
九州は宮崎県都城市に本拠地を置く自然食品屋「タマチャンショップ」。EC通販を中心に、健康食品やコスメなど「食」に関するさまざまなオリジナル商品を扱っており、これまでに500種類以上の商品を開発してきました。その9割の企画開発を担当してきたのが、有限会社九南サービスで代表取締役を務める田中 耕太郎さん。本記事では、田中さんに商品開発とブランディングのこだわりをうかがったうえで、さらに、新たな取り組みとして始まったコミュニティサイトの狙いについてもお話しいただきました。
この記事の目次
消費者のニーズに応え、トレンドを捉えるために商品開発に必要なこと
――商品の開発にあたっては、どのような点を意識していますか?
田中さん:タマチャンショップでは、「ニッポンのおかあちゃんになりたい」というコンセプトを掲げ、食を通じて、お客様に毎日をもっと楽しく、豊かなものにしたいと考えています。
そのなかで提供するものは、健康・美容にフォーカスしたプロダクトで、楽しみながら健康になっていただける食品であることが大前提です。とくに日本では、健康や美容に関する食品でもおいしさが紐づいていないと継続してもらえません。たとえばアメリカでは、健康に良いものであれば多少まずくても食べるという意識がありますが、日本の場合はまずはおいしいさ、次にヘルシーという順番です。
――商品開発にあたって、そういった消費者のニーズをどのように収集し、商品化まで結びつけているのでしょうか?
田中さん:時代のトレンドや社会問題も意識して、さまざまなデータを分析しています。インターネットで情報収集をしたり、メーカーさんや生産者さんとコミュニケーションをとったりしながら、今の時代に一番必要なものに結びつけていく感じです。少しコアな商品になると、未来軸で逆算しながら、伝えるためのコンテンツを作成します。
たとえば最近リリースした「超栄養食ONE」というプロダクトは、世界の人口が増えていくなかで地球の栄養素がだんだん少なくなり、日常で栄養が取れなくなるという社会問題の解決と、最近の料理の時短需要に応えるものです。こういった超栄養食や完全栄養食は今後のトレンドになりそうだと感じています。

――商品開発には時間がかかると思いますが、ときには開発中にトレンドが変わったり、未来を見据えたけれど早すぎたりといったこともありますか?
田中さん:商品開発においては、今大事なのか未来にとって大事なのかバランス感を意識して、少なくとも3か月~半年後のプロダクトを考えるようにしています。それでも商品が早すぎたこともありますが、そのときは2~3年後に商品がヒットしたので、先駆者メリットは取れました。
タマチャンショップでは、まず自分たちが好きなものを作ることを大事にしています。自分たちの生きざまを当て込んでいく感じですね。いろいろなプロダクトが同時並行で動いていて、本当に気に入った商品は急ピッチで2~3か月くらいで仕上げることもあれば、長いものは1~2年くらいかけることもあります。
――成功する商品開発の共通点はありますか?
田中さん:弊社の商品は日常のなかで健康・美容を作っていく商品なので、お客様の生活のなかで気軽に使っていただけるものというのは共通点ですね。そういった商品は回転率も速くなります。商品作りがしっかりしていれば外れることはほぼありません。
――逆に思ったような効果が得られなかった商品はありますか?
田中さん:弊社のこだわりのひとつが、自分たちで語れる商品を作ることです。そのために商品開発の最初の段階では、最高スペックのものを作るのがポリシーになっています。最初に値段を決めないで、とにかくまず良いものを作る。
ところが、良いものを作るほど原価が高くなるんです。若干引き算をすることもあるんですが、お客様にとってはそこまでハイスペックでなくて良いのに、こだわって高価なまま出してしまい、リピートにつながらず、1回きりの購入で終わることもありました。
スペックと価格のバランスはすごく大事だと思っています。弊社のミッションは、日本全体の女性の美と健康を楽しませるものなので、一部の方だけではなく、いろいろな方々に使っていただきたいですね。
価格競争を脱するためのブランディングと社内の意思統一
――デザインや企画チームとの協力について、どのようにして自社らしさを維持しつつ、消費者に受け入れられる商品を完成させていますか?
田中さん:タマチャンショップではどちらかというと商品よりブランドをリピートしてもらうことに重きを置いています。そのため、社内でタマチャンらしさを追求する場面が結構あって、デザインのルールや共通認識がある程度できています。共通のマニュアルもあるので、まずはそういったルールから外れないことを大事にしています。これは12~13年前にブランディングというものを取り入れたときからスタートしているので、そこからの積み重ねで意識統一ができているかなと思っています。
――12~13年前にブランディングを意識されはじめたのはなぜですか?
田中さん:タマチャンショップは楽天市場からスタートしたので、常にライバル店が横にいる状況で、価格競争に巻き込まれていました。それで疲弊してしまって、自分が好きなお店を作ろうと決意したんです。そこでいかに戦わずに運営できるかを考えて、ブランディングを取り入れた感じです。
――デザインについて、具体的にどのようなルールがありますか?
田中さん:デザインでは、「和」+「モダン」を大事にしています。日本の企業として和というものを大事にしながら、少しずつ今の時代に合わせたモダンテイストにしていく。そして、それを商品パッケージやWebサイトなどすべてにあてはめるようにしています。
ものを使うときに気持ちが上がることはすごく大事ですし、何気ない日常のなかで自分たちの商品を使うことで気持ちが少しでも上がれば良いなと思いながらデザインしています。
健康食品市場の今後を見据えて海外にも展開を
――今後、健康食品市場が変化する中で、どのような商品開発を計画していますか?
田中さん:健康食品市場は、サプリメントのような健康補助食品から、健康食品と食品のハイブリット型のような、日常の食品で健康や美容を作っていく方向になっていると感じます。これからの商品開発では、主食でいかに健康を作れるかということを意識していますね。
また、今までは「ニッポンのおかあちゃんになりたい」ということで、日本の方々に自分たちのプロダクトをお届けしてきました。しかし、今後は海外に向けて、日本の食文化やモノづくりの良さを届けていきたいと考えています。将来的には日本のみならず世界で、食べ物で人々の心も体も健康にできたら良いなと思っています。
今、いろいろな商品を輸出している段階で、少しずつニッポンのおかあちゃんが世界のおかあちゃんになりつつあるなと感じています。プロダクトを考えるときも、構想ができた瞬間にこれは海外でも戦えるだろうかと視野を広げて、自分の意識ベースを変えていっています。
コミュニティサイト立ち上げの3つの理由
――2022年に立ち上げたコミュニティサイト「タマリバ」についてお訊きします。コミュニティサイトを最初に考えたきっかけは何だったのでしょうか?また、どのようなゴールを設定していますか?

