいのが国内BtoC-EC市場全体の動きです。
経済産業省の調査によると、2024年の国内BtoC-EC市場規模は約26兆円となり、前年から拡大しました。一方で、成長率は約5%増にとどまり、2023年の約9%増と比べると、成長スピードは明確に鈍化しています。
BtoC-ECのEC化率は約9.8%と上昇基調を維持しているものの、依然として1割には届いておらず、市場は拡大と停滞が同時に進む局面にあります。市場の中心である物販系ECは約15兆円規模まで成長しましたが、こちらも前年を下回る伸び率となりました。規模は大きくなり続けている一方で、高成長を前提とした事業運営が難しくなりつつある状況が浮き彫りになっています。
アパレルEC事業者の倒産が相次ぐ
物販系ECの成長率が鈍化する中、2025年はアパレルECを中心に、事業撤退や倒産といった動きが相次ぎました。
2025年には、レディースアパレルEC「イーザッカマニアストアーズ」を運営していた有限会社ズーティーが自己破産を申請しています。同社はECモールを中心に長年事業を展開し、複数回の受賞歴を持つなど一定の実績を築いてきた事業者でしたが、物流トラブルや円安の影響、資金繰りの悪化が重なり、事業継続が困難となりました。
このほかにも、ナチュラル系アパレルブランド「HAPTIC」を展開していた井上通商株式会社や、メンズカジュアルブランド「ZIP FIVE」を手がけていた株式会社ブリックスなど、ECモールを主な販路としてきたアパレル事業者の破産が続いています。
各社に共通するのは、一定の売上規模や実績を持ちながらも、原価上昇や物流負担の増加といった外部環境の変化に対し、収益構造の転換が難しくなっていた点です。市場規模が拡大する一方で、利益を確保し続けることの難しさが、具体的な事例として表れた一年だったといえるでしょう。
規制・コンプライアンス対応の重要性が高まる
市場の成長が鈍化し、事業運営の持続性が問われる中で、表示ルールや広告表現といったコンプライアンス対応も、改めて注目される一年となりました。消費者庁による措置命令が出された事例を通じて、日常的に行われてきた施策が、法令上の観点から問題と判断されるケースが明確になっています。
3月には、ロート製薬がInstagram投稿を活用した広告表示をめぐり、ステルスマーケティング規制違反として措置命令を受けました。モニター投稿を広告素材として使用する際に、広告であることが明確に示されていなかった点が問題とされています。
また9月には、ジャパネットたかたが実施したおせち商品の「早期予約キャンペーン」における価格表示をめぐり、景品表示法違反として措置命令を受けました。通常価格と値引き表示の扱いが、消費者に有利な取引条件であると誤認させるおそれがあると判断されています。
これらの事例から、広告であるかどうかの明示や価格表示の妥当性といった基本的な運営ルールが、EC事業者にとってこれまで以上に厳密に問われる局面に入っていることがうかがえます。
サイバー攻撃が事業継続リスクとして顕在化
2025年は、規制対応に加えて、サイバー攻撃が事業継続に直結するリスクとして広く認識されるようになった年でもありました。9月以降、アサヒとアスクルが相次いでランサムウェア攻撃を受け、受注や出荷といった中核業務に影響が生じています。
アサヒでは、国内グループ会社の基幹システムに障害が発生し、受注・出荷・在庫管理などの業務が一時的に停止しました。一方、アスクルでは、法人向け・個人向けを含む主要ECサービスで受注・出荷が停止し、物流機能にも影響が及びました。また、問い合わせ情報や取引先情報などの一部データについて、情報流出が確認され、公表されています。
これらの事例は、サイバー攻撃が単なるITトラブルではなく、受注や物流といった事業の根幹に直接影響を及ぼすリスクであることを示しています。
AIが検索・購買行動の「入口」を変え始めた
規制やセキュリティ対応など、EC事業を取り巻く環境が厳しさを増す一方で、ユーザーの情報収集や購買行動の起点にも変化が見え始めています。2025年は、生成AIが検索や商品選びに関与する動きが表面化した年でした。
Google検索では「AI Overviews(AIによる要約表示)」が日本でも本格的に導入され、検索結果ページの構造が変化。複数の調査からは、自然検索の流入やクリック率(CTR)が低下する傾向が確認されており、従来のSEOや検索広告に依存した集客モデルに影響が出始めています。一方で、流入減少が直ちに売上減少へ結びついているわけではなく、多くの企業が対応を模索している段階にあります。
