【ゲストスピーカー】
萩原 千春さん
株式会社シップス
販売促進部部長
セレクトショップの老舗「SHIPS 公式サイト」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
店舗販売の課題である売場や在庫管理をデジタルで解決
柳田さん:今回は株式会社SHIPSの萩原千春さんをお招きし、OMOについてお話を伺います。私自身、ECと店舗の役割は、コロナ禍を経てますます重要性が増していると感じています。SHIPSさんといえば、店舗が圧倒的なシェアを持つ中で、萩原さんは入社当時からECを中心に携わることが多かったそうですね。
萩原さん:ほとんどそうですね。
柳田さん:とはいえ、OMOに取り組むうえでは、ECと店舗の両方に深く関わる必要がありますよね。そのあたりの実体験を踏まえ、現在の取り組みや今後の展望についてお聞かせいただけますか。
萩原さん:SHIPSがOMOに取り組み始めたきっかけは、店舗販売における課題の解決でした。「もっとこうなったら良いのに」というお客様の声を形にするため、デジタル技術を活用することに重点を置いて取り組んだのです。
柳田さん:その取り組みはコロナ以前から始まっていたのですか?
萩原さん:はい、コロナ前からです。私は長くECに携わってきましたが、店舗のほうが体験価値は高く、ファンにはなりやすいという実感があります。NPS調査でも、店舗での回答のほうがスコアが良い傾向にあり、ECは厳しい評価が目立っていました。
柳田さん:そうなんですね。
萩原さん:店頭でしか得られない体験価値が共感や感動を生み出し、良い評価につながったのだと思います。一方で、店舗の課題としては、決まった売場で販売しないといけないことや用意できる在庫に限りがあることが挙げられます。店舗の強みであるリアルな接客を活かしながら、これらの課題を改善するためにOMOに取り組みました。その中でも、在庫や販売に関する問題にデジタルでアプローチしたことが、弊社の特徴的な取り組みだと思っています。
柳田さん:在庫という概念があったのですね。
萩原さん:やはり店舗の在庫は有限であり、弊社は全国に約80店舗ほどあるため、在庫移動や集約に時間とコストがかかります。この課題をデジタルやITの力でどう解決できるかを考え、取り組みを進めてきました。
柳田さん:それはいつ頃のことでしょうか?
萩原さん:2019年に、EC上で販売している商品の在庫が店舗にある場合、お客様が予約をして取り置きできるサービスを開始しました。同時に、店頭に在庫がなくても、倉庫に在庫がある場合は、お客様が希望する店舗に商品を送って受け取れる仕組みも導入しています。
その後、2020年頃には、ECに在庫があれば店頭に在庫がない場合でも、お客様が店頭で申し込みとレジで決済を行い、商品をご自宅へ配送する仕組みを実装しました。これらの機能により、ECと店舗の両方で商品を購入できる環境が整い、「在庫がないために購入できない」というお客様の不満を軽減することができたのです。
柳田さん:お客様がネットで確認して店舗に来たのに在庫がないという状況を防ぐだけでなく、店舗スタッフが使いやすい仕組みであることも重要ですよね。店舗主導の企業では、お客様の利便性を考えて導入した機能が、結果的にスタッフの負担になることも少なくないと聞きます。
萩原さん:この仕組みを導入しようと思ったきっかけは、お客様が「買えない」という最高にネガティブな体験を解消するためでした。だからこそ、どこかに在庫があれば必ずお客様に提供できる仕組みを構築したのです。店舗スタッフにとっても、お客様に商品を届けられないのは非常にネガティブな体験です。お客様とスタッフ、双方に共通する課題を出発点に取り組みを進めています。
会員情報一元化の鍵はファーストパーティデータの活用
柳田さん:在庫管理システムの導入に先立ち、会員情報の一元化が必要だったのではないでしょうか。その対応は以前から進んでいたのですか?
