「購入体験が、購入後まで拡張される時代」──PPDCで読み解く次世代コマース
この記事の執筆者

辻野 翔大
Recustomer株式会社

1993年生まれ、札幌出身。高校時代は代表の柴田と共に高校生団体の創設に携わる。高校卒業後はAppleのカスタマーサポート業務に従事し、最年少マネージャーに。コーチングやマネジメントを学んだ後にリクルートへ転職。リクルートではゼクシィでの営業を通してマーケティング業務に従事。また、社内事業コンテストなどを通じてアイデアをビジネスに消化する手法を学ぶ。リクルート在職中に柴田と共にANVIE株式会社(現:Recustomer株式会社)を創業。

「買うかどうか」から「買っても大丈夫か」へ傾く購入動機

これまで購入体験は、「商品を選び、決済するまで」を指すものとして語られてきました。しかし現在、その体験は「購入後にどうなるか」までを含むものへと拡張しています。

スマホひとつで何でも買える時代となり、ユーザーの行動データは可視化され、パーソナライズも進んでいます。一方で、今、消費者の意思決定はかえって複雑になっています。

さらに、某大手モールによる内部分析では、初回購入キャンセルの約35%が「買った直後の後悔や不安」に起因しているという結果が出ています

このデータが示すのは、商品そのものではなく“買うことそのもの”へのためらいが増えているという事実です。

特に、「高価格帯×機能訴求型」の領域では、

  • 比較しても違いがわかりづらい
  • 買ってみるまで自分に合うかわからない
  • 失敗したときに取り返しがつかない

といった心理的ハードルが高く、「買うかどうか」ではなく「買っても大丈夫かどうか」で購入を躊躇する現象が常態化しています。

SPA時代の競争構造──立ち上がりと飽和が同時に起こる

この“ためらい”をさらに増幅しているのが、SPA(製造小売業)型のサプライチェーンの浸透です。

SPAブランドは、商品企画から販売までの期間を数か月から数週間に短縮し、週次・月次単位で新商品を市場に投入します。結果、新しいカテゴリが立ち上がるスピードも早いですが、飽和するスピードも圧倒的に早くなっています。

  • 商品数が一気に増える
  • 類似する商品が同時期に出揃う
  • ユーザーから見て“選びきれない”状態がすぐに生まれる

つまり、SPAモデルが浸透することで、市場全体の“差が見えづらい構造”になり、商品軸での選択が困難になっています。

その結果、ユーザーは商品スペックだけでなく、「購入後にどうなるのか」という体験全体を含めて判断せざるを得なくなっているのです。

リカバリーウェア市場に見る、買い方が競争軸になる瞬間

この構造変化が顕著に表れているのが、リカバリーウェア市場です。

TENTIAL、ベネクスといった専業ブランドが先行していましたが、近年では大手SPA、インナーウェア、スポーツメーカーが一斉に参入しています。

「疲労回復」「快眠」「温活」などのキーワードで機能性ウェアを訴求するブランドが増え、カテゴリとしては急成長しました。しかし、わずか1年で差別化が困難な状態に陥っています。

この市場には3つの構造的な特徴があります:

  1. 機能の違いが可視化しづらい(特殊繊維や効果はEC上では見えにくい)
  2. 身体に合うかどうかは実際に着ないとからない
  3. 短期間で選択肢が爆発的に増えており、比較の難易度が上がっている

このような環境下で、消費者は比較の一環として、「返品できるか」「試せるか」「交換が簡単か」といった、購入後まで含めた体験条件に注目するようになりました。

SPAモデルによって競争が早期に激化し、商品の違いが見えにくくなる中で、買い方の条件が“意思決定を支える差別化要因”に昇格しています

高価格帯ドライヤー市場にも広がる“買い方で選ぶ”現象

同様の現象は、高価格帯ドライヤー市場でも起きています。

ReFa、Dyson、SHARPなどが展開する3〜6万円のドライヤーは、風量、温度制御、イオン、軽量設計などの機能で訴求されています。しかし、見た目やスペックの違いがかりづらく、ECでは購入を躊躇するユーザーが多く見られます

特に、「自分の髪質に合うかわからない」「音や重さは使ってみないとわからない」といった理由から、説明が十分でも“判断ができない”状態に陥りやすいのが特徴です。

このようなケースでは、もはや商品力ではなく、

  • 自宅で試せるか(TBYB:Try Before You Buy)
  • 使って気に入らなければ返せるか

といった「失敗したときの備え=購入後の設計」が、購入意思決定を左右します。

ユーザーは「この機能がいいから買う」のではなく、「失敗してもいいから試してみよう」と思えたブランドから購入するという新たな購入パターンが定着しつつあります。

PPDCとは、「購入後」を起点にして買いやすさを設計する考え方

Post Purchase Driven Commerce(PPDC)は、単に“購入後の体験”を良くするための仕組みではありません。

その本質は、「購入をためらう理由を、買う前から減らしておく」ことにあります。

返品、交換、キャンセル、配送追跡、TBYB──

こうした仕組みはすべて、“買うこと”への信頼と安心感をつくる設計です。その結果としてCVR、LTV、リピート率に影響を与えます。

PPDCとは、「購入後にどうなるか」を前提に、購入時点の不安やリスクを設計段階で解消し、購入前の体験を設計し直すアプローチなのです。

Recustomer導入企業に見る、「購入後体験が評価される」時代の成果

ハニーズ:返品・キャンセルの不安を設計で消し、リピート率を改善

  • Recustomer導入により、返品・キャンセルを24時間セルフ対応可能に
  • 問い合わせ件数を60%以上削減
  • 「返品しやすいから安心して買える」という心理が浸透し、定着率が向上

ミライスピーカー:柔軟な返品設計で高単価商品のCVR向上

  • 返品・交換の業務を大幅に効率化
  • 返品保証期間の延長キャンペーンでCVRを大幅向上
  • 返品データを活用した購入後体験の設計で、返品率減少を実現

Try Before You Buy(TBYB):停滞層を購入ユーザーに変える決済設計

  • 中高価格帯やシューズで積極採用
  • 「試してから実際の決済が実行される」という新しい意思決定フローを提供
  • 新規CVRが平均1.4倍、返品率は想定内に抑制

まとめ:「購入時の安心感」で選ばれる理由になる時代へ

ECの競争軸は、「商品の良し悪し」から「安心して買えるかどうか」へと移りつつあります。

とくに、SPAによって商品のPDCAが加速し、差別化が難しくなる時代においては、機能や価格、見た目の差別化だけでは不十分です。

いま、購入体験は決済の瞬間で終わるものではなく、購入後にどうなるかまでを含めて評価されるものへと拡張しています。

Post Purchase Driven Commerceとは、「売った後」の話ではなく、「買うことが不安でなくなる状態」を、売る前から設計する考え方です

そしてそれこそが、あらゆるブランドが今こそ向き合うべき、コマースの次の常識なのです。

購入体験プラットフォーム Recustomer
https://recustomer.me/

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