
木村 直人
株式会社Hajimari
早稲田大学卒業後、大手損害保険会社を経て、株式会社アトラエ入社。成功報酬型求人サイト「Green」の立ち上げから関わり、仕組みを作る。その後人材系のベンチャー企業に参画し、取締役COOに就任。新規事業としてIT分野のプロフェッショナル人材を活用する「ITプロパートナーズ事業」を立ち上げる。 2015年4月より「ITプロパートナーズ事業」を業務移管させる形で、株式会社ITプロパートナーズ(https://itpropartners.com 現:株式会社Hajimari)を創業。代表取締役に就任。
調査サマリ
- 40〜50代の生成AI活用意欲20〜30代を上回る、若手の半数以上は「活用する気なし」
- 年収1,000万円以上では約60%が活用、年収400万円以下は20%を切る
- 約9割のエンジニアがAIによる仕事の代替を意識、しかし具体的な対策は不十分
- 職種別では機械学習エンジニア(54.55%)とITコンサル(50%)が最も高い活用率
- 生成AI活用者の約9割が業務への効果を実感、約6割が1日2時間以上の作業効率改善
2023年は「生成AI元年」と位置づけられ、そして2024年は、生成AIの具体的な導入フェーズに入りました。Eコマース業界でも生成AIの活用による業務改善が期待されています。企業が生成AIを使いこなすには、ITエンジニアなど専門的な知識を持つ人材の活用が欠かせません。当社が9月に実施した、ITエンジニア300名へのAI活用に関する実態調査をもとに、生成AIの活用実態とその効果、また課題を見ていきましょう。
開発業務に生成AIを活用していますか?

まず、生成AIを業務に活用しているかを聞いたところ、生成AIを業務に活用している人は、約29%に留まり、41%は「活用する気は今のところない」と回答しました。話題の生成AIですが、まだ実際に活用している人は一部に留まっているようです。
結果を年代別に分析したところ、世代ごとに活用率に大幅な違いはありませんでしたが、生成AIの活用意欲に関して大きな差が見られました。40〜50代の中堅・ベテラン層の36.26%が「活用したいが、活用できていない」と回答しており、20〜30代の若手層の17.81%を大きく上回っています。中堅・ベテラン層のエンジニアのほうが、生成AI活用に強い関心を持っていると判明しました。
また、20〜30代の52.05%が「活用する気は今のところない」と回答しており、これは、従来の「若手ほど新技術に積極的」という認識を覆す結果であるといえます。年収別で見たところ、高年収層は生成AI活用率が高く、年収1,000万円以上では約60%が活用している反面、年収400万円以下では著しく活用率が下がり、20%を切ることがわかりました。


「生成AIを活用している」と答えた人のみに活用シチュエーションを聞いたところ、「調べ物・問題解決」が最も多く、次いで「データ分析・可視化」、「コーディング」が続き、幅広い業務で活用されていました。また、約8割が成果物の2割以上で生成AIを利用しており、生成AIを活用している人は、業務への浸透が進んでいることがわかりました。


生成AI活用者の約9割が期待通りまたはそれ以上の効果を感じており、約6割が1日2時間以上の作業効率改善を報告しています。生成AIが実際の業務改善に大きく貢献していることがわかります。

一方で、生成AIを導入すると、新たな課題が生じることもわかりました。成果物の品質維持や新たな学習負担、既存システムとの統合の難しさなどが挙げられています。これらの課題に対する適切な対策が整えば、さらに業務改善が進むと考えられます。

生成AIをこれから学びたいと思いますか?

