
株式会社ビッグウイング(以下、BIGWING)は、キャンプ用品を中心に幅広くアウトドアブランドを手掛ける会社です。海外ブランドの輸入販売から、現在は「asobito(アソビト)」という自社ブランドも展開。また、これまで卸売がメインでしたが、自社ECサイトで直販にも力をいれています。その過程で、広告運用にまとまった投資をしたにも関わらず、思うような成果が出ない失敗もありました。しかし、その失敗を糧に自社ECサイト限定商品を生み出すなど、課題を成果に変えています。具体的にどのように自社ECサイトを強化して、自社ブランド商品を展開していったのか、BIGWINGの斉藤正賢さんに伺いました。
この記事の目次
「防水帆布」商品の開発をきっかけに自社ブランド、自社ECサイトを展開
――もともと海外ブランドの輸入販売を主に行っていたBIGWINGが、自社ブランド「asobito(アソビト)」を立ち上げるに至った背景を教えてください。
斉藤さん:「asobito(アソビト)」の始まりとなったのが、当時、キャンプで流行っていた「ダッチオーブン」を収納するケースです。ダッチオーブンは重さがあり、しかも焚火にかけるので煤(すす)で汚れるにも関わらず、適した収納ケースがありませんでした。そのことを大手アウトドアショップさんから相談され、弊社が開発に取り組むことになったのです。
開発のなかで、まず、重さにも汚れにも強い素材として帆布を選びました。また、キャンプで雨に降られても大丈夫なように、蝋をしみこませて撥水効果をもたせています。
この商品はおかげさまで多くの方に購入いただき、そこから「防水帆布」として商品のバリエーションを増やしていきました。

――輸入ブランドと自社ブランドの両輪で事業を行うなかで、それぞれの立ち位置や棲み分けはどのように考えられていますか?
斉藤さん:棲み分けはとくに意識していません。輸入ブランドでも自社ブランドでも、分け隔てなくブランドの良さを伝えるのが私たちの仕事だと考えています。各ブランドで商品の特徴や強みが異なるので、お客様に合わせて提案しています。また、輸入ブランドは弊社が日本の総代理店として扱っているものがほとんどなので、国内では自分たちがブランドの代表だという気持ちです。
――自社ECサイトを立ち上げたのはどのタイミングですか?
斉藤さん:自社ECサイトの立ち上げは5~6年前です。弊社はもともと卸を中心としており、それは今も変わりません。ビジネスパートナーへの配慮もあり、最初は会社として自社ECサイトでの販売に積極的ではありませんでした。しかし、私が入社したころから自社ECサイトにも注力していこうという流れになります。
自分たちでコントロールできる幅が広い自社ECサイトも販路として育てていったほうがいいと考えたからです。また、扱うブランドについて詳細な情報を発信できるというのもあります。小売店様は多種多様なブランドを扱っているので、どうしても一つひとつの情報が薄くなってしまいます。ブランドについて知りたい方に正しい情報を伝えていくという点でも、自社ECサイトの強化が必要でした。
自社ECサイト強化のための課題と広告での失敗
――自社ECサイト強化のために、何が課題でしたか?
斉藤さん:まず、BIGWINGという会社の名前があまり知られていませんでした。弊社が扱うブランドを知っていても、それをどこの会社が扱っているかというのは、買い物をするときに気にしない方が多いと思います。また、アウトドア用品を扱うサイトはAmazonを筆頭に大型サイトや歴史のあるサイトが多いため、短期で成長させるためにはSEOのみで対抗する施策も現実的ではないでしょう。
私が入社した時点では自社ECサイトでは、会員登録をせずにゲスト購入ができる設計にしていたのですが、会員登録は必須に変更しました。当社は直営店も持たないため、購入者リストもなく、一度購入した方にリピートしていただくためのアクションも取れていませんでした。
そういった状況であるため、自社ECサイトで購入いただくためには、ある程度まとまった広告投資をしてサイトに訪れる方を増やすしかないと考え、広告運用を開始しました。
――運用はどのような体制で行いましたか?
斉藤さん:広告代理店さんに入ってもらいましたが、なかなか良い結果が出ませんでした。前職(自然派化粧品ブランドのEC運営)でも広告運用を行っていたので、そこでうまくいったやり方を踏襲するなど、いろいろと試行錯誤しましたが、結局うまくいかずに、1年が経ってしまった感じです。
――うまくいかない原因はなんだったのでしょうか?
斉藤さん:お客様にとっては、弊社の自社ECサイトで購入する理由が弱いのだと気づきました。扱っている商品は、Amazonやほかの小売店でも買えるものでしたし、即日配送やポイント還元などもありませんでした。
だから、広告代理店さんよりも弊社に問題があったという反省が大きいです。広告の戦略や打つ手立ては間違っていなくて、弊社のサイトの問題だったのです。
自社ECサイト限定商品で「買う理由」を作る
――お客様が自社ECサイトで買う理由を作るために、どのようなことをしましたか?
斉藤さん:自社ECサイト限定商品を展開しました。そのきっかけになったのが、「戦闘飯盒(はんごう)ケース」のヒットです。
当時、キャンプをする人たちの間で「戦闘飯盒」がちょっとしたブームになっていました。熱狂的なファンはいるものの、ライトな層は知らないという感じで、私もキャンプが大好きなので、戦闘飯盒を自分で買って、いろいろと使っていました。
そんななか、戦闘飯盒の自分が欲しいと思えるケースをどこも作っていなかったので、作りたいなと思っていたところ、ちょうど弊社の企画部隊がその原型となる商品を出してきたのです。そして、これを自社ECサイト限定で販売しようと決めます。
当時、ブームになっているとはいえ、アウトドア専門の大手企業では戦闘飯盒をまだ扱っておらず、地域のセレクト系の店舗で売っている感じでした。戦闘飯盒本体が棚に並んでいないのに、戦闘飯盒ケースだけが棚に並ぶことはありません。そのため、粗利の確保と売価のコントロールが行いやすい自社ECサイト専用で販売したほうがいいと考えたのです。

