
国際ブランド営業部 国内推販グループ
グループ長 榊原隆之さん
株式会社アルビオン(以下、アルビオン)は複数のブランドでECサイトを運営しています。2018年、ECサイトの立ち上げを機にメールマーケティングに力を入れ始め、今となってはブランド愛にあふれるアツいお客様の集客の入り口となっているようです。今回はアルビオンの榊原隆之さんに、メールマーケティングについて幅広く伺いました。
この記事の目次
正確な効果測定ができない情報発信をしていたECサイト立ち上げ前
――2018年のECサイト立ち上げ当時、アナ スイ・ポール & ジョーではどのようにしてお客様に情報発信をしていましたか?
榊原さん:ブランドによってさまざまな情報発信ツールを利用していましたが、LINEやInstagram、Twitter(現:X)、FacebookといったSNSが中心でした。当時、社内では「今はLINEやSNSの時代でメルマガはもう読まれていないよね」といった雰囲気があったため、メルマガはほとんど送っていませんでしたね。
ECサイトを立ち上げる前はお客様がお買い物をできる場所は店頭だけでしたので、情報発信の目的は自ずと店頭誘致になります。とはいえ、来店いただいたお客様に毎回「何を見てお越しいただきましたか?」と聞くわけにはいきませんので、情報発信を通して具体的にどの程度の来店数に繋がったのか測定することは難しいです。そのため、当時は目に見える「フォロワー数」を意識して運営していました。
ただ、LINEに関してはサンプルを提供するクーポンを配信すると店頭での利用数が明確にわかります。来店数を指標にする上で最も効果を見やすいため、LINEに力を入れるようになったわけです。友だち数が100万人を超えたブランドもありました。

効果の可視化により大きく変わった情報の発信方法
メルマガの重要性に気づき、友だち数100万人のLINEは休止へ
――100万人超えのLINE公式アカウントをお持ちのブランドはなかなかいないかと思います。ECサイトを立ち上げてから、どのような変化が起きたのでしょうか?
榊原さん:情報発信の着地点を公式サイトと定めることにしました。立ち上げ前まではお客様にお買い求めいただくことよりは、フォローしていただくよう働きかけることが主でしたが、ECサイトは各SNSやメールなど、情報の送り先ごとに効果が明確に確認できます。すると、どこからどのようなコンテンツを配信しようかという意識に変わっていきました。
それまでの「フォロワー数」を意識した運用では、配信先に関わらず全体的に同じような内容を発信していました。ECサイトは情報の配信先ごとの効果が確認できるので、各SNSの特徴や閲覧している方のブランドへのファン度が徐々にわかるようになり、配信先に合わせたコンテンツを考えて発信するようになりました。
情報発信を通した気づきの1つが、メール経由の売上の高さです。ECサイトを立ち上げる前まではたまにしか送っていなかったメルマガですが、本格的に運用を始めてみると、開封率の高さと経由売上高の大きさに驚かされます。
一方で成果が見えるようになったことで、LINEの運用を現在は休止しています。100万人を超える友だちに一斉配信をすると、たくさんのアクセスと経由売上に繋がるものの、費用対効果も見て、一斉配信ではない役割にしていこうと考えています。
媒体ごとの閲覧者を意識した情報発信
――効果が可視化できるようになり、力の入れどころが変わったわけですね。メルマガやSNS以外にもモバイルアプリも運用されているとお聞きしました。それぞれ、どのように使い分けているのか教えていただけますか。
榊原さん:メルマガはブランド愛あふれるアツいファンに情報をお届けするツールと社内で位置づけ、無理に購読いただくのではなく、読みたい方が購読できるような導線設計にすることを大切にしています。配信通数ばかり増やしても読んでいただけなければ開封率が下がり、メルマガを書くスタッフのモチベーションにも影響が出てしまうかもしれません。
広く情報をお届けするSNSとアツいファンにお届けするメルマガの間を埋めるため、モバイルアプリを提供しています。あるブランドは来店のきっかけづくりを目的とし、別のブランドでは常にブランドと近い存在になることを目的に運用しています。後者を実現するのは簡単なことではなく、実現に向けたコンテンツの作成と発信に苦労しているのが正直なところです。プッシュ通知は長い文章を書いても読んでもらいづらいので、どうすれば簡潔に毎日起動したくなるような存在になれるのか日々考えています。

