
【ゲストスピーカー】
木下 勝寿さん
株式会社北の達人コーポレーション
代表取締役社長
健康食品・化粧品ブランド「北の快適工房」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
集客失速のリアルを体系化。「うちも同じ」から生まれた一冊
柳田さん:今回は木下さんが2023年11月に出版された著書『チームX(エックス)』について、私が質問する形で深掘りしていきます。
本著書のテーマは新規顧客の集客ですが、まずはなぜこの本を書こうと思ったのかお聞かせいただけないでしょうか?
木下さん:この著書の前に出版した『売上最小化、利益最大化の法則:利益率29%経営の秘密』を書き始めたときは、EC事業が絶好調のときでした。ところが執筆している半年の間に集客がどんどん悪化し、自社サイト経由の購入がピーク時には1日1,000件から160件まで落ち込んでしまいます。
社員200人の会社で160件しか集客できていないというのは、単純計算すると社員1人あたりの集客件数が1件にも満たない状況ですから、厳しい状態です。著書が発売された頃には、インタビューで「絶好調です」と話しながら、内心では冷や汗をかいているような状況でした。
この状況には大きく2つの理由がありました。1つは当社が2016年から2020年にかけて、年商20億円から100億円へと一気に5倍に成長したことです。急拡大する中で多くのメンバーを採用しましたが、教育が追いつかないまま現場に配属していたのです。優秀なメンバーが入社してくれていましたが、やり方が固まらないままになってしまいました。
もう1つは効率化が行き過ぎていたことです。Webマーケティングは、一般的なマーケティングと比べると結果が数字で見えるため、例えば同じ広告ばかり出していると数字が下がってくるので、新しい広告に作り変えて出していきます。
その際、成果が出やすいように、ゼロから作るのではなく、過去に成果が出た広告をベースに作り変えるという方法を続けていました。それを長く続けているうちに、新しい広告を作るスキルが失われてしまったのです。
初期の頃は0から1を作っていましたが、伸びている時期は1から10に拡大する動きに変わります。メンバーは1から10に拡大するスキルばかりを磨いていたので、新しいクリエイティブを作るスキルがなくなり、全般的に似たような広告ばかりを出すようになってしまいました。
そこで「新しい広告を作ろう」と声をかけても、メンバーは「新しい広告ってどうやって作るんですか?」と言うわけです。初期の頃に広告を作っていたメンバーはすでに現場を離れてしまっていて、今のメンバーはお手本をもとに拡大するのは得意だけれども、新しい広告を作った経験がない。そんな状況の中、集客数がどんどん落ちていきました。
そして何とか3年ほどかけて立て直し、最後の1年で13倍まで一気に伸ばすことができました。この話を同業者や経営者の方々にすると、「うちでも同じことが起きている」とおっしゃるのです。多くの企業が同じ課題を抱えているのであれば、しっかりとまとめたほうがいいと考え、今回この『チームX』という著書にまとめました。
柳田さん:伸びているときには人手が足りなくなり、採用を強化するけれど、教育システムが追いついていなかったり、クリエイティブや仕事の基準ができていなかったりするというのはよくある話ですね。
木下さん:忙しいので、基礎をおろそかにしたまま、テクニックしか教える時間がない。表面的なテクニックで伸びる時期もあるのですが、それだけでは通用しないため、基礎からやり直そうとしても、「基礎は知りません」「確かに教えていなかったな」という状況に陥ってしまいます。
柳田さん:当時は木下さんも現場にしっかり携わっていた頃ですよね?
