記事の概要

楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っているサヴァリ株式会社が運営するYouTubeチャンネル『ECの未来』では、ECに関わるさまざまな方をお呼びして、その方たちの得意ジャンルのお話をMCである株式会社柳田織物の柳田敏正さんと対談形式でお届けしています。

今回は、株式会社北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下さんに、売上最小化・利益最大化のEC経営をテーマにお話いただく回の第3回をご紹介いたします。

【ゲストスピーカー】
木下 勝寿さん
株式会社北の達人コーポレーション
代表取締役社長
健康食品・化粧品ブランド「北の快適工房

【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)

「目立たないプロモーション」とは?

柳田さん:北の達人では一つ一つの商品がお客様のお困りごとに対応しており、全く異なる商品のためブランディングが難しいと第2回で話されていたかと思います。それではプロモーションが大変ではないでしょうか。

世界観を活かした売り方の場合、ブランディングをしているほうが、プロモーションはやりやすい気がするんです。しかし、商品が一つ一つ違うと世界観を伝えることができないため、商品ごとにプロモーションを変える必要があります。

木下さんの著書『売上最小化、利益最大化の法則』でも書かれている「目立たないプロモーション」とは、どういうことか教えていただきたいです。

木下さん:プロモーションをするにあたって、僕はブランディングをすることが効率的だと思いません。100人に良いイメージを持たれても、実際に購入に至るのは5~10人程度。つまり、残りの90人に知ってもらうことは無駄なわけです。

柳田さん:好感を持たれても購買行動にはつながらない、ということですね。

木下さん:商品を知った方全員に購入してもらうためには、その商品に明確な特徴や差別化要素があるほうが効果的です。ピンポイントでニーズに合致した商品を作り、興味がある人たちだけにお知らせするのが一番効率は良いでしょう。

広告は出すことよりも止めること

柳田さん:プロモーション先を絞ることで、広告費が減るということですか?

木下さん:そうですね。無駄な広告は減ります。日本でその商品について1万人にしか知られていなくても、その1万人全員が購入していただけるのであればそれで十分です。

他の人には知ってもらう必要はありません。むしろ、他の人に知られてしまうと、商品が売れていることが広まり、競合に気づかれてしまいます。不要な広告はただ無駄なだけではなくて、競合を生むことにもなるんです。最も効率的なのは、商品を知ったら確実に購入しそうな人たちだけに情報を届けることです。そこに全力を注いでいます。

柳田さん:とはいえ現在では、北の達人はいろんな企業からベンチマークされていますよね。

木下さん:たしかに、EC・D2C業界の方々は弊社のことを知っていますが、実際の商品を知らない人も多いです。企業として一定の認知度はありますが、ECやD2Cを行っている人たちは、弊社のお客さんと対象年齢が異なるため、日常生活の中でうちの商品を目にすることはほとんどないでしょう。

もちろん、弊社の商品をチェックしている方はいると思います。そういった状況も踏まえて、広告は追いかけすぎないようにしています。具体的には、3回広告を見ても買わない人にはそれ以上リタゲ(リターゲティング広告)を出さないようにしています。広告を大量に出すことよりも、適切に広告を止めることに力を入れているんです。

無駄な広告を減らすことで、CPO(顧客獲得単価)が他社に比べてかなり低く抑えられているはずです。他社の商品がリタゲでずっと追いかけているところを見ると、そろそろ「この人は買わない」と判断して止めてもいいのではと思います。弊社では、リタゲを何度も出し続けることはあり得ません。

リタゲを何回見てもクリックしない人は、その商品に興味がないと判断し、すぐに広告を止めるようにしています。とにかく、上限CPOを超えないように運用しています。弊社の広告部門の仕事は、広告を出すことではなく、適切なタイミングで止めることです。

メディア露出で売上が変わらず競合環境が激化

柳田さん:目立たないプロモーションが競合を作らないという点は、非常に興味深いです。たしかに広告を大量に打つと、どうしても目立ってしまいますよね。

木下さん:僕が特産品を販売していたときに、訳ありグルメとしてテレビで何度も紹介されたんです。その結果、競合が増えました。

お客さんがテレビで弊社のことを見ても、検索エンジンで「訳ありグルメ」と調べると競合の商品がずらっと出てくるようになったんです。テレビ出演が結果的に競合の宣伝のようになってしまいました。初年度の年商が1億円で、その後30回ほどテレビに出ましたが、翌年も年商は1億円のままだったんです。

柳田さん:競合のためにテレビに出続けたという感じですね。

木下さん:途中から僕らも売上が伸びないことはわかっていたので、テレビには記念のような感覚で出演していました。そして、この事業は主力にならないと判断して、次の事業の準備を始めたんです。

柳田さん:一度テレビに出ると、そのまま出演を続けたくなりそうですが、木下さんはそうではなかったんですね。

木下さん:取材依頼があっても、商品に触れる内容だと受けないこともよくあります。お客さんに知っていただける反面、競合に知られることもあるからです。取材の意図を確認して、出るべきかどうかを慎重に判断しています。

柳田さん:目立たないことを意識すると、商品の紹介依頼があっても、断ることも多いのでしょうか。

木下さん:断ることは全然ありますね。対象となる層をしっかり確認し、細かい数字は基本出さないようにしています。当社の商品は女性向けが多いため、女性誌や女性向けメディアからの相談はよく伺います。一方、事業者は大体男性なことが多いため、男性に向けてこんな商品が売れていると露出していくのは、百害あって一利なしです。

仕組み化とPDCAによる教育・採用への工夫

柳田さん:目立たないようにするために、ターゲットを絞ってプロモーションすることに重きを置いているのですね。広告運用は内製化されているんですか?

木下さん:一部アフィリエイトはしていますが、基本的には内製ですね。

柳田さん:人材の教育や採用についてはどのように考えていますか?

木下さん:採用は仕組みだと思っています。僕も最初は1人でやっていたのですが、少人数のときは、オールマイティーにできる人が必要がですよね。ですが、そういった方を採用するのはなかなか難しいです。僕も一応オールマイティーやってはいましたが、全部が全部ちゃんとできているわけではありません。

例えば、広告運用と一口に言っても、クリエイティブを作ったり、入札したり、効果測定したり、さまざまな役割があります。それぞれ向き不向きが違うわけで、これを全部細分化して、各分野に特化した人材を採用するんです。例えばクリエイティブに得意な人は計算が苦手だったり、一方で、上限CPOを計算して運用する人はクリエイティブが得意じゃなかったり、それぞれの職種に向いた人を採ると完全にその業務に特化していきます。そこまで細分化すると、もうほぼセンスの世界になってくるんです。

広告運用の担当者はGoogleやFacebookのアルゴリズムを理解して運用を効率化できる人を採用します。その法則性を見出す能力を判断するために、IQテストなどを活用しているのです。IQが全てではありませんが、法則性を見抜く能力を測るための指標になります。

柳田さん: IQが高い人には会話が苦手な方もいるイメージがありますね。

木下さん: IQが20違うと会話が噛み合わないと言われているので、IQが高い人たちは一般的な社会で生きづらさを感じることが多いんでしょう。「弊社にはIQが高い仲間がいますよ」と言って募集すると、驚くくらい賢い人が来ます。

柳田さん:意気投合できるかもしれない、コミュニケ―ションが取りやすいかもしれないといった想いで、応募するんでしょうね。

木下さん:各業務に必要な能力をしっかりと見極めて、その能力を測るためのテストを考えます。IQテストは既存のものを使っていますが、それ以外のテストは独自で作成しています。例えば、クリエイティブのセンスやセールスライティングのスキルを見抜くテスト、共感を得られるメルマガを作成できるかどうかを測るテストがあります。

セールスライティングは、基本的に相手を説得して「買いたい」と思わせるにはロジカルな考え方が必要です。一方、メルマガで読者の共感を得るには感性が必要になるでしょう。

以前、「あなたのおすすめの飲食店を紹介する文章を書いてください」というテストを用意したことがあります。ですがこのテストは失敗でした。自分の好きなことはみんな書けるんですよね。興味がないものでも、商品の良さを引き出して書けるスキルが必要だと気づきました。

柳田さん:例えば男性に女性向けのアイテムのライティングをしてもらうようなテストですよね。

木下さん:そういうテストをやると、どんなものでも商品の良さを引き出して書けるかどうかが判断できるんです。こういったテストを頻繁に作り替えています。

何にも教えてないのにできる人っているじゃないですか。そんな人をどうやったら見つけられるんだろうと考えて、そういう人が興味を持ちそうな求人広告を作っています。採用したい人が興味を持つ求人広告を作り、能力があるかどうかがわかるテストを作るんです。

柳田さん:業務を細分化し、それぞれの専門分野に長けた人に響く求人内容を書けば良いんですね。そうやってEC人材を増やしているわけですね。

木下さん:オールマイティーな人を求めるのは難しいでしょう。オールマイティーな人は独立している場合が多いからです。結局、組織はみんなで助け合いながら作っていくもので、総合力で言えば、僕が社内で一番が高いかもしれません。しかし、特定の分野では他の社員のほうが優れています。オールマイティーな人を求めている限り、自分以上の組織にはできないんです。

EC以外の販路は作らずに1,000億円を目指す

柳田さん: 100億円規模の売上で上場されたとき、販路はECだけでしたか?