あわせて、商品探索の起点として生成AIを活用する消費者も徐々に増えています。若年層を中心に「AIに相談して商品を比較・検討する」という行動が広がりつつあり、検索エンジンだけでなく、AIとの対話が意思決定に関与する場面が増えているのです。
こうした流れを象徴する動きとして、OpenAIはStripeと共同で、ChatGPT上で商品検索から決済までを完結できる「Agentic Commerce(エージェンティック・コマース)」の仕組みを発表しました。米国ではEtsyが導入を開始し、Shopifyも対応を予定するなど、AIが購買を仲介するモデルが実際の商流に組み込まれ始めています。
2025年は、「どこで情報を得るのか」「どこで選ばれるのか」といった購買の入口そのものが、検索エンジン中心の構造から変わり始めた年だったといえるでしょう。
外資プラットフォームが購買導線を押さえに動く
AIによって検索や商品選びの起点が変わり始める中、外資系プラットフォーム各社も、購買導線を自社のサービス内に取り込む動きを強めています。2025年は、その動きが国内でも具体的に表面化した年でした。
- Amazon:日常の買い物体験に「ふるさと納税」を統合
Amazonの動きで特筆すべきは、新たに「ふるさと納税」へ参入した点です。これまで専用のポータルサイトで行うのが一般的だった手続きを、Amazonでの普段の買い物と同じフローの中に組み込みました。巨大な既存ユーザー基盤を活かし、日常的な購買体験の延長線上で納税まで完結させられる導線づくりが進められています。 - Temu & TikTok:日本市場への食い込みを本格化
海外発のマーケットプレイスによる、日本の事業者(セラー)を取り込む動きも明確になりました。Temuは日本での事業者招致を本格化させると同時に、Shopifyとの連携を強化。Shopifyを利用している事業者であれば、商品登録や在庫管理の手間をかけずにTemuへ出品できる環境を整え、サプライチェーンの開拓を急いでいます。
また、TikTokは6月に「TikTok Shop」を日本でローンチしました。動画を見て気になった商品をそのままアプリ内で購入できる仕組みが整備され、コンテンツ消費と購買を直結させるモデルがいよいよ国内でも動き始めています。 - Shopify:サイト構築ツールから「事業運営のOS」へ
Shopifyは、ECサイトの構築にとどまらず、販売や決済、在庫管理、運営改善までを含めて、事業運営全体を支えるコマース基盤として機能拡張を進めています。2025年は、大型アップデートを通じてAI活用や業務支援機能を拡充し、外部サービスとの連携も含めた基盤整備が進みました。
これらの動きに共通するのは、単なる集客や販売機能の提供にとどまらず、「どこで見つけ、どこで購入が完結するのか」という購買導線そのものを押さえにいく姿勢です。2025年は、外資プラットフォーム各社が、それぞれの強みを活かしながら、日本市場における購買の接点を広げた一年となりました。
2025年の動きを俯瞰して
2025年は、ECやコマースを支えてきた前提条件が、複数のレイヤーで同時に動いた一年でした。市場環境、テクノロジー、ルール、そして事業運営の基盤が、それぞれ別の角度から変化しています。
購買の起点では、検索結果やECサイトだけでなく、生成AIやチャットを介した情報取得が現実的な選択肢となり始めました。あわせて、外資系プラットフォーム各社は、集客や販売の場にとどまらず、決済や購買導線、運営基盤といった領域への関与を広げています。
一方で、国内では物販系ECを中心に、事業継続の難しさがより明確になりました。収益構造の弱さや外部環境の変化への耐性に加え、システム障害やサイバー攻撃といったリスクが、事業そのものに直結する形で顕在化しています。
個々の施策やトピックを見ると断片的に映りますが、全体を俯瞰すると、「どこで顧客と接点を持ち、どの基盤の上で事業を運営しているか」という構造的な選択が、これまで以上に重要になりつつあることが読み取れます。
2025年も、コマースピックをご覧いただきありがとうございました。本記事が一年の振り返りと、来年に向けた整理の一助となれば幸いです。なお、本年の更新は本日が最終日となります。 新年は1月5日より再開いたします。皆様、よいお年をお迎えください。
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