
Fotographer AI株式会社 鈴木 麟太郎さん(写真:左)
EC・D2Cの売上に大きな影響を与える要素の1つが、広告のクリエイティブです。当たりのクリエイティブを見つけるために制作の量が求められるなか、生成AIを活用する事業者も増えています。
本記事では、EC・D2Cで成長するためのクリエイティブ制作と生成AIの活用について、EC・D2Cブランド「北の快適工房」を運営する株式会社北の達人コーポレーションの高橋さんと、画像生成AIツール「Fotographer.ai」を提供するFotographer AI株式会社の鈴木さんに対談いただきました。
この記事の目次
数億円の売上を左右することもある、EC/D2Cのクリエイティブ
鈴木さん:北の達人コーポレーションさんでは、どのようなブランド運営を行っていますか?
高橋さん:「北の快適工房」というEC・D2Cのブランドで、化粧品・健康食品を扱っています。「びっくりするほど良い商品ができたときにしか商品化しない」という商品開発基準のもと、自分たちが友人や家族にすすめたくなる品質のものだけを売っていこうというポリシーでブランドを運営しています。
鈴木さん:ブランド運営において、高橋さんはどのような業務を担われているのでしょうか?
高橋さん:Webマーケティング部でマネージャーとしてWeb集客周り全般を担当しています。 業務としては、上流はブランド全体のKPI設計から下流はWeb広告の細かなクリエイティブチューニングまで幅広く行っています。 弊社のWebマーケティング部は大きく、クリエイティブと広告運用の2つのチームに分かれています。
私自身のキャリアは広告運用からスタートして、徐々にクリエイティブ領域及びマネジメント領域へと範囲が広がって現在に至ります。
鈴木さん:もともと広告運用からキャリアをスタートし、現在は全体を見ているなかでクリエイティブが与えるインパクトはどのくらいあると感じられますか?
高橋さん:D2Cの単品通販というビジネスモデルでは、クリエイティブは最重要と言えます。当たりのクリエイティブがひとつ出ることで数億円の売上が立つこともあるんです。
定期購入で積みあがっていくビジネスを拡大するには、一定割合で発生する解約を上回る新規獲得が必要です。私たちもそうですが、D2Cの新規集客はWeb広告が主流で、その集客数を左右するのがクリエイティブです。
D2Cのビジネスモデルでは、広告クリエイティブを100本作ってもその合計で成果が出るわけではなく、100本のなかの1本が大きく伸びて大きな利益を生み出すという構成です。そのため、当たりの広告クリエイティブの割合を重視しています。

当たりのクリエイティブを作るために重要な「誰に」「何を」
鈴木さん:当たりのクリエイティブを制作するために、何かルールやフローを決めて業務に取り組んでいるのでしょうか?
高橋さん:弊社では、クリエイティブを「誰に」「何を」「どのように」の3つに分けて考えています。
クリエイティブ制作においてはまず、どういったターゲットに商品のどの魅力を届けるのかという、「誰に」「何を」の設計から始めます。私たちは「誰に」「何を」の掛け合わせをコンセプトと呼び、クリエイティブにおいてもっとも重要な要素だと考えています。「誰に」「何を」を設計したうえで、それを伝えるための「どのように」を考えていくのがクリエイティブ作成の大きな流れです。
鈴木さん:当たりの割合を増やすために、どのようなことを意識していますか?
高橋さん:上流である「誰に」の設計から固めることを意識しています。これはマーケティングでターゲットと呼ばれる部分です。
的に向けてボールを投げることをイメージすると、的がぼやけた状態で投げるのと、的にしっかりピントが合った状態で投げるのとでは、当たりやすさが違いますよね。的にピントを合わせるとは、お客様を理解することです。お客様のニーズや懸念点、購入に際して重視されることなどから、ターゲットの解像度を高めます。
「誰に」が固まったら、「何を」を考えます。これは的に対して何を投げるのかということです。たとえば、ダーツボードに投げるならダーツの矢、ストラックアウトならボールというように、的の種類によって投げるものは変わります。ダーツボードにボールを投げても刺さりません。
「誰に」「何を」の解像度が高くなると、当たる確率が高まります。的のどこに対して何を投げるのかが固まれば、投げ方、つまり「どのように」も決まってきます。
「どのように」は、媒体の選定やフォーマットの選定から、コピーに「!」を付けるのかどうかといった細かい文言調整まで、クリエイティブの具体をすべて含みます。
一口にクリエイティブと言っても、商品画像、キャッチコピー、カラー、レイアウトなど複数要素の組み合わせから成り立ちます。これらの要素を、「どのように」を踏まえたうえで作成していくのです。
ある程度の仮説やノウハウなどはあるものの、実際どのクリエイティブが当たるかはやってみないとわからない部分が多いです。そのため、当たりのクリエイティブを作るために年間5万本ほどのクリエイティブを作っています。
お客様の「ほしい」を引き出すクリエイティブ制作