生成AIを活用していない理由としては、「業務遂行に必要ない」「セキュリティリスク」「信頼性への不安」が上位に挙がっています。また「難しい」という回答も14.8%あり、どの業務にどのように生成AIを使えばよいかがわからない。生成AIがどう便利なのかわからないというエンジニアも一定いるようです。
一方で、約56%のエンジニアが生成AIに興味を持ち、学習意欲を示していることから、今後の普及拡大の可能性を示唆しています。
Eコマース業界では、メールマガジンや商品紹介ページの作成、また広告に用いる画像やコピーの作成などの業務で、生成AIによる効率化が期待されています。しかし、正解のないこれらの業務で、現状はまだ、生成AIを活用しない従来通りの業務フローを続ける事業者が多いでしょう。
事業者側の経営層、もしくは管理職が、生成AI活用時のルールや、成果物に関するクオリティラインをあらかじめ定めておくことで、働くメンバーの生成AIの活用に対する積極性があがり、効率的な活用シーンも増えるのではないかと考えられます。
何があれば生成AIを活用しようと思いますか?

「何があれば生成AIを活用するか」の回答から、企業側の生成AI導入に対する姿勢にも課題があることが推測されました。「業務上の必要性」(24.7%)や「会社の方針など強制力」(11.8%)を求める声が多いことは、多くの企業が生成AI活用に関する明確な方針や具体的な導入計画を示せていない可能性を示唆しています。
ここでいち早く指針を示せれば、生成AIを用いて大きく成果を上げられる可能性があります。
その他にも「具体的なAI活用事例や成功事例」を求める声(18.5%)が多いことや、「周りが使い始めたら」(7.8%)という回答も一定あることから、まだ生成AIという新しい技術に対して様子見をしているエンジニアが多いと考えられます。


最後に、活用有無問わず全てのエンジニアに、生成AIに「仕事が奪われるか」を質問しました。“AIに奪われる職種”は、頻繁に話題に上がりますが、ITエンジニアはどうなのでしょうか。
完全に代替されると答えた人は3.6%に留まりましたが、約9割のエンジニアがAIにより、何かしらの仕事が代替されると考えているようです。しかしながら、そこで具体的な対策を取っている人は限られています。
生成AIによる脅威を感じつつも具体的な対策を取っていない人が最も多く、25.4%となりました。多くのエンジニアが生成AIの脅威や、変化の必要性を感じつつも、具体的な行動に移せていない現状を浮き彫りにしています。
行動を起こせている人は、生成AIスキルを磨こうとする他、マネジメントスキルなど、現状は人間にしかできないと思われている業務スキルを磨こうとしているようです。
まとめ
ITエンジニアは、生成AI技術との親和性が高い職種です。しかし、今回の調査で、実際に活用しているのはまだ3割程度に過ぎないという意外な結果が判明しました。
一方で、ITプロパートナーズに寄せられる企業からのご相談では、「生成AI活用スキルの高いエンジニア」を求める声が高まっており、そこで提示される報酬は通常より高い傾向が見られます。このことから、生成AI活用スキルが今後エンジニアの年収を左右する重要な要素のひとつになると予測されます。
また、「ECサイト設計・開発ができるエンジニア」といった、EC業界のエンジニアへのニーズも、常に寄せられおり、業界の人材不足も垣間見えます。そこで、生成AIの力をうまく活用することは、今後重要な戦略となるでしょう。
Eコマース業界が生成AI活用による、業務効率の向上を実現するためには、まずは生成AIを実践で使ってみること。そして生成AI活用時のルールや、成果物に関するクオリティラインを整備しておくなど、事業者側の主導の明確な方針策定が必要であるといえます。そして、これらをいち早く整えた企業は、最新技術に興味を持つ人材の採用に有利になるでしょう。
調査概要:エンジニアのAI活用に関する実態調査
調査方法:インターネット調査(QIQUMOを利用)
調査時期:2024年9月
有効回答:エンジニア300名
年齢:20〜29歳 9.7%、30〜39歳 14.7%、40〜49歳 26.7%、50〜59歳 30.3%、60歳以上 18.6%
年収:200万円未満 5.3%、200万円以上400万円未満 15.7%、400万円以上600万円未満 32.3%、600万円以上800万円未満 25.0%、800万円以上1,000万円未満 11.0%、1,000万円以上1,200万円未満 6.0%、1,200万円以上1,400万円未満 3.0%、1,400万円以上 1.7%
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