【ECの未来】アルビオンがSNS運用にKPIを置かない理由とは?顧客の声から考える、ブランドとファンの関係づくり
記事の概要

楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っているサヴァリ株式会社が運営するYouTubeチャンネル『ECの未来』では、ECに関わるさまざまな方をお呼びして、その方たちの得意ジャンルのお話をMCである株式会社柳田織物の柳田敏正さんと対談形式でお届けしています。

今回は、株式会社アルビオンの国内推販グループ長である榊原隆之さんに「SNS運用」をテーマにお話いただく回をご紹介いたします。

【ゲストスピーカー】
榊原 隆之さん
株式会社アルビオン 国内推販グループ グループ長
ANNA SUI」「PAUL & JOE」など、複数の化粧品ブランドを展開

【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)

メーカーが顧客と直接つながることで得られた「一次情報」

柳田さん:まずは御社の事業についてお聞かせいただけますでしょうか。

榊原さん:多くの女性からは「アルビオンといえば、あの商品だよね」と思っていただけるかもしれません。50周年を迎えるロングセラー化粧水があり、女性のお客様には広く認知いただいている化粧品メーカーです。

代表は「日本から世界へ羽ばたく高級化粧品を作ろう」と語っており、当社では化粧品を企画・製造し、国内外で販売しています。私の部署では、ファッションブランドのライセンスコスメである「ANNA SUI」や「PAUL & JOE」などを担当しています。

柳田さん:ライセンスコスメも海外向けに販売されているのですか。

榊原さん:はい。当社がライセンス契約を結び、商品を企画・製造し、海外にも販売しています。いわば化粧品におけるマスターライセンスを持っている立場です。そのため、メーカーでありながら直販も行っているという位置づけになります。

柳田さん:規模が大きいと、直販はしづらいイメージがありますが、いかがでしょうか。

榊原さん:もともとは、いわゆる百貨店や全国の有名な化粧品店に商品を卸し、そこで販売していただく形を取っていました。今もビジネスの根幹はそこにあります。ただ、時代が変化する中で、たとえば駅ビルでブランドのアイテムをすべて集めたショップを展開しようとすると、それを販売店にお願いするのはコスト負担が大きいのです。

規模の大きなショップで、化粧品だけでなく、ファッションやバッグ、財布など、別のライセンス商品も仕入れてそろえ、販売するには相当なコストがかかります。それでも、半ばブランドのために身を削るような形で、そうした展開を行っています。

柳田さん:本来は卸のほうが楽だけれど、それだけではブランドの広がりを作りにくいということですね。アメリカでは、スーパーにライセンスコスメのコーナーがある場合もありますが、日本ではあまり見かけません。

榊原さん:そうですね。ブランドの世界観を大切にしたいメーカーが多いため、スーパーなどに展開するケースは少ないと思います。世界観を追求するためには、直営の場も必要だと考えています。

柳田さん:そもそもANNA SUIやPAUL & JOEは、とがったブランドですよね。誰もが好きになるというより、強い世界観に惹かれるブランドという印象があります。

榊原さん:当社の代表は、とがったものが大好きですから。

柳田さん:そうした背景を踏まえて、直営店ではどのような売り方をされているのでしょうか。

榊原さん:もともと当社は、リアルな店舗で直接販売することに徹底的にこだわり、ブランドの世界観を体験していただくことを大切にしてきました。そのため店舗の存在感が強く、ECはここ5年ほどで本格的に取り組み始めた領域です。

ただ、オンラインでお客様とのやりとりを始めると、思いも寄らない効果がありました。店舗でもオンラインでも、お客様と直接コミュニケーションを取るようになったことで、これまでは卸先の販売スタッフの方を通じて聞いていた声が、よりリアルに入ってくるようになったのです。

「実はここがすごく評価されていたんだ」と気づくこともあれば、「ある意味、かなり独りよがりだったのだな」と気づかされることもありました。それが、ビジネスの方向性を見直すきっかけになっています。

柳田さん:いわゆる一次情報が入ってくるようになったということですね。店舗スタッフであれば自社の人なので、情報を引き上げてアドバイスしてくれるかと思いきや、途中でバイアスがかかったり、そもそも共有されなかったりすることもありますよね。

榊原さん:人と人が対面していると、ものすごく怒っていても、相手の顔を見ると言えないことがあります。一方で、テキストでいただくご意見は辛辣というか、とてもストレートです。お褒めいただく場合も、お叱りをいただく場合も、率直な意見を聞くことができます。

そういう意味では、これからブランドを大きくしていくうえで、非常に重要な取り組みができていると感じています。

柳田さん:最近は電話口で罵倒するような方は少なくなってきていますが、テキストの場合は直球で届くことがありますよね。

榊原さん:ただ、私たちのブランドでは、お叱りよりも、比較的熱い想いを伝えてくださる方が多いですね。

柳田さん:想いをテキストで送ってくださるというのは、重要なポイントですね。私のショップでは男性のお客様がメインターゲットなので、熱い想いが届くということはあまりありません。