鈴木さん:D2Cの事業者さんから話を聞くと、コスメはデパートなど実店舗では匂いや質感を試してから買うかどうかを決められますが、ECはそこが難しいと聞きます。そういったところで御社独自の伝え方はありますか?
高橋さん:試さなくてもどんなものかわかるように表現することを重視しています。使ってみないとわからないというのは、商品を表現しきれていないということかもしれません。
たとえば、私たちが販売している美容用マイクロニードルパッチブランドの「ヒアロディープパッチ」という商品は、美容液を針状に固めており、肌の角質層に針が刺さることで、直接塗るよりも浸透するという商品です。こう聞いたらわかりやすいですよね。
また、表現の前段階で、そもそもわかりやすい商品であることが、売りやすさに関わってきます。売りやすさはわかりやすい表現につながります。
鈴木さん:わかりやすい表現を作成するうえで、お客様から良い反応をいただけるクリエイティブの共通点はありますか?
高橋さん:まず、「誰に」「何を」伝えるのかが、一番根幹です。どういった方に向けた、どういった特徴の商品なのか端的に伝わることは、当たっているクリエイティブの絶対的な共通点です。
また、「何を」については、お客様のなかでメリットをベネフィットに昇華できるよう、それを想起していただける表現になっていることが重要です。
先ほどの「ヒアロディープパッチ」を例にあげると、「美容液を針状にすると浸透しやすいから今までの化粧品より良い」という説明だけでは、「そうか、良い商品だな」とは思っても、「すごくほしい」まではなかなかいかないと思います。「良いんだな」と「ほしい」には距離があります。
「ほしい」と思っていただくには、商品起点のメリットを伝えるだけではなく、その人がそれを使ったらどうなるかを伝える必要があります。たとえば、「目の下のハリをケアするだけで若く見られます」とか。それを直接表現するだけでなく、お客様のなかで描けるように伝えることが重要です。
最後に、とくにWeb広告では、一瞬で伝わることがとても重要です。たとえばInstagramをスクロールしているとき、ひとつの投稿に目をとめている時間は1秒もありません。そのなかで「気になる」「ほしい」と思ってもらう必要があります。
商品画像における生成AI活用の可能性
鈴木さん:商品画像を撮影する際のこだわりはありますか?
高橋さん:作成したい広告の意図から逆算して、構図やモデルの人選を考えています。プロのカメラマンが撮ったような、商品が綺麗に見える画像が必ずしも良いわけではなく、むしろ一般の方が自撮りしているような画像が映えるクリエイティブになることもあって、一概に正解というものはありません。
鈴木さん:クリエイティブ制作にAIを活用していこうという流れはありますか?
高橋さん:Web広告に関わるメンバーを中心として、画像生成AIのツールを使っています。今は0→1で画像を作るときに活用することが多いです。作った広告と広告を合わせて別の人物を作ることにも活用しています。
鈴木さん:画像生成AIを使うことで業務への良い影響は感じますか?
高橋さん:当たりのクリエイティブが出ると、すごく感じますね。AIで作った広告で合計1万CVを突破しているものもあります。
撮影だとモデルの方をお呼びして1日掛かりで撮影をするので、コストも時間も掛かるうえに、その写真を変えることはできないので、活用方法が限定的です。AIを使うことで、角度や背景など、クリエイティブに合わせた素材自体の調整が可能になります。プロンプトひとつで対応できるので効率的で、シンプルに作りたいものをイメージして作れるので質の良いものができています。
事業者の細かいニーズに応える画像生成AI「Fotographer.ai」

