売上と配送を一体で考える 物流効率化法がECに求める対応

大型セールで注文を一気に集める。広告出稿を増やして売上を伸ばす。送料無料や翌日配送で購入のハードルを下げる。

いずれもEC事業者にとっては、売上やコンバージョン率を高めるための重要な施策です。しかし、その裏側で発生する出荷量や配送負荷まで含めて、施策を設計できている企業はどれほどあるでしょうか。

販売部門がキャンペーンを決め、注文が増えてから倉庫や配送会社に対応を求める。これまでは当たり前だったこの進め方が、今後は通用しにくくなる可能性があります。

2025年4月に一部施行された物流効率化法では、すべての荷主に、積載効率の向上や荷待ち・荷役時間の短縮に向けた取り組みが努力義務として求められています。さらに2026年4月の全面施行により、一定規模以上の荷主には、物流統括管理者の選任や中長期計画の作成、定期報告といった追加の義務が課されました。

この法律が求めているのは、倉庫作業やトラック輸送だけの改善ではありません。商品の販売量や発送時期を決める販促計画、在庫をどこに置くかという在庫戦略、注文から発送までの日数を決める配送設計まで含めて、企業全体で物流を見直すことです。

つまり、物流効率化法は物流部門だけが読む法律ではありません。セールや広告を企画するマーケティング担当者、商品を仕入れる担当者、ECサイトの配送条件を決める担当者にも関係する制度です。

本記事では、物流効率化法によって何が変わったのかを整理したうえで、大型セール、翌日配送、送料無料、外部倉庫の活用といったECの実務にどのような影響があるのかを解説します。

なぜ今、荷主側にも物流改善が求められているのか

ドライバーの労働時間を増やすだけでは解決できない

法改正の背景にあるのが、物流の「2024年問題」です。

2024年4月からトラックドライバーにも時間外労働の上限規制が適用され、ドライバー一人が運転や荷役に従事できる時間が制限されました。

長時間労働を前提とした物流を見直すうえで必要な規制ですが、何も対策を講じなかった場合、2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力が不足する可能性があると試算されていました。これは実績値ではなく、対策を講じなかった場合の試算です。

ここで重要なのは、問題の原因が物流会社の人手不足だけではないことです。

トラックが指定時刻まで何時間も待たされる、荷物が一部の日程に集中する、手作業で荷物を積み降ろす、急な発注や短いリードタイムによって効率的な配車ができないといった問題は、物流会社だけでは解決できません。

荷物を発送する企業や受け取る企業、物流事業者、消費者を含めて物流の使い方を変える必要があります。そのため、2024年に物流関連法が改正され、荷主側にも物流効率化への取り組みを求める制度が整備されました。

2025年度と2026年度の二段階で施行

物流効率化法に基づく規制は、二段階で施行されています。

2025年4月からは、すべての荷主や物流事業者に、荷待ち時間や荷役時間の短縮、積載効率の向上などに取り組む努力義務が課されました。

2026年4月からは、一定規模以上の荷主や物流事業者などを「特定事業者」として指定し、中長期計画の作成や定期報告などを求める制度が始まりました。特定荷主と特定連鎖化事業者には、物流統括管理者の選任も義務付けられています。

今回公表された3,299社は、特定事業者に該当するとして届出を行った荷主・連鎖化事業者です。ただし、公表時点では指定手続き中の事業者も含まれています。ただし、指定基準を下回る事業者が法律と無関係になるわけではありません。

「すべての荷主」と「特定荷主」は何が違うのか

物流効率化法を理解するうえで、まず分けて考えたいのが「すべての荷主に求められること」と「一定規模以上の特定荷主に求められること」です。

区分主な対象求められる対応
すべての荷主自らの事業に関して、継続的に貨物の運送を委託したり、貨物を受け渡したりする事業者積載効率の向上、荷待ち時間・荷役時間の短縮などへの努力
特定荷主第一種荷主または第二種荷主として、前年度の取扱貨物重量が年間9万トン以上となり、特定荷主に指定された事業者中長期計画、定期報告、物流統括管理者の選任など

特定荷主の基準となる9万トンは、第一種荷主と第二種荷主の取扱量を単純に合計するのではなく、それぞれの区分で判定します。

「荷主」は商品を発送する会社だけではない

日常的には、荷物を発送する側を荷主と呼ぶことが多いでしょう。

一方、物流効率化法では、主に次の二つに分けています。

第一種荷主は、自らの事業に関して、トラック事業者や貨物利用運送事業者と継続的に運送を委託する事業者です。主に発送側が該当しますが、、商品の受け取り側が運送を手配する場合には、受け取り側が第一種荷主となることもあります。

