こじみくさんが語る、バズりをきっかけにファンを増やした下着ブランド『BELLE MACARON』の成長と終焉
インタビューの概要

2024年6月30日に「24hブラ」で有名な女性向け下着ブランド「BELLE MACARON(ベルマカロン)」が販売を終了しました。女性の悩みに寄り添い、着け心地の良さを追求するブランドとして、根強いリピーターがおり、資金繰りも順調であったにも関わらず、なぜブランドを終了することを決意したのか。

ブランドの成長から終焉までの道のりについて、元代表であり現在は女性向け下着ブランド「CHARM MAKE BODY(チャーメイクボディ)」を運営するiiy社で執行役員を務める小島未紅さん、通称“こじみく”さんに話を伺いました。

Xでバズり、ブランドへの導線が生まれる

――BELLE MACARONはこじみくさん自身の経験を基に、着け心地の良さをとことん追求した、明確なコンセプトのあるブランドだと感じます。それをお客様に認知してもらうために、どのようなことに取り組まれましたか?

こじみくさん:最終的には私のX(旧:Twitter )アカウントでの発信が一番成功したのですが、そこにたどりつくまでにはいろいろなことをやりました。

最初はクラウドファンディングを利用して、公式サイトも作って、モール出店や広告出稿もしました。最初は自己資金だけで運営していたので、リスクの低いものから選んでいった感じです。ブラジャーを扱っているモールのショップに卸の営業をして、取り扱っていただいたこともありました。

ただ、どれも大きな成功にはつながりませんでした。高価格帯であること、補正ではなく心地良さを訴求していたことから、ネットで見てそのまま買ってもらうということが難しかったのだと思います。

こじみくさん
通称“こじみく”こと、小島未紅さん

――Xでの成功にはどのように行き着いたのでしょうか?

こじみくさん:当時はInstagramがアパレルブランドのSNS活用の主流で、私も最初はInstagramに力を入れていました。ただ、Instagramって写真が大事なんですね。BELLE MACARONはブラトップやスポーツブラと比べるとかわいいのですが、普通のワイヤーブラに比べるとどうしても見た目が劣ってしまいます。

また、Instagramの写真はバリエーションが大事です。下着ブランドの場合はいろいろな商品が並んでいる写真が重要なのですが、当時、BELLE MACARONの商品は1種類だけで、カラーも3パターンくらいしかなかったので、うまく訴求ができていませんでした。

そこで、Instagramで発信したブラジャーの豆知識をXでも紹介してみました。ブラジャーの干し方についてのコンテンツだったのですが、それがいきなり3~4万いいねされてバズったんです。そこで商品を宣伝したら買ってくれる人がいて、熱量の高いクチコミが投稿されて、それをRTしたらまた買ってくれる人がいて、クチコミをまた頂いて、どんどん広がっていきました。

それが2019年頃のことです。Xでの発信が広がれば結果的にブランドに導線が作れることに気づいて、Xでブランドの活動を発信するようになったんです。広告っぽくならないよう、私自身のこと、女性の起業のことなど、等身大の発信も意識しました。

投稿は私の個人アカウントで行っていました。2017年くらいから細々と投稿していたのですが、もともとフォロワーさんが500人くらいの、インフルエンサーなどでは全然ない、個人のアカウントとして使っていた感じです。2022年頃には公式アカウントも作りました。

――Xのフォロワーが何人くらいになったときに、施策としてうまくいくようになりましたか?

こじみくさん:5,000人を超えたくらいで、反響も大きくなって、拡散性があって、すごく世界が変わる感じがしました。5,000人だと、まだフォロワーさんが気軽にコメントできる存在で、関係性も密でしたね。10,000人を超えるとインフルエンサーという感じになってきて、影響を考えて発言しないといけなくなり、気軽に投稿しづらくなったと感じます。

現在では3万人近いフォロワー数のこじみくさん(Xアカウント)
現在では3万人近いフォロワー数のこじみくさん(Xアカウント

年1回のセールで新規顧客を獲得、LINEを受け皿に関係を構築

――認知を獲得した後、社員ゼロでほぼ自己資金による運営のなかで、どのようにして売上をあげていったのでしょうか?

こじみくさん:BELLE MACARONはセールをしないことを大事にしていました。そのなかで年に1回だけ、24時間限定のセールを開催していたんです。Xを見ていると、気になっているけれど購入に至らない人も多いのですが、年1回、24時間限定のセールとなると、新規の方にこのタイミングに買おうかなと思っていただけていたみたいです。

年1回だけセールを開催したのは、まず、今まで大切にしてくださっているお客様に喜んでもらえるイベントがあったら良いなと考えたからです。また、セールをきっかけにして、興味はあってもタイミングがなくて購入に至っていない人に商品を買っていただいたり、ブランドを知らなかった人に知っていただけたりしたら一番の広告になると考えました。割引率を少しくらい高く設定しても、広告費だと考えれば高くないなと。

――X以外に力を入れていた集客施策はありますか?