非効率でもお客様に喜ばれるコンテンツ作りが開封率55%超に
店頭での接客経験をコンテンツに活かす
――お客様と最もアツい繋がりを持つ手段としてメルマガを活用しているとのことですが、どのようなコンテンツをお届けすれば良いかわからない事業者の方は多い印象です。アナ スイ・ポール & ジョーからはどういったコンテンツを配信しているのでしょうか。
榊原さん:メルマガは月に8本ほどお送りしています。半分は新商品・限定品のご案内、もう半分は販促に直接結びつかないようなコンテンツです。このとき、後者のコンテンツは店頭でお客様を接客する際にお伝えする内容をもとに作成しています。
弊社のECチームは店頭での接客経験を持つスタッフがメルマガを執筆していることもあり、引き出しが多いことが強みです。店頭では時期によって話すトピックがたくさんあります。例えば3~4月頃には紫外線や日傘をテーマに、4~5月頃は梅雨に関連して革製品のお手入れをテーマにしたコンテンツをお送りしました。
――好きなブランドからのメールをついつい読んでしまう気持ちはわかります。時期に合ったコンテンツであればなおさらですね。特に反響のあるコンテンツを教えていただきたいです。
榊原さん:ブランド誕生のヒストリーやデザイナーの動向など、ブランドならではの情報発信はよく読んでいただけます。特定の方へのメールでは、商品Aを購入した方にその商品の使い方をお送りするなど、店頭でスタッフと自然なコミュニケーションで得られる情報を、ECサイトで買い物をした方にもしっかりとお伝えできる工夫をしています。現在利用しているメール配信ツールのKlaviyoではお客様に合わせて自動でメーリングリストをセグメント分けすることが可能です。今では独自で40以上のセグメントを作成し、お客様との接点を多く持てるようになっています。
他にもいろいろなコンテンツをお届けしていますが、メルマガはアツいお客様に読んでいただく意識で作成するため、過去にお送りした文章をコピペして丸々同じ内容にすることは禁止しています。非効率なことかもしれませんが、お客様のアツい気持ちにお応えできるように一生懸命作成したコンテンツをお届けすると、商品の宣伝をせずとも売上は立ちますし、開封率55%超という高さを維持できるのです。
実店舗以上の満足度を提供する心がけが鍵
――非常に高い開封率が購読者にとって魅力的なコンテンツを配信できている何よりの証拠だと感じました。最後に榊原さんがメールマーケティングを実施する上で心がけていることを教えていただきたいです。
榊原さん:事業者の悪い癖として情報発信をすると全て売上に繋げようとする傾向があると思います。大事なことはメールを開いたときのお客様の満足感です。それは無機質にセールのお知らせを繰り返しすることではなく、ブランド愛の強いお客様に喜んでいただきたいと心がけて作成したコンテンツによって実現できるのではないでしょうか。
アナ スイ・ポール & ジョーは、商品・店舗の世界観・コミュニケーションの3つを大切にしています。ECサイトを立ち上げてからまだ5年ほどと、よちよち歩きではありますが、実店舗と同等以上にお買い物を楽しんでいただくにはどうしたら良いかと学びの毎日です。
グロースパートナーのStoreHeroさんにはECサイトのスタート時から指導を頂いて本当に救われています。もっと早く素直にアドバイスを受け入れていたら、もっと早くに大きく伸びていたかもしれません。これからも新しい情報を得ながら、パートナーのアドバイスに耳を傾けて、より成長していきたいです。

インタビューを通して:万人ではなく、届けたい誰かに向けることが重要
インタビューの中で、榊原さんは繰り返し「アツいお客様」に向けてメールを作成しているとお話していました。原稿を作成するスタッフの方も、そんな「アツいお客様」に向けて情報を発信するには、自社ブランドへの深い理解が欠かせないはずです。メルマガを配信すると「もっと知りたい!」とお客様から質問が返ってくることやチャットに問い合わせが来ることもあるとのこと。
漠然と誰かに届けばいいかなと思ってではなく、「アツいお客様」が対象だからこそスタッフの方もそれに応えようとコンテンツを作成できるのではないでしょうか。メルマガは会員登録や決済時のタイミングで登録されることが多いため、一度以上お買い物をした方の登録割合が自ずと高くなります。さまざまなチャネルから情報発信をしている方は、アナ スイ・ポール & ジョーと同じように「アツいお客様」に向けた情報発信ツールとしてメールを活用しても良いかもしれませんね。
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