第二種荷主は、別の事業者が運送を手配した貨物を、ドライバーから受け取ったり、ドライバーへ引き渡したりする事業者です。主に着荷主が該当しますが、契約や貨物の流れによっては、発送側が第二種荷主となることもあります。

EC事業者についても、「ECを運営しているから荷主」「モールに出店しているから荷主」と一律には判断できません。

誰が配送会社と契約しているのか、誰が貨物を受け渡しているのか、受け渡しの日時や時間帯を誰が決められるのかといった、実際の契約関係と物流の流れを確認する必要があります。

自社倉庫から商品を出荷している場合だけでなく、外部倉庫やフルフィルメントサービスを利用している場合も、契約の内容によって荷主に該当する可能性があります。

なお、法律上の「継続して」とは、出荷回数の多さだけで判断されるものではありません。事業のために通常必要と見込まれ、単発・突発的ではない運送や受け渡しが対象とされています。

なぜマーケティング部門にも関係するのか

判断基準に「販売部門との連携」が示されている

物流効率化法に基づく荷主の判断基準では、積載効率を高めるための取り組みとして、次のような事項が示されています。

  • 適切なリードタイムを確保する
  • 年、月、週単位の繁閑差を平準化する
  • 納品日や発送回数を集約する
  • 発送量や納入量を適正化する
  • 物流、販売、調達などの関係部門が連携する

特に注目したいのが、荷主の判断基準に「物流・販売・調達等の関連部門の連携」が明記されていることです。

物流の負荷は、倉庫や配送会社の運用だけで決まるものではありません。

ECサイトで大型セールを実施すれば、短期間に注文が集中します。広告予算を増やせば、その分だけ出荷量が増える可能性があります。予約販売商品の発売日を一日にまとめれば、特定日に大量の発送が発生します。

そのため、物流効率化を進めるには、販売計画やキャンペーン計画の段階から、物流部門や倉庫、配送会社と情報を共有する必要があります。

セールをやめるのではなく、物流から逆算して設計する

大型セールやポイントキャンペーンは、ECの売上を伸ばすために欠かせない施策です。物流効率化法も、キャンペーン自体を制限しているわけではありません。

求められるのは、セールを実施した後に物流側へ対応を求めるのではなく、事前に想定物量を共有し、発送可能な体制をつくることです。

例えば、次のような連携が考えられます。

  • 過去の注文データから日別・時間別の受注量を予測する
  • 広告予算やポイント倍率を踏まえて出荷量を試算する
  • 倉庫の処理能力を基にキャンペーン規模を調整する
  • 発売日や発送日を商品ごとに分散させる
  • 予約商品や通常商品の同梱条件を見直す
  • 注文締め時間や配送予定日の表示を調整する

売上の最大化だけを目的にするのではなく、出荷能力や配送能力を踏まえて販促を設計することが求められます。

これはマーケティング施策の自由度を下げるというよりも、欠品、出荷遅延、配送品質の低下、追加費用の発生を防ぎ、キャンペーンの利益を守る取り組みと捉えたほうがよいでしょう。

翌日配送や送料無料はどう考えるべきか

短いリードタイムは配車の選択肢を狭める

ECでは、注文から発送までの速さが顧客体験の一部になっています。

一方で、発送までのリードタイムが極端に短いと、配送会社が複数の荷主の荷物を積み合わせたり、共同配送や帰り荷の確保に取り組んだりするための時間を確保しにくくなります。

荷主の判断基準でも、共同配送や帰り荷の確保に取り組めるよう、実態に即したリードタイムを確保することが求められています。

だからといって、すべての商品で翌日配送を廃止する必要があるわけではありません。

商品の性質や顧客のニーズに応じて、速さを優先する商品と、数日程度の余裕を設けられる商品を分ける。配送予定日を一律に設定するのではなく、在庫拠点や注文状況に応じて表示を変えるといった設計が考えられます。

物流サービスに応じた価格設定も論点に

判断基準では、物流コストを可視化し、物流サービスに応じた価格設定の仕組みを導入することも取り組み例として挙げられています。

一律の送料無料が否定されているわけではありませんが、即日配送、翌日配送、通常配送、店舗受け取りなど、提供するサービスによって実際のコストは異なります。

これまでマーケティング施策として一括して扱われてきた送料や配送スピードについても、顧客価値と物流コストの両面から考える必要性が高まりそうです。

外部倉庫に任せていれば対応しなくてよいのか

EC事業者の中には、受注後の出荷作業を3PLやフルフィルメント事業者に委託している企業も多いでしょう。

しかし、外部委託しているからといって、荷主側が物流の状況を把握しなくてよいわけではありません。

特定荷主の定期報告では、自社が管理する施設に加えて、荷主と貨物の 寄託契約を結んだ事業者が管理する施設についても、荷待ち時間などの状況を把握し、改善につなげることが望ましいとされています。