木下さん:そうですね。一部、テレビでインフォマーシャルはやってはいますが、基本的にECが中心です。

ECを始めたときに、効率は良いけれども市場に上限があると言われたんです。それなら、上限に達したら、通販など他の販路に行こうと思っていました。しかし、その上限が全然来ないんですよね。僕がECを始めてから20年が経ちますが、EC市場は広がり続けており、どんどん天井が高くなっている感じです。なので、他の販路に手を出していないのは、上限がまだ来ていないのが理由の一つです。

もう一つの理由は、ECと実店舗を運営している上場企業の決算書を見ると、非常に効率が悪いというのに気づいたからです。大手の化粧品通販会社の決算書を見たときに、売上がうちの化粧品と比べて4~5倍ぐらいあっても利益はそこまで変わらなかったんですよね。

柳田さん:売上が大きくても利益が同じであれば、リスクだけが大きくなってしまいますもんね。

木下さん:なので他の販路への展開はやらないと決めているわけではなく、ずっと注視してはいますが、今のところやりたいとは思わないだけなんです。むしろ、その気持ちが年々強くなってきています。

リアルの販路を持つ化粧品業界でトップだった知人がいますが、その方と話しても「木下さんは、リアルの販路には手を出さないほうがいいよ。市場がどんどん変わるから」とアドバイスをもらいました。僕自身、年に1回はリアルの販路を本当にやるべきかどうか考えますが、今のところ「やらない」という判断を続けています。ただ、完全にやらないと決めているわけではないです。

柳田さん:先ほどおっしゃったように、ブランディングが必須ではないという考え方であれば、リアルの販路は必要ないですよね。ECで行き詰まると、リアルの販路に進出しようとする企業も多いですが、北の達人ではECで利益をしっかり管理しながら売上を伸ばし、無駄な展開は避けています。オムニチャネルという言葉が流行っている中でも、売上よりも利益を重視して取り組んでいる点が非常に一貫していると感じました。

最後に、今後の目標や展望をお聞かせいただけますか?

木下さん:今期(2021年8月収録)の売上は92億円の見込みですが、次の目標は売上1,000億円、利益300億円を目指しています。

柳田さん:利益率は30%なんですね。

木下さん:世界的なグローバルブランドと言えば、消費財では花王さんや資生堂さんのような素晴らしい企業がありますが、ほとんどがリアルの流通を主軸としています。しかし、D2Cが可能な時代になり、弊社も1,000億円規模を目指せると考えています。

弊社は、10億円規模の商品を10個作れば100億円になるという考え方でここまで来ました。市場が20億円以上になると大手企業が参入してきますが、10億円規模なら参入されにくいです。中小企業としては、競争が少ない10億円規模の市場を狙えば高い利益率でやっていけると。今、それに近い形で100億円まで達成できています。

実際には3億円規模の商品もあれば、1億円や40億円規模の商品もあります。40億円規模の商品ができると、それが100億円規模に成長することもあるとわかってきたんです。そしたら無理に分散せずに10分野に展開して、1,000億円を目指そうと。僕らはECだけで50億円規模の商品を販売するノウハウを持っていますが、それを横展開するだけで十分なのに、今さらオムニチャネルに手を出す必要はないと感じています。

仮に日本市場が限界に達したとしても、海外展開もECで十分です。僕らは今まで「自分たちが作った商品を買ってください」ではなく、「お客さんが必要とする商品を作る」ことをしてきました。海外に展開する場合も、自分たちの既存の商品を押し付けるのではなく、その国の人たちが必要とする商品を作るほうがスムーズだと考えています。

もちろん国によっては、例えば台湾のように日本の商品が好まれている市場では、日本の商品をそのまま展開することもあるでしょう。しかし、そうでない国では、現地の人たちが求めている商品を作ったほうが理にかなっています。最終的には、ECにおいて国境の概念はなくなり、どこで作られた商品かは重要視されなくなるのではないでしょうか。世界中の消費者が欲しがる商品を作ることが大切で、どこで作られたかはお客さんにとってあまり関係ないですからね。

柳田さん:日本での取り組みを10倍に拡大しつつも、品数を増やしすぎずに、市場規模を大きくしていく。そして海外に横展開し、現地のニーズに応じた商品を提供するということですね。越境ECで現地の消費者の課題に応えるアプローチは、あまりない考え方だなと感じました。

おわりに: 常識を疑い、何に注力すべきか

3回に渡って木下さんのお話を伺う中で、売上を伸ばすことやブランディングを推し進めること、メディアに露出すること、販路を増やすことなど、一般的に良いと言われていることについて自社にとっての最適解を突き詰めて考え、言語化されていることがよくわかりました。商品のジャンルや特性、もともとある環境によってこの点の是非はさまざまかと思いますが、なんとなく感じられる良いものが本当に自社にあっているのか、やるべきことなのかは一度立ち止まって考えてみても良いかもしれないですね。

EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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