foufouが守り続ける理念と、旗艦店で見えたリアルの力。EC発ブランドが感じた変化とは
インタビューの概要

2016年のブランド立ち上げ以来、独自の世界観と着る人の生活に寄り添う服作りで支持を集めてきた「foufou(フーフー)」。「ブランドの成長とともに自分が表現したいことがこの場所に収まりきらなくなったこと」を理由に祐天寺の7坪ほどのショップを閉じてから1年と経たずに、千駄ヶ谷に新たな旗艦店をオープンしました。

今回は、foufouの代表兼デザイナーのマール・コウサカさん(以下、マールさん)にブランドのこれまでとこれから、ECとリアルの関係性などについて伺います。

変わらないブランドの芯と、絶えず変わるHow

――2016年のブランド立ち上げから現在まで、変わらずに大切にしている「芯」と、時間の中で変化してきた考え方があれば教えてください。

マールさん:ずっと変わらないのは「すこやかな服」という考え方です。2020年にこのタイトルで本を出しましたが、もともとブランドコンセプトとして“健康的な消費のために”というテーマを掲げています。お客様はもちろん、取引先の方々や、今で言えば親会社の方々まで、関わる人すべてが不安なく、お洋服を心から楽しめる。そんなブランドでありたいという想いは、立ち上げ当初からまったく変わっていません。

一方で、変わったのは「どうやって」その理想を実現するか、という部分です。僕は最初、ひとりでハンドメイドからブランドを始めました。製造も販売もすべて自分でやっていました。それが今は従業員がいて、アルバイトのセールススタッフもいる。製造も自分の手から工場に、さらにOEMの商社を通じて海外で作るケースもあります。

つまり、Why(なぜやるか)は変わらず、How(どうやるか)だけが大きく変わりました。でもその「How」を変えるのは、やっぱり“すこやかな服”という理念を守るためなんですよね。

代表兼デザイナーのマール・コウサカさん

マールさん:日本の縫製工場って今、本当に厳しい状況にあります。経営だけでなく、職人さんの高齢化や人手不足、実習制度の法改正なども影響して、生産の現場が大変だと聞いています。納期が遅れたり、生産の見通しが立たなかったり。そうした中で何かを判断するとき、いつも立ち返るのは「誰にとって健やかか」という問いです。

お客様、従業員、工場、それぞれの健やかさが同時に成立することは簡単じゃない。でも、考え抜いて選んだ判断と、考えずに選んだ判断ではまったく違う結果になると思っていて。だからこそ、よく考えることを大切にしています。変わらない“芯”のために、変わる“手段”を選び続けている、それが今のfoufouだと思います。

旗艦店のオープンは顧客の変化への対応

――祐天寺のお店を閉じるとき「表現が収まりきらなくなった」と感じたと発信していました。祐天寺のお店を閉じてから千駄ヶ谷に旗艦店を開くに至るまでのプロセスを教えてください。

マールさん:お店のオープンって、ひとつの“点”でしかなくて。もう少し引いて見ると、2023年にクラシコムにグループジョインしてからの約1年間が大きな流れだったと思います。

社内の体制を整えながらも、マーケティングの実験もいろいろ始めました。風をどう吹かせるか、そんな感覚で、小さな施策を試していくうちに、Instagramのリール動画が当たり始めて、フォロワーがぐっと伸びていったんです。その頃から、お客様の層が変わり始めたのを肌で感じました。

祐天寺に構えていた店舗

マールさん:祐天寺のお店は“ご予約制のブティック”という形で、カウンター越しに1対1で接客するような、かなり濃密なスタイルだったんです。ある意味ではサブカルチャー的で、すごくニッチなやり方。でも、新しく入ってくるお客様たちはInstagramのブランドアカウントを見てfoufouを知る人たちで、もう少し幅広い感性や目的を持っていました。そこで初めて、「この小さなお店ではもう、求められている体験を届けきれない」と思ったんです。

ちょうどそのタイミングで、今の千駄ヶ谷(北参道エリア)の物件と出会いました。最初に内見したときは「広すぎるかな」と思いましたが、当時の環境を考えたらちょうどよくて。風向きも、お客様の変化も、すべてが自然に噛み合った感じでした。「ここなら、次のfoufouが表現できる」と確信したのが出店の決め手ですね。

EC発のアパレルブランドが旗艦店を持つこととは

店舗づくりで意識したポイント

――空間づくり、見せ方、接客などで「特に意識したこと」があれば教えてください。

店内は外観からは想像がつかない広さになっている

マールさん:まず、ブランドを作るうえでどこまで“やらないか”を決めることが、一番大事だと思っています。世界観による没入感が強すぎると、一度で満足してしまう。むしろ「また来たい」「次も見に行こう」と思ってもらえる軽やかさのほうが大事だと思いました。

服をかける什器は特注品

マールさん:主役はあくまで“お洋服”です。内装も、照明も、什器も、すべて服を一番きれいに見せるために設計しています。たとえばワンピースは丈が長くてボリュームも多いので、普通の細いラックでは服が貧相に見えます。そこで木の太いハンガーラックをオリジナルで作って、重厚感を持たせました。制服も白いブラウスと黒のワンピースで統一して、空間の印象をモノトーンにまとめています。

接客も、同じ発想です。トーンを抑えて、シンプルに。声のトーンや言葉遣いも、「いらっしゃいませ〜!」と明るくするより、落ち着いたテンポで自然に話すようにしています。結果として「いい買い物ができたな」「また行きたいな」と感じてもらえるほうが健やかだし、長い目で見てブランドにとっても良いと思うからです。

顧客との対話が社内に与えた変化

――旗艦店のオープンで、制作プロセスやチームのあり方に変化は起きましたか?

