【ゲストスピーカー】
木下 勝寿さん
株式会社北の達人コーポレーション
代表取締役社長
健康食品・化粧品ブランド「北の快適工房」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
上限CPOの設定が利益最大化の鍵?
柳田さん:株式会社北の達人コーポレーションの代表取締役である木下さんをお迎えし、売上最小化・利益最大化のEC経営についてお伺いしていきます。木下さんの著書『売上最小化、利益最大化の法則』で、利益を上げるためにプロモーションを徹底的に絞り、見直し、分析するお話が私は印象的でした。広告を打とうとすると選択肢が無数にあるかと思います。その中で、北の達人コーポレーションではプロモーションを徹底的に絞ることができているそうですね。
木下さん:できていると言うより、資金がなかったためそうせざるを得なかったんです。本当にお金がないところからのスタートで、資本金1万円での起業でした。1万円投資したら1万2,000円のリターンがなければ成り立たないわけです。
始めた頃は会計のことはよくわかっていませんでした。売上が上がっても、入金日までその売上は手元にないことを知ります。売掛金や買掛金、現金の動きを細かく見ていると、売上が上がっても素直に喜べません。そこで私が見ていたのは利益なんです。その考え方が今も続いています。
広告も、最初は10万円投資して12~13万円の売上なければ生活できません。成果が出ないと広告を止めるしかないわけです。そんな状況で広告を回していたら、あるとき1人のお客様が何度も買ってくれるLTVという見方ができることに気づきました。仮に3,000円の商品を売っていて、CPO(1注文あたりに掛かるコスト)が5,000円でも後で採算が合うかもしれない、でも合わない可能性もある。
これはさすがに計算をしっかりしないと怖いと思い、上限CPOを算出しました。当初は、手持ち資金を踏まえて、4か月で回収できる範囲のLTVなら投資できると考えました。4か月経ったときに計算通りにいかず赤字になったとしても、耐えられる上限CPOを設定してやり始めたんです。商品によってリピート率は違いますし、最初に買った商品によってLTVも異なります。4か月間は広告費で赤字でしたが、計算したLTVの通り利益が出て、資金的に余裕ができました。
その後、LTVの期間を5か月、6か月とシミュレーションしてみたのです。例えば、4か月で採算が合う上限CPOを8,000円、獲得できるお客様を500人とします。4か月から期間を広げて上限CPOを1万円にして、520人獲得できれば利益が出ますが、510人だと全体利益が下がることがわかりました。資金がどれだけあったとしても、回収期間を長くすると利益が最大化できないことに気づけたんです。弊社の場合、LTVを4か月で採算が合うところに置くと利益を最大化できることがわかっています。大手企業だと回収期間を1年とか2年にしていることもありますね。
柳田さん:大手企業のCPOはかなり高いですよね。売上目標があるという理由がありますが、まずは売って何とかリピートさせようという感じです。大手企業に限らず、今の単品通販業界はLTVの期間を長くしている企業が多いと思います。
エッジが効いた商品とブランディング
有名になるのではなく愛用してくれるファンを増やす
木下さん:商品を愛用してくれるファンを増やしたいのであって、有名になりたいわけではないんですよね。お客様はブランドではなく、商品にお金を払うので、1つ1つの商品を突き詰めようとすると、ブランドを一つに絞るのは困難です。本当に突き詰めると商品は尖ります。それを同じブランドで括ってもブランド力って出せないんですよ。
柳田さん:化粧品などは同じブランドで括ってもいけるような気がしますが……。
木下さん:化粧品でも、私達は尖った商品を作っています。そのため、商品ごとの良さを最大限に表現しようとすると、パッケージを揃えることすら難しいです。それぞれの商品に最適なパッケージやLPを作ると、全く別物になってしまいます。
商品数だけ事業がある意識で商品・顧客と向き合う
木下さん:現在、三十数商品を「北の快適工房」というブランドにしていますが、商品ごとに事業をやっている感覚です。
柳田さん:各商品が別事業だからこそエッジを立てられるのでしょう。
木下さん:ブランドイメージを作るために統一感を出す必要がありますが、「統一感を出す=個性が死ぬ」ということなんですよね。
柳田さん:新商品は既存商品のブランド認知度を利用し、横展開するほうが楽そうだと思います。しかし、商品一つ一つがお客様の抱えているお困りごとを解消するために作っているから、商品ごとでお客様に響けば良いとお考えということですよね。
木下さん:ブランディングを否定しているわけではありませんが、私達の規模ではまだやるべきことではないと思っています。ブランドは本来自然発生的に生まれてくるもので、ブランディングをする時点で自然発生になっていません。つまり、規模が追いついてないということです。
例えばエルメスのブランドイメージは自然発生的に生まれたものだと思うんですよね。本当に良い商品があり、それを評価する人たちがいて、その商品を作っているメーカーだから信頼できるとみんなが言い出す。お客様に求められて初めてブランディングの本来の姿と言えますが、自ら「ブランドです」と言うのは格好悪い話です。
柳田さん:お客様から御社にそういう声は来ていないのでしょうか。
木下さん:全くブランディングをせずに、最終的にブランドになっているのが理想です。商品を見て、「このメーカーだから信頼できる」となっていないのは、まだブランドになっていないということです。
横展開が難しいお悩み商品のブランディング
柳田さん:北の達人コーポレーションのお客様はアイテムで探すことが多いということですか?
