EC事業者と支援企業のミスマッチを防ぐには?自社に合ったパートナーを選ぶポイントを公開
インタビューの概要

EC事業は、サイトの更新を行うだけではなく、商品の認知を得るための広告やSNSの運用、購入いただくための商品ページ作成、注文が入ってからお届けするまでのバックヤード業務など、非常に幅広い職能が求められる領域です。そのため、自社ではできない業務を外部に依頼し、事業を推進しようとする動きはよくありますが、委託先の支援企業とのミスマッチによる失敗が後を絶ちません。

そこで今回は、株式会社StylePicksの深地さんと株式会社R6Bの対人マンさんに、事業者が自社に合った支援企業を選ぶためのポイントについて伺いました。

ミスマッチの理由は自社の現状や課題を把握していないから

――幅広い職能が求められるEC事業ですが、一部の業務を支援企業に委託したものの思ったように成果が上がらず、ミスマッチになることが多いと聞きます。どういった理由で、こういった問題が起きてしまうのでしょうか。

深地さん:大前提に、業務を委託する事業者の方が自分たちの課題を正しく理解できていないことが原因の場合が多いです。正しく分析ができないから、どこの数字を見ればいいかわからず、何が課題かを把握できていない。その結果、何となく感覚で「自分たちの課題はこれかな?」と思って、支援企業に依頼してしまっています。

Web解析もされている支援企業であれば、依頼を受けるにあたって課題抽出から行ってくれるかもしれません。しかし、Web広告運用代行やSNSコンサルティングを専門にされている支援企業の中には、課題が別のところにあるにも関わらず、事業者からきた依頼をそのまま受けてしまい、成果も効果も上がらずに終わってしまうことがあります。

対人マンさん: SNS運用で見ても、個人と企業ではアカウントの伸ばし方は異なります。SNSコンサルティング会社の中には、SNSでうまくフォロワーを伸ばした個人の方がこれは仕事になるだろうと思い、企業のSNSコンサルティングを始められるケースが多いです。そんな会社のノウハウはほとんどが個人のアカウントに関するものですが、事業者はそれを鵜呑みにしてしまい、依頼してしまうのです。

ところが、いくらSNSについて語れても、ハック術があったとしても、なかなか思うように売れないでしょう。その理由はSNSコンサルティング会社には物販や商売の経験がほとんどないというのが大きいです。こういった背景がミスマッチを引き起こしています。

ここの数字を見れば自社の状況と課題がわかる!

――事業者が適切な支援企業を選ぶためには自社の課題を把握することが大事ということがわかったのですが、簡単なことではないと思います。依頼するにあたって、最低限やるべきことは何か教えていただけないでしょうか。

深地さん:誰でも比較的簡単に課題抽出しやすい軸でいうと、新規顧客とリピート顧客の数です。基本的にはどのカートシステムでも注文データから初回購入者数を抽出することができます。そこから新規顧客数およびリピート顧客数の推移を月ごとで見たり、前年と比べたりすると自社の現状や課題が見えてくるでしょう。

それを踏まえたうえで、Web広告運用代行会社やSNSコンサルティング会社などに依頼するとミスマッチが起きづらいです。新規顧客数の伸びが悪いようであれば集客施策、新規顧客数の割合に対してリピート顧客数が増えていないようであればCRM施策といった感じですね。

対人マンさん:SNSも同様に、自社のアカウントの現状を把握することが大事です。Instagramだとプロアカウントであれば、インサイトを見ることできるので、まずはその数値を把握するところから始めましょう。SNSコンサルティング会社に依頼するにあたって、少なくとも投稿やストーリーの平均リーチ数などは知っておきたいところです。

SNSアカウントのインサイトは日々確認しましょう。
フォロワーが増えてもエンゲージメントが落ちていたら運用に問題があるかも。

支援企業を選定するにあたってのポイント

――課題がわかれば、適切な依頼を支援企業にできるようになりますね。とはいえ、数ある支援企業がいる中で、自社に合う支援企業を選ぶためにはどうしたらよいのでしょうか?

提案内容と実例・実績を聞く

深地さん:確実なのは、同業の事業者に良かった支援企業を紹介してもらうことです。その際、なぜうまくいったのか、どのように取り組まれたかを聞いたうえで、自社に合うかどうか判断するといいでしょう。

対人マンさん:紹介が難しいようであれば、支援企業側がどれくらい自分たちの事業について理解しているかで依頼するかどうか決めるといいと思います。成果を出す支援企業は、その会社の事業や現状、課題を把握せずに施策の提案はしません。SNSであれば、とりあえずインフルエンサーマーケを実施しようとするところは避けたほうが賢明かと思います。

また、その支援企業がどういった分野や商材で結果を出しているかは聞いておくべきでしょう。得意とする業界や売り方についても確認すべきです。実店舗なのか、ECなのか。もっと言うと、楽天市場なのか、Amazonなのか、自社ECなのか。同じECであっても販路が異なると、まったく別物です。

