
資源・エネルギー価格の高騰や、労働力減少による賃金の上昇により、配送業者は次々に送料の値上げを実施しています。今まで、ECサイト運営において主流の施策だった「送料無料キャンペーン」で発生する送料コストが大きくなったため、送料無料施策の廃止を検討し、それに代わる施策を探しているという事業者様のお話はよく聞きます。
今回は、送料無料に代わる新施策「返品無料」についてお話します。
この記事の目次
「送料」無料施策とは?
送料無料施策とは、ECサイトでの商品配送にかかる送料をEC事業者が負担する取り組みのことを指します。通常であれば、商品配送にかかる送料は購入者の負担となりますが、購入金額などの一定の条件を上回ると、送料をEC事業者が負担するという内容のオファーが多いです。
これにより、購入意欲や購入単価を高める効果が期待されます。
送料無料のメリット・デメリット
現在のECサイト・通販運営において、今や主流の送料無料施策ですが、改めてメリット・デメリットを整理します。
送料無料のメリット
送料無料施策のメリットは大小さまざまありますが、特に大きなメリットは①カゴ落ち防止と②購入単価向上と言えるでしょう。
①カゴ落ち防止

Baymard社の調査によると、ECサイトに訪問し、商品を買い物カゴ(カート)に入れたにも関わらず購入を行わなかった最も多い理由が「送料/税金/手数料など、追加費用が高かった」ということがわかっています。逆に言えば、配送料を事業者が負担することでカゴ落ちを防ぎ、売上の向上を期待できるのです。
②購入単価向上
送料無料施策実施にあたって、多くの場合は「10,000円以上で送料無料」などの一定の条件を設けています。これによって「もともと1商品だけ購入予定だったけど、せっかくだから少し欲しいと思っていた別の商品も買おう」という心理によって購買行動を促進します。
購入点数や単価の向上の効果を期待できるのです。
送料無料のデメリット
送料無料のデメリットについては①配送料金の負担増加②プロパー消化率の低下が挙げられます。
①配送料金の負担増加
配送料金をEC事業者が負担することで、原価に加えて配送料が上乗せされるため、利益率が低下します。また、冒頭でお話した通り、現在配送料金の見直しが実施されており、今後もさらに料金が上昇する可能性があります。今まで主流と考えられていた施策ですが、持続可能な施策ではなくなってきていると言えるでしょう。
実施の際には、利益がきちんと出るように条件を設計する必要があります。
②プロパー消化率の低下
プロパー消化率とは、販売した商品の中から”定価”で購入された商品の割合を指します。どんなに売上が高くても、セールやクーポンを利用して購入された商品が大半を占めている状態だと、利益率が低くなるため、無闇なオファーは避けるべきと言われています。
また、送料無料施策やセールなどのキャンペーンの期間しか商品が売れなくなる可能性への懸念もデメリットとして挙げられるでしょう。
「返品」無料施策とは?
