
株式会社イングリウッド 品川 悠輔さん(写真右)
D2CとはDirect to Consumerの略であり、自ら企画・生産した商品を、小売業者や代理店などを介さずに直接消費者に販売することを意味します。D2C事業で上場する企業もあるほどの成長の可能性を秘めたビジネスですが、D2C事業を推進するためには、立ち上げの準備から軌道に乗せるまでに欠かせない要素が多数存在します。
今回は、小売業界に特化したDXソリューションプロバイダーである株式会社イングリウッド(以下、イングリウッド)のデータテクノロジー事業本部D2Cストラテジーチームに所属する品川さんと、ECプラットフォーム「ecforce」を運営する株式会社SUPER STUDIO(以下、SUPER STUDIO)の取締役CROである真野さんに、D2C事業の推進についてインタビューを行いました。
D2C事業の立ち上げに欠かせない要素とは
―― D2C事業を立ち上げるために必要な要素としてはどういったものが挙げられるでしょうか?
品川さん(イングリウッド):D2C事業を立ち上げるにあたっては、OEMメーカーやECプラットフォーム、決済手段、物流やCRMなど、関わりを持つことになるパートナー企業が多いため、事業全体を理解し、準備する必要があることを網羅的に把握することが非常に重要です。全体設計の作り込みが甘いと、運用の負荷が増えて余計なコストがかかったり、お客様に商品が届かずご迷惑をおかけしてしまったりします。
初めてD2C事業を立ち上げる場合、全体設計の作り込みが甘く、各工程のつなぎこみに予想以上に時間がかかってしまうことがあります。また、ペイメントの審査に数ヶ月要する場合もあります。そのため、事業のローンチから逆算して緻密なスケジュールを立て、常に全体のバランスを見ながら進捗管理をしていく必要があります。この点を疎かにすると、事業の構築自体に時間を要してしまい、事業全体の推進が遅れてしまうでしょう。

真野さん(SUPER STUDIO):EC黎明期には自社ECサイトを立ち上げれば売れるだろうという考え方がありました。しかし、今はECプレイヤーが増えており、立ち上げただけで売れるということは少なくなっています。ECプラットフォーム側の視点として、立ち上げから軌道に乗せるためには、ユーザーがサイトに訪れたときに商品を買いやすい仕組みや、事業者様が集客で広告を活用した際にPDCAを回しやすいようなシステム設計が必要だと考えています。
――自社ECサイトを立ち上げる場合、ECプラットフォームはどういった基準で選定していますか?
品川さん:ビジネスとして事業を展開する以上、利益を出さないと意味がないので、広告効果の検証を行えることや、ユーザーの行動をしっかり把握できることは重要です。ecforceでは、ユーザーがどの媒体から流入し、サイトや購入フォームのどこで離脱し、どれくらい継続して商品を購入しているか、といった一連の動線を細かく確認することができます。D2Cビジネスにおいては、ユーザーの情報を活かしてPDCAを高速で回し、ユーザーごとに最適な動線を構築していくことが欠かせません。

また、ECプラットフォーム側が市場の最新トレンドを常に追っていて、こちらから開発要望をあげるとすぐに新しい機能を搭載してもらえるような柔軟性やスピードは大切です。たとえば、SUPER STUDIO様が提供しているチャット型EFOツール「smart dialog」はトレンドをいち早く取り入れたツールだと思います。当社でも、お客様の支援において実際に採用したことで売上改善につながり、新しい購買体験をユーザーに提供できました。
真野さん:2019年頃、チャット型のフォームはCVRが向上するという噂が広がっていました。当時、その情報を聞きつけたecforceの導入企業様から、チャット型のフォームを提供している企業との連携要望をいただいたことがあります。実際に弊社のコンサルティング案件で活用してみたのですが、始めはよい結果につなげられませんでした。しかし、何度か試行錯誤するうちに、全体設計やチャットのシナリオによってどうすれば成果につながっていくかがわかってきました。実際に運用を行い、成果の出し方を理解した上で、他社ツールとの提携ではなく、ecforce上で利用できる仕組みにした方が導入企業様にとって自由度が高いツールにできるという実感がありました。
品川さん:実際に利用してそう感じています。smart dialogを導入してからはトライアンドエラーの繰り返しでしたが、搭載されているすべての機能を漏れなく使えているか、一つずつ検証しながらPDCAを回したことで、良い数字を導き出せたと思っています。
D2C事業の立ち上げで、クライアントとすり合わせるべき項目とは
――D2C事業の立ち上げには、全体工程を網羅的に理解した上で各工程におけるスケジュールを管理していくこと、また、販売に備えて広告運用や施策の効果検証を行うための体制を整える必要があることがわかりました。
イングリウッドの場合、ソリューション提供をする立場として、D2C事業の立ち上げに際してクライアントとすり合わせる必要がある部分が多々あるかと思いますが、どういった点が重要になりますか?
品川さん:当社には立ち上げの実績が多数あるため、システム面の要件定義や運用ノウハウに関しては勝ちパターンがある程度フォーマットとなって蓄積されています。そのため、D2C事業の成功において最も重要な要素であるクライアントの商品やブランドの作り込みに専念できるようになっています。どのような商品やブランドを作り、どのようにそれらを打ち出していくかが決まれば、今度は見せ方を考えていきます。
商品の見せ方は商品そのものと同様に重要なポイントであり、こだわりを持っています。たとえば商品LPを作成する際には、デザインやシナリオを組み合わせて100通り以上のパターンを設計しています。性別や年齢といったユーザーの属性ごとに、一つの商品に対して魅力を感じてもらえるポイントは複数あり、同じ商品でもどこをセールスポイントにするかは様々であるため、想定できる選択肢を一通り洗い出していきます。どのタイミングでどのシナリオを出していくのか、当社に蓄積されたデータと経験からおおよその勝ちパターンが見えているため、商品の特性に合わせて見せ方を作り込み、あとはECサイトに組み込んでいきます。コーディングやシステムの知識がなくても柔軟にシナリオを構築できる点もecforceの魅力の一つです。

