ネットショップだからこそ生のコミュニケーションを大切に!「紡ぎ舎」が伝える日本のものづくりの魅力
紡ぎ舎
(写真左)増富康亮さん
(写真右)増富永子さん
インタビューの概要

日本国内で丁寧に作られた「いいもの」を通じて人々の心や暮らしを豊かにしたい。そんな想いで日用品や暮らしの道具を扱うお店「紡ぎ舎(つむぎや)」を、長野県小谷村にて運営する増富康亮さん・永子さんご夫妻。2021年にカラーミーショップを利用してネットショップを開店、翌年にはカラーミーショップ大賞で新人賞、今年は優秀賞を受賞されました。

その成長から一見スピード重視の効率的な運営をされているように見えますが、そうではなく、こだわりを持って丁寧な仕事を地道に続けられたことが実を結んでいるようです。増富ご夫妻に、これまでの道のりについて伺いました。

はじまりは、日本各地の「いいもの」を伝えたいという想い

ーーはじめに、「紡ぎ舎」を立ち上げられた背景をお教えください。

康亮さん:2020年の春、40歳を迎える直前に、15年ほど勤めていた銀行を辞めました。以前から40歳というのはひとつの区切りと感じていて、そのまま仕事を続けるか、何か違うことをやるかと考えての決断でした。

銀行員時代は海外の事業に関わる部署にいて、当時はシドニーに住んでいました。学生時代も含めると、4か国で暮らした経験があります。そういった海外暮らしの経験から、日本の「ものづくり」って良いなという想いがずっとあったんです。

私はもともと小谷村の出身で、会社を辞めてからは地元に戻り、2~3か月ほどはヨーロッパをめぐってゆっくりしようかと考えていました。ところがコロナ禍で海外渡航が難しくなってしまったので、状況が少し落ち着いたタイミングで、まずは国内を見てみようと。

最初に訪れたのが、金属加工で有名な新潟の燕三条です。そこでものづくりの現場を見せてもらい、改めて日本のものづくりはすごいと感じました。それから半年ほど、北は青森から南は九州まで、夫婦二人で日本全国のものづくりの産地をひたすらまわり、作り手さんという作り手さんにお話を伺いました。

これまでにお会いした作り手さんは100人を超えるとのこと
これまでにお会いした作り手さんは100人を超えるとのこと

康亮さん:そうするうちに、この「いいもの」をいろいろな人に伝えていきたいという想いが強くなり、「紡ぎ舎」の構想が固まっていったのです。

作り手の方々とお会いして感じたことのひとつが、職人気質の方のなかには、「いい仕事をしていいものを作っていれば誰かが見てくれる」と信じている方も多いということ。ところが時代は変化していて、しかるべき発信があってはじめて知ってもらえ、購入いただける。後継者ができるのです。

とはいえ、作品づくりはとても時間がかかります。いいものを作ろうとこだわればこだわるほど、他にリソースをかける時間はとれないでしょう。そこで、作り手さんには作ることに専念できるように、世の中に広めることを私たちが引き取っていくという関わり合いができれば良いなと考えました。

ーー日本全国をまわるなか、永子さんはどのように感じられていましたか?

永子さん:私はもともと外資系メーカーの日本支社に勤めていたのですが、夫の海外勤務についていくときに仕事を辞め、シドニー在住当時は専業主婦でした。その当時から、自分も何かできたら良いなという気持ちはずっとあって。

そんななかで夫が新しいことを始め、それなら一緒にやれたら良いよねという自然な流れでしたね。二人で話し合いながら、次はここに行きたいね、これをやりたいねと決めていきました。

産地に行き、作り手さんと直接会うからこそ生まれる信頼と差別化

ーーネットショップを立ち上げる際、どのような点に苦労されましたか?

康亮さん:苦労しかなかった、というより私たちは苦労と思っていなかったのですが、振り返ってみると一般的に苦労したことに入るのかなと。ものを売るという経験がないところから始めたので、そもそも商品ってどうやって仕入れるのか、価格はどうやって決めるのか、下代はいくらなのか直接訊いて良いものなのかわからないことだらけでした。

永子さん:全部手探りでしたね。逆にわからないからこそ何でも訊くという感じが良かったのかもしれません。

康亮さん:とりあえず訊いてみようという感じで、作り手の方々にすごく助けられたところがあります。いろいろな作り手さんと話をするなかで、ものを売るってこんな感じなのかというのがイメージできました。