木下さん:一つ一つの商品が非常にエッジが立っているので、例えば便秘に悩んでいるお客様が弊社の商品を気に入っても、他の身体の悩みでは選ばれづらいです。
柳田さん:シナジーがあんまりないんですね。
木下さん:お悩み系の商品は他の商品とのシナジーがないんです。例えば、バファリンはライオンから出ていますが、バファリンが効いて「これから薬はライオンの商品にしよう」とは思わないですよね。
柳田さん:確かにそうですね。
木下さん:1つ1つの悩みに対して商品を提供するため、ブランドありきでは候補に上がることはまずないでしょう。ただし、弊社の商品は悩みありきの商品ですが、後から北の快適工房の商品だと気づいてくれる人や他にも良い商品がないかと言うリピーターさんは実際たくさんいらっしゃいます。それでも、基本的には、弊社としてはその都度、新規のお客様だと考えて勝負しています。
柳田さん:お話を聞いたら確かにそうだと思います。単品通販では、そういう考え方が一般的なのでしょうか?
木下さん:単品通販で、そこそこ利益が出ているところはそういう考え方のところが多いんじゃないかなと。ブランドで売るのは、やはり難しいんですよね。
柳田さん:ブランドとして一括りにすると思い切った商品を作れないということもありそうですね。
木下さん:現時点で儲かっているいわゆるDtoCはほぼブランドには力を入れていないのではないでしょうか。
柳田さん:DtoCは特にそうですよね。その業界の既存の体制を破壊しようとするディスラプター的な方がDtoCは多いと思います。現行のモノやサービスへの違和感から入っていると、そこからの横展開はなかなか難しそうですね。そう考えると、課題に応える商品を提供する形は結構シンプルなように感じます。
木下さん:かなり単純だと思いますよ。難しいことを考えず、物事を単純化して必要なことさえやっていれば良い状態に持っていく経営の仕方をしています。
柳田さん:売上最大化は良さそうに見えますが、お客様への責任を果たすことなど、いろんな意味でリスクが大きいということですかね。例えば売上を10倍に伸ばしたら、その分リスクも10倍になるのは、コロナ禍を通して皆さん体感されたのではないでしょうか。
お客様と徹底的に付き合う覚悟。そのために、利益を取る。そして利益を取るには無駄なことを排除するのが大事ということが非常にわかりました。
おわりに:利益を最大化するための広告運用との向き合い方
長い期間でLTVを見ることで、上限CPOを高く設定し、広告運用者にとっては比較的獲得をしやすい状況が作れるかもしれません。文中にもあるように入口となる商品によってLTVは異なりますし、広告の訴求内容によっても変わっていくでしょう。よほど資金面にゆとりがあれば長期的な投資が可能ではありますが、その分PDCAのスピードは遅くなり、結果として競合他社と比べて優位性が損なわれてしまうのではないでしょうか。
1つの商品がヒットすることで、それをブランディングし、その売れ行きに乗じて商品を横展開する流れは多々ありますが、各商品を1事業として向き合い先鋭化させることが結果としてお客様のためになることが木下さんのお話からわかります。
EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。
■サヴァリ株式会社へのお問い合わせはこちら
https://savari.jp/contact/
あわせて読みたい