
現代のスキンケアをはじめとするビューティー市場では、単なる製品の提供にとどまらず、顧客体験(CX)を重視したアプローチが求められています。消費者は、製品の効果だけでなく、ブランドとの関わりや購入体験にも高い期待を寄せているのです。成分や配合が注目されがちですが、商品とブランドが伝える「情緒的価値」が高まっています。
そこで、「スキンケアブランドにおける商品開発と顧客体験」をテーマに、事業戦略・商品企画を支援するコンサルタントとして活動する松崎淳さんにお話を伺いました。専門家ならではの貴重な視点をお楽しみください。
商品開発は事業設計とターゲット設定
――スキンケアをはじめとするビューティー市場は、競争の激しいマーケットです。まずは、ビジネスや事業として商品開発を行う前に整理すべきポイントについて教えていただけますか?
松崎さん:商品開発の前に整理すべきことは、まず事業として目指すべきゴール(売上や利益)を明確にすることです。そして、事業を通じて実現したいビジョン、つまり「どのような世界を目指すのか」「誰をどのように幸せにしたいか」を具体的に描くことが重要です。その上で、ターゲット(オーディエンス)を定め、4P(プロダクト・プライス・プレイス・プロモーション)を整理していく流れになります。
――成功物語はよく耳にしますが、実際には再現性が乏しいことが多いです。また、競合他社の模倣は避けたいところ。コンテンツマーケティングにおけるギャップや弱点を利用して、ブランドの差別化を図ることが重要だと思っています。よくある失敗例について教えていただけますか?
松崎さん:よく見られる失敗例としては、事業設計とターゲット設定に問題があるケースが挙げられます。事業設計においては、売上や利益の計画はあるものの、事業を通じて実現したいビジョンが不明確なため、消費者の心に響く要素が不足している場合があります。また、メインチャネルが定まらず、プロダクトとプライスが適切に設計されていないケースも見受けられるでしょう。
ターゲット設定では、ペルソナを描く際に、企業やブランド側の都合で「実在しない人物像」を作り上げてしまうことがあります。仮にその人物像が存在したとしても、本当にその人が抱える「悩み」や「ニーズ」を正しく捉えられているか、改めて考える必要があるでしょう。「誰の」「どのようなニーズ」を満たし、「どんな悩み」を解決するのかを徹底的に追及することが重要です。
また、実際にインタビューやアンケート調査を行わず、想像でペルソナを作ると、現実から乖離したマーケットを設定してしまうリスクがあります。精度を高めるためには、データ分析だけではなく、実際に消費者の声を聞き、それをもとに4Pを見直すことは欠かせません。例えば、Amazonで販売したいと考えても、そのターゲット層がAmazonを利用していなければ意味がないのです。
情緒的価値を意識した商品開発
――ビジョンが不明確で消費者の心に訴えるものがないというお話がありましたが、ビジネスはPLG(Product Led Growth:製造主導の成長)を目指すべきだと考えています。一方で、昨今のSLG(Sales Led Growth:セールス主導の成長)に依存する手法、例えばパフォーマンスマーケティングや顧客を獲物と捉えるようなCRMなどは、顧客体験として問題があることを消費者も徐々に感じています。商品を重要な資産であり、ブランドの顔として、消費者にその価値を正しく伝え、理解を深めてもらうためには、どのようなアプローチが効果的でしょうか?
松崎さん:情緒的価値を考えることが大切です。これだけ多くのブランドが存在する中で、「なぜ自社の商品を選んでくれるのか」をしっかりと考える必要があります。そのためには、ビジョンとターゲットを明確に定めなければなりません。ブランドや商品を使用した後、使い続けた後に、消費者はどんな気持ちになるのか。それを言語化して商品開発の軸に据えることが求められます。この軸は、デザインや包材、成分、使用感を決める際の指針にもなるでしょう。
こうした設計は非常にタフな作業ですが、これを怠ると商品がコモディティ化し、価格競争に巻き込まれ、十分な資本がなければ立ちいかなくなる可能性があります。流行りの成分を取り入れることも重要ではありますが、プロダクトアウトにならないよう、徹底して情緒的価値を深堀りし、これ自体を差別化ポイントとすることが鍵です。
ここでの設計は、広告やLP、CRMといったあらゆる場面で力を発揮します。一方で、この部分が欠けていると、発信する内容が薄くなったり、シンプルすぎるクリエイティブに終始してしまったりと、後悔する結果になりかねないでしょう。
Part2へ続く
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