家電メーカー「ツインバード」のリブランディング!社内の変化が商品を変え、顧客に良質な価値を届ける
株式会社ツインバード
ブランド戦略部 古川泰之さん(写真左)
取締役/ブランド戦略部 浅見孝幸さん(写真右)
インタビューの概要

金属加工業が盛んな新潟県燕三条地域で、70年以上続いている家電メーカーの株式会社ツインバード(以下、ツインバード)は、2021年11月から本格的にリブランディングを始めました。その背景には、飽和する日本市場で、価格競争に陥っては企業を存続させることが難しいという判断をされたからです。今回はリブランディングを推進する上で、どのような取り組みを行ってきたか、同社で取締役を務める浅見孝幸さんとブランド戦略部の古川泰之さんに伺いました。

時代の変化に取り残されない顧客視点のリブランディング

リブランディングに至った背景

――ツインバードがどのような経緯でリブランディングを行うに至ったか教えていただけますか?

浅見さん:ツインバードは1951年に新潟県の燕三条地域で、金属のメッキ加工を行う会社としてスタートしています。その後、下請けからの脱却を目指し、自社製品の開発を始め、持ち得る技術を生かして洋食器や家電の販売を始めました。小物の白物家電を中心に製造することが多かったツインバードの方向性が変わったタイミングは、事業承継により代表が3代目の野水重明になった2011年のことです。それを機に、冷蔵庫や洗濯機のような大型の家電を販売するようになりました。

戦後の高度経済成長期には家電はあれば嬉しいものであり、豊かさの象徴として扱われていました。しかし、現代は90%以上の家庭に普及している必需品です。家電量販店で冷蔵庫を見比べてみても、数多く並ぶ商品の違いを理解して購入することが難しい時代といえます。リブランディング以前のツインバードは家電量販店に並ぶとコスパが良い家電メーカーだと認識されているブランドだったのではないでしょうか。

時代背景を踏まえて、似たりよったりの商品で価格競争をする今までのやり方ではいずれ立ち行かなくなってしまうと野水は考えました。そこで、就任した2011年に自社製品のブランディングとダイレクトマーケティングを戦略に取り入れ始めます。対外的にリブランディングを発表したのは、それから10年後の2021年です。

お化粧だけでないブランディングの肝とは?

――2011年から徐々にブランディングの動きが始まり、大きく舵を切ったのが2021年ということでしょうか?

古川さん:3代目の野水に事業承継された2011年は、社内にいた私の感覚としてはプチリブランディングという印象です。数十年続いてきたことを代表が変わったことで、急速に大きく変わることはありませんでしたが、野水は当時から「顧客視点」と繰り返し社内で言い続けていました。2019年にブランド戦略部が設立され、その直後に浅見が入社してから、リブランディングに向けた大きな動きが始まります。

浅見さん:ブランディングはロゴなど見える場所を刷新するだけではなく、中身が変わらないといけません。いくら見た目を変えてお化粧したとしても、まずは社内から変わる動きがなければ消費者にリブランディングは伝わらないのです。とはいえ、お化粧も必要なので、ロゴなど見える場所のデザインを2021年に発表しています。

リブランディングの大きな一歩目となるインナーブランディングの強化

ビジョン・パーパス・バリューが決める会社の新たな方向性

――社内でリブランディングを浸透させるために、どういった取り組みをしたのでしょうか。

浅見さん:ブランディングには社内に向いたインナーブランディングと、お客様に向いたアウターブランディングの2種類があります。まず大事なことは、見える場所を変えるよりも、中身となるインナーブランディングから変えることです。そのため、社員と会社の方向性を合わせる活動からスタートしました。

ツインバードの方向性を決めるにあたって、昔からある経営理念をもとに、PVV(パーパス・バリュー・ビジョン)を作っていきました。経営理念の内容は、パーパスとバリューが混在していたため、噛み砕いてわかりやすく切り分けました。

古川さん:このとき、パーパスやバリューはブランド戦略部や代表による一存ではなく、管理職やベテラン社員を含めてワークショップやアンケートなどを行い、現場からボトムアップで吸い上げた意見を採用しています。また、いきなり社内の人間からトップダウンでリブランディングに関する話をすると角が立つため、まずは外部から講師の方を招いて、ブランディングによる効果についてお話しいただきました。

ワークショップでは、生産管理や商品企画など、各部署にとって、ブランディングをすることで、どういったメリットがあるのか他社の事例を出しながら、社員にリブランディングが腹落ちできる感覚を醸成していったのです。そして、役員合宿によってまとめられた経営層の考え方に、アンケートで上がってきた社員の意見を織り交ぜて、現場に近い目線でパーパスやバリューを策定しました。

全社員と対話を重ねて強まるインナーブランディング

――パーパスやバリューの策定が経営層のみで行われるのでなく、現場の意見に近い目線で伝わりやすい内容にしたのですね。方向性が決まるとなると、次のステップとして社内に浸透させる必要があるかと思います。

浅見さん:全体に発表があったときは納得してくれる方も何割かいたり、一方で反発する方もいたりと、反応はさまざまでした。発表後は毎週6人と2時間みっちりツインバードについて話をしました。全社員が約300人なので50週で1順です。荒れる回もあれば、順調に進む回もあり、約1年を通して社内の認知と納得感が高まったように思います。しかし、それでもまだ100%ではないため、23年度は座談会の形式で改めて管理職を混ぜて社内の研修を行う予定です。