斉藤さん:もちろんリスクもありました。自社ECサイト限定にしてしまうと、自社だけで在庫をすべて売らなければなりません。まだまだ動き出したばかりのサイトとしては大きなチャレンジです。
結果として、本当にたくさんの人に買っていただき、そこから自社ECサイト限定商品に力を入れるようになりました。おかげさまで売上も上がっていて、自社ECサイト限定商品が売上の上位を占めている状態です。
――自社ECサイト限定商品の露出はどのように行いましたか?
斉藤さん:あらゆる手段を試したので、直接的にどれが効いたのかわかりにくいのですが、広告に関してはクリック課金型の広告のみでしたが、出したらすぐに売れました。競合がいなかったのも良かったと思いますが、結局はモノが一番大切だなということをすごく感じましたね。改めて、オリジナル商品って大事だなと思いました。
また、オリジナル商品を開発して、自分がほしい思う商品をたくさんの人が買ってくれるって、とても嬉しいです。自分の悩みとか、不便なことを解決した商品を作って、それにお金を出してもらえるって、こんなにやりがいのあることはないですよね。
アウトドア好きを活かしながら、こだわりすぎない商品開発
――斉藤さん自身がアウトドア好きということで、商品開発においてその経験が特に役立った部分はありますか?

斉藤さん:基本的に私はミーハーです。キャンプから入って、今はロングトレイルハイキングや、パックラフトという湖や川でのアウトドアにも興味があります。
ミーハーな人が開発をすると何が良いかというと、お客様と同じタイミングで、興味・関心・悩みを持てることです。そのため、そのときに自分がほしい商品を作ると、ちょうど良いタイミングで商品をリリースすることができます。ある意味自分がペルソナなので、ユーザーを調査してから商品開発をするより、タイミングが2、3歩早くなります。
――逆に苦労した点はあるでしょうか?
斉藤さん:それがあまりないんです。アウトドアが好きだからこそ、商品開発においてこだわりはありますが、こだわりすぎると市場はどんどんせまくなっていきます。適切な利益を残してブランドを運営していくには、ある程度の市場規模が必要です。
こだわりすぎて商品の売価が上がり、買う人が減るくらいなら、こだわりはある程度捨て、適切な売価でたくさんの人に届けるほうが現在の当社にはあっています。
もちろん、コアの部分は絶対に残します。工場とコミュニケーションをとるメンバーへは、ここだけは妥協しないでほしいという点は全部伝えています。
また、先に売価を決めているのもポイントの1つです。ある意味自分が一番のユーザーなので、いくらなら自分が買うかを考えます。なので、苦労というと自分の感覚が本当に合っているのかたまに不安になるのを打ち消すくらいですかね。
LINE公式アカウントの効果的な活用法
――LINE公式アカウントも積極的に運営されていますが、きっかけは何だったのでしょうか?
斉藤さん:弊社は卸が中心なので、エンドユーザーに直接何かを伝えるというのがすごく難しいんですよね。BIGWINGに入社してから自社ECサイトの問題点や改善点を考えるなかで、理想をいえば、その時点で顧客データがあれば、取れる施策もかなりあったと思います。ただ、ゲスト購入の設計でメルマガやLINEの登録の導線もなかったため、顧客データはない状況でした。それならLINEを始めようと思ったんです。アカウントを開設したのが2022年7月頃です。
