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会員プログラム(ロイヤリティプログラム)とは?
会員プログラムとは、ECサイトやモバイルアプリ、実店舗を介して会員登録を行い、ユーザーがインセンティブを受けられる仕組みのことを指します。とりわけ購入金額や回数など貢献度の高いユーザーに対してインセンティブを多く付与することがロイヤリティプログラムと呼ばれています。
インセンティブの内容はポイントや割引クーポン、先行予約や特別なセールへの参加権など多岐に渡ります。ユーザーの購入実績やアクションをベースに会員ランクがあがるロイヤリティプログラムを採用している企業や月額課金をすることでお得なサービスを受けられる制度を導入している企業も増えており、セールの乱発や突発的なクーポンのバラマキなどお得意様が損を施策に歯止めをかけるような取り組みとも言えます。
会員プログラムに力を入れている企業が増えている理由とは?
会員プログラムに力を入れている企業が増えているのは大きく2つの理由に分けられると考えられます。
3rd Pary Cookie規制による1st Pary情報の取得
近年、世界中でオンラインにおける個人情報の取り扱いのルールが厳格化しています。Cookie情報取得・活用は制限され、広告を配信する場合に従来重宝されていた3rd Party Cookieは有効に活用できるデータではなくなってきています。
会員情報を取得することで、企業はそのデータを活用し、広告効果の最大化や一定の規模の自社ECサイトであればサイト内に広告を設置し、リテールメディアとして付帯収益を得ることも可能になります。
CRMの強化によるLTVの向上
お客様とより良好な関係を長く築くために、会員プログラムのニーズが増しています。健康食品や化粧品のように、同一の商品を繰り返し購入いただく場合は商品の購入回数に応じた施策を行う事業者が多い一方、アパレルや食品など多くのSKUを取り扱うサイトでは、そのブランドやサイトに再び訪問いただき、繰り返しお買い物をしていただく必要があります。
そんなとき、価格競争に陥りやすいECモールや大手小売店にお客様が流れないように会員プログラムを用意することが、お客様と長く、深くお付き合いするための重要な施策と位置づけられています。
一般に馴染み深い会員プログラムは楽天の会員ランクやAmazonのプライム会員があげられるでしょう。まずはECモールの身近な事例から、どのような会員プログラムが展開されているのか見ていきます。
楽天の会員ランク
楽天の会員ランクは次の5つのランクに分かれています。前月末日から遡り、6か月間の獲得ポイント数と獲得回数で当月の会員ランクが決まります。
会員ランク | 条件 |
ダイヤモンド | ・合計4,000ポイント以上獲得 ・ポイント獲得回数が30回以上 ・楽天カードを保有している |
プラチナ | ・合計2,000ポイント以上獲得 ・ポイント獲得回数が15回以上 |
ゴールド | ・合計700ポイント以上獲得 ・ポイント獲得回数が7回以上 |
シルバー | ・合計200ポイント以上獲得 ・ポイント獲得回数が2回以上 |
レギュラー | - |
会員ランクが上がるにつれ、楽天グループサービスをお得に利用できるようになり、毎月18日に実施されるご愛顧感謝デーでは会員ランクの高さでポイント還元率が変わります。楽天グループ目線ではエコシステムへのユーザーエンゲージメントを高めつつ、ユーザーとしてはお得にお買い物ができるような座組になっており、Win-Winな仕組みと言えるでしょう。
Amazonのプライム会員
Amazonのプライム会員は楽天の会員ランクとは異なり、有料のサブスクリプションサービスです。月会費もしくは年会費を支払うことにより、Amazonで購入した商品の配送無料やお急ぎ便、お届け日時指定便、試着サービス「Prime Try Before You Buy」などを利用できるようになります。また、Prime VideoやAmazon Music Primeなど、通販とは異なるサービスを追加費用なしで利用可能です。
Amazonでお急ぎ便を利用すると610円以上の送料が発生します。プライム会員の月会費は600円ですので、月に1回以上買い物をする方は自ずと登録する流れになるでしょう。また、月会費を支払っていることで、ユーザーは支払った分お得に買い物をしようという意識が働き、さらに欲しいものがすぐに手元に届く配送サービスにより、他のECモールと比較されづらくなることが考えられます。
会員プログラムのタイプ
自社に会員プログラムを導入する、もしくは現在導入している会員プログラムを刷新する場合、まずはどういった会員プログラムが採用されているか知る必要があります。本章では、よくある会員プログラムのタイプとメリット・デメリットについて解説していきます。
ポイント還元制度
多くのECサイトで導入されているのがポイント還元制度です。その企業のみで使えるポイントを発行しているケースが多く、貯まったポイントを利用して購入金額に充当できることが多いです。
また、会員ランクを設けているECサイトでは、ランクを決める要素を購入金額や購入回数だけでなく、メルマガ登録やレビュー投稿などのお客様のアクションを含む場合に、ポイントを活用してランク付けをできるようにしています。
メリット
卸をしているメーカー企業では値下げによる販促ができないことがよくあります。ポイント還元は商品価格そのものをコントロールする値下げとは異なり、制度として小売店にも浸透しているため、キャンペーンを実施しやすい傾向にあります。
ポイント還元制度を採用していることで、過去の累積ポイントから会員ランクを定めるなど、お客様がお買い物をした指標として活用しやすい点も魅力です。基本機能としてカートシステムに搭載されていることもあるため、会員への還元という観点では導入しやすい取り組みと言えるでしょう。
デメリット
店舗独自のポイントは活用できる範囲が限られてしまうため、お客様にとってメリットを提供しづらい可能性が考えられます。また、来店して使いたくなるようなポイントの設計を考える必要があります。自社ECサイト以外に実店舗やECモールを展開している企業では、それぞれの売り場との互換性を意識することも大切です。
既存のポイント還元機能では、会員ランクと互換性を持たせることが難しい場合もあり、よりロイヤリティが高いお客様にとって、良い仕組みづくりをすることができないこともありえます。
ポイント還元を活用した事業者の事例
アディダスの会員プログラム「adiClub」

アディダスは、2023年10月19日に会員プログラム「adiClub(アディクラブ)」を刷新しました。「adiClub」内で貯めたポイントをアディダスならではのさまざまな特典や特別な体験への抽選券、お得な割引クーポンなどと交換できます。
ポイントはオンラインショッピングだけでなく、実店舗での買い物やランニングアプリの利用、レビューの投稿などで貯められます。また、ポイントを貯めれば貯めるほど、受けられる優待の幅が広がる会員ランクも取り入れています。
カインズのアプリ会員向け「CAINZの保険」

株式会社カインズと三井住友海上火災保険株式会社は、約450万人のカインズアプリ会員を対象とした、ポイントが貯まる「CAINZの保険」を提供しています。ネット保険で、『 医療・がん・介護 』の3つの保険を申し込むことができ、保険料に対して、ポイントが1%付与される仕組みです。月々2,000円の保険に加入する場合、保険料の1%である20ポイントが付与されます。
会員ランク制度
会員ランク制度はお買い物の実績を積んだお客様のランクを上げ、ファン度の高いお客様に向けてより良いサービスを提供する仕組みです。会員ランクに応じて提供するサービスの質が向上し、より良いお客様と長くお付き合いできるような関係を築くことができるようになります。
メリット
会員ランク制度を利用し、特定の会員に向けてお得なキャンペーンを実施することで、早期に定価で購入したお客様が損をしない仕組みを作ることが可能になります。また、ランクアップは、インセンティブの内容によってお客様の購買意欲を高め、ECモールではなく、自社ECサイトでの購入動機につながることにもなり得ます。
デメリット
会員ランクを定めるためのルールを決める必要があります。お客様が継続的に買いものをしたいと思えるようなインセンティブやランクアップの条件を決めなければいけません。また、ブランドに対しては良い印象を持ちながら、価格や環境を理由にそこまで高頻度に買い物ができないお客様にとって、会員ランクは抵抗感を生む制度になる可能性も孕んでいるでしょう。
自社ECサイト以外に、実店舗をお持ちの場合、お客様は当然のように互換性を求めるはずです。何らかの方法で連携を行う必要があり、連携が行われていないことによって機会損失が発生することが考えられます。
会員ランクを活用した事業者の事例
ユナイテッドアローズの「UAクラブ」

株式会社ユナイテッドアローズは、2023年8月から会員向け新プログラム「UAクラブ」を展開しています。「UAクラブ」では、新サービスのマイル&クーポン制度や、全ブランド共通の会員ステージ制度・特典により、充実した買い物体験を提供しています。

マイルに応じて会員ステージが変わります。マイルは定価商品であれば1円1マイル、セール品であれば2円で1マイル、それ以外にアプリのインストールやLINEアカウント連携など、お買い物以外でもマイルが貯まる仕組みです。
最上位ステージのダイヤモンドに達するには100万マイルが必要であるため、有効期限の1年間で100万円を超える買い物が求められるでしょう。その分、どのようなダイヤモンド限定特典がつくのか、ヘビーユーザーの心をくすぐる設計になっていると言えるでしょう。
コンディショニングブランドを展開のTENTIAL

コンディショニングブランドを展開する株式会社TENTIALは、会員向けプログラム「TENTIAL Club」を2024年5月15日から開始しました。本プログラムでは、TENTIAL公式オンラインストアおよび直営店舗での購入とその他のアクションにより貯まったマイルを、クーポンや限定イベントの参加などさまざまな特典に交換することができるユナイテッドアローズに近いプログラムです。
「TENTIAL Club」も「UAクラブ」と同様に買い物以外のアクションにもマイルが支払われる仕組みになっています。会員ランクが上がるにつれ、買い物時のマイル還元率や発行されるクーポン、限定セールやイベントへの招待を受け取ることも可能です
有料会員制度
有料会員制度はお客様から月会費を頂くことにより、特別なサービスを提供します。会員ランクとは異なり、お客様は実績を積まなくても高待遇を受けられる仕組みです。
メリット
有料会員制度は登録者数が増えることで事業者は物販以外の収入を毎月えられる用意になります。お客様にとっては、支払う月会費以上にお得な恩恵を受けられるようであれば、迷わず加入してくれるでしょう。
デメリット
月々もしくは年間でまとめてお客様に会費をお支払いいただくにはそれだけの動機付けが必要になります。とは言え、設定するサービス内容がお得すぎると、事業者の負担が大きくなってしまう可能性もあります。
お客様にとって最適な価格設定とサービス内容のバランスを調整することが難しいと言えるでしょう。
有料会員制度を活用した事業者の事例
総合通販「日本直販」

1977年より通販事業を開始し、カタログ、TV、ラジオ、新聞などを通して多くのお客様にご愛顧されている総合通販企業の「日本直販」。累計で1,479万人以上の方に購入された実績を持っています。
2023年11月28日からプレミアム会員という名前で有料会員制度をスタートしました。月額550円(税込)で通常会員と比べ、多くのポイントで優遇を受けられるサービスとなっています。

Anker Japan 公式オンラインストア

デジタル関連製品の販売を行うAnker Japan 公式オンラインストアは2024年7月3日より会員向けのプレミアム(有料)サービスとなる「Anker マイレージプログラム プライムパス」と、既存の会員プログラムを刷新した「Anker マイレージプログラム」を開始しました。
有料サービスのプライムパスでは、年会費1,980円(税込)を支払うことで次の4つのサービスを受けられるようになります。
- 4,000円以下のご注文でも毎回送料が無料(通常540円(税込)の送料が発生)
- 下取りサービス
- マイルの付与率アップ(通常の2倍となる1円(税込)につき2マイル)
- プライムパス会員限定のセールやキャンペーンの実施
また、刷新されたマイレージプログラムでは3段階だったランク制が5段階になり、ランクに応じた特典を受けることが可能になっています。

メンバーシップ制度
メンバーシッププログラムは会員登録によって登録が完了する制度を指します。個人情報を入力し、会員登録することで、お客様は優待サービスを享受できるようになります。
メリット
ECサイトには基本機能として備わっていることが多く、導入のハードルは比較的低いと言えます。自社ECサイトで買い物をするお客様の会員登録ハードルを下げる効果も期待できるでしょう。お客様への還元はもちろん、取得した顧客データを元に分析や別の施策へと発展できるため、まずは取り組んでみたいタイプと言えます。
また、単価の高い商品や何度も同じお店で買い物されづらい商品をお取り扱いの場合、会員ランクやポイント還元を設定しても、効果が出づらいです。清掃、修理、保証期間の延長などアフターフォローをメンバーシッププログラムに組み込んで、お客様へのサービス品質をより一層向上させることができるでしょう。
デメリット
会員プログラム全体の中では短期的にはリピーターを作りづらい取り組みと言えます。ポイントや会員ランクのように、購買を後押しする要素は弱いです。アピールポイントになるような、自社ならではの強みなどを用意することが理想でしょう。
メンバーシップを活用した事業者の事例
デロンギの「De’Longhi Family(デロンギ ファミリー)」

本プログラムは、デロンギ製品を購入したお客様に、安心して製品を長くご愛用いただくことに努めています。購入後のメーカー無償保証期間を最大5年間に拡大するなど、サポートを大幅に拡大し提供しました。また、メンバー限定の先行情報として、新商品やセールなどの最新情報もいち早くお届けいたします。
家電を取り扱うデロンギだからこそ、保証期間の延長はお客様に取って嬉しい取り組みです。
NANGAのメンバーシッププログラム

ナンガはメンバーシッププログラムとNANGA公式LINEを始めています。このプログラムではNANGAとお客様を繋ぎ、安心して長くナンガのサービスをご利用いただけるような会員サービスを目指しています。
先行販売やインベント案内などのお得な日程の事前共有など、会員登録によって一定の恩恵は受けられそうです。

さいごに:お得意様を損させない仕組みづくり
かねてからセールやクーポン、ポイント還元などの販促施策は常日頃から行われていますが、それでは定価で購入するリピーターやファンの方が損する形になってします。繰り返し買い物をすることや、有料会員になることでお得な優待を受けられるのであれば、ファンの方にとって不公平さを払拭できるはずです。
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