
本記事では、「ShopifyとDHLが提携、欧州発の越境物流がさらに強化」「欧州の小売業界、カード決済手数料の抑制をEUに要請」、さらに「Amazon Haul、英国でベータ版提供を開始、低価格市場に本格参入」という3つの注目トピックを取り上げます。
この記事の目次
ShopifyとDHLが提携、欧州発の越境物流がさらに強化
ShopifyとDHLが正式に物流連携を発表し、ドイツを皮切りにShopify Shipping上でDHLの配送サービスが利用可能になりました。この統合により、Shopify利用事業者はプラットフォーム内で簡単にDHL配送を設定でき、国内外への発送がスムーズになります。
DHLはこの提携により、関税や税務処理に関する専門サポートも提供し、国際発送時のハードルを下げるとしています。ドイツに続き、今後は米国、その他の欧州諸国、さらには南北アメリカ、アジア太平洋地域にも順次拡大予定で、グローバルな越境EC支援の基盤が一段と強化される見込みです。
“統合型EC”の推進、成長に寄り添う物流基盤の提供
ShopifyのプレジデントであるHarley Finkelstein氏は「統合型ECこそがこれからの標準」と語り、DHLとの提携がそれを体現するものであると強調しています。配送業務をShopifyの管理画面上で完結させることで、事業者は管理負担を減らしながら事業成長に集中できます。
DHLはこの連携について「数クリックで配送を設定可能」と発表し、管理コストの削減と利便性向上を強調しました。Shopify ShippingはすでにフランスではChronopost、スペインではCorreos、イタリアではPoste Italianeと提携しており、今回のDHL統合により欧州全体の物流強化が一段と進む構えです。
Shopify × DHLの連携から見る、日本EC物流の今後
日本でもShopifyは急速にシェアを拡大しており、国内の物流企業との連携も進んでいます。たとえばヤマト運輸とはShopifyアプリを通じた配送ラベル出力や追跡機能の連携を実現。国内配送の効率化に加え、越境ECに対応した税関書類の自動生成など、出荷オペレーションの最適化が図られています。
さらに、越境EC支援を手がける企業がShopifyとDHL Expressの両方に対応したフルフィルメント支援サービスを提供するケースも増えています。欧州で進む「プラットフォーム×物流企業」の垂直統合モデルは、日本でもすでに応用が始まっており、今後の標準的なEC構造となる可能性を示唆しています。
参照:Shopify and DHL seal shipping pact
欧州の小売業界、カード決済手数料の抑制をEUに要請
VisaとMastercardが一方的に手数料を引き上げているとして、欧州の主要な小売・決済関連団体が欧州委員会に対し是正措置を求めました。特に問題視されているのは、料金体系の不透明性と、競争や規制の監視を受けないまま料金が引き上げられている現状です。
小売業界は「国際カードスキーム(ICS)」による複雑で不可解な手数料構造を批判し、「何に対して、なぜ支払っているのか理解できない」と訴えています。ある調査では、手数料が過去4年で34%も増加したとされており、年平均7.6%の上昇はインフレを除いても過剰だと指摘されています。
価格統制と透明化義務を求める業界連合の声
要望書には、Ecommerce Europe、EuroCommerce、Independent Retail Europeなど欧州全土の小売・EC関連団体が署名しており、欧州委員会に対し競争法に基づく措置と、国際カードスキームへの価格規制と情報開示義務の導入を強く求めています。これは業界の共通課題として注目されています。
Visaは自社の料金が高いセキュリティ、安定性、消費者保護、革新的サービスの提供価値を反映しているとコメントしましたが、Mastercardは回答を控えています。一方、EU内ではデジタルユーロによる選択肢の創出も検討されていますが、制度設計の進展が遅く、小売業界の期待にはまだ応えられていない状況です。
欧州の規制要請と、日本における決済手数料の実情
日本でもクレジットカード手数料の高さは長年の課題とされてきました。小規模事業者を中心に、「加盟店手数料が3~5%と高止まりしており、販促キャンペーンやポイント原資を確保しづらい」との声が根強く、政府は中小店舗向けにキャッシュレス補助金の支給や端末の無償提供を通じて、導入促進と負担軽減の両立を図っています。
また、手数料率の引き下げを目的に、一部のコード決済事業者では低率プランの提供も進められています。なかでもPayPayは、条件付きながら1.6%の手数料プランを継続しており、中小規模の店舗にとって導入のハードルが下がる要因となっています。一方で、クレジットカード決済に関しては、欧州と同様に料金体系や手数料の算定根拠が不透明だとの批判が根強く、国内でも価格の透明化と事業者保護に向けた議論が求められる状況です。
参照:Retailers urge action on card fees
Amazon Haul、英国でベータ版提供を開始、低価格市場に本格参入
Amazonは、超低価格帯の商品を集めたプラットフォーム「Amazon Haul」を英国でベータローンチしました。対象商品はファッション、生活雑貨、ホームカテゴリなど多岐にわたり、価格は20ポンド以下、大半は10ポンド未満、最安1ポンドの商品もあるという極めて価格訴求型の設計です。
Amazon Haulは、Amazonショッピングアプリ内で検索バーやメニューからアクセスでき、専用の検索・カート・チェックアウト機能を備えた独立した買い物体験を提供します。注文金額が15ポンド未満の場合は配送料2.99ポンドが加算されますが、それを超えると送料無料となり、配送は2週間以内が目安とされています。
Temu対抗、商品安全性と顧客体験を強調するAmazonの戦略
Amazon Haulは、中国系格安ECのTemuやSHEINなど、急速に勢力を伸ばすアジア系プラットフォームに対抗する狙いがあります。特に「低価格帯×迅速な配達」という需要の高まりに応える形で、Amazonは安全基準を満たす製品のみを掲載し、信頼性の面でも差別化を図ろうとしています。
Amazonは「すべての製品は社内チェックを経た安全・適法な商品」と強調しており、低価格帯でも品質管理を徹底する姿勢を見せています。また、英Amazonカントリーマネージャーは「節約志向が高まる中で、消費者が安心して楽しめる買い物体験を提供したい」とコメントし、価格だけでなく体験価値も訴求しています。
Amazon Haulに見る、低価格ECの国内展開の可能性
日本でも価格訴求型ECの需要は根強く、楽天市場の「スーパーDEAL」やYahoo!ショッピングの「買う!買う!サタデー」など、低価格×ポイント還元施策が浸透しています。加えて、アプリ限定セールや特設ページによるエンタメ性のある買い物体験も一般化しつつあります。
Amazonも国内で「タイムセール祭り」や「プライムデー」を通じて低価格の特化展開を行っており、「安く・楽しく・安全に」というキーワードは日本市場でも重要な差別化要素となっています。今後、Amazon Haulのようなカテゴリ特化型・価格訴求型の常設モールが日本版アプリに実装される可能性も否定できません。
参照:Amazon launches Haul in the UK
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