
D2C/EC企業は、営業人数増やせば売上が伸びるという労働集約型モデルではないがゆえに、「どのような人材を採用するかが事業成長の鍵となる」と言っても過言ではありません。業態に応じた独自の採用戦略が必要です。
ですが、優秀なサプライサイドやマーケター、市場に少ないデジタル人材は、どのD2C/EC企業にとっても共通してキーマンだと言えるでしょう。こうしたキーマンとなる人材を、スピーディーかつタイミングよく採用することは必要不可欠です。
ただ、採用売り手市場である今、そうした人材は引く手あまた。採用を成功させたいのなら、すでに転職市場に出ている“顕在層”ではなく、現職で活躍している“潜在層”へのアプローチが不可欠です。とはいえ、ご安心いただきたいのですが、潜在層とはまったく転職に興味がないわけでなく、過去YOUTRUSTが行ったアンケート調査では「いつか転職したい」と考えている人材は6割を占めています。

加えて、人気職種の人材を採用するためには、事業への共感やつながりを軸にした採用が欠かせず、カジュアル面談や、スカウト文の工夫などの手法にもこだわる必要があります。
そこで今回はD2C/EC業界において、おさえておくべき採用戦略のポイントはなにか、どうすればキーマンと出会い採用できるのかなど、D2C/ECに合った採用戦略を立て、事業成長を牽引する採用について解説します。
この記事の目次
転職・中途採用の2023年――求人は増加傾向にあったものの、採用難易度が上がり苦戦した企業も
簡単に直近の採用市場の動向を振り返りながら、今後の採用がどうなるのか見立てを述べていきます。
まず2022年は中途採用が大幅に増加した年だと言われています。ただ、リクルートワークス研究所が出した中途採用実態調査によると、数は増加したものの「自社が必要としている人数を確保できなかった企業が多かった」という状況から、採用難度が高まっていると見ています。2023年もその流れは変わらず、多くの企業が「どのようにして自社が求める人材を獲得するか」に悩まされた1年だったことでしょう。
小売業界でも、概ね市場全体と同じ動きをしている印象です。新型コロナウィルス感染症の5類感染症移行に伴った行動制限が解除された2023年5月8日以降は、業界全体として採用を積極的に行おうとする意思が高まり、実際にリユース関連企業や専門店を中心に伸びています。
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また、2023年の大きな特徴として感じるのが根本的な採用活動の変化です。
ひとつは採用チャネルの多様化です。例えば、直近1年で約300社がキャリアSNS『YOUTRUST』の利用を始めています。今まではスタートアップ企業が中心でしたが、大手企業や地方企業、業種にしてもIT業界から小売業界まで幅広く増えました。「自社が求める人材を確保したい」、「他では出会えない優秀な人材に出会いたい」という目的を達成するためには、従来の採用活動だけでは厳しいと感じて活用していただいている印象です。
もうひとつはAIによる影響です。皆さんご存じの通り、2023年はChatGPTなどの台頭によりAIブームが巻き起こりました。その流れを受け「AIを活用した採用」にも注目が集まり、求人票の作成、採用の企画、スカウトなど、さまざまな場面でAIが活用されています(YOUTRUSTでもAIがスカウト作成を支援する機能をリリースしました)。実際、AIを活用したことで採用活動の質が高まったと回答する採用担当者は8割以上だったようです。
YOUTRUSTのような新しい採用媒体・チャネルの活用や、AIという新しい技術の導入など、これまでの採用活動が大きく変わった年だったと言えるでしょう。
2024年の採用予想――より一層、売り手市場感は増していく
では2024年の採用はどうなるか。
dodaの調べによると、「2024年も2023年に引き続き、『リバウンド需要』を背景に高水準の求人数を維持すると考えられており、転職市場全体で求人の増加が期待できます」とのことです。概ね同意ですが、私の見立てではそこに加えて「売り手市場感はますます加速していく」と考えています。特に、後述するハイクラス人材や人気の職種はそう簡単には採用できなくなってくる可能性が高いです。昨年末にYOUTRUSTが実施した「キャリア市場ランキング2023」のスカウトニーズ率ランキング結果によると、カスタマーサクセス・PM(プロジェクトマネージャー)・Webディレクター・エンジニアといった職種が人気であることがわかりました。こうした職種を採用したいならば、一層、気を引き締めていかなければならないでしょう。
こうした流れは、求職者目線で見れば好条件の選択肢が増えて非常に喜ばしいことです。しかし企業側としては、他社の状況も把握しつつ採用にコミットしなければ、魅力的な選択肢が広がった求職者の目にとまるのは厳しいと思われます。
優秀な人材の採用には「中長期の視点」と「待ちではなく攻め」のアプローチが必要
採用にコミットしなければならないのはD2C/EC業界でも同じです。これまでの全体感もふまえ、D2C/EC業界の採用戦略についてマーケターを例に説明します。採用戦略の鍵は、最初に「事業成長のためには、どのようなマーケターを採用すべきか」について、徹底的に掘り下げること。つまり、人材要件の解像度アップです。
まず大前提として、D2Cのマーケターは「デジタル人材」であることが必須でしょう。D2Cの基礎となるデジタルマーケティングは理解しておくべきです。その上で、LTV(Life Time Value-顧客生涯価値)を高めるためのCRM(Customer Relationship Management-顧客関係管理)に広げる必要もありますし、昨今ではTVCMによる大規模施策も当たり前のように求められています。
ただ、現在の採用市場には、デジタル広告とマス広告の両面の経験がある人材はそもそも少ないです。そんななか、どちらを軸とした人材を採用するかによって戦術の幅は変わってきます。それこそが「どのような人材を採用するかが事業成長の鍵」となる由縁です。
またマーケターには、Promotionだけでも広範囲な能力が必要となるにも関わらず、戦略のフレームワークとして用いられる4P(Product、Price、Promotion、Place)でいうところの、どの金額(Price)、どの販路(Place)で、顧客に届けるかも業務範囲に入ってくるでしょう。Howの技術以上に、「商売」そのものを理解したマーケターが求められることは必然です。
ここまでの範囲を妥協なく求めれば、採用の難しさは困難を極めるでしょう。ですが広範囲ゆえに仕事の面白さは群を抜くので、優秀なマーケターに伝われば必ず興味を持ちます。事業への共感を抱き、自らテリトリーを広げてくれるマーケター。まさに事業成長に大きく貢献する人材です。
こうした人材を採用するためにも、必要としている人物像の知識、経験、スキルなどあらゆる面の解像度を上げ、そのうえで求めている役割、今の会社のフェーズなどを発信していきましょう。
また、こうしたハイクラス人材を採用するのには、SNSを中心にネットワークを張り巡らせておくことはもちろん、待ちの姿勢ではなく自らアプローチするダイレクトスカウトが必要不可欠です。ハイクラス人材が「どこの組織にも所属していない、働き先を探している」ということはほぼなく、現職で活躍している可能性は高いです。ゆえに、すぐの入社を求めず、中長期的に接点を持ちアトラクトしていく必要があります。
「まずは、カジュアルにお話ししませんか?」
すぐに採用につながらなくても、この一言からスタートしていく胆力が、今の採用担当者には求められていると考えています。
候補者の意欲にあわせたアプローチと、お試し副業による中長期的な接点づくり
前述したように、ハイクラス人材の採用は難易度が高く、選考フロー全てを通して、他社との違いをつくる必要があります。こうした取り組みを実行するうえで、参考になる事例をご紹介します。
とある企業では、最初の接点で他社との違いをつくるため、候補者の転職意欲が切り替わるという最適なタイミングでスカウトを行うようにしています。
キャリアSNS『YOUTRUST』では、スカウトを送れる候補者の転職意欲がリアルタイムに閲覧でき、意欲が上昇した際に通知を受け取れるという機能があります。この機能を活用することで、「候補者視点で最適なタイミングのスカウトを送る」という選考体験を設計しているのです。
また、正社員での転職を前提とした「お試し副業」を選考の前に用意することで、スキル面だけでなく、社内の雰囲気やカルチャーマッチを相互に見極められるようにしています。約1~3か月に渡る副業期間を定め、実際に一緒に働いてみたうえで、選考を受けるかどうするか選択できる制度です。
この手法は一見、採用リードタイムが長くなるように感じられますが、この期間は相互の見極めだけでなく、企業側としては候補者との接点数が多くなります。つまり、アトラクトの機会も自ずと増えるというわけです。
待っているだけでなく、候補者のタイミングに合わせた積極的なアプローチと、お試し副業という中長期的な接点を持つ機会のつくり方。こうした取り組みが功を奏して、自社が求める人材を採用されています。
まとめ
D2C/EC企業は、業態に応じた独自の採用戦略が必要です。事業成長のキーマンとなる人材を、スピーディーかつタイミングよく採用することは、経営課題といっても過言ではありません。
こうしたキーマンとなりえる優秀な人材を採用するには、まずは社内で「事業成長のためには、どのようなマーケターを採用すべきか」について徹底的に掘り下げ、人材要件の解像度アップが必要です。そのうえで、採用チャネルを広げ、スカウトなどの手法を工夫し、転職潜在層へアプローチしましょう。
今の時代の採用は中長期戦が当たり前です。売り手市場となり、企業にとってますます採用が厳しくなるからこそ、自社が求める人材と出会い、採用に至るまで諦めず、そして妥協せずに取り組む姿勢が必要です。
その姿勢はきっと候補者へと伝わるはず。企業と候補者、両者がWin-Winとなる採用ができるよう、本記事がお役に立てば幸いです。
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(構成:大久保 崇)
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