木下さん:今は少し現場を離れつつありますが、まだ部長職に就いています。当時は完全に現場で陣頭指揮をとっていました。市場が拡大していたこともあり、2016年頃までに作った基礎を拡大するだけで売上が伸びていた時期でした。
その後、伸び悩み始めたときに基礎からもう一度やろうと思っても、最近入社したスタッフは基礎を知らない状態。そこで初めて「確かに教えていなかったな」と気が付いたのです。
例えば中途採用で経験者や広告代理店出身者を採用しても、業界全体で既存事例を参考にして作ることが当たり前になっていたため、結局は同じように基礎ができていないという課題が出てきます。
柳田さん:広告で新しく学ぶにはトライ・アンド・エラーが必要ですが、失敗できない環境にあったり、いくつか正解があるとそれを参考に進めたりすることも大切です。ただ、効率化が進みすぎた結果、それ以外のやり方が失われてしまったということですね。
「集客=広告」になってしまう職務定義の誤認
柳田さん:状況を打破するために「木下商店からの卒業」と書かれていましたが、これがまさに本作のテーマなのだろうと感じています。中心テーマである「一瞬にして破滅に導く企業組織病」「V字回復へ導く5つのXポイント」について、中小EC企業の方に特に参考になるポイントをピックアップしながら、お話を伺っていきます。まずは「職務定義の刷り込み誤認」についてお聞かせいただけないでしょうか?
木下さん:私が起業した2000年頃は、インターネット広告がまだそれほど効果的ではない時代でした。そのため、集客に広告を使う人は珍しく、「面白いことをやっている」と見に来る人が多かったように思います。検索エンジンやSEOという言葉が一般的ではなかった時代に、検索エンジンで目立つためにはどうするか、集客力の高いサイトにどう掲載してもらうかなど、「集客=試行錯誤」であり、アイデアで集客するしかありませんでした。
これが私にとっての集客なのですが、試行錯誤を続ける中で、例えばモール広告で成果が出てきたため、そこに注力することにしたとします。私にとってはあくまで集客施策の一つに過ぎませんが、その後に採用した人にとっては、「集客の仕事=モール広告を使った集客」だと認識してしまうのです。
広告は広告で続けていくのですが、成果が悪くなってきたときに「採算が合わないから別の集客方法を試そう」と言っても、「広告で集客できないともうどうしようもないです」「広告代理店に相談します」といった反応になり、広告以外の選択肢が思い浮かばなくなってしまいます。そこで「SEOをやろう」と提案すると、今度は違う仕事を押し付けられているような感覚になり、「自分の仕事が忙しくてできません」という返答が返ってきます。
この例で言えば、「広告は集客の一部を担っているに過ぎない」と教えていかないと、仕事の捉え方そのものが変わってしまうことがあります。「広告を出さなくて済むのが一番いい」と言うと、「それだと僕の仕事がなくなりますよね」と返ってくる。「いやいや、その状況を作ることこそが仕事なんだよ」という不毛なやり取りになってしまうのです。
柳田さん:木下さんの1冊目の著書にもありますが、無駄な広告は削減し、広告を出さなくても売れる状態を目指すのが理想です。しかし、広告で売れないのは商品が悪いせいだというように、外的要因のせいにしてしまうことも問題ですね。
ECをテクニックで伸ばしてきた人ほど、このような職務定義の誤認を起こしやすいと思い、ここでも取り上げさせていただきました。
木下さん:著書にも書きましたが、新入社員が作成した広告を先輩がチェックする工程を設けていました。しかし、良い広告を作ることや成果を出すことではなく、「先輩がOKを出す広告を作ること」が目的になってしまうこともありました。
このときはチェックする先輩側にも課題がありました。面白い広告を作っているものの、ランディングページの内容と合っていなかったのです。
柳田さん:広告を作る人とランディングページを作る人が、それぞれ部分最適になってしまっているのですね。
木下さん:ランディングページに対して、さまざまな切り口で広告を作っているはずなのに、広告だけを見てチェックしていたため、結果として商品やランディングページに合わない広告になってしまいました。私自身も、指導の仕方を間違えてしまったと反省しています。
柳田さん:部分最適で仕事をしてしまうことと、外的要因のせいにしてしまうこと。この2つは大きな課題になりやすいポイントだと思います。特にスタッフが増えてきた組織では陥りやすいので、気を付けなければなりませんね。
お手本依存が奪う「ゼロから作る力」
柳田さん:続いて2つ目の「お手本依存」についてお話しいただけないでしょうか?
