
ステファン・グルニエ
Amazon Ads Japan カントリーマネジャー
2025年9月にAmazon Ads Japanへの赴任に伴い来日し、2026年6月より現職。
来日以前は、2018年よりフランスにてAmazon Ads Franceのマネージングディレクターを務めた。広告主や広告代理店との連携を主導し、ブランド育成やデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進した。
はじめに
広告が、かつてないほど多くの機会を生み出しています。配信チャネルやインサイトが増え、お客様にリーチする方法が多様化しました。その一方で、見過ごされやすい課題もあります。成長を阻む壁となる「運用の複雑さ」です。とりわけ、大規模で専門的なチームを持たない組織にとっては深刻な課題です。問題はツールの不足ではなく、ツールがあまりにも多くの手作業や専門知識、時間を必要とし、「何が成果に結びついているのか」を見えにくくしている点にあります。
マーケティングにおいては、いかに迅速にインサイトからアクションへ移行できるかが成果に直結します。キャンペーンの設定からクロスチャネルの管理、そして効果測定にいたるまで、各段階において、広告主様がコントロールできる項目を減らすことなく、摩擦を取り除く必要があります。求められるのは、スピードと完全な透明性の両立です。中身の見えない「ブラックボックス」を、透明性の高い「グラスボックス(ガラスの箱)」にすることが重要です。
キャンペーン設定における「複雑さ」という課題
広告運用において、「戦略立案」は成果につながる重要な業務です。しかし、「最も時間がかかる業務は何か」との問いに対して、回答が「戦略立案」であることは滅多にありません。作業時間の大半を占めるのは「設定作業」です。
メディアプランから実際のキャンペーンを構築するには、ネーミング規則、予算配分、オーディエンスへのリーチ設定、配信間隔の設定など、数十もの煩雑な手作業が発生します。経験豊富な担当者でも1時間以上を要します。さらに、大規模な最適化を行うとなれば、スプレッドシートを出力し、ラインアイテムを1つずつ手作業で修正しなければならず、一括変更を1回行うだけでも30分から45分を費やします。広告運用の専門チームを持たない組織にとって、この複雑さは単なる不便さではなく、まさに成長を阻む「壁」そのものなのです。
AIを搭載した対話型ツールは、この壁を取り除きます。必要な要件を自然言語で入力するだけで、キャンペーン構成案が10分以内に生成されます。「広告費用対効果が2倍未満の全てのラインアイテムを一時停止して」と自然言語で指示すれば、該当キャンペーンが表示され、承認すれば変更が適用されます。従来45分かかっていたプロセスが5分未満に短縮されます。かつて数千ものセグメントを手動で選別する必要があったオーディエンス選定も、今ではワンステップで完了します。
Amazon Adsにおける実績データも効果を示しています。インプレッション単価(CPM)が中央値で18%低減、顧客獲得単価(CPA)が16%低減、そして65%の広告主様が配信率の改善を実感しています。(Amazon内部データ、米国、2025年。Amazon DSPにおけるキャンペーンターゲティング向けAds Agentクローズドベータの実績に基づく)
しかし、最も重要なメリットは、コントロールができることです。広告主様が戦略を設定し、すべての変更を承認し、すべてのレコメンデーションがどのように生成されたかを詳細に確認できます。隠されたロジックも、不透明なアウトプットもありません。必要に応じて、あらゆる設定をいつでも調整できます。すべてのアドテックがこのように設計されているわけではありませんが、本来はそうあるべきです。テクノロジーは仕組みを隠すのではなく、プロセスを可視化することで、初めて信頼を獲得できるのです。名付けて、「グラスボックス原則」です。
複数チャネルの「断片化」という課題
キャンペーン設定の複雑さは、広告運用における課題の半分に過ぎません。もう半分は「断片化(フラグメンテーション)」です。