商品を使ったときのストーリーを書いてくださるというのは、女性のお客様が中心のショップならではなのかもしれません。

榊原さん:オンラインを始める前は、ブランドに対して何か伝えたいことがあっても、お客様は店舗に行くしかありませんでした。SNSにも取り組んでいましたが、SNSでお声がけいただいても、ブランドからお客様に積極的にアプローチすることはしないという、多くのブランドと同じような姿勢を取っていたのです。

柳田さん:写真を載せたり、商品を紹介したりと、発信のためにSNSを使っていたのですね。

榊原さん:そうです。本来、SNSは双方向のコミュニケーションを生む場であるはずなのに、ブランドの言いたいことを一方的に伝えるツールとして使っていました。そうすると、どうしてもネタ切れしてしまいます。

柳田さん:映える写真を撮ったり、新商品を紹介したりすることはできますが、それも続けていると見る側も慣れてきます。そこで、お客様の声を活用するようになったのですね。

榊原さん:はい。たとえば、ある商品について、ブランドとしては「潤い」を感じられる商品として発信し続けていました。しかし、お客様からの返信やレビューを見ると、「感触」が好きだという声が多かったのです。つまり、お客様は必ずしも潤いだけを求めているのではなく、使ったときの感触が良くて、その商品を使い続けてくださっていることがわかってきました。

そうすると、「感触」という魅力をもっと伝えていこうという発想になりますし、これまで伝えきれていなかったことにも気づかされます。そうしたフィードバックを、非常に早いサイクルで得られるようになりました。

実は、これまでも現場の販売スタッフから同じような意見は上がっていたはずなのです。ただ、お客様の声を直接見るのと、レポートとして見るのとでは、受け取り方が少し違います。

柳田さん:せっかく引き上げられた声を、見る側がどう受け取るかにも課題があったということですね。

榊原さん:はい。そこは大きく反省しています。

柳田さん:一次情報だからこそ、理解しやすい面があるのだと思います。今の「潤い」と「感触」の話は面白いですね。売り手側の想定と、お客様が価値を感じているポイントが全然違うということは、よくあります。

榊原さん:先ほどの商品に限らず、「こういうつもりで売っていたけれど、お客様はそういうつもりで買っていなかった」ということは、知人と話していてもよく耳にします。だからこそ、顧客の声を聞くことは、ますます重要になっていくのだと思います。

柳田さん:化粧品では少ないかもしれませんが、特殊な商品では、お店側が想定していた使い方と、お客様の実際の使い方が全然違うという話もよくあります。そうした声を直接聞けるのは、非常に有益なことですね。

SNSは一方的な情報発信から、コミュニケーションの場へ

柳田さん:コミュニケーションにはさまざまな手段がありますが、現在は何を活用されていますか。

榊原さん:ブランドとしては1つのLINEアカウントを持っており、店舗では販売店ごとにアカウントを運営する形を取っています。

柳田さん:ブランドの世界観を表現するために、使い分けているということでしょうか。

榊原さん:正直なところ、そこまで明確に理解して使い分けていたわけではなかったと思います。どのSNSにおいても、基本的には情報を伝えるために使っていたため、写真のサイズを変えてそれぞれのSNSに配信するなど、コンテンツもある程度同じものを使っていました。

今思えば、LINEではこういうメッセージ、Instagramではこういうメッセージというように、本来は棲み分けをすべきだったのだと思います。ただ、SNSが普及してきた順にアカウントを作ってきたので、とにかく情報発信をしようという感覚で使っていました。

柳田さん:そもそもアカウントは開設しているけれど、運用しきれていないブランドやショップもあります。SNSは取り組むべきものではありながら、手間もかかりますよね。アナリティクスで多少わかる部分はありますが、特に一方通行の情報発信では、効果が見えづらい面もあります。

榊原さん:疲れますよね。オンラインサイトを始める前は、着地点が店舗でした。全国に多くの店舗がありますが、結局お客様が何を見て来店したのかまではわかりません。ただ、今思えば、その頃のほうが情報発信をのびのびとできていたのかもしれません。

今は着地点がオンラインサイトなので、ある意味すべてがわかってしまいます。「このコンテンツは良かった」「この投稿は良くなかった」と数字で見えるようになると、少し固まってしまうところがあります。

ここで反省すべきなのは、SNSを一方通行の情報発信ツールとして捉えていたことに、気づくまで少し時間がかかってしまったことです。次のステップである「お客様とやり取りをする」というところに行き着くまでに、2〜3年ほど、発信だけを続けてしまっていたのです。

柳田さん:ただ、発信していたからこそ気づけたということも重要だと思います。

榊原さん:周りの人からアドバイスはもらっていたのですがね。

柳田さん:メーカーとしての立ち位置であり、ラグジュアリーに近づけば近づくほど、情報発信に寄る傾向はあるのかなと思います。たとえばセレクトショップのように、お店として運営されているところは、コミュニケーションの重要性をよく理解している印象があります。ブログに静的なHTMLでアップするよりも、反応を得やすいSNSを使うというのは王道ですよね。