田中さん:タマリバを立ち上げた理由は3つあります。
まず、コロナ禍で行動が制限されたときに、人と人とのコミュニティの大事さを感じたことです。弊社の商品についていろいろな方々が各種SNSですごく良い発信をしてくださって、そういった声をタマチャンショップのお客様同士でシェアできたら良いなと感じました。そこで、タマチャンショップを好きな方が集える場所を用意したいと思ったんです。
また、弊社として今後、お客様と会社という関係性をもっとシームレスな垣根のない状態にしていきたいと考えました。お客様と企業ではなく、ひとつのビジョンを抱える集合体、村づくりのようなことができたら良いなと。野菜を交換し合うくらいの関係性になれたら、ひとつのライフスタイルのあり方ができるんじゃないかと考えたのです。
さらに、今、少しずつ海外の企業が進出してきて、日本の企業の元気がなくなっているのを見て、いずれタマチャンショップもそういった海外の企業との戦いに巻き込まれるんじゃないかと思いました。海外の企業はパワーがあります。タマチャンショップは今、スタッフが150人くらいで、たとえば1万人くらいの規模の会社が力業で来たら一瞬で潰されてしまうでしょう。
どうやったら戦えるかを考えたときに、タマチャンショップの商品を愛してくださっているお客様にビジョンを共有して仲間になっていただいて、一緒に戦えば良いと思ったんです。今、タマリバには5,000名くらいのお客様がいらっしゃるので、スタッフと合わせると5,150人で戦えます。そういう巻き込みをしたいなと思っています。
――コミュニティサイトの立ち上げはどのように行いましたか?
田中さん:構想段階で、コアなお客様10名くらいに弊社からメッセージを送らせていただいて、どんなコミュニティサイトが欲しいかを一緒に考えてもらいました。村づくりだと思っているので、最初からいきなり無造作にコミュニティを広げるのではなく、一年くらいかけて段階を踏まえて解放していきました。
コミュニティサイトを活用した商品開発とモチベーションを維持する運営の工夫
――お客様を商品開発に巻き込むプロセスについて、具体的な成果や課題を教えてください。
田中さん:商品のリリース前にサンプルを試していただいてアンケートやオンライン座談会で評価や改善点の聞き取りを行うなど、商品開発に参加していただいたこともあります。たとえば「キノコッチ」という商品には、タマリバで頂いたお客様の声をリリース時に反映させています。
また、「たまねぎスープ」という商品は、タマリバのお客様には一番使われているのに、通常のネット販売では10番手20番手くらいの売れ方でした。そこで、タマリバのお客様に使いやすさなどのお声を頂いて、パッケージごと完全にリニューアルしました。

田中さん:それまでの商品開発はほとんど僕のタイミングや好きな味で作っていたので、それが万人受けするとは限りませんでした。タマリバができたことで、コアなお客様のリアルな声を聞けたり、良い改善点をもらえたりしています。
――コミュニティサイトの運営はどのように行われていますか?
田中さん:専属の担当スタッフは1人いるのですが、運営自体は基本的に特定のスタッフではなく社員全員で担当しています。普段はお客様と顔の見えないオンラインでやり取りをするなか、コミュニティサイトでのやり取りは一番モチベーションが上がるところです。
たとえば、たくさん投稿していただくとランクが上がる仕組みがあって、一定のランクになった方には皆で手書きのメッセージを送ったり、誕生日にバースデーの動画を贈ったりしています。
――今後、コミュニティをどのように発展させ、顧客との関係を強化していきたいと考えていますか?
田中さん:リアルなオフ会を拡充していきたいです。今は本当にコアなお客様と2か月に1回くらいオンライン座談会を開催していますが、定期的な開催や都道府県別に開催するなど、お客様同士のつながりをもっと作っていきたいです。 また、タマチャンショップ自体をもっと客観的に見ていただいて、仲間としてビジョンを共有して、少しずつ社会の課題を解決していくアクションをしていきたいと思っています。お客様を仲間というのはおこがましいかもしれませんが、そうやって赤裸々に向き合っていくところに僕たちの思いがあります。それが合わない方は離れていくと思いますが、だからこそもっと大切にしていきたですし、今後はある意味すごく覚悟してやっていかなければならないなとは思っていますね。
タマチャンショップ 公式サイト
https://tamachanshop.jp/
企画/構成/取材:竹内長
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