マーケターの71%が、チャネルをまたぐ複数のツール管理を非効率の主な要因として挙げています。異なる広告プロダクトが、別々の画面(インターフェース)に存在しています。本来つながるべきインサイト(認知度向上施策としての広告表示がコンバージョンにいかに貢献したかや、どのオーディエンスグループに最も効果があったかなど)が、互いにほとんど連携しないシステムにサイロ化されています。その結果、不完全な全体像に基づいて意思決定が行われることになります。
この状況を変えるのが、一元化されたキャンペーン管理です。各プロダクトやチャネルのキャンペーン設定、最適化、レポーティングを単一の画面に集約することで、広告主様は複数の画面を行き来する作業から解放され、より成果につながる作業に時間を使えるようになります。高度な最適化が、運用チームや予算の規模に関係なく、あらゆる広告主様にとって実現可能となります。
国をまたいで運用する広告主様にとって、断片化の影響はさらに深刻です。国ごとに言語もオーディエンスの行動パターンも異なり、多くの場合、各国でパフォーマンスの全体像を共有できていません。
その状況を変えるのが、国や言語をまたいで機能するツールの導入です。これにより、各国が自国の言語で運用しながら戦略的一貫性を維持できるようになります。マルチ通貨やマルチアカウントに対応したレポート作成を一元化することで、手動の照合作業も不要になります。
効果測定の問題
断片化の影響はキャンペーン管理にとどまりません。最も深刻なのは効果測定の領域においてです。広告主様はこれまで、複数の異なるダッシュボードからパフォーマンスデータを手作業でつなぎ合わせなければならず、認知向上施策がコンバージョンにどう結びついているかを一元的に可視化する手段がありませんでした。
さらに深いインサイト、すなわち「クロスチャネルアトリビューション分析」や「新規顧客分析」、「購買経路インサイト」などを得るためには、専門的な技術作業が必要で、数日間の時間を要することもありました。多くの運用チームにとって、これらの答えは事実上、手の届かない存在でした。
しかし、AIを活用した「対話型アナリティクス」がこの状況を劇的に変えつつあります。 かつては専門的なクエリ作成が必要だった分析も、今は、自然言語での簡単な問いにより答えが得られます。例えば、「前四半期に新規顧客売上を牽引したオーディエンスの特定」といったタスクに対し、高度な専門知識がなくとも、わずか数分で答えを得られます。
また、統合されたレポーティングは、オンラインとオフラインのシグナルを単一の画面に集約し、キャンペーンが進行中(配信中)の段階でカスタマージャーニー(購買行動)の全体像を可視化します。これにより、キャンペーン終了後の事後分析に頼るのではなく、配信中のリアルタイムな最適化(ミッドフライト・オプティマイゼーション)が可能になります。
効果測定が統合され、透明性が確保されると、より戦略的な投資判断が可能になります。認知がコンバージョンにいかに結びついているかを把握し、完全な情報に基づいて予算配分を決定できるからです。効果測定は単なるレポーティング作業ではなく、競争優位性となります。これこそが、広告主様がアドテックに期待すべき新基準です。
より大きな視点から
キャンペーン設定の複雑さ、チャネルの断片化、効果測定の分断。これらの課題に共通するのは、「顧客理解」や「本質的な意思決定」など重要な作業に費やすべき貴重な時間を奪う、非効率な運用負荷です。
優れたアドテックは、その存在を意識させないものであるべきです。タイムラインを短縮し、フルファネルにわたってデータの点と点をつなぐ。これまでは、極めて潤沢なリソースを持つ一部の広告主様しか利用できなかった高度な機能を、国または運用チームや予算の規模を問わず、あらゆる組織が活用できるようになるべきです。
広告主様が期待すべきことはシンプルです。インサイトの価値が失われる前に行動に移せるスピード、なぜその提案がなされたのかを明確に理解できる透明性、そして必要に応じていつでも軌道修正できるコントロールです。
スピードと透明性。高度かつ使い勝手の良い機能。そして、あらゆる組織が活用できる、スケーラブルなフルファネル広告。これこそが広告主様がアドテックに求めるべき基準です。
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