勝手に分析!アプリ屋が注目する小売アプリ

筆者は主にリテール(小売業)向けのアプリ開発のお手伝いをさせていただくことが多いので、研究目的もあって多くのアプリを実際にインストールして試しています。手元のiPhoneを調べたら、アプリ数が1,000を超えていました。

スマホもiPhoneとAndroidを2台常用していますし、実際に店舗に行って買い物をしてみることも多いです。会員登録に必要であればポイントカードやクレジットカードも作るので、自宅には相当な枚数のカードがたまっています。

今回は、こんな感じでさまざまなアプリを試して使い倒している筆者が、「これは面白い!」「よくできている!」 と感じたアプリを取り上げ、どこがすごいのかアプリ開発者の視点で分析してみようと思います。

この記事の執筆者

篠田 健吾
メグリ株式会社

IT系企業で新規事業の立ち上げに携わり、2014年、メグリ株式会社に入社。入社当初はWebサイト・アプリの分析および企画を中心に、サービスの新規営業にも従事。2020年よりプロダクト開発チームでプランニング担当として「MGRe」の新機能の企画や改善等の業務を担当。

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店舗の在庫が一目でわかる:ABC-MARTアプリ

人気ブランドの靴や限定スニーカーの販売で人気なABCマートのアプリには、2年ほど前から来店中の店舗の商品在庫が確認できる、とても便利な機能が搭載されています。

特に靴の場合は自分のサイズが店にあるかどうか、店頭ではわからないことも多いので重宝します。

使い方も簡単で、まずアプリを起動して「店内モード」のタブを開き、店内に貼られているチェックイン用の2次元バーコードをスキャンします。これを行うことで、いまどこの店舗にいるかがわかるようになり、店舗の在庫が調べられるようになるという仕組みです。

チェックインしたあとは、調べたい商品の値札についているバーコードを読み込むだけです。うまく読み込めないときはバーコード番号を手入力して探すこともできます。

これだけで店舗にある在庫がサイズ別にすぐに表示されます。

お店のスタッフの方がなかなか見つからないときや、そもそも声かけするのがちょっと苦手な方でも気軽に調べることができて便利です。

ちょっと面白いなと思ったのは、在庫があることがわかったあとにスタッフの方に試着をお願いしようと思って声かけしたところ、スタッフの方も同じようにアプリを使って在庫状況を確認していたことです。

ユーザー向けのアプリとは別ものだと思いますが、スタッフの方も在庫がちゃんとあるのか確かめてから取りに行けるので無駄をなくすことができています。

膨大な数の商品とサイズの組み合わせがある中で、店舗ごとの在庫を管理して、リアルタイムで確認できるようにする仕組み作りは大変だったと想像しますが、これのおかげで実際に買い物をした筆者の購買体験がよくなっただけでなく、スタッフの方の負担も軽減されていて、非常に良くできていると感じました。

参照)ABC-MART公式アプリ:https://www.abc-mart.net/shop/pages/app.aspx

天気 x コーデでアプリを毎日起動してもらう:MASH STORE

アパレル業界のアプリでは、スタッフの方が商品を実際に着用して写真や動画をアップするスタッフコーデのコンテンツが人気を博しています。

これは筆者が開発をお手伝いさせていただいているアプリにも導入事例が多くあります。コーデを楽しみにしてアプリの起動頻度がアップしたり、コーデをきっかけにして着用アイテムの販売が伸びたりと効果が高いことでも知られている施策で、人気のあるスタッフさんになると投稿したコーデをきっかけに数千万単位の売上につながったなんてニュースも耳にしています。

そんな中、SNIDELやgelato piqueといった人気ブランドを抱えるマッシュグループのアプリ『MASH STORE』では、もう一歩踏み込んだ施策をアプリで見ることができます。

MASH STOREアプリの『WEATHER』タブを開くと、その日の天気と気温、湿度や風速、紫外線の強さといった情報が表示されます。

これだけだと単なる天気予報でしかないんですが、天気情報の下に『TODAY'S BEST COORDINATE』というコンテンツが用意されていて、その日の天気にあわせたワンポイントアドバイスとおすすめのコーデ情報を見ることができます。

最近の若い世代の検索がGoogleからInstagramに移っているという話を耳にしたことがある方もいらっしゃると思います。

その事例として、出かける前にInstagramでコーデの検索をすることで、その日に着ていく服選びの参考にするだけでなく、その日の天気や気温がどんな感じなのかもまとめて把握してしまうという話が数年前から見られるようになっていました。

