
【ゲストスピーカー】
木下 勝寿さん
株式会社北の達人コーポレーション
代表取締役社長
健康食品・化粧品ブランド「北の快適工房」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
個人×チームの「KPI」設計で、全体最適へ
柳田さん:一瞬にして破滅に導く企業組織病(詳細は前編にて)を解決するために、どん底からV字回復へ導く「5つのXポイント」が、木下さんの著書『チームX(エックス)』にて語られています。Xポイントとは変革点という意味ですね。今回はその中から、KPI、共通言語、風土の3つに絞ってお聞かせいただければと思います。
まずKPIについてですが、北の達人コーポレーションさんがKPIを設定していなかったとは考えにくいのですが、実際はいかがだったのでしょうか。
木下さん:実はKPIを作っていませんでした。私は、KPIは使い方を間違えると破滅を加速させるものだと考えています。KPIはメンバーに対して「これをやればいいですよ」と示す指標です。だからこそ、メンバーが優秀であればあるほど、不適切なKPIを設定すると誤った結果を導くことになりかねません。
過去に経験した例として、上限CPOを設定し、「その範囲内で最大限集客してください」というKPIを設けたことがありました。メンバーは頑張ってくれて集客数は大きく伸びましたが、LTVが下がってしまい、思ったように売上が伸びなかったのです。
原因は当時流行していたポイントサイト経由の集客でした。ポイントサイトは購入時にポイントが付与されるため集客しやすく、KPIに沿って運用した結果、そこへの投資が増えていきます。しかし、ポイントサイト経由の顧客はLTVが低い傾向にありました。つまり、上限CPOの範囲内で集客人数は増えたものの、売上や利益の成長にはつながらなかったのです。
メンバーの立場からすれば、社長の指示通りに最大限取り組んでいるわけです。その経験から、KPIによって考える幅や余地が失われることを実感します。その後はKPIを設定せず、利益から逆算して最善の方法を考えるという、比較的自由度の高い運営をしていきました。
ただ、このやり方は少人数だからこそ成立するもので、組織が一定規模を超えるとKPIは必要になります。そこで最初に設定したのが、広告運用チームにおける「担当媒体の直近半年平均集客人数の1.2倍」を目標とし、その達成率で評価する仕組みでした。
柳田さん:目標は個人単位で設定していたのですか?
木下さん:個人とチーム全体、それぞれに設定しています。
柳田さん:著書を読んでいて印象的だったのが、全体最適という考え方です。1人ひとりが成果を出せば良いという考え方では組織は伸びません。チームで成果を上げようと思うと、自然とコミュニケーションが必要になりますよね。
木下さん:広告のクリエイティブチームと運用チームでは、それぞれ異なるKPIを持っています。ただ、自分の成果を上げるためには、両者が話し合ったほうが良いのです。一方で、より大きな影響があったのは、KPIや目標を設定したときに、それをきっかけに行動を変える人が現れたことでした。
評価制度が変わっても行動を変えない人は少なくありません。しかし当社では、2人ほど成果を上げるために徹底的に数字へ向き合う人が現れました。その姿勢が周囲にも伝わり、組織の風土が変わっていった感覚があります。
当社ではコミュニケーションを基本的にすべてZoomで行っています。資料共有がしやすいため、打ち合わせも自席からZoomで実施しています。すると、Zoomでの会話が周囲にも聞こえるため、「あの人はこうやって成果を出しているのか」「そんな取り組みをしているのか」といった情報が自然に伝わっていくのです。結果として、それが間接的な教育につながったことも大きかったように感じています。
柳田さん:著書の中では、見やすくする、わかりやすくするといった工夫に加え、利益から逆算して考えるというお話もありました。
木下さん:当社では「利益から考える」という価値観が根付いています。そのためメンバーからも、「このKPIだと売上は伸びるけれど、利益は最大化されないと思います」といった意見が出てきます。
賢いメンバーが多いので、KPIが複雑な計算式になりすぎることもあります。その際は「もう少しシンプルにしよう」と声をかけています。何を頑張れば良いのかが明確で、なおかつ売上や利益の向上につながるKPIにたどり着くまで、半年ほどかけてチューニングしていきました。
柳田さん:これまで部分最適になっていたところを、利益を生み出すことを目的としたKPIへ最適化していったということですね。率ではなく数で見るという考え方も参考になりました。
木下さん:達成状況を評価するフォーマットを決めておかないと、人は自分に都合の良い数字を見せたくなるものです。例えば達成率は70%なのに、「対前年同期比120%です」と言われると、一見良い成果に見えてしまいますよね。
柳田さん:何を目指すのか、そしてどの数字で評価するのかを明確にすることが重要なのですね。
一言で伝わる「共通言語」が暗黙知を形式知に変える
柳田さん:次に非常に重要だと感じたのが「共通言語」です。社内のさまざまな場面で、一言で伝わるようにしておくべきだという考え方ですが、ネーミングが非常にわかりやすいですよね。どのような考えで作られているのでしょうか。
木下さん:かなり考えていますね。昔からマーケティングに携わっている人からすると、「ファンダメンタルマーケティング」は、いわゆる王道のマーケティングのことだと思います。
一方で、Webマーケティングから入った人は、データ分析や広告運用のことをマーケティングだと認識している場合が多く、まったく別のものに見えるのです。だからこそ、相手の視点に立ってネーミングを考えるようにしています。
柳田さん:見ただけで意味が伝わるネーミングになっていますよね。その付け方がとても上手だなと。
木下さん:暗黙知を形式知に変えていくプロセスですね。私自身が暗黙知をたくさん持っているので、それをどうすれば他の人に伝えられるのかを常に考えています。たまたま読んだ本がきっかけになって思い付くこともあります。
