
企業間取引(BtoB)のデジタル化が急務とされる中、受発注業務のWeb化を進める企業が増加しています。しかし、その現場からは「システムを導入したのに業務負担が減らない」「かえって取引先からの問い合わせや確認作業が増えた」という声が後を絶ちません。
本記事では、BtoB特有の商慣習とシステムのミスマッチを独自の調査データに基づき解説し、実務担当者が直面する運用課題を浮き彫りにします。
吉岡 大輝
株式会社ウキヨ
代表取締役
慶応義塾大学経済学部卒。株式会社サイバーエージェントへ新卒入社し、事業開発に携わる。
ウキヨ創業後、事業開発支援を軸にWebソリューションやDX領域を多数支援。
現在は複数の自治体で「DXパートナー」として活動しながら、BtoB領域のEC活用に注力。
事業目標や課題に対して、構築・マーケティング・事業開発まで一気通貫の伴走支援を行っている。
この記事の目次
手作業の限界と、「とりあえずカート導入」が招く現場の混乱
受発注の現場は、従来の手作業による処理の限界を迎えています。株式会社ウキヨが実施した調査によると、BtoB受発注業務における手作業を「非常に大きな課題である(20.0%)」「やや課題である(41.0%)」と回答した割合は、合計61.0%に上りました。

こうした生産性の低下を背景に、導入ハードルの低いBtoC(消費者向け)のカートシステムをBtoBの受発注に転用する企業が増えています。しかし、「とりあえずカートシステムを導入する」というアプローチは、現場に大きな混乱を招くケースが少なくありません。その理由は、BtoBとBtoCの構造的な違いをシステム運用に反映できていない点にあります。
BtoCとBtoBの決定的な違いとは?

BtoCとBtoBでは、購買の動機や意思決定の構造が根本的に異なります。
BtoCの購買は、個人の感情や欲求に基づき、短期間で行われます。そのため、BtoCのシステム要件は、いかにスムーズに購入まで導くかという「購買体験の向上(UI/UX)」が主軸となります。
一方、BtoBの購買は、論理的かつ計画的なプロセスであり、「リスクの軽減」が重視されます。意思決定には、発注担当者、決裁者、経理など複数部門が関与し、検討から発注まで厳密なプロセスを踏みます。したがって、BtoBのシステムには、操作性の良さ以上に、複雑な承認フローへの対応や、組織としての要件を満たす「確実性・信頼性の担保」が求められるのです。
【データ解説】単一システム化を阻むBtoB特有の「壁」
では、なぜBtoC向けの単純なカートシステムではBtoBの受発注が機能しないのでしょうか。その根本原因は、BtoB特有の「複雑な商慣習」にあります。

受発注のデジタル化を進める際の壁や懸念についての調査では、「取引先ごとの個別単価・ルールの存在(43.5%)」が最多となりました。次いで「システム複雑化による顧客離反リスク(24.3%)」、「FAX・電話特有の不規則対応の消失(17.3%)」などが上位に挙がっています。
ここから読み取れるのは、現場が直面している課題が「システムの機能不足」ではないということです。長年培ってきた取引先ごとの掛け率の違いや、納期・ロットに関するアナログな個別調整を、無理にシステムで画一化しようとすることによる「取引先とのハレーション」こそが、最大の障壁となっています。
カート導入が引き起こす「二重オペレーション」の現実

複雑な商慣習を持つすべての取引先を、単一のカートシステムに無理に押し込めようとすると、どのような事態に陥るでしょうか。
システム上では処理しきれない「独自のロット割引」や「イレギュラーな支払い条件」を持つ取引先からの受注は、結局のところシステムを通すことができず、従来通りのFAXや電話での対応として残ります。
その結果、Web経由の受注データを管理するシステムと、手作業で処理するアナログ管理が並存することになります。この「二重オペレーション」の発生により、在庫の引き当てや請求処理において、異なる経路のデータを手作業で統合する手間が発生し、現場の業務はデジタル化する前よりもかえって複雑化してしまうのです。
まとめと次回予告
BtoB ECを成功させるための第一歩は、「すべての取引を一つのシステムで完全に自動化することは不可能である」という事実を受け入れることです。自社の取引の性質を正しく把握し、システム(カート)で処理できる領域と、人の手による柔軟な対応を残すべき領域を冷静に切り分ける必要があります。
次回は、このように複雑なBtoB取引を整理し、現場の摩擦を最小限に抑えながらシステム化を進めるための具体的な手法「トリアージ戦略(取引規模や性質に応じたシステムの使い分け)」について解説します。現場の負担を減らしつつ、取引先との関係を維持するためのアプローチを紐解いていきます。
会社HP:https://ukiyo.co.jp/ X:https://x.com/yoshioka_ukiyo
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