
NFCという単語を聞いたことがありますか?あまり聞きなじみがないかもしれませんが、これはNear Field Communication(近距離無線通信)の頭文字を取った言葉で、おそらくほとんどの方が日頃から当たり前に使っているおなじみの技術だったりします。
身近なところでは、Visaタッチなどに代表される、クレジットカードのタッチ決済。最近急速に普及が進み、カードをかざすだけで簡単に支払いを済ませられる店が増えましたが、これに使われている技術がNFCです。
(ちなみにカード表面に見えている金属部分は接触型ICチップと言い、NFCとは関係ありません。タッチ決済用のNFCチップはカード内部に別で搭載されています)
また、みなさんが持っているスマホやスマートウォッチも、NFCのチップが組み込まれているものがほとんどです。そのおかげでスマホをかざすだけでApple Payなどの決済機能を使えたりします。
ただ、今回ご紹介するのは、タッチ決済やApple PayのようにICチップを読み取らせるほうの話ではなく、ICチップを読み取ることができるスマホのNFCリーダー機能についてです。
NFCタグとスマホのNFCリーダーの組み合わせは、仕組みが比較的単純でコストも抑えて利用できるので、ちょっとした施策でも試しやすいと思います。スマホを使った店頭での顧客接点づくりにも向いていますし、こなれた技術のわりには事例がまだまだ少ないので目新しさがあります。
今回はそんなNFCタグを使った顧客体験づくりに関して、事例の紹介から、最低限把握しておきたい技術面の話、顧客体験を向上させるためのヒントなどの情報を2回に分けてお届けしたいと思います。
篠田 健吾
株式会社アイリッジ
IT系企業での新規事業立ち上げや、アプリプラットフォームの企画・開発に携わり、2025年に株式会社アイリッジ入社。
小売系アプリの企画・提案実績が豊富で、自身のスマホに研究目的でインストールしているアプリの数が1,000を超えるアプリマニアでもある。
アイリッジ アプリ成長支援サービス
https://iridge.jp/service/app_growth
スマホのNFCリーダー機能は普及しているのか
スマホのNFCリーダー機能は、タッチ決済のような使い方に比べると体験する機会が少なく、言われたところでなかなかイメージしづらいかもしれません。
いま一番メジャーな使い方はマイナンバーカードをスマホで読み取ることでしょうか。マイナポータルを利用する際、マイナンバーカードの暗証番号を入力した後にカードにスマホをかざしてスキャンする操作をしますが、この読み取りに使われているのがスマホに搭載されたNFCリーダーです。

このNFCリーダー機能、自身のスマホが対応しているか不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。実は2017年頃に発売されたiPhone7にはNFCリーダー機能がすでにあり、それ以降のiPhoneにもすべて搭載されています。またAndroidの場合はもっと以前から対応していた機種が多くあります。
そのため、ここ数年の間に日本で販売されているスマホであれば対応済みと考えて問題ありません。それでも心配であれば、自身のスマホにマイナポータルのアプリがインストールできるか試すのが最も簡単です。これがインストールできれば、NFCリーダーも搭載されています。
スマホのNFCリーダー活用事例
マイナンバーカードの読み取り以外にも、この機能は、最近は決済手段としての活用や、各種サービスとうまく連携させたタッチポイントとしての活用事例が増えてきています。
筆者が最近目にしたいくつかの事例をご紹介します。
サントリーのジハンピ

サントリーの自販機でスマホ決済ができるジハンピはCMもたくさん流れているのでご存じの方も多いと思います。このサービスはスマホのNFCリーダー機能を非常にうまく活用しています。
自販機とスマホの連携と言えば日本コカ・コーラのCoke ONを思い浮かべる方が多いでしょう。他にも伊藤園のCHACOCOが決済サービスを提供しています。一方で、自販機での商品購入時にポイントが貯まるサービスとして展開されていたTapinessやDyDo Smile STANDは残念ながらいずれも2025年中にサービスを終了してしまいました。
そんな中で最後発のジハンピのアプリですが、早くも1,000万ダウンロードを突破する人気があります。この勢いの原動力は、NFCリーダー機能を活用したシンプルな購買体験にあるのではないかと筆者は考えています。
まず、この分野の先駆者であるCoke ONの場合、スマホを使った購買の流れを書いてみると以下のようになります。
- Coke ONアプリを起動し、近くの自販機とBluetoothで接続する
- 自販機の商品リスト情報をBluetooth経由で受信する
- アプリ上で商品を選び、自販機に送信する
- 商品が出てくる
これに対し後発のジハンピは、以下のようにかなりシンプルです。
- 自販機の商品ボタンを押す
- ジハンピアプリを起動し、自販機のタッチ部分にスマホをかざす
- 商品が出てくる
しかもこの流れは、自販機でSuicaやVisaタッチなどの決済を使って買う流れとほぼ同じになっていてわかりやすいです。
また、ジハンピは決済をスムーズに完了させることをかなり意識したと思われ、アプリを起動すると同時にスキャン可能な状態になります。そのまま自販機にかざせばすぐに決済が完了します。