返品無料施策とは、ECサイトで返品が発生した際にかかる送料をEC事業者が負担する取り組みのことを指します。重要なポイントは、不良品だけでなく、イメージ違いやサイズ違いなどのお客様都合の返品・交換にかかる送料を事業者が負担する部分です。具体的には、返品無料や試着キャンペーンなどの施策が該当します。「実際に商品を試せない」という不安を払拭することで、新規顧客獲得数や購入率を高める効果が期待されます。
返品無料とのメリット・デメリット
返品無料施策のメリットは大小さまざまありますが、特に大きなメリットは①購入率向上と②新規顧客獲得増加の2点が挙げられます。
返品無料のメリット
①購入率向上
ECサイトではなく、実店舗で商品を購入する多くの理由は「実際に商品を見ることができないから」であることは周知の事実です。しかし、逆にいうと、商品を実際に試すことができればECサイトでも購入したいと考えている消費者は少なくないのではないでしょうか。

実際に、弊社の調査にて購入者の92.2%は購入前に返品ポリシーを見ており、92.6%は返品ポリシーを見て購入をやめたことがあると回答しました。(参考:https://recustomer.co/news/return-awareness-survey)
つまり「失敗したら返品ができない」という不安感は、購入の妨げになっています。そこで「失敗しても返品ができる」という安心感を与えることで、購入率の向上が期待できます。
②新規顧客獲得の増加
返品無料施策の実施にあたって、「初回購入の方限定」や「ゴールド会員様限定」などの一定の条件を設けることもあります。
初めてのブランドで商品を購入するとき、実物が見れないECサイトを利用することにはハードルを感じますよね。しかし「失敗しても返品ができる」という安心感があれば、初回購入のハードルも一気に下がります。
また、普段の買い物を実店舗しか利用しない顧客を対象に、ECサイトの返品無料施策を提案することで、ECサイトと店舗のクロスユース率向上のきっかけになるでしょう。
返品無料のデメリット
返品無料の施策を実施すると、通常よりも返品率が向上します。返品率が向上したときに発生する問題が主に返品無料のデメリットです。具体的には①在庫の流動性の低下、②返品対応コストの向上が挙げられます。
①在庫の流動性の低下
購入者の返送が大幅に遅れた場合、販売できる在庫が実質1つ宙に浮いていることになります。つまり、ちょうど購入したいと考えていた消費者がいたかもしれないのに販売ができないという事態が発生してしまう可能性があるのです。
②返品対応コストの向上
返品は通常のお問い合わせ対応と比較して、数倍の対応コストがかかります。具体的には、消費者とスタッフとの複数回にわたるやりとりや、返品ステータス管理、検品コストなどが挙げられます。
通常よりも返品件数が増加することを見据えて、運営コストを抑える努力をしなければ大きな負担になるでしょう。
返品無料VS送料無料 論点①コスト
ここで、送料無料と返品無料はどちらのほうが施策に適しているのか?を検討するために、論点を整理します。まず一つ目の論点は実施においてかかるコストが挙げられるでしょう。売上が上がったとしても、コストが大きな負担になれば利益率は低下して、ブランドの成長にはつながりません。
送料コスト
両施策においても、配送料のコストは懸念点と言えるでしょう。本コストに関しては、返品無料施策のほうがコストがかかりません。
例えば「10,000円以上で送料無料」と「10,000円以上で返品無料」を実施した際に、1,000人の消費者が購入してくれた場合(配送料を一律1,000円とする)を考えます。
送料無料の場合は10,000人全員に配送料が発生し、1,000,000円の送料負担が発生します。
しかし、返品無料の場合は10,000人全員には配送料は発生しません。なぜならば、全てが返品されることは考えにくいからです。例えば返品率が10%だとすると、今回の場合は100,000円の送料負担となります。
結果、送料無料と返品無料では900,000円分、返品無料の方がコストを抑えることが可能です。
顧客対応コスト
顧客対応コストについては、送料無料施策のほうが負担が少ないです。なぜならば、送料無料施策にはお問い合わせなどはほとんど発生しないからです。
反対に、返品・交換に関しては、顧客対応・検品・オペレーション運用などに多くのコストがかかります。顧客対応が発生しないようにシステム化やオペレーションのスリム化が必須の条件となってくるでしょう。
また、返品データを収集・分析して、可能な限り返品率を改善するように努める必要があります。
返品無料VS送料無料 論点②利益
上記では、かかるコストについて説明しました。続いては、2つ目の論点となる利益について記載します。コストは抑えられても売上が伸びないと元も子もありませんよね。
購入率
両施策共に、購入率向上が見込めることがメリットとして挙げられることは記述の通りです。それではどちらのほうが購入率は上がるのでしょうか?