古川さん:東京、大阪、名古屋、福岡と全国にある支店や営業所で採用された社員は燕三条のことをよく知りません。そういった社員にもインナーブランディングを強めるため、燕三条出身の社員が動画を作成し、ツインバードアカデミーという教育システムを通して燕三条の歴史や気質を語ってもらっています。

また、新入社員が燕三条の歴史をまとめ、発表する機会を設けることで、先輩社員は自社のことを知っていて当たり前という空気を作るなど、地道な活動も行いました。

リブランディングによる協力会社の反応

――インナーブランディングが磨かれることで社員全員が同じ方向に走り出すと、非常に大きな力が働きそうです。リブランディングにより、商品の製造を一緒に行っている燕三条の協力会社に変化はありましたか?

浅見さん:燕三条は江戸時代から続く金属加工の町です。小さい町工場が2,000~3,000社ある中で、家電メーカーは多くはありません。家電を作る上で、部品の加工・製造の協力を多くの会社にお願いしています。

そういった意味で、リブランディングへの期待値は大きいでしょう。一方で変わることへの不安を抱えている企業が少なからずいらっしゃいます。だからこそ、このリブランディングの結果を出すことで、地元の会社から理解していただき、今後も取引を続けようと思っていただけるのではないでしょうか。

古川さん:リブランディング後は外部に情報を発信する際、商品の使い手・作り手・燕三条地域の三位一体で打ち出すことを絶対のルールにしています。伝える内容を協力会社にお見せすると非常に喜んでいただけるのです。そういった自社の商品を表現するために、自由度の高い自社ECサイトを活用しています。

商品が変わると印象が変わる!顧客に向いたアウターブランディング

新たなブランドラインで既存のイメージを大きく変える

――情報発信の中に、ツインバードの商品を製造する上で欠かせない協力会社が含まれているのは、職人のモチベーションを上げ、燕三条全体を盛り上げる活動になると感じました。アウターブランディングに当たる顧客に対しての動きはいかがでしょうか。

古川さん:新たに2つのブランドラインを打ち出しています。匠の暗黙知を実装した「匠プレミアム」と、お客様の「不」を一番シンプルな形で解決するものづくりを行う「感動シンプル」です。

背伸びせず使える冷蔵庫」は354Lで165cm(モデル身長は159cm)

古川さん:どちらのラインもプロダクトデザインをシンプルにしています。商品企画においてプロダクトアウトを脱却し、需要があるかを考えた上で、開発に進みます。例えば「感動シンプル」の「背伸びせず使える冷蔵庫」は、モックアップ品を作り、背伸びせずに使えることが本当にお客様に刺さるのかヒアリングを行いました。子供のいない若い夫婦や、子供が巣立ったアクティブシニアなど、意見を聞くと良い声から改善案まで前向きなレビューが上がり、高い精度にまで商品の質を磨いて販売することができています。

「匠プレミアム」の全自動コーヒーメーカーの説明に熱が入る古川さん

古川さん:「匠プレミアム」の全自動コーヒーメーカーはコーヒー界のレジェンドである、カフェ・バッハ店主田口護先生と共同で作りました。田口先生が推奨する抽出温度・豆の粒度・豆の蒸らし、この3つを燕三条地域の技術とツインバードのこだわりで再現し、田口先生に納得いただける匠が乗り移ったような商品にすることができました。

古川さん:店頭やECモールなど販路は多岐に渡りますが、こういった工夫や想いは自社ECサイトで最も多く伝えています。自社ECサイトが一番想いを語れる場所なのです。

浅見さん:家電のような生活必需品は壊れたときやライフステージが変わる瞬間が買い時です。家電量販店はニーズが顕在化した方が買うには最適な場所ですが、潜在層の方にとってはそうとはいえません。潜在ニーズを掘り起こすには、メディアとの取り組みや自社ECサイトなど、今までとは違う接点でお客様とつながることが必要なのだと思います。

既存品を刷新し、新たなブランドイメージの確立を目指す

――新たなブランドラインの登場による商品イメージの刷新や今までにない接点で新しいツインバードを知ってもらうこと。前段のお話を聞いたあとでは、社内の意識が変わってこそ取り組めていることのように感じました。現在は新旧の商品を入り混じっている状況かと思いますが既存の商品は継続して販売するのでしょうか。

浅見さん:リブランディング以降、ツインバードで600SKUあった商品を半分にまで絞る作業を行っています。売上の大半は既存品であるため単純にSKU数を絞ることがリブランディングにつながるとは考えていません。まだ売上の3割ほどである「匠プレミアム」と「感動シンプル」のSKU数、売上ともに増やす必要があるのです。

「匠プレミアム」と「感動シンプル」の割合を増やしていく

古川さん:「匠プレミアム」と「感動シンプル」を増やし、既存品と置き換えていく。このとき磨けば光る商品は磨いていくこと。これをブレることなく地道に続けていき、「匠プレミアム」と「感動シンプル」の割合が増えていくことでブランドが確立していくと考えています。

顧客の「不」を解消し、愛されるブランドