
篠田 健吾
メグリ株式会社
IT系企業で新規事業の立ち上げに携わり、2014年、メグリ株式会社に入社。入社当初はWebサイト・アプリの分析および企画を中心に、サービスの新規営業にも従事。
2020年よりプロダクト開発チームでプランニング担当として「MGRe」の新機能の企画や改善等の業務を担当。
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この記事の目次
はじめに
筆者は主にリテール(小売業)向けのアプリ開発のお手伝いをさせていただくことが多いのですが、アプリ導入の検討をされるときにLINE公式アカウントとどちらがいいか比較されることがよくあります。
アプリ導入を検討される理由の1つとしてプッシュ通知が挙げられますが、これはLINEを使った場合でも可能です。この点が重要であれば比較検討の対象となるのも当然と思います。
また既にLINE公式アカウントを運用していて、アプリに移行したいという相談をお請けすることもありますし、アプリ移行後もLINEを併用し続けるというパターンもしばしば見かけます。
筆者はLINE関連のサービスに関して専門家ではないですが、このように比較や移行の相談をされることはありますので、アプリ開発の立場からみたLINE公式アカウントのメリット、アプリへの移行などを検討し始める動機などについて今回は書いてみたいと思います。
導入のしやすさはLINEが有利
アプリとLINEを比較したとき、導入のしやすさという点に関しては圧倒的にLINEが有利です。
まずアプリはストア公開するために必要なデベロッパー登録をするだけでも毎年コストが発生します。さらに開発費用や運用コストなどを考えると、少なくとも100万円単位の出費は欠かせないと考えてよいと思います。また、開発にもそれなりに時間がかかります。
それに比べてLINE公式アカウントは0円ですぐに始められます。個人アカウントでも開始できますし、筆者もLINE@時代に作った公式アカウントを個人で持っていたりします(研究・調査目的なので一般公開はしていませんが)。小規模で始めるなら間違いなくLINEがおすすめです。
無料だからといって機能が限定的かというとそんなことはなく、最初から豊富なメニューが揃っています。以前は有料だったリッチメニュー(公式アカウントのトーク画面下部に表示されるメニュー機能)もいまは無料で使えるようになっています。
ベースはLINEですから、最初からお客様との双方向のコミュニケーションが可能な点も魅力です。
LINEなら利用する側の敷居も低い
お客様側の視点から見てもメリットはあります。インストールという手間が欠かせないアプリに比べてLINE公式アカウントは利用開始のハードルが低く、この点でもお手軽さのメリットは際立ちます。利用開始までにかかる時間の短さの点でもLINEに利があるでしょう。
コロナ禍以降、ユーザーのスマホを使ったテーブルオーダーができる飲食店が増えてきましたが、この用途では特にLINEが適していると感じています。
とりあえず注文をするためだけ、しかも普通は注文は1回しかしませんから、そのために専用のアプリをわざわざ入れてもらうのは余程魅力のある特典などを用意しないと難しいでしょう。アプリ開発を仕事にしていて、普段から目につくアプリはどんどんインストールしている僕ですらちょっと躊躇します。
それと比べてLINEであれば、テーブルに置かれたポップなどのQRを読んで友だち登録を済ませればすぐにオーダーできることは想像つくので、これならやってみてもいいかと思えます。
もう1つ別の観点で、LINEはシニアに対する開始ハードルが低い点も見逃せません。最近はiPhoneやAndroid端末を使う方も増えましたが、シニアへのスマホ普及に大きく貢献したいわゆる『らくらくスマホ』の類には、LINEがプリインストールされていたこともあってシニア層へのLINE普及に大きな役割を果たしました(これらが普及した頃から、自身の父母が急にLINEを使い始めたことを実感されている方も多いと思います。筆者もそうです)。
このらくらくスマホ系端末は基本的にAndroidがベースになっていて、Google Playストアからアプリをインストールすることもできます。ただ、いざ実際にアプリをインストールしようとするとGoogleアカウントの情報がわからないといった状況に陥りがちです。これは筆者も実際に体験しました。これに比べてLINEの友だち登録は簡単です。シニアの方でも普段からやっている操作で完結できてしまう。
時が経てばこの問題は自然解決していくでしょうが、少なくとも現時点ではシニア向けの導入ハードルという点で2つのプラットフォームには大きな差があります。
埋もれやすいLINEの情報
LINEのデメリットとして思い浮かぶのはブロックのことだと思います。LINE公式アカウントは友だちのアカウントと同列に扱われてトーク一覧画面に表示されるので、ブロックもされやすいだろうというイメージはあります。