実際のところ、商材やブランド特性・実施方法によって効果は異なると考えられます。
例えば、サイズが重要なアパレル商材や高価な商品であれば、送料負担よりも返品できる安心感のほうが購入への後押しになるでしょう。食品や日用品などの返品が想定されにくい商品であれば、返品無料よりも送料負担軽減のほうが購入意欲が向上します。つまり、自社商品の特性やターゲット層などを考慮してどちらの施策のほうが購入率を高めるのかを検討する必要があると言えます。
ここで、送料無料は実施したことがあるから効果が想像できるが、返品無料は実施経験がないため効果の想像がつかないという方も多いのではないでしょうか?
ネオマーケティングが実施したお買い物調査によると、実店舗で購入する理由は「オンラインショップだと送料が高いから」という理由よりも「その商品を生で見て決めたいから」という理由が多いことがわかっています。つまり、送料無料よりも返品無料のほうが購入ハードルを下げる可能性もあるのです。
実際に、Recustomer導入企業様で送料無料の施策の代わりに、返品無料の施策を実施した結果、購入確定ベースで135%の売上増加の効果がありました。
記事の下部にて、返品無料施策の事例もご紹介しているので、是非参考にしてみてください。
リピート率
国内人口の減少などにより、新規顧客だけでなく1人のお客様との長く続く関係、つまりリピート率を重要視する方は多いのではないでしょうか。
弊社の調査データでは返品したことがないユーザー群と比較して、返品したことがあるユーザー群の方がLTV(顧客生涯価値)が高いことがわかっています。サイズ交換や返品ができるECサイトとできないECサイト、どちらを利用するかは言わずもがなと思います。
リピートを重要視する商材なのか、とにかくトップラインを伸ばしたいフェーズなのかという条件も施策選定において重要な指標と言えるでしょう。
返品無料施策の事例
ここでは、返品無料の効果事例をご紹介いたします。
①導入後2ヶ月で購入率3倍、複数購入の増加を実現!
オリジナルアパレルやハンドメイドウッドを展開している、KIBACOWORKS(キバコワークス)を運営しているKIBACOWORKS社の事例です。
商品到着から7日以内であれば、無料でサイズ交換・返品が可能な「アパレル試着サービス」を実施し、購入率が3倍に増加、複数購入の増加を実現しました。トップス+ジャケットのセットだったり、プレゼントとしてのアクセサリー+アパレル商品の購入パターンが多く見られるようになりました。また、広告で「返品無料」を訴求することでCPA(顧客獲得単価)が2分の1に削減。
懸念していた返品率も大きな変動はなく、期待していた効果を得ることができました。
https://recustomer.me/case/kibacoworks
②返品自動化で対応時間が1分以内に!返品・交換無料制度でEC平均水準より2倍高い購入率も実現
アンダーウェアを販売するブランド「One Nova(ワンノバ)」を運営するONE NOVA社の事例です。
「お客さんに自分に合うパンツを履いて欲しい」という想いから返品・交換を無料で行なっており、購入率2%の高数値を実現しています。また、返品・交換対応業務をシステム化することで対応時間を1分以内に抑え、CSコストの負担減と顧客体験向上を実現しています。
https://recustomer.me/case/onenova
まとめ
最後に、どのような企業が「送料無料に向いているのか?」「返品無料に向いているのか?」をご紹介してまとめとさせていただきます。
送料無料施策が向いているブランド
- 返品想定で購入される商品を取り扱っていない企業(食品、日用品など)
- 取り扱っているSKUが少ない、もしくは、在庫数を多く積んでいない企業
- 再販ができない商品を取り扱っている企業
- 低単価商材を取り扱っており、複数買いを促進したい企業
などが当てはまると言えます。
返品無料施策が向いているブランド
- 高単価商材を取り扱っている企業(単価が高いとECでの低効果が高い)
- サイズ感や素材感などが重要な商品を扱っている企業(アパレル、服装雑貨など)
- 送料無料施策による配送料の負担に課題感がある企業
- 新しいマーケティング施策を検討している企業
- 取り扱っているSKU数、在庫数が多い企業
などが当てはまると言えます。
是非本記事を参考に、返品無料or送料無料の施策を検討いただければと思います!最後まで読んでいただきありがとうございました!
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