マールさん:変わりましたね。僕自身、オープン直後は週末ほとんど店頭に立っているんですけど、そこで直接お客様と話すことで得られる実感は大きいです。ポップアップのときもお客様と接してはいたけれど、あれは“旅”のようなもので、どこか非日常なんですよ。大阪や福岡に行って「こんなところにもfoufouの服を着てくれている人がいるんだ」と感動して帰る。でも、千駄ヶ谷の店は日常の延長線上にあります。だから、お客様の声が自分の生活の一部として入ってくる感覚があるんです。

最近は、僕より上の世代の方が来てくれることも増えました。「年齢を重ねて以前は着ていた服が着づらくなった」「でも本当はこういう服が着たい」そういう声を直接聞く機会がすごく増えたんです。SNSでもレビューは見ますけど、やっぱり“会って話す”のとは全然違う。お客様に「これは着ることが難しい」と言われると、頭の中で「じゃあXで言っていたあの人も、こういうことだったのか」とつながっていく。そういうリアルな情報が、自分の中にどんどん蓄積されていく感覚がありますね。

――SNSでのコメントやレビューよりも、直接のフィードバックのほうが強く心に残るのでしょうか?

マールさん:圧倒的に強いです。もちろんSNSの声も全部見ていますけど、やっぱり店頭で言われると、もう“グンッ”と刺さる感覚があります。しかも、みんな本気で言ってくれるんですよね。寂しそうに「着たかったのに…」って言われると、申し訳ない気持ちにもなるし、何とかしたいという思いも湧いてきます。ただ、すべてを解決することはできません。そこは感情と経営のバランスを考えながら判断しています。

あと、店頭での声はチームにもすぐ共有します。「こういう要望が多かった」と伝えると、次のシーズンにすぐ反映されることもしばしばです。foufouの制作って、意外とフレキシブルなんです。だからこそ、お店があることでクリエイティブの循環が早くなった気がしますね。

編集権を手放さない姿勢と、ファンとの距離の取り方

店頭スタッフはfoufouの世界観を顧客とともに楽しむパートナー

――チームのあり方にも変化はありましたか?

マールさん:お店のスタッフさんは、実はほとんどが“お客様”なんです。SNSで募集して、副業で関わってくれている方が多いです。本業を別に持ちながら、週1〜2日だけ店頭に立つとか。中には平日は週5で働いていて、土曜だけ来てくれる方もいます。そういう人たちはfoufouの服が好きで、働きながら「何を買おうかな」と思って立ってくれています。だから、お客様との会話も“相談”に近い。お互いに服のことを話しながら接客している感じですね。

スタッフだけが着られるオリジナルの制服を纏う

マールさん:もちろん副業ゆえの難しさもあります。管理のコストは上がるし、コミットメントの深さも人それぞれ。でも、スタッフさんは「ここが息抜きの場所です」と言ってくれるんです。副業で関わっているからこそ、楽しんで働ける。それがそのままお客様にも伝わるんですよ。スタッフが楽しそうだと、自然と空気が良くなる。だから、そこは大事にしています。

ファンを惹き込むブランドづくりの考え方

――ある種のファンとも言えるお客様をスタッフにするのは距離感が難しいのではないでしょうか?

マールさん:店舗を持ったことで、お客様との関係も少しずつ変わってきていると思います。ただ、「店舗だから特別に変わった」というよりは、ここが“表現のひとつの場”として加わった感覚に近いです。ブランド全体で見たとき、変わらないのは「編集権はブランド側にある」という考え方です。

foufouのオンラインストアには、レビュー欄がありません。お客様に編集権を渡さない、これは元々お客様からスタッフになっていただいた店頭に立つ方たちも同様です。ブランドの美意識はこちらが責任を持って提示します。今の時代には少し逆行しているかもしれませんが、僕はそれをすごく大切にしています。

ブランドって「これが僕らの美しさです。どう思いますか?」と世界に問い続けるものだと思うんです。お客様と一緒に編集していくものではない。だからこそ、レビューを載せず、ブランドの語り口で表現しています。

foufouが向かうこれから

――ブランドとして、これからどんな方向へ進みたいと考えていますか?

マールさん:foufouは、僕ひとりでハンドメイドから始まって、いまは会社として多くの人が関わるブランドになりました。だけど、やっていることの根っこは変わらなくて、観察し、占いのように風向きを読みながら進むブランドなんです。

僕はよく、ブランドづくりを“占い”にたとえます。デザインも、経営も、どちらも「こうなるかもしれない」という予兆を読み取ることの連続なんですよ。昔はその“予兆”をそのまま服にしていましたが、いまはチームと一緒にカードをめくるような感覚で進めています。

マールさん:会社になってからは、ロジカルな部分もすごく強化しました。クラシコムが親会社ということもあり、予算管理や在庫管理はものすごく緻密です。たとえば「いつ発注して、いつ入荷して、期末に在庫がどれくらい残るか」まで細かくシートで管理していて、発注単位・消化率・回転率をすべて数値で把握しています。でも、その“根拠”のスタート地点はやっぱり占いみたいなもの。僕がしているのは予想で、社内の責任者が予測をする。その両方が混ざり合って、foufouというブランドのバランスを作っていると思います。

資本主義と折り合いをつけながら、どう“健やかに”生きていくか。それが僕自身のテーマでもあります。数字や仕組みをきちんと整えるのは、感覚的なものを守るためとも言えるかもしれないです。クリエイティブを持続させるために、経営をロジカルに整える。そのバランスを取ることこそ、いまのfoufouの在り方だと思っています。

僕はもともと“社会と関わるのが得意ではない”タイプだったけれど、foufouを通して関係を築けるようになったと思います。だからこそ、ブランドも人も、無理せず長く続けられる形をつくっていきたいですね。

■foufou ECサイト
https://the-museum-foufou.com

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