萩原さん:はい、在庫管理の機能を実装する前から、会員情報の一元化には取り組んでいました。お客様を深く知ることが、全ての基盤になっています。
柳田さん:リアルとネットの両方で購入しているお客様は、良いお客様ということが想像できますが、リアルだけ、ネットだけで購入しているお客様の情報を可視化できていなければ、わからないことも多かったと思います。会員情報の一元化にあたって、相当な苦労があったのではないでしょうか。
萩原さん:リアルとネットのお客様情報を管理する中で、ファーストパーティデータの活用が鍵になると考えています。ゼロパーティーデータはもちろん重要で、新しい取り組みの可能性を感じていますが、まずはファーストパーティデータを活用して、やれることを着実に進めています。店頭でのユニファイドコマースの対応やCRMの活用も、まだまだ進化の余地があると思います。
2021年には、お客様のお気に入りや興味を持つ商品データを収集できる仕組みを実装しました。これを活用し、お客様にもっと好きになってもらえるような体験を提供し、感動や共感を生むアプローチを強化したいと考えています。
柳田さん:SHIPSさんは、モールにも出店されていますが、モールで取れるデータは限られますよね。一方、自社ECサイトでは全てがファーストパーティデータになるわけです。今後、自社で情報を持つ重要性がますます高まる中で、その対応が進んでいる印象を受けます。
萩原さん:まだまだこれからですけどね。
店舗の専門性や接客スキルがECに活きる
柳田さん:ECのデータをリアル店舗とどううまく統合していくかが課題ですね。ECで購入したお客様の情報が店舗でも共有化され、一つの会員情報として管理されていますよね。
萩原さん:はい、ECとリアルでの購入履歴を紐づける仕組みは実現しています。
柳田さん:ただ、店舗に訪れたものの購入に至らなかった場合や、スタッフが接客中に得たお客様の情報は、まだ十分に活用されていないのではないでしょうか。こうした情報も重要だと感じます。特にコロナ禍で店舗が完全に稼働できない中で、スタッフのモチベーションを高めることが、リアルとネットを繋ぐ鍵だと思います。
萩原さん:そうですね。今だと、例えばECで購入されたときの店頭貢献度を評価する仕組みは、スタッフのモチベーション向上に役立っています。ただ、本質的には「この人から買いたい」「この人に接客してほしい」といった感動や共感をどう生み出すかが重要です。それがスタッフ個人のスキルや価値であり、店舗の大きな強みだと考えています。
同時に、デジタルはその販売力を補完する手段として活用できると思っています。店舗での販売力をデジタルに反映し、会社全体の力に変える方法を模索していくことが私たちの課題です。
柳田さん:デジタルがない時代は顧客台帳を個人で管理し、お客様一人一人の趣味や好みなどを記録し、手紙を送るといった接客も行われていましたよね。それがスタッフ個人のスキルに依存していた時代から、今では情報を共有化して活用することが求められています。ただ、プロ意識の高いスタッフほど、こうした共有化に抵抗を感じることもあるのではないでしょうか。
萩原さん:これはあくまで私の考えですが、時代が変化する中で、販売スタッフの役割や求められるスキルも変わっています。優秀なスタッフにはそのスキルを最大限に発揮してもらいながら、新人スタッフでも一定の品質で接客ができるよう、デジタルツールを積極的に活用することが重要です。特に人材確保が難しくなる時代において、このような仕組みはますます必要になってくるでしょう。
柳田さん:ファンを作るためには、何よりもまず商品力が大前提として重要です。その上で、店舗の専門性や接客スキルが欠かせません。ECでは売上が伸びる一方で、スタッフの専門性やスキルが追いつかないケースがよく見られます。その結果、事業の成長に対応するために、人員を増やす必要が生じますが、接客の質が落ちると長期的にはブランドの信頼が損なわれるリスクがあります。こういった課題を解決する鍵は、やはりリアルな現場にあると言えるでしょう。
おわりに:ECも店舗も共通してみているのは”お客様”
多数の店舗を持つ中でECサイトとリアルをつなぎ合わせて、各店舗のスタッフの方々が自然と使いこなせるシステムを設計するのは容易なことではないかと思います。新機能を実装し、導入に際して現場からのネガティブな声についてコメントがなかったのは、提供される機能がEC側の独断で導入されるものではなく、あくまでお客様にとって良い機能だからだったのかもしれません。何事も新しい取り組みを始めるうえで、規模が大きくなればなるほど、共通認識を持つことの重要性が感じられる回だったと思います。
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