こじみくさん:ご購入いただいた方にセールや新作などがあるときはお手紙を出して、レースで作ったしおりや色見本をお送りすることもありました。

2020年くらいに公式LINEも始めました。X経由だと訪問者数はすごく多くなるのですが、その受け皿がありません。そこでLINEに導線を作り、下着やブラジャーの相談窓口みたいな感じで、私が24時間以内にすべて返信するようにして、いかにお客様との接点を作るかを考えました。

KPIにしていたのが、LINEの登録者数です。これはそのブランドの潜在顧客だと思っています。セールが年1回限定だったので、LINEの登録クーポンは結構インパクトがあったと思います。

3か月分の在庫がセール初日で売り切れ、売上に応じた体制作りが必要に

――ブランドの運営はどのような体制で行われていましたか?

こじみくさん:最初は1人でしたが、最高日商1,000万円を超えたくらいでスタッフを1人雇いました。その方に出荷指示や顧客対応などの実務的なところを任せて、私はSNSや商品開発に注力する体制に。また、Instagramを外注して、その方に撮影やスタイリングなどのディレクションをお願いしていました。

――物流倉庫は利用されていましたか?

こじみくさん:最初は自宅で在庫を保管して、家族に給料を払って梱包や出荷をお願いしていました。物流倉庫を探しはじめたのは、一般的に物流倉庫を使うと良い目安とされる月商500万円を超えたタイミングです。ラッピングなどにすごくこだわっていたので、それを再現できるところを探すのが大変でしたね。結果、小回りがきく倉庫さんがいらっしゃって、自分たちで発送するより費用も抑えられるとわかったので、そこにお願いしました。

2020年にはじめて行ったセールもターニングポイントになっています。先ほどセールは1年に1回、24時間限定とお伝えしましたが、はじめてのセールは3日間を予定していました。通常の3か月分くらいの在庫を用意していたのですが、セール初日ほとんど売れてしまったんです。想定外の売れ方で、在庫の保管や梱包が大変でした。

そのときは結局、3日間の売上が370万円くらいで、3か月分の在庫がほとんど入荷待ちになりました。買いたいけど買えないという人たちも多く、幻のブラみたいになって。生産量は増やしたのですが、入荷しても1日で売り切れる状態でした。当時、銀行の口座が500万円くらいしかないときに1,000万円の発注をしないと間に合わなくて、売れなかったらどうしようというプレッシャーがすごかったです。

リピート獲得のために大切なのはハックよりもブランドコンセプト

――根強いファンが一定数いらっしゃったと思いますが、リピート率はどのくらいでしたか?

こじみくさん:60%以上が3か月以内に再度購入されて、さらにその半数以上にまたご購入いただいていていました。初回注文で上下セットの商品をご購入いただいて、次に2着セットやまとめ買いをされる方が多かったですね。女性の悩みに寄り添ったアイテムということで、「こんなブラははじめて出会いました」と感動の声も頂き、なかにはリピートで10万円、20万円と購入される方もいました。

――そういった根強いファンの方になっていただくためにどのようなことを意識しましたか?

こじみくさん:これという決定的なテクニックはありません。自分も悩んだうちの一人として、女性の悩みに寄り添うというブランドコンセプトを発信すること、実際に悩んでいる人に真摯に寄り添うことを大切にしていました。

ブランドを立ち上げ、継続していくために必要なこととは?

――資金繰りも順調で、リピーターも着実に増えていたにも関わらず、ブランドを終了する決断をされた理由は何でしょうか?

こじみくさん:大きなきっかけがあったわけではなかったのですが、2022年頃からブランドとしてどういった体制や組織が理想かをずっと悩み続けていました。

ブランドの成長を見越して、人を雇い、体制を強化したこともあったのですが、人が増えたからといって売上が倍増するわけではありませんし、その人が売上に貢献してくれるようになるまで育てていく必要があります。ただ当時は私が好きなのは、ものづくりとマーケティングで、組織を作ることがあまり得意じゃなかったことでメンバーが辞めてしまったり、それをきっかけにチーム内の関係性が悪くなったりと体制づくりがうまくいかなかったんです。

そんな中、私の妊娠・出産があり、自分が最前線に立ってブランドを運営していくことの難しさを感じました。絶対その日にやらなきゃいけない業務だけしかできない状態が続いていて、そのままでは2年、3年後に確実にブランドがしぼんでしまうのが見えたんです。

それをなんとかして止めるために、最初はブランドの売却を考えました。ファンの方々との信頼関係や商品の質を維持することを考えると、商品開発やマーケティング面では私も残りながら、資本力や組織体制がしっかりしている会社さんと組めたら良いなと思ったのです。それが2023年の末くらいで、年明けに能登半島の地震でレース工場が影響を受けたこともあって売却の意思が固まりました。

