AIに商品を選ばれた後、顧客は誰のもの?海外で始まるECの次の競争

生成AIの普及に伴い、EC業界でも「AIに自社の商品をどう理解してもらうか」という議論が活発になっています。商品名や商品説明、価格、サイズ、素材、用途、レビューなどをAIが理解しやすい状態に整え、ChatGPTやGeminiなどで商品を探す消費者に自社の商品を見つけてもらう。SEOに続く新たな集客対策として、AIOやGEOといった言葉を目にする機会も増えました。

日本では現在、この「AIという新しい流入経路をどう取りにいくか」が主な論点になっています。実際、Shopifyによれば、2026年第1四半期には、AIチャットボットからShopifyストアへの参照セッションが前年同期比で8倍超、AI経由の注文数は約13倍に増加しました。AIから商品を見つけてもらえるかどうかが、新たな集客競争になりつつあることは間違いありません。

ただし、海外の動きをもう少し先まで追うと、すでに別の論点が浮かび上がっています。それは、AIに商品を選んでもらった後、その顧客との関係を誰が持つのかという問題です。

ECサイトを訪れないまま、買い物が終わる可能性

従来のECでは、消費者が商品を知る場所がGoogle検索であっても、SNSであっても、広告であっても、多くの場合は最終的にECサイトへ移動していました。商品ページで価格や仕様、レビューなどを確認し、カートへ入れて購入する。つまり、EC事業者にとって自社ECへの訪問は、単なるアクセス獲得ではなく、顧客との関係を始める重要な起点でもありました。

生成AIが購買行動の中心に入ると、この前提が変わります。「予算3万円以内で旅行に持っていきやすいカメラが欲しい」「工作が好きな小学生へのプレゼントを探して」とAIに相談すれば、AIが条件を整理し、複数の商品を比較しながら候補を絞り込みます。そのまま購入までできるようになれば、消費者は商品を販売しているECサイトを一度も訪れないまま買い物を終えることになるのです。

従来のEC購買フロー/AI時代の購買フロー

これは「Google検索の代わりにChatGPTを使う人が増える」というだけの変化ではありません。検索エンジンは基本的にWebサイトへユーザーを送り込む役割を担っていましたが、一部のAIサービスでは、AIは商品の発見、比較、選択、さらには購入までを一つのインターフェースの中で担えるようになっています。流入元が一つ増えるというより、これまでECサイトの中で行われていた購買プロセスの一部が、ECサイトの外へ移動すると考えたほうが実態に近いでしょう。

OpenAI launches Instant Checkout for ChatGPT, supports Etsy and Shopify ...
OpenAIが発表した「Instant Checkout」

2025年9月にOpenAIが発表した「Instant Checkout」は、この変化を象徴する取り組みでした。米国のユーザーを対象に、ChatGPT上で商品を探した後、そのままチャットを離れずに注文や決済まで完了できる仕組みを導入したのです。AIが商品の発見を支援するだけでなく、購入まで担う段階へ進むことが明確になりました。

「売れること」と「顧客を獲得すること」は同じではない

EC事業者からすれば、AI上で商品が売れること自体は歓迎すべきことでしょう。自社ECへの流入を獲得しなくてもAIが商品を紹介し、新たな顧客から注文を生み出してくれるのであれば、新しい販売チャネルが増えたと考えることができます。

しかし、自社ECはこれまで単に決済するためだけの場所ではありませんでした。ユーザーがどの商品を閲覧したのか、どこから訪れたのか、何を比較したのか、何をカートに入れたのかといった行動を把握しながら、会員登録やメールマガジン、LINE公式アカウントへの登録を促し、関連商品やブランドコンテンツを提示する。購入後にはポイントや購入履歴を活用し、再購入につなげることもできます。こうした接点を積み重ねながら、一度の注文を継続的な顧客関係へ変えてきたのがECです。