実際にブロックをするのは個別のトーク画面を開いたあと設定メニューを開かないとできないので意外と面倒ですが、メッセージが多すぎたり長すぎたりして「ウザい」と思われてしまうと、友だちに比べたら公式アカウントのほうがはるかに気軽にブロックされることは容易に想像できます。一度ブロックされてしまうと解除してもらうことはほぼ難しいでしょうから、管理画面でブロック数の変化には常に気を遣いながら、適切なコミュニケーションの量・内容などを見極めていく必要があるでしょう。
また、ブロック以外にもトーク一覧画面から簡単に操作できてしまう「非表示」「削除」「通知オフ」についても気をつける必要があります。この中で「非表示」と「削除」はこちらからメッセージを送ればトークリストに再表示されるのであまり問題にはならないかもしれませんが、その結果ウザがられてブロックにつながってしまう可能性はあるので要注意です。
実は公式アカウントにとって一番ダメージが大きいのは、思っている以上に気軽にできてしまう「通知オフ」ではないかと思います。トーク一覧画面上でお手軽にサクサク操作できてしまう機能のわりに、これをされてしまうとプッシュ通知としてスマホの画面上に表示されることがなくなってしまい、なかなかの痛手を被ります。
もちろん通知オフの状態でもトーク一覧画面を開けば未読メッセージがあることはわかります。ただ一覧画面には更新順でトークが並ぶので、更新頻度の高い友人からのトークと同列に並んだ公式アカウントのトークが上位に表示される確率はどうしても低くなります。ピン留めされたトークがある場合はなおさらでしょう。
また、みなさんの実体験としてLINEの未読がたまっていたとしても、それをわざわざ開くような行動を取っているでしょうか。LINEの場合、未読放置の状況にユーザーが麻痺してしまっている傾向があるので、未読があるだけでは開封する動機になりにくくそのまま埋もれてしまいがちです。
こうなってしまうと、いくら気の利いたメッセージを送ってもただ放置されて、コミュニケーションが空振りするだけの状態に陥りがちです。LINEが日常的に使われるアプリとして普及しすぎているが故のデメリットと言えるかもしれません。
コスト面ではどうか
LINE公式アカウントもカスタマイズするとコストがかかる
前述の通りLINE公式アカウントには豊富な機能が最初から用意されているので、それらを利用するだけでも十分なサービスを提供可能です。管理機能もしっかりしていてマーケティングツールとしても活用できますし、無料で利用開始できるとは思えない充実した内容になっています。
しかし、使っていくうちに無料機能だけではだんだん物足りなくなってくるのも事実です。実際、LINE公式アカウントに特化した有料のマーケティングツールにも有名なものがありますし、マーケティングオートメーション(MA) にもLINE連携を用意しているものはしばしば目にします。小売業向けのアプリでよく見かけるバーコード会員証をLINEでも使えるように、となってくるとソーシャルPLUSのようなアカウント連携ができるサービスの導入を検討する話にもなってくると思います。
こういったツールを導入したり、社内にすでにあるシステムとの連携を行ったりすることで、より充実したサービスの提供が可能になりますが、このようなカスタマイズの実現は当然ながらコスト0でというわけにはいかなくなってきます。
そして、公式アカウントの運用が順調に進んでいったときに大きな壁となるのが次の話です。
施策の足かせとなるメッセージ送信の従量課金
先に書いたとおりLINE公式アカウント運用は0円から始められますが、実は0円の範囲で送ることができるメッセージ数には制限があります。
2024年5月時点のLINE公式アカウント料金プランの資料によると月額固定費無料のプランの場合は200通まで、5,000円/月のライトプランでも5,000通までとなっていて、そもそも上限に達するともうその月は追加で送ることができません。
この通数のカウントは送付人数×メッセージ通数となっているため(1通あたり3吹き出しまで送付可)、友だち登録数が200人の場合は、全員に月1回メッセージを送っただけでその月はもう送れなくなってしまいます。プッシュ通知を活用した施策が目的の場合、そもそも無料の範囲だと制限がきつすぎて現実的な運用は難しいかもしれません。
より上位のスタンダードプラン(15,000円/月)の場合は30,000通が無料配信の上限。さらに、1通あたり3円の追加料金を払うことで追加で送ることができるようになります。
上限を超えても配信可能となれば活用の幅はかなり拡がります。しかし、例えば友だち登録数が30,000人いると、全員に無料で通知を送れるのは月に1回だけ。もし毎週末に全員送信して30,000人×4通となると90,000通オーバーとなりその分の従量課金が発生します。50,000通を超えると単価が少し下がりますが、それでも25万円を超える追加料金になります。
ユーザー数が増えるとアプリのほうが有利に?