ーーそういった経験を踏まえ、これからネットショップを立ち上げられる方にアドバイスがあればお教えください。


康亮さん:商材によりますが、私たちのような手作業で作られたもの、個別性のある商品を扱うのであれば、作り手さんに実際に会うことが大事だと思います。

作り手さんからすると、自分の作品がお客さんに届くまでどう扱われるかわからないのはとても不安です。実際にお会いすることで覚悟をお伝えし、安心して作品を預けていただくことができます。ネットショップでも実店舗でも同じように、人と直接会ってコミュニケーションを取る大切さは変わりません。

永子さん:商品を買うお客さんは、それがどんな人の手でどうやって作られたのか、私たちのフィルターを通してしか知ることができません。作り手さんに直接お話を伺い、私たちがどう感じたのか、作品の背景に至るまで伝えることで、お客さんはより広がりを持って作品を感じることができると思います。

私たちが扱っている商品の多くは、この店でしか買えないというものではありません。だからこそ、なぜここで買ってくれるのかという差別化がすごく大事です。

商品ページには商品だけでなく、作り手さんの写真や想いも掲載
商品ページには商品だけでなく、作り手さんの写真や想いも掲載

ーーカラーミーショップ大賞の新人賞受賞の理由として、「読み物のような商品説明」が挙げられていました。具体的にどのように商品説明を作成されているのか、お教えください。

永子さん:「いいな」と思える商品に出会ったら、まずは消費者として商品を買い、いち消費者として価格に対する満足度や使い勝手を判断しています。それでいいなとなったら、作り手さんへお店としてのアプローチを始めます。

康亮さん:商品を使ってみてすごく良かったので、一度会ってお話をさせていただきたいとお願いすると、快諾していただけることがほとんどです。そのときに作り手さんの撮影をさせていただいたり、作品に関するいろいろなお話を伺ったりして、それを基に商品説明を作成していきます。

ご紹介いただいた場合や、手に入りにくい商品もあるので、すべての商品を最初に購入できるわけではありませんが、心の持ちようとして、いち消費者として「その商品にその値段を出すのか?」「出して良かったと思えるのか?」という目線は大事にしています。

カラーミーショップ大賞2023では優秀賞を受賞
カラーミーショップ大賞2023では優秀賞を受賞

ーーいいなと思う商品に出会うまでに、どのように商品を探されていますか?

康亮さん:商品の見つけ方はいくつかあります。

まず、ものづくりの産地を訪れたときは、伝統産業館に立ち寄るようにしています。地域の歴史や成り立ちなどの展示とともに、その土地の作品が並んでいることが多いので、そこから作り手さんに連絡を取っています。

また、Instagramを見て、いいなと思っている作り手さんの作品や商品をチェックしていますね。他に、クラフトフェアや展示会など作り手さんに直接お会いできる機会も活用しています。

私たちは基本的に人に興味がある人間なので、気になる作品に出会ったら、「どんな人が作っているんだろう?」と単純に知りたくなるんです。実際に産地に行ってみると、なぜこの場所でものづくりが栄えたのか、土地との結びつきを感じることができます。

永子さん:産地を訪れると、気候や風土など、代々つないできたものなんだということが実感としてわかります。その場の空気を感じないとわからないものがあるので、そういう点でも現地に行くことに意味があるのです。

だからこそ、商品を購入したお客さんにも現地に行ってもらいたいと思っています。自分が買ったものがどのように作られたのか、産地を見たり、そこでおいしいものを食べてもらったりしたら嬉しいです。そうやって、一個の器を買ったことをきっかけに新しいつながりを作りたいという想いがあります。

康亮さん:「いいものをつないでいく」というのは、私たちが大事にしていることです。「つないでいく」にはいろいろな意味があって、そういうつながりも作り出せたら良いなと思っています。

個体差がある商品だからこそ、ネットショップでも選ぶ楽しさを提供

ーー紡ぎ舎さんのサイトは写真も非常に素敵だと感じます。撮影はどのようにされているのでしょうか?