自販機で飲み物を買うという行動は極めて短時間で完結するシンプルなものなので、わざわざアプリを使ってもらうために「面倒くさい」と思われないように、ジハンピ購買体験を徹底してシンプルにしようと工夫されたんだろうと思います。
また、ジハンピアプリにNFCリーダーを採用した別の理由として、自販機側の設備をシンプルにできるというコスト的なメリットがあったと考えられます。
さきほどはユーザー視点での流れを書きましたが、ジハンピのシステム側の流れを書くと、以下のようになります。
- ユーザーが押した商品の情報を自販機自身のIDとともにサーバーに送る
- ユーザーがアプリのNFCリーダーで、どの自販機で決済しようとしているか読み取り、サーバーに送る
- サーバー側で自販機とアプリから送られた情報を突合し、ユーザーが選んだ金額の情報をアプリに返す
- ユーザーのアプリ上で決済処理が行われる
- 決済完了したらサーバーが自販機にそのことを通知する
- 自販機が商品を出す
筆者はジハンピを初めて見たとき、NFC経由で商品の金額を送っていると思ったのですが、違いました。実際のジハンピの仕組みでは、自販機側は常にどの自販機で決済しようとしているかの情報をアプリに渡すだけなので、毎回渡す情報が固定値になりシステムが極めてシンプルになります。
自販機とアプリが送った情報をサーバー上で突合するというやり方も、よく考えてみれば1つの自販機で同時に決済しようとしてる人は1人しかいないわけで、販売形態の特性を踏まえて考えられたシンプルで合理的な方法だなと感心します。
(この仕組みは特許取得されています。よく読むと割り勘で支払う仕組みも…)
自販機側にさまざまな決済手段に対応したリーダーをつけるよりコスト的にもかなり有利になるでしょうし、決済手段を増やすなどの対応もアプリ側で行えるため柔軟性が高いです。
実際、ジハンピアプリはリリース後に支払い方法の手段が追加されたり、自動で貯まるポイントを選べるようになったり、どんどん進化を続けています。
ジハンピに関しては「Google Play ベストオブ 2025」を受賞した決済アプリについて、弊社がUI/UXを専門的視点で分析したホワイトペーパーでも取り上げていますので、ご興味ある方はぜひごらん下さい。
※本章の調査にはジハンピの特許資料のほか、サガワフミヤさんのnote記事を参考にさせていただきました
JCB NFCタグ決済
カード会社が提供するタッチ決済というと、最近は鉄道の改札などでも利用できるようになってきたVisaやMasterCard、JCBのタッチ決済を思い浮かべる方が多いでしょう。
いまや主要なカードブランドはいずれもタッチ決済を提供するようになりましたし、安全性も利便性も高いので今後もどんどん普及が進んでいくと考えられます。
ただ、今回紹介するのはカードのチップを読み取らせる方法ではなく、スマホ側でNFCリーダーを使って読み取るタイプです。これは、JCBがNFCタグ決済として2020年頃からの実証実験を経てサービス提供をしています。
このサービスは通常のタッチ決済と違い、店舗側にはシンプルなNFCタグを置くだけで済むので設備投資を抑えられるメリットが大きくなります。
決済の流れ自体はバーコード決済でお店のQRコードを読み取り、ユーザーが金額を入力してお店のスタッフに確認してもらうやり方とほぼ同じなので、体験的にも違和感はほぼないと言えるでしょう。
また、この仕組みは渋谷区が推進しているキャッシュレス決済アプリ『ハチペイ』にも導入されています。
流れはJCBのNFCタグ決済とほぼ同様で、Apple PayやGoogle Payに遷移するところがハチペイアプリに変わっているだけのように見えました。筆者も実際にハチペイのNFCタグ決済を試してみましたが、特に困ることなく支払いを済ませることができました。
実際に決済してみた流れを動画に撮ってみました。通信待ちなどで時間がかかっている部分は編集して削っていますが、流れはご確認いただけると思います。
LINEタッチ
いまや国民的アプリといっても過言ではないLINEにもNFCを活用したサービスが用意されています。

LINEタッチは既存のLINE公式アカウントやLINEミニアプリへの誘導をNFCタグを使って行うサービスです。
同様のことはQRコードでも行えますが、QRコードではスマホのカメラやLINEアプリを起動する手間がかかるのに対し、LINEタッチの場合はスマホをかざすだけでよいので操作の手間が少なくて済みます。
また、LINEタッチに設定されたURLから各サービスへの誘導をシステム側で管理しているため、設定の変更も容易になっています。
プレスリリースやサービスサイトには不正利用を防止・軽減するという内容が書かれていますが、これはQRコードを写真に撮って持ち出されてしまい、掲出されている店舗以外でQRコードによるサービス利用をされてしまう事態を防ぐことを指していると考えられます。LINEタッチ導入後はQRコードを無効化してセキュリティ面を強化するといったオプション機能も提供されているようです。
QRコードをNFCタグに置き換えることで、そういったリスクをどの程度軽減できるかといった点については、記事の後編で技術的な面の解説として触れたいと思います。
https://iridge.jp/contact/contact_app_growth
※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です
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