これは筆者の想像でしかありませんが、MASH STOREアプリのこの機能は、こういったInstagramなどで起こっている検索行動をヒントにして機能化したのではないかという印象を持っています。

アパレルの場合は1ユーザーあたりの購入頻度があまり高くないので、アプリ自体に購買以外の目的や楽しみがないとなかなか起動してもらえないという課題があります。コーデのコンテンツはそれを解決する1つの策として有効なのですが、もしこの「天気×コーデ」のコンテンツの利用が習慣化すると、アプリを毎日起動してもらえるようになる可能性が出てきます。これを目指して機能化されたのであれば、非常に秀逸な施策だなと個人的に感じています。

参照)MASH STOREアプリ:https://mashgroup.jp/news/2022/0609.html

屋内なのに自分の位置がわかる店内マップ機能:カインズ

最近のホームセンターやショッピングモールは大型化の傾向が強くなっていて、商品の品揃えや店舗のラインナップで不満を感じることはほとんどなくなっていますが、その反面で欲しい商品や行きたい店舗を探すのに手間がかかるというジレンマがあります。

そのためアプリにも店内マップのような機能が用意され、手元のスマホで確認できるようになっていることが多いのですが、このマップ上にユーザーの現在位置を表示できるものはあまりありません。

これは建物内ではGPSの電波が屋根で遮られてしまうため、ユーザーの正確な位置情報を割り出すのが難しいためで、特にホームセンターの場合は基本的に屋内に商品が並べられているため実現が難しくなってしまいます。

GPS以外の方法で屋内での正確な位置情報を補足する技術については、Bluetoothを使ったiBeaconやWi-Fiのアクセスポイントなどの活用が試されてきていますが、店内マップでストレスなく使えるくらい高精度なものはなかなか見つかっていないのが現状です。

そんな中でカインズが2022年に開始した、SONYのNaviCXというプラットフォームを使った実証実験 *では、屋内にもかかわらずユーザーの現在位置を正確に割り出して表示することに成功しています。

この取り組みはその後も続いており、現在では対象店舗はかなり増えています。筆者も自宅から近い草加松原団地店で実際に試してみました。

*引用元)屋内行動分析プラットフォーム NaviCX(ナビックス) 実証実験:https://www.sony.co.jp/Products/felica/navicx/case_c.html

利用する前にまずアプリ上で「マイストア」を登録する必要があり、さらに探したい商品を「検索」タブの商品検索で決め、「売場を探す」を選択します。このとき、あらかじめ商品をお気に入り登録しておくと、来店時に「売場を探す」手間がかなり省けておすすめです。

「売場を探す」を選ぶとすぐに店内マップが表示されます。探したい商品の棚位置が緑のピンでマップ上に表示され、本人が店内にいれば自分がいる場所が赤いピンで指し示されるようになります。

このあと、自分の移動に合わせて赤いピンも移動していくのですが、表示された直後は赤いピンがマップ上のあちこちに飛んでしまい、いま自分がどこにいるのかわかりにくい状態になることがあります。

ただ、これはしばらく移動していると落ち着いて、それ以降はかなりの精度で移動を補足してくれるようになります。

これはおそらくNaviCXが店内に設置されたBluetoothビーコンを使うことで、まずユーザーの正確な現在位置を把握する仕組みになっているからで、最初のビーコンを捕捉できるまではその精度が上がらないからだろうと思います。店内を歩いていれば自然にビーコンを捕捉して精度がすぐに上がるので実用上は問題ないでしょうし、なにより広い店内で目当ての商品のところまでスムーズに案内してもらえる体験には結構驚かされます。

ただ、店舗数分の店内マップの画像の準備(カインズは2023/6/1時点で234店舗あるとQ&Aに書かれています)と、膨大な商品の棚位置情報の紐付けはおそらく人力で対応しているのではないかと思います。アプリ開発の立場で考えると、このハイテクとの組み合わせで膨大な手間をかけてこのサービスを実現している力の入れようには感服します。

参照)カインズアプリ:https://www.cainz.com/service/cainz_app.html

まとめ

  • ABCマートでは店舗在庫の管理システムを作り上げ、アプリ化まで実現したことで顧客体験(CX) と従業員体験(EX) をともに高めることに成功している。
  • MASH STOREでは毎日アプリを起動してもらえる施策として、その日の天気にあわせたコーデ情報を発信。買い物しない日であっても楽しめ、次のお買い物の楽しみへとつなげていく秀逸な顧客体験を提供している。
  • カインズでは最先端の技術と膨大な手間を組み合わせて店内マップ機能を実現。他社と一線を画した顧客体験を提供している。

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