康亮さん:すべて私が撮影しています。ただ、ものを売るのも初めてなら物撮りも初めてで、それまで写真を勉強したこともなかったので、最初は納得いかない点だらけでした。納得できる写真が撮れるまで、数万枚、ずっと撮り続けました。

ネットショップでは説明文章をしっかり読み込んでくださる方は少ないと考えています。だから写真が重要だというのは最初から感じていました。

今はある程度どういうところが難しいというのがわかってきましたが、当時はそういう感覚すらありません。壁の色が反射して写り込むのを防ぐために壁を塗ってみたり、光の角度や強さを変えたり、布や反射板などの道具を使ったり、試行錯誤しました。

永子さん:参考にするためにいろいろなネットショップを見たのですが、写真のトーンってお店によってばらばらなんですよね。ただ、写真がとても重要なのは感じました。自分たちがどこを目指すのかを固めて、そこに近づけるためにいろいろなことを試しました。

康亮さん:商品説明は私たちのフィルターを通した主観込みのものですが、商品写真では極力客観的事実を伝えたいと考えています。だから、イメージ写真とは違い、実物の印象と大きな違いが出ないよう意識しています。

ただ、私たちが扱っている商品は手作りのものなので個体差があります。大きさ、焼け方、色の出方など、個体によって違いがあり、100%同じものをお届けすることは難しいです。それらの個体差を全部撮影するのは現実的ではありません。

そこで、極端に差のあるふたつを撮影して、商品によってこれくらいの差があるというのを見せるようにしています。ネットショップの限界でもありますが、器を選ぶ楽しみでもあり、それを理解いただいた上で受け取ってほしいというメッセージを最初から出しておくようにしています。

永子さん:ネットショップでも器を選ぶ楽しみを感じていただきたい、個体差に楽しさを感じていただきたい。そのためにちゃんと説明をして、個体差があることをわかった上で買っていただく。むしろ「こういうのが来た!」とポジティブに思っていただけたら嬉しいです。

個体差(焼けの違い、大きさの違い)がわかるような商品写真を掲載
個体差(焼けの違い、大きさの違い)がわかるような商品写真を掲載

お客さんとのコンタクトポイントを大切に、3年目の新たな取り組みへ

ーーこれまでネットショップを運営されてきたなかで、紡ぎ舎さんの強みだと感じられる点はどのようなところですか?

康亮さん:ネットショップでのお客さんとのコンタクトポイントは、お客さんがサイトを訪問してくれたときと、商品が届くとき、大きく2回あると思います。そこを大事にしています。

ネットショップの作り込みや写真、文章などは私が担当しています。一方、商品の梱包や発送はすべて妻が担当しています。私が言うのもあれですが、それがすごく丁寧なんです。毎回手書きの手紙も同封していて、2回目、3回目、10回目と、購入のたびに内容を変えています。梱包にびっくりしましたというお声は結構頂きますし、手紙を全部とっていますと言ってくださるお客さんもいるほどです。

始める前は、ネットショップってもっとドライなものと思っていましたが、今ではそういう生のコミュニケーションが大事だと感じています。

ーー開店から3年目に入りますが、今後、どのようなことに取り組まれていく予定ですか?

康亮さん:今のサイトは、ネットショップを始めたばかりの素人の目線で、こうなっていたら良いなということを落とし込んでいったものです。サイトの制作会社の方も特にネットショップに詳しいわけではなかったので、一緒に手探りで作っていったところがあります。だから今改めて、もう少しこうしたほうが良いと思う箇所もあって、見直す時期が来ているのかもしれません。

また、海外への販売も柱のひとつにしていきたいです。海外販売を可能にするアプリ「WorldShopping BIZ for カラーミー」はすでに利用しており、実際に購入してくださる海外の方もいるのですが、もっと集客に力を入れていきたいです。日本のものづくりの良さを国内にとどまらず、世界へ伝えられたらと思っています。

インタビューを通して:商品への想いがショップの差別化につながる

紡ぎ舎さんのショップを見てもそうですが、今回のお話を伺ってさらに、日本の「いいもの」を伝えたいという想いがとても伝わってきます。

ネットショップを運営して売上を上げることが目的ではなく、あくまでも目的は日本の「いいもの」を伝えることで、そのための手段のひとつがネットショップ。だからこそ、商品選定からページ作成、梱包・発送に至るまで紡ぎ舎ならではのこだわりが生まれ、それが魅力となっています。これは、何か世に広めたいモノがあり、そのためにネットショップを運営している事業者にとってヒントになるはずです。

商品説明や商品写真、カスタマーサポートなどお客さんとの接点となる部分が、自社の想いと合致しているか。ネットショップの差別化に悩んだときは、そういった点を見直してみると良いかもしれません。

▼日用品と暮らしの道具の店 紡ぎ舎(つむぎや)
https://tsumugiya.jp/

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