榊原さん:メーカーやブランドの情報発信は、出そうと思えば毎日でも発信できます。だからこそ、何のために取り組んでいるのかがズレていってしまうことも。

オンラインサイトを始める前は、ブランドの知名度を上げ、全国のお店にお客様が訪れるようにするという視点で発信していました。しかし、オンラインサイトを着地点にしようとすると、「この投稿で売れなければいけない」という感覚に陥ってしまいます。

でも、そもそも立ち返ると、SNSとは個人が楽しむものです。そこに企業が売上を目的に発信することは、本当に良いことなのか。社内では、そうした意見が常にぐるぐると巡っており、まだ完全には抜け出せていない部分もあります。

ただ、オンラインサイトを始めてお客様の声を聞くようになってから、担当者が「SNSはもっとこうしたい」と考えて動くようになりました。具体的な意見も出るようになり、会社としてオンラインサイトを始めてよかったと感じています。SNSの見方が変わり、お客様の声の受け取り方も変わったことは、大きな収穫だったと思います。

柳田さん:大前提として、SNSは売る場所ではありませんよね。

榊原さん:そう思います。実際のところ、それぞれのSNSごとに相性の良いアイテムはあると思います。ただ、売ることに注力するのであれば、SNS以外の手段のほうが売りやすいという見方もあると思うのです。

柳田さん:お話を伺っていると、さまざまな取り組みを経て、原点回帰されているように感じました。もともとSNSではブランドの知名度を上げようとしていたというお話でしたが、会社としてSNSで売上を立てることを求めていたのでしょうか。

榊原さん:私はそのようなことを一切言っていないのですが、世の中にはそうした情報が多く出ています。「SNS経由の売上が良い」「バズって売れた」といった情報を見ると、担当者は多少焦ってしまいます。

柳田さん:でも、SNSで売ろうとすると見方が変わってしまいますよね。知名度を上げることやブランドを知ってもらうことよりも、キャッチコピーの付け方などに意識が向いてしまいます。

榊原さん:そうですね。私たちはメーカーですから、高品質で、お客様に喜んでいただける商品を作ることが大前提です。その商品をお客様に使っていただき、また買っていただく。そのサイクルを作る中で、お客様とどのようにコミュニケーションを取っていくのかを、今あらためて見つめ直しているところです。

柳田さん:実際に足を動かしているからこそ、できることですよね。素晴らしいと思います。また、スタッフの方々がそれをきちんと受け止めて、取り組もうとしていることも良いですね。

榊原さん:スタッフが自由に意見を言えること、そしてトップも聞く耳を持って受け入れてくれるところは、当社の良いところだと思います。この環境があるからこそ、良いサイクルで改善が進んでいるのだと感じています。

KPIはあえて持たない。フォロワーとの質の高い関係性を目指して

柳田さん:SNSにおけるKPIは設定されていますか。

榊原さん:KPIは持たせないようにしています。

柳田さん:それは良いなと思いました。一般的には、フォロワー数やSNS経由での流入、売上などをKPIに設定するケースが多いと思います。

榊原さん:当初はKPIを設けていました。フォロワー数やインプレッション数、いいねの数などを設定していたのですが、「そうではないよね」と運用する中で気づきました。

柳田さん:そうしたKPIを設定しようとすると、キャンペーンを打つなど、要するに余計なことをしてフォロワーを集めることになりがちです。結果として、ライトユーザーが集まってしまう。キャンペーン目的で入ってくるユーザーは、ノイズになりやすいですよね。

榊原さん:過去には、LINEの友だちを増やすことをKPIに設定していた時期がありました。約100万人まで増えたのですが、その後、大量にブロックされてしまったのです。

キャンペーンによって、スパイク的な効果を生み出せることはあります。ただ、それがすべてではないということは、今では担当者全員が理解しています。そのため、以前ほど「キャンペーンをしましょう」とは言わなくなりました。

柳田さん:そのほうがブロックは減りますよね。LINEの友だちが多くても、ブロックが増えてしまえば配信効率は落ちてしまいます。これはよくあることだと思います。

おわりに:SNSを「聴く場所」へ変える、本質的なファンづくりの形

アルビオンでは、直販を始めたことで顧客の声が一次情報として届くようになり、SNSの捉え方にも変化が生まれました。一方的に情報を発信する場としてだけではなく、顧客の声に耳を傾け、ブランドとの関係性を深める場としてSNSを見直しています。

フォロワー数やSNS経由の売上といった目先のKPIを追いかけるのではなく、「SNSは個人が楽しむ場所」という原点に立ち返る。その姿勢は、企業側の独りよがりな発信を見直し、顧客との対話を重視する姿勢にもつながっています。

実際に、顧客の声に向き合うことで、メーカー側が気づいていなかった商品の価値が見えてくることもあるでしょう。ブランドが伝えたいことと、顧客が魅力に感じていることの違いを知ることは、商品訴求やコミュニケーションを見直すうえで大きなヒントになります。

SNSを「売る場所」としてだけ捉えるのではなく、顧客の声を聴き、ブランド体験を深める場所として活用する。アルビオンの取り組みは、SNS運用のあり方に悩む多くのECショップ運営者にとって、参考になるのではないでしょうか。

EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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