木下さん:先にも少しお話ししましたが、本来は新人に広告の作り方を教えるときに、商品とユーザーを見て考えるという基礎を教えなければなりません。しかし、忙しくて教える時間がないため、とりあえず成果が出ている広告を見せて「こんな感じで作って」と依頼してしまうのです。
成果が出ている広告をもとに作るので、成果も出やすい。これが成功体験になってしまうと、成果が出ている広告をお手本にして広告を作ることが仕事だと思うようになり、ゼロから作る力が身に付かなくなってしまいます。
例えばD2C事業を立ち上げたという人と交流会などで話すと、「〇〇の会社が儲かっているから真似して始めたけれど、うまくいかない」という相談を受けることがあります。それはそうだろうと思いますね。
D2Cは単に成功事例を真似するのではなく、自分たちの想いや価値観を商品を通じて伝えていくものです。だからこそ、真似をするだけではうまくいかないのです。
柳田さん:型から入りすぎることで主体性が失われてしまっているのですね。非常によく見られる事例ではないでしょうか。
今の施策だけ見て視野が狭くなる「職務の矮小化」
柳田さん:次に「職務の矮小化」です。新しいことをやらない、古いことを掘り起こさないといった状態が当てはまりますが、著書の中では「良い広告ばかりに目を向けていると、どんどん視野が狭くなっていく」と紹介されていました。
要因としては情報伝達の課題もあるのかなと思います。特に人数が増え、部署が分かれていると横の連携ができず、過去に試した施策について知っている人がいないという状況に陥りやすいですね。
木下さん:会社の規模と時間の経過も影響していると考えています。例えばYahoo!という広告メディアに初めて広告を出稿するときは、どんな広告枠があるのか調べ、さまざまなパターンを試したうえで成果が出やすい枠を選びます。しかし、新しく入った人は選定された枠しか教わらないので、その後に良い枠が出てきても気付かないのです。
柳田さん:1つ目の「刷り込み」と重複する部分もありますが、「今までこれでやってきたから大丈夫」と考え、仕事の範囲を狭めてしまうケースですね。
私も経験があります。以前はMeta広告の効果が良くなかったので出稿を取りやめていましたが、最近は再び成果が出るようになってきています。自分で試しながら新しい情報をキャッチしていかないと、過去の経験にとらわれて成果の出る取り組みを見逃してしまう可能性があります。
木下さん:そうした情報を仕入れるソースがあるかどうかも重要です。「広告代理店とインハウスはどちらが良いのか?」というのはよく話題になりますが、インハウスは自社商品に関するデータが蓄積され、自社商品を売ることについて詳しくなれます。一方で広告代理店と比べると、新しい広告メディアで何が伸びているのか、他社ではどのような取り組みが行われているのかといった情報は入りにくいのです。
当社はインハウスで運用しているため、「インハウスが最高」と思われることがあります。しかし、広告代理店には広告代理店の良さがあり、伸びている新しい広告媒体を提案してくれるなど、情報を得られるメリットがあります。もちろん自社に合うかどうかの見極めは必要ですが、最新情報を入手しやすいことも大切なポイントです。
柳田さん:そのプロセスがないと、同じ広告ばかりを配信することになり、ROASやCPOが悪化してしまったり、他社に模倣されたりしてしまいますね。
木下さん:実は当社は動画広告への対応が遅れていました。静止画広告ばかりに取り組んでいる間に、YouTubeやTikTokが伸びていったのです。今では動画広告も配信していますが、一時期は社内で誰も手を付けない状態に陥っていました。
柳田さん:情報源があるかどうかに加えて、企業文化も重要ですね。数字ばかりを見ていたり、反対に数字を見なさすぎたりすると、組織は徐々に変化への対応力を失ってしまいます。
北の達人コーポレーションさんの事例は、大きな会社であっても同じ課題に直面することを示しています。企業規模に関係なく、常に視野を広げ続けることが重要なのだと感じました。
後編に続く
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