ただ、一人体制で組織になっていない会社というのは価値がつきづらいところがあるんですね。ずるずるいっても企業の価値がどんどん下がるだけなので、短期集中で決断しなければいけないと考えていました。ありがたいことにそんな状況にも関わらず「一緒にブランドを伸ばそう」「こじみくさんと一緒に組みたい」と言ってくださる企業様はいくつかあって、細かい条件交渉まで進んでいたのですが、売却することで販売戦略やブランディングの部分で自分が築いてきたものと大きく変わる形になってしまうことに気づいたのです。

販売価格を大きく上げて、富裕層をターゲットにしたビジネスモデルにすることや、逆に商品の品質を落としコストを削減して広告を回しても利益が残る構造にすることなど、どれも私が大事にしてきたブランドの形ではないし、お客様を想うと「ブランドがなくなるよりも悲しい思いをさせてしまうのでは」と考え、ブランド終了という苦渋の決断をしました。

ブランド終了のお知らせ(全文はこちら)
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――今回の経験を踏まえて、次に新たなブランドを立ち上げられるとしたら、どのような点に注意したいとお考えですか?

こじみくさん:まず、在庫を持つビジネスはキャッシュフローの部分でリスクを負うことになるので、在庫の抱えすぎには気をつけないといけないと思っています。私はすごくリスクが少ない形でしかお金を借りませんでした。資金調達の形は大事です。

また、体制を強化しても回る利益構造であることも重要です。原価率が高いといくらがんばっても人を増やせなかったり、広告を出せなかったりして、拡大ができません。利益構造が悪い場合はあまり拡大を狙わないのもひとつの戦略です。消極的に思えるかもしれませんが、良いゴールに至るためには欠かせないことだと思います。

どういうゴールが理想なのかも考える必要がありますが、企業やブランドの価値が一番高くなるのはブランドが一番盛り上がっていてさらに伸びそうというタイミングなんですよね。でも、多くの人が売却を考えるのって、ちょっと落ちてきたときです。右肩上がりのときに売るのは難しいんですけど、買う人は右肩上がりのときに買いたい。

私の例でいうと、ブランドを立ち上げて2~3年くらいがすごく濃い時間でした。売却が選択肢としてアリならそのタイミングで動いたほうが良いなと。実際、そのときに会社を買いたいという話もあったのですが、条件が合わなくて、自分で利益を残したほうが戻ってくるものが大きいと判断しました。

新たなものづくりの現場でノウハウを発揮、悩みの解決を多くの女性に

――現在執行役員を務めているiiy社の女性向け下着ブランドのCHARM MAKE BODY(チャーメイクボディ)について、こじみくさんはどのようなことが期待されていると考えていますか?

こじみくさん:社長が男性なので、商品の企画開発において柱になるような女性を探していたそうです。下着のこと、トレンドやお客様のニーズをわかっている人として、こういう商品を作りたいという企画から実行まで、ものづくりを最前線でやらせてもらっています。

また、ブランディングやSNS運営についても期待してもらっていています。実際、更新が止まっていたSNSを動かして、今はInstagramもXも伸びています。また、以前はそもそも公式サイトに販売機能がなかったのですが、サイトをリニューアルして毎日コンスタントに売上が作れるようになりました。

ブランドを育てるにはこだわりや熱量をもったキーパーソンが必要ですが、現在は私がそういった存在を担っています。

――これから取り組もうと思っていること、実現したいことについて教えてください。

こじみくさん:下着ブランドは競合が多く、女性の下着の悩みもいろいろです。そのなかで、年齢を重ねることや出産による体形の変化を感じることが多かった自分の体験から、そういう不安に寄り添える下着ブランドを届けたいと思っています。

BELLE MACARONは、日本製で高価格帯のブランドでしたが、CHARM MAKE BODYは、量産することで手頃な価格になっています。そのことで、私がやりたかった、より多くの困っている女性に自分たちの自慢の商品を届けるということができています。かわいくて補正機能もあってプチプラというところが、今、私たちが目指している下着のポジションです。

以前は、24hブラという自分が考えて生み出したアイテムをいかに知ってもらうかを考えていました。でも今は、もう少し広い目線で、多くの女性に届けるためにはどうしたら良いかを考えています。

自分が作ったブランドではないですが、元々ものづくりが大好きでお客様に感動を届けたいという想いで仕事をしていたので今もその情熱は変わらないですし、CHARM MAKE BODYの成長にわくわくしながら仕事をしています。

CHARM MAKE BODY(チャーメイクボディ)公式サイト
https://charmmakebody.com/

企画/構成/取材:竹内長

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