ところが、商品を探すところから購入までAI上で行われると、その一連の接点が同じように残るとは限りません。注文情報や配送先は販売事業者に渡ったとしても、消費者がAIにどのような相談をしていたのか、どの商品と比較したのか、なぜ最終的に自社の商品を選んだのかといった購買前の行動は、AIプラットフォーム側に存在します。自社ECなら表示できた関連商品や特集コンテンツ、会員登録への誘導も、AI側のインターフェースでは販売事業者の思い通りに出せるとは限りません。

ShopifyのAgentic Storefrontsに関する規約でも、AIチャネルから購入された場合、実際の取引はShopifyストアを通じて行われ、加盟店自身が販売者として取引の責任を負う一方、AIチャネルがユーザーから直接取得するデータについては、それぞれのサービスの規約やプライバシーポリシーに従うとされています。

つまり、「販売事業者が顧客との関係を維持できる」と「自社ECで購入された場合と同じ顧客接点やデータを持てる」は、必ずしも同じ意味ではありません。AI経由で注文を取れるようになるほど、EC事業者は売上だけを見るのではなく、その取引から自社に何が残るのかを考える必要があります。

海外では「AIで売りながら、顧客関係は残す」設計へ

この論点を考えるうえで、OpenAIが2026年3月に行った見直しは示唆的です。OpenAIはInstant Checkoutを開始した後、ChatGPTの商品探索機能を拡充する一方で、購入時には加盟店自身のECサイトやチェックアウトにつなぐ方向へと仕組みを見直しました。Shopifyの商品についても、ChatGPT内で商品を探した後、アプリ内ブラウザーで加盟店のECサイトを開き、加盟店側のチェックアウトで購入できる設計になっています。

AIの中ですべてを完結させたほうが、消費者にとっては移動が少なく便利に見えます。それでも加盟店ごとのチェックアウトが必要になるのは、ECにおける購入が単なる決済処理ではないからでしょう。支払方法、配送方法、割引、会員制度、ポイント、返品条件などは販売事業者ごとに異なり、その先には購入後のコミュニケーションやロイヤルティ施策もあります。AIが商品選びを代替できても、小売事業者が長年つくり上げてきた顧客との関係まで簡単に代替できるわけではありません。

この考え方がよりわかりやすく表れているのがWalmartです。WalmartとGoogleは2026年1月、Gemini上の商品探索とWalmartおよびSam's Club(Walmartの会員制スーパーマーケット)の購買体験をつなげる取り組みを発表しました。ユーザーがWalmartのアカウントを連携すれば、店舗とオンラインを含む過去の購入履歴をもとに関連商品を提案し、既存のカートやWalmart+などの会員特典も購買体験に反映できます。

Walmartが目指しているのは、AIを単なる送客元として扱うことでも、顧客体験を丸ごとAIへ渡すことでもありません。消費者がGeminiやChatGPTから買い物を始めることは受け入れながら、その中へ自社の会員情報、購買履歴、カート、ロイヤルティを持ち込む。つまり、入口はAIに開放しながら、顧客との関係は自社につなぎ直すという考え方です。

GoogleがShopify、Walmart、Target、Etsy、Wayfairなどと共同で開発したUniversal Commerce Protocol(UCP)も同じ方向を向いています。AIとECシステムの間で商品、カート、決済などの情報をやり取りするための共通規格ですが、Googleは商品の発見から意思決定、その後まで顧客との関係を中心に据える考え方を示しています。AIが購買のインターフェースになったとしても、小売事業者を単なる商品の供給元として裏側に追いやるのではなく、販売事業者自身の仕組みとどう接続するかが重視されているのです。