支援企業を選定するうえで、こういったことを確認し、ちゃんとした実績があるかを見ることでミスマッチを防げます。もちろん、元社員ではなく、今いる社員の方の実例であることが重要です。

商談した際に、実績とは関係ない話をするところは注意しましょう。例えば、業界内で知名度がある方と交流があるなど。成果を出せるかどうかとは関係ないことですよね。

その施策の目的は何かを聞く

深地さん:他にもその取り組みをすることの目的・理由をきちんと正しく伝えてくれる支援企業を選ぶとミスマッチが起きづらいです。

わかりやすい例で言うと、サイトデザインやUIを改善する目的は、集客施策の最適化・最大化であって、直接的に売上アップに大きく貢献することはありません。もちろん、ある程度集客ができている大規模なECサイトだと、サイトデザインやUIを改善するだけで売上は上がるかもしれませんが、中小規模のECサイトではそこまで大きな効果は望めないでしょう。私自身がWeb解析を専門にしているので、これまでの自身の経験からもそう思います。

だからこそ、売上アップが目的なのに、サイトデザインやUIの変更を理由にECサイトをリニューアルしようと提案された場合は、気をつけていただきたいです。そうではなく、機能のアップデートやサイト運営のコストが下げることを目的にECサイトをリニューアルしましょうと言ってくれる制作会社は信頼できますね。

コンテンツマーケティングに関しても、よくミスマッチが生じる施策です。新規顧客の獲得が目的であれば、私はコンテンツマーケティングをおすすめしません。記事コンテンツを作成することで、SEOを強化して購買につなげたいのでしょうが、そもそもお客様の「買いたい」という検索ニーズに対しては、Googleは商品ページを上位に表示する傾向があります。そのため、効率が非常に悪いです。だからといって、購入する気がないお客様に対して、記事コンテンツを提供しても購買までには至りません。

それでは、記事コンテンツの役割は何かというと、サイトに訪れた方への購入の一押しや、既存顧客へのアプローチのためにあります。商品ページだけでは情報が足りない場合に、補足する形で活用したり、過去に購入された方にメルマガやLINE、SNSで購買を訴求したりするのに記事コンテンツは有効なのです。

実際、仕事でスマホケースを販売する事業者様のオウンドメディアを拝見したのですが、アクセス数は非常にあるにも関わらず、購買にはほとんどつながっていませんでした。これには私も正直驚きましたね。スマホケースでさえ、このような結果なのですから、我々がメインで取り扱う衣料品において、コンテンツマーケティングで新規顧客の獲得は難しいでしょう。

対人マンさん:SNSのフォロワー数やインプレッションをいくら増やしても売れないというのと一緒ですね。そのため、購入していただく確率を上げるのが目的なのに、SNSのフォロワー数やインプレッション数を目標にしているSNSコンサルティング会社を選ぶと失敗に終わってしまうのです。

その施策や目標は自社の課題を解決するものかどうか。支援企業を選定するうえで、これは大切なポイントの一つかと思います。とにかく支援企業から言われたことを鵜呑みにせず、少しでも疑問に感じるところ、不明点があるところは、しっかりと質問して明確にしましょう。そのためにも、1日30分でもいいので分析に時間を当て、自社の現状や課題を把握することに努めてください。

自分たちの考え・意見があれば、自ずと支援企業と会話のキャッチボールが生まれ、ミスマッチが減ると思います。

ECを運営するうえで必要な情報はお客様が持っている

――支援企業がきちんと教えてくれたら問題ないのですが、その施策や目標が自社の課題を解決するかどうかを判断できたほうがミスマッチはより防げそうですよね。さまざまな情報が錯そうする中で、その情報が正しいかどうかはどうやって判断すればいいのでしょうか?

深地さん:もしWebサイトやSNS、本などに載っている情報が正しいかどうか、または自社にも活かせるかどうかわからないのであれば、まずは目の前にいる自社のお客様を見ることから始めるといいです。アンケートやヒアリングなど、いろんな方法があると思います。

自分たちのお客様が何を考えているのか、求めているのかというのがわかるようになれば、自ずと情報の取捨選択もできるようになると思います。

対人マンさん:だからこそ、まずは自社の現状、立ち位置を数値で把握することが大事なんです。それがお客様を理解することの手助けになるから。それを踏まえたうえで、支援企業を選定していただきたいです。

今回の私たちのお話を通じて、支援企業とのミスマッチが1件でも減ったら嬉しく思います。

インタビューを通して:EC事業の成功にはパートナー選びが肝

EC運営は業務の範囲が広く、自社ですべてを行うのは難しいでしょう。即戦力の方を雇えればいいですが、そう簡単なことではありません。そこで、支援企業(パートナー)選びが重要になってくるのです。

深地さん、対人マンさんは普段のX(旧:Twitter)の投稿でも、EC事業者と支援企業のミスマッチについて話されています。ネガティブなテーマではありますが、こういう課題が業界にあることを伝えたく、今回のインタビューを実施しました。この記事をきっかけに皆様のパートナー選びがうまくいけば幸いです。

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