冒頭でアプリと比較される理由としてどちらもプッシュ通知を送れることを挙げましたが、実はLINE公式アカウントからアプリへの移行を検討される理由で1番多いのがこのメッセージ通数による従量課金の件です。
筆者がお手伝いさせていただいているアプリの場合、MAUは30,000を超えるあたりから、多いものになると数百万MAUという規模のものもありますが、ほぼ毎日なんらかの形でプッシュ通知を送っている企業は意外と多くあります。これをLINE公式アカウントで行うと、さきほど例に挙げたような週1の配信でさえ従量課金による費用負担がキツくなるケースも出てきます。
プッシュ通知は販促に極めて有効なので、特に小売業(リテール) 向けのサービスでは欠かすことのできない施策ですが、それによって順調にユーザー数が増えていくと予算がネックとなり十分な施策(通知) が打てなくなるというジレンマを抱えることになってしまいます。仮にユーザー数30,000人だったとして無料で送れるのが月1回となると、業種によってはかなり不便を感じるかもしれません。
アプリのプッシュ通知も従量課金などの負担が生じる場合はもちろんありますが、LINE公式アカウントと比較して費用が抑えられるなら選択理由として十分ですし、筆者が開発に携わっているアプリプラットフォーム MGRe(メグリ)の場合は、基本の利用料金だけで配信数に上限設定なくプッシュ通知が送れるため、このような相談を受けることも比較的多くなっています。
仮に配信対象のユーザー10,000人に対して週1回送る運用(=約40,000通)であれば、従量課金分は10,000通 x 3円なのでトータルでも45,000円/月におさまります。これが20,000人になると165,000円/月になるので、もしかするとこのあたりがアプリへの移行を考え始めるタイミングになるかもしれません。
逆にユーザー数が限られている場合は、5,000通上限のライトプランで十分運用できるでしょうし、開発などの初期コスト負担が大きいアプリはそもそも選択肢にすら入ってこないと言えそうです。
アプリを併用している事例も多い
ここまではLINE公式アカウントとアプリのどちらを選ぶか、どこでアプリに乗り換えるのがいいのかお話ししましたが、実はアプリ導入後にLINE公式アカウントを追加した事例や、最初から両方平行して運用している事例はいくつもあります。特にユーザー規模の大きいところではその傾向が強いように思います。
実際に併用しているクライアントに話を聞いたことがありますが、そちらの場合は顧客の年齢層が比較的高めで、LINEしか使えないシニアを確実に拾えるメリットは捨てがたいということをおっしゃられていました。
機能的にはアプリのほうが充実していますが、お客様自身に使いやすいほうを使ってもらうことが大切で、企業としてどちらかを強く推奨するというようなことは考えていないとのこと。具体的なお名前は伏せますが、普段からのお客様へのおもてなしの姿勢がこういうところにも表れるものなんだなと感じたのを覚えています。
また、弊社で携わっているアプリではありませんが、他業種展開されている企業で会員証バーコードが全業種通して共通化されているパターンの場合に、レジが混む業態ではLINE中心に、余裕のある業態では丁寧に説明してアプリで顧客獲得するように使い分けている事例も見かけたことがあります。
こちらの場合は他業種展開されているだけあってユーザー数がかなり多いため、LINEの通知は重要なものに絞り、LINEからアプリを案内してインストールを促した上で、両方使っているユーザーにはなるべくアプリで通知を送るといった使い分けをしてコスト対策を行っているようでした。
アプリ・LINE共通のメリットである通知ですが、どちらもプッシュ通知拒否やトークの通知オフ・ブロックのリスクが当然あります。比較的容易な操作でできてしまいますし、アプリの場合そもそも最初にプッシュ通知送信そのものを拒否されることも多くなってきている難点があります。
このとき、お客様とのつながりがLINEのみ・アプリのみと限定されていると代替手段がまったくなく、そこでコミュニケーションが断絶してしまうリスクがあります。コストはもちろんかかりますが、もし両方のチャネルをコミュニケーションチャネルとして確保できていれば、仮に片方が遮断されたとしても別の手段でブロック解除やプッシュ通知の再許諾を促して、復帰できる可能性がでてきます。この点も併用するメリットとして大きいのではないかと考えています。
まとめ
1.LINEだけの運用がおすすめ
・コストをできるだけ抑えた形で始めたい
・飲食店などで1店舗のみ導入する場合
2.アプリがおすすめ
・一定以上の利用者数が見込まれる
・プッシュ通知をマーケティングに積極活用したい
3.LINEとアプリ併用がおすすめ
・スーパーやドラッグストアなどシニア層の利用も見込まれる業種
・アプリとLINEを積極的にマーケティング活用していきたい
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