日本のEC事業者は「AIに選ばれた後」まで考えておきたい

2026年8月時点では、こうした購買体験は米国を中心に、一部では英国、豪州、カナダなどにも広がり始めています。日本国内の消費者向けには、まだ本格展開していないものが中心です。そのため日本ではまず、AIに自社の商品を正しく理解してもらい、ChatGPTやGeminiなどから新しい流入を獲得するための商品情報整備が優先される段階だといえます。商品名だけでなく、サイズ、素材、用途、向いている人、利用シーン、配送条件、返品条件など、AIが商品を判断するために必要な情報を具体的に整えていくことは今すぐ取り組めます。

ただし、海外の状況を踏まえると、「AIに選ばれる」というゴールだけを見て準備するのは十分ではありません。今後AI上で購入までできるようになった際には、どのチャネルなら自社の顧客情報を取得できるのか、会員IDと連携できるのか、ポイントやロイヤルティプログラムを利用できるのか、購入後のメールやLINEなどのCRMにつなげられるのかまで確認する必要があります。

AI経由で100件売れたとしても、その100人とその後まったく接点を持てない場合と、自社の会員として継続的な関係を築ける場合では、EC事業としての価値は大きく異なります。

その意味では、会員制度やポイント、アプリ、LINEなどの役割も変わってくるかもしれません。これまでのように自社ECへの再訪を促すためだけの仕組みではなく、外部のAIプラットフォームから訪れた顧客と自社との関係を接続するための基盤として重要性を増す可能性があります。WalmartがGeminiやChatGPTの中に自社の会員基盤を持ち込もうとしているのは、その先行例と見ることができます。

もう一つ考えておきたいのが、ブランド体験です。これまではECサイトのデザインや商品ページ、特集ページを整えることで、自社商品の価値やブランドの世界観を伝えることができました。しかし、AIとの会話だけで商品を比較する消費者が増えれば、そのページを見てもらえないケースも増えていきます。そのときAIが説明できるのが価格やスペックだけであれば、ブランドが本来伝えたい違いは消えてしまいます。

商品がどのような人に向いているのか、他の商品と何が違うのか、どのような思想でつくられているのか、購入後にどのようなサービスを受けられるのかといった情報まで、AIが理解して説明できる形で持っておく必要があります。

ここまで考えると、AI時代の商品情報整備は単なるGEO対策ではありません。AIに商品を正しく認識してもらい、候補として選ばれるための情報整備と、その後に顧客との関係を築くための仕組みづくりは、いずれ一続きのEC戦略になっていくでしょう。

AIに選ばれることは、ゴールではなく入口になる

海外ではすでに、AIに商品を見つけてもらうだけではなく、その後の購買体験と顧客関係をどう設計するかという競争が始まっています。OpenAIは加盟店自身のチェックアウトを使える方向へ仕組みを見直し、GoogleはUCPを通じてAIと小売事業者の購買基盤を接続し、WalmartはGeminiやChatGPTの中へ自社の会員情報やロイヤルティを持ち込もうとしています。Shopifyも、加盟店の商品を複数のAIチャネルへ広げながら、販売事業者自身が取引上の販売主体として顧客との関係を維持する設計を取っています。

これらに共通しているのは、AIを拒絶して自社ECへユーザーを囲い込むのでも、購買体験のすべてをAIへ渡すのでもないことです。商品との出会いや比較はAIの力を借りながら、自社にとって重要な顧客接点は残す。その境界線をどこに引くのかが、これからのECにおける重要なテーマになりそうです。

日本ではまず、AIに理解され、AIから選ばれるための商品情報整備が当面のテーマになります。しかし、その取り組みがうまくいき、AIが本当に大きな販売チャネルになったときには、次の問いが必ず生まれます。AI経由で商品を購入してくれた顧客と、その後どうやって関係を続けるのか。自社が持つべき情報や接点は何なのか。どこまでAIに任せ、どこから自社の体験につなぐのか。

「AIに選ばれるEC」をつくることはゴールではありません。AIに選ばれた後も、その顧客とつながり続けられるECをつくれるか。海外の先行事例を見ると、ECにおけるAI活用の本当の競争は、すでにその先へ進み始めています。

参照元

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