真野さん:ecforceは、カート機能としてのECプラットフォームというよりは、売上を伸ばしていくために必要なマーケティングシステムという立ち位置に近いと思います。マーケティング施策のPDCAが回しやすいこと、効果測定を正しく行えることを意識して開発しているからです。
――1つの商品に対して100通り以上のLPを設計していることには驚きました。ブランディングの観点で、他に重視している点はありますか?
品川さん: 購入手続きの全てがオンラインで完結するD2Cの場合、オフラインの実店舗とは商品の購入体験が異なるため注意が必要です。実店舗であれば商品を実際に見て、試して、店員さんから説明を受けることができます。一方、オンラインでは、実際に商品を手に取ることはできませんが、逆に時間をかけて商品に関する細かな情報を確認することができ、誰にも会わずに商品を購入することになるため、ユーザーの悩みに寄り添っていて対面では購入しづらい商品が買われやすい傾向にあります。
一方で、ユーザーの悩みを解決するような商品の見せ方はセンシティブに考える必要があり、ユーザーにどのように見てもらうのか、デザインに落としていく際に気を使っています。常日頃からチーム内で、ユーザーへの届け方、見せ方を意識するよう他社の実例も交えて話をしています。絶えずデータを元にPDCAを回し、デザインや購入動線のABテストを重ねつつ、ユーザーの声にも耳を傾けてブランドイメージの向上に努めています。
真野さん:ブランディングの観点ですと、ecforceではブランドサイトや商品LPなど、テーマ管理で必要な内容が網羅されています。ABテストなど、施策を回しやすい設計になっているのは導入企業様から多くのご意見をいただきながら作っているからです。
運用開始後に気をつけるべきこと
――商品の見せ方を考えるにあたって、緻密なシナリオ設計やLPのデザイン、訴求方法といったところが重要な点ということがわかりました。では、D2C事業の運用開始後に気をつけるべきことは何かありますか?
品川さん:損益の状況は常に可視化できていると良いと思います。新規獲得のCPAがどうなっているか、LTVがいくらで推移しているかといったユニットエコノミクスの観点だけでなく、CS(カスタマーサポート)や物流のコスト、決済手数料やシステム費用といったところまで、工程ごとに細かく見ていきます。全体の工程を一気通貫で見ていなければ、損益の水準が当初想定していた数値を下回る場合にどの点を是正する必要があるか分からず、対応が遅れて損失が拡大してしまう危険性があります。事業のパフォーマンスは、どうしても目が行ってしまいがちな広告周りだけでなく、全行程を通して上げていかなければなりません。
また、ECサイトの運用を初めて行う場合には、関係者によく理解していただくことも必要です。イングリウッドは独自にecforce専用のマニュアルを作成しており、D2C事業の立上げ支援に際しては、クライアントだけでなく、外部のコールセンターなどのパートナー企業にもecforceに関する研修を行っています。
真野さん:他の導入企業様の場合、立ち上げ当初は慣れるまで使い方について問い合わせがくることが多いです。他には「どうしたら売上が伸びるのか」という問い合わせをいただくこともあります。当社ではスムーズな立ち上がりができるようオンボーディングに注力していて、オンボーディングサポートが就き、立ち上げに必要な各種設定をお手伝いしています。また、操作方法のセミナーを行ったり、プラットフォーム自体を簡単に使えるようにする改修をしたりと、日々使いやすさを追求しています。

――広告の費用対効果だけではなく、全工程の利益を細かく見る必要があるのはおっしゃるとおりだと思います。実際に運用する方が立ち上げの際に安心して手を動かせる環境が整っているのは大変魅力的ですね。最後に、今回のインタビューを通してお二人から伝えたいことはありますか?
品川さん: D2C事業では、ユーザーが直接自社のサイトに訪れて商品を購入していきます。このユーザーと「直接」つながることができる点が重要なことだと思っています。だからこそ、最初の設計でユーザーとのつながりを作るための環境構築が必要になります。ユーザーの良い声も悪い声もダイレクトに拾うことで、PDCAを良い方向に回すことができるからです。
真野さん:一昔前と比べて簡単に商品を作れる時代になりました。始めるのが簡単になったからこそ、簡単にやめられると思います。しかし、結果が出るには思っている以上に時間がかかるため、簡単には諦めずに熱量を持ってブランドを育てて欲しいです。
――品川さん、真野さんありがとうございました。今回のインタビューで、D2C事業の立ち上げに必要な要素をお伺いできました。
イングリウッドは、メーカー企業がD2C事業を立ち上げるに当たって必要となるソリューションを一気通貫で提供しています。豊富な実績を持ち、D2Cに初めて挑戦する企業がつまずきがちなポイントを把握し、対応を仕組み化しています。D2C事業の立ち上げにあたって不安な点がある場合は、一度イングリウッドに相談をしてみてはいかがでしょうか。
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