前職では、LINE経由の売上比率がとても高く、経験としてLINEがレスポンスにも売上にも利くというのがわかっていたので、やらない手はないなと思っていました。ECの売上を見る側の人間としては、LINE経由の売上が計算できる状態になるのはすごく助かります。
もちろんメルマガもやっていますが、登録者数はLINEのほうがずっと多いです。現在、LINEの友だち数は約 9,000人になっています。
――LINE公式アカウントで成功した施策があれば教えてください。

友だち登録導線を設置
斉藤さん:友だち登録の案内を、サイト最上部(上画像)に出すようにしています。これは前職でも効果的だったやり方で、再現性がありますね。また、サイトを訪れてしばらくすると、ポップアップも出るようにしています。
――LINEの友だち登録をしたお客様と、どのようにして関係を深めていますか?
斉藤さん:今はまだ細かな配信はできておらず、商品やセールの情報を一方的にお知らせしている形です。それでも友だち約9,000のうち7,200くらいの方がブロックせずに利用いただいています。そもそも顧客データがない状態から始めているので、セグメントに基づく細かな配信は次のフェーズですね。
キャンプブームの先にあるのは、アウトドアという広い視点の可能性
――コロナ禍でのキャンプブームが落ち着いてきたなかで、今後どのようにしてブランドの成長を維持し、さらなる成長を目指していこうと考えていますか?
斉藤さん:キャンプに限らず、ひとつの軸だけで見るとなんでも波があります。そこに固執せず、アウトドアというキャンプよりもひとつ上の広い視点で考えると、範囲が広がります。
市場が拡大するときは、エントリーの人たちが入ってきて、ボトムアップで上がっていくものですが、キャンプに関しては今、そのボトムアップが少ない状態です。ボトム部分がどこに行ったかというと、アウトドアの他の分野に行ったりしています。
キャンプもアウトドアですし、山登りもアウトドア、湖で遊ぶのもアウトドアです。私自身、キャンプをきっかけにアウトドアに目覚めて、山や湖にも興味を持つようになりました。キャンプによってテントで寝ることを経験したことで、山に登ってテントで寝てまた登るということもできるようになります。そういう感じで、キャンプが目的から手段に変わって、お客様の動く範囲が広がっています。
そういう人たちにも商品を届けられるように、私たちが広い視野で商品を見ることが必要です。asobitoのコンセプトにも通じますが、興味を持った人を後押しできるような商品を届けたいですね。

斉藤さん:asobitoは今年の1月にブランドをリニューアルしました。新しいロゴ(上画像)を見ていただくとわかるのですが、真ん中のテントにはオートキャンプをしている人たちがいます。これは、asobitoのコアの部分はキャンプであり、そこはずらさないと考えているからです。
一方、周りのテントの人たちは、山に行く人、湖にサップをしに行く人、サイクリングしに行く人、釣りに行く人といった感じで、キャンプをきっかけに他のことをするようになった人たちです。
同じようにほかのブランドでも、興味を持った人たちのその先に提案できる商品を用意しておくことができれば、ブランドの可能性は広がっていくし、会社は成長していくと思っています。
asobito(アソビト)公式ストア
https://bigwing.shop/collections/asobito
企画/構成/取材:竹内長
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