柳田さん:組織としてどうありたいのかが明確になっていないと、共通言語は生まれません。その考え方が整理され、実際に社内で活用されているのがすごいなと思いました。
木下さん:以前、リクルートで人材関連の仕事をしていたことがあり、研修の販売にも携わっていました。
例えば、企業向けの2泊3日の研修を担当するトレーナーの方と話したときに、「2泊3日で人は変わらない。でも共通言語を作ることが重要なんだ」と言われたのです。「あの研修で経験したあれだよね」という一言で伝わる状態を作ることで、研修後の教育コストが下がる。そのために研修があるのだと理解しました。それ以来、意識的に共通言語を作るようにしています。
柳田さん:著書ではさまざまな共通言語が紹介されています。複雑な考え方や状況を一言で表現できるので、スタッフの皆さんも仕事を進めやすくなるのだろうと思います。
KPIを変えると、行動が変わり、風土が変わる
柳田さん:次に、ビジネスにおいて重要な「風土」についてお聞かせください。
木下さん:風土は現場から生まれてくるものでもあるので、なかなかコントロールしにくいと感じています。頭が良くて数字には細かいけれど、風土には目が向かないという人もいます。「頑張ったら損をする」という風土はありませんでしたが、「新しいことにチャレンジする」風土は失われていました。
その状態で新人を入れると、どうしても既存の風土に染まってしまいます。そこで、新人だけのチームを作り、直接教育するようにしたのです。例えば、「ユーザーヒアリングをしよう」と言っても、これまでヒアリングをせずに成果を出してきたメンバーの中には、積極的に取り組もうとしない人もいました。
一方で、新入社員には「仕事を進めるうえで、まずユーザーヒアリングが必要だ」という前提から教えると、すぐに動いてくれるのです。著書にも書きましたが、「50代女性向けの商品だから、50代女性の話をたくさん聞いてみるといいよ」と伝えたところ、50代女性が多く住むシェアハウスに引っ越した社員もいました。
柳田さん:すごい行動力ですね。
木下さん:そのとき、このメンバーは徹底的に育てようと思いました。
柳田さん:業界の常識や会社の慣習に染まっている人は多いと思います。しかし、それがあるとお客様のニーズに応えられなくなることもあります。固定観念を取り払うほど、お客様の声に向き合いやすくなると私も感じています。ただ、長く同じ業界や会社にいる人に、急に考え方を変えてもらうのは簡単ではありませんよね。
北の達人コーポレーションさんの場合、『チームX』として変革を進める中で中心となるメンバーがいたわけですが、その方々はどのように選ばれたのでしょうか。
木下さん:当時の私は社長兼部長兼課長のような立場で、全メンバーと直接仕事をしていました。すると、例えば入社2年目くらいの社員で、絶対にブレない人がいたのです。他のメンバーは目先の課題に気を取られてしまうこともありましたが、彼だけは違いました。
彼が入社するまでは私が一番ブレにくいと思っていたのですが、それを上回る人が現れたのです。そういう人は何人かいましたが、組織の中では先輩への遠慮もあって、自分の考えを押し切って実行することはなかなかできません。そこで、そのようなメンバーが力を発揮できる環境を意識的に作りました。
柳田さん:そうしたメンバーに考え方やノウハウを伝えていく中で、変革の中心を担う存在になっていったのですね。そうした人たちを中心にプロジェクトを進めたことが、大きな成功要因だったのではないかと。
若い人にも活躍の場を与え、役割を任せ、自ら動いて変えていく雰囲気を作った。それこそが風土なのだろうと思います。
木下さん:結局、KPIによって風土は変わるのです。KPIとは会社の価値観を数値化したものです。だからこそ、KPIによって風土が形作られていきます。
当社の場合は、KPIを達成するためにはお互いに協力したほうが良い設計になっていました。その結果として、協力し合う風土が生まれたのだと思います。
柳田さん:著書の中では、同じ宅配業者でもA社とB社でKPIが異なれば、不在時の対応が変わるという例が紹介されていました。理念がKPIに反映され、そのKPIが風土として表れるということですね。
今回はEC業界の方に参考になるポイントを中心にお話を伺いましたが、本書ではストーリー形式でわかりやすく整理されています。具体的な数字や実践内容も紹介されているので、ぜひご覧いただければと思います。
木下さん:大手企業の中の一チームや、中小企業の経営者の方に向けて、数字の伸ばし方やタスク管理の方法などもまとめています。
柳田さん:今回ご紹介できなかった内容もありますが、「絶対リーダーにしちゃいけない人10か条」なども印象的でした。読みやすく実践的な内容ですので、興味のある方はぜひ手に取ってみてください。
おわりに:失速からV字回復へ。「チームX」が示す、EC組織の立て直し方
今回のテーマとなった著書『チームX(エックス) ── ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方』は、絶好調だった集客が1日1,000件から160件まで落ち込んだ経験を起点に、組織を立て直していく過程がまとめられています。
対談では、急成長による教育不足や職務定義の誤認、お手本依存、職務の矮小化といった組織課題に加え、それらを乗り越えるためのKPI設計や共通言語づくり、風土改革について語っていただきました。
EC事業においては、広告運用や販促施策などの手法に目が向きがちですが、本書では組織のあり方や人材育成の重要性にも触れられています。組織の成長に課題を感じている事業者やマネジメント層にとって、組織づくりを見直すきっかけとなる一冊かと思います。
EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。
■サヴァリ株式会社へのお問い合わせはこちら
https://savari.jp/contact/
あわせて読みたい