高橋さん:Fotographer AIさんではどういったサービスを提供されているんですか?
鈴木さん:商品写真にフォーカスした画像生成AIツール「Fotographer.ai」を開発しています。商品写真をベースにしたクリエイティブの作成を得意としており、商品写真をアップするとAIが画像を切り抜き、プロンプトやテンプレート、参考画像や小道具を基にしてスタジオで撮影したかのような写真を約1分で4枚以上作成可能です。
北の達人コーポレーションさんではすでに画像生成AIのツールを導入されているとのことでしたが、今後、画像生成AIで実現してみたいことはありますか?
高橋さん:当たりのクリエイティブをベースに当たりの要素をとらえた別パターンのクリエイティブを大量に作ることができたら良いなと思っています。
現状でそれをやろうとすると、変えてほしくないところが変わりがちです。短期間でクリエイティブの当たり要素を踏まえたうえで、既視感のない新しいクリエイティブを作ることは難しいと感じています。
鈴木さん:生成AIの一番厄介なところが、細かい指定が難しいことですよね。変えてほしくないところが変わり、逆に変えてほしいところが変わらない。細かいところを指定しながら大きいパターンを作るという、そのコントロールを日々研究しています。
Fotographer.aiでは、1枚の画像から要素を少し変えた画像を大量生成する機能を最近実装したので、ある程度対応できるようになってきました。
また、直近では生成AIによる照明コントロールツール「InstantLight」のベータ版デモサイトを公開しました。画像の照明を瞬時に自由自在に編集できる機能を提供しています。

https://fotographer.ai/instantlight
高橋さん:光の入り方を調整できる機能は、生成AIでこれまであまりやってこなかったことで、面白いなと思います。同じカットでも光の入り方によってクリエイティブの見え方が大きく変わりますよね。
鈴木さん:事業者の方によくそう言っていただけます。写真は撮影してから光を変えるのがものすごく大変ですが、弊社の技術では、光源の位置や色の温かみを変えたり、昼を夜に変えたりできます。これにより、クリエイティブの色合いや商品への光の当たり方が変わり、イメージを大きく変えることが可能です。しかもAI感がなく、いわゆるRGBで色を指定する感じで、直観的に操作できます。もちろん、プロンプトでの操作も可能です。
高橋さん:より細部の調整になってくると、画像編集ツールとバッティングしないでしょうか。Fotographer.aiならではのポイントはどのようなところになりますか?
鈴木さん:たとえばPhotoshopでも同じような画像の調整はできますが、プロのデザイナーですらかなりの時間がかかります。しかもシミュレーションができません。Fotographer.aiは、人の手で作ると時間がかかるものを簡単にシミュレーションでき、クイックにいろいろなパターンを出せます。しかもそれをAPIで業務プロセスに組み込むことも可能です。
一方で、生成AIが一番使われているのは、編集です。画像編集に生成AIを使うことでコストを削減するという領域に、弊社も取り組んでいます。Fotographer.aiで作ったドラフトを基にカメラマンと調整しながら撮影して、そこからクリエイティブを作るときに変えたい部分をAIで対応するというのが現実的な活用ではないかと考えています。
高橋さん:生成AIを使うことで、画像編集の難易度が下がり、時間が短くなることには価値を感じます。事業者目線でいうと、それをできる人を時間とコストをかけて採用しないといけなかったところが、ツール一つでできるようになるのはすごく良いことですね。
鈴木さん:もともとこのサービスを始めたきっかけは、クリエイティブがコンバージョンに大きな影響を与える一方で、クリエイティブの用意にはコストが掛かり、当たる確率はそこまで高くないという状況に対して、AIを活用できれば役に立つのではないかと考えたことです。マーケティング領域の7~8割を生成AIでできれば、あとの1~2割について人がかなりクイックにいろいろな施策を打つことができます。
マーケターが画像を作れる世界観はおそらく今まではなかったはずです。こういうクリエイティブを作りたいと話すときに、今までは参考になるクリエイティブがない状態で、イラストやパワポで貼り付けをした簡単なイメージで話をしていたのが、生成AIによりそれなりのレベルの画像を作れるようになっています。それによってマーケターとデザイナーのコミュニケーションが円滑になり、スピード感をもって進められます。
クリエイティブに詳しくない方でもある程度のレベルまで行くことができ、プロはコストをカットして、スピードが早くなる。それがAIの良いところです。
Webマーケターとして成長したい人材を募集中
鈴木さん:AIの活用以外のところで、北の達人コーポレーションさんが今後注力したいことはありますか?
高橋さん:絶賛採用強化中です。直近の決算が年商146億円で過去最高の業績を記録し、「次世代を代表するグローバルメーカーを作る」というビジョンの実現に向けて動いています。
Webマーケティング部は会社の成長の最前線に立っています。現役のWebマーケターでもある弊社社長の木下から、ゼロ距離でフィードバックをもらえるのは、Webマーケターとして成長できる日本有数の環境ではないかと思います。
Webマーケティングのスキルを伸ばすうえで、恵まれた環境があると自分自身も入社して感じています。そういった成長環境に身を置きたいという方に、ぜひジョインしていただきたいです。

▼北の達人コーポレーション採用情報サイト
https://www.kitanotatsujin.com/recruit
▼画像生成AIツール「Fotograher.ai」
https://fotographer.ai
あわせて読みたい