契約上の理由などから外部倉庫の数値を報告できない場合も、倉庫の名称や、荷待ち時間の短縮に向けてどのように連携しているかを記載する仕組みです。

EC事業者側には、倉庫へ「注文が入ったので出荷してほしい」と依頼するだけでなく、次のような情報を共有する姿勢が必要になります。

  • 今後のキャンペーン予定
  • 商品別の販売予測
  • 入荷・出荷のピーク
  • 新商品の発売予定
  • セット商品や同梱施策の変更
  • 返品や交換の発生見込み

外部倉庫側から出庫日程や出荷量の調整を提案された場合に、荷主が必要に応じて協力することも判断基準に盛り込まれています。

特定荷主には何が求められるのか

第一種荷主または第二種荷主として年間取扱貨物重量が9万トン以上となり、特定荷主に指定された事業者には、、すべての荷主に課される努力義務に加えて、主に三つの対応が求められます。

物流統括管理者の選任

特定荷主と特定連鎖化事業者は、物流統括管理者、いわゆるCLOを選任する必要があります。

CLOは、単に物流部門の責任者を置く制度ではありません。事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者を選任し、開発、生産、販売、調達、在庫管理など、物流に関係する部門間の連携を進めることが求められます。

物流を経営課題として扱い、販売計画や商品戦略を含めて全社的に調整することが制度の狙いです。

中長期計画の作成

特定荷主は、積載効率の向上、荷待ち時間の短縮、荷役時間の短縮に向けて、実施する施策、具体的な目標、実施時期などを中長期計画に記載します。

2026年度の提出期限は10月末です。2027年度以降の提出期限は原則として7月末ですが 、計画内容に変更がなければ毎年度提出する必要はなく、少なくとも5年に一度の提出となります。。

定期報告

特定事業者は、指定を受けた翌年度以降、判断基準への対応状況や、荷待ち時間・荷役時間などを毎年度報告します。

最初の定期報告は2027年7月末に予定されています。

今後は、定期報告などを基に物流改善への取り組み状況を評価し、ランクなどによって可視化する制度も検討されています。物流への対応が、取引先や消費者から企業を評価する材料になる可能性があります。

EC事業者が今から確認したいこと

特定荷主に該当しない事業者も含め、まず必要なのは自社の物流を契約と数字の両面から把握することです。

誰が運送を手配しているかを整理する

メーカー、卸売会社、EC事業者、モール、倉庫、配送会社の間で、誰がどの契約を締結しているかを確認します。

自社が第一種荷主なのか第二種荷主なのか、あるいは両方に該当するのかは、商流ではなく、実際の運送契約と貨物の受け渡しによって判断します。

出荷量と繁閑差を把握する

年間の総重量だけでなく、月別、週別、日別にどの程度の貨物を発送しているかを確認します。

ECの場合、年末商戦、ポイントアップ、テレビ放送、SNSでの話題化などによって出荷量が急増することがあります。平均値だけでなく、最大出荷量と通常時の差を把握することが重要です。

販促カレンダーを物流側と共有する

広告、セール、ポイント施策、新商品の発売などを、マーケティング部門だけで決めない体制をつくります。

少なくともキャンペーンの実施前に、想定受注件数、対象商品、在庫拠点、配送予定日を物流部門や委託先と共有できる状態が望ましいでしょう。

出荷後ではなく企画段階から物流を組み込む

これまでのECでは、「どれだけ売るか」を決めた後に、「どう発送するか」を考えるケースも少なくありませんでした。

今後は、どの程度の物量なら安定して出荷できるか、どの配送条件なら採算が合うかを確認したうえで、キャンペーン内容を決める順序へ変える必要があります。

おわりに 売上と物流を別々に最適化しない

物流効率化法は、物流会社や倉庫会社だけを対象とした制度ではありません。

荷物の量と発送時期を決めているのは、商品開発、調達、販売、マーケティングなどの部門です。物流現場で起きている問題の一部は、企業の販売計画や商慣行によって生み出されています。

大型セールや翌日配送をやめることが解決策ではありません。必要なのは、どれだけ売るか、どこに在庫を置くか、いつ発送するか、どの配送サービスを提供するかを一体で設計することです。

物流をコストセンターや出荷作業としてだけ捉えるのではなく、顧客体験と利益を支える事業基盤として扱う。物流効率化法の全面施行は、EC事業者にその転換を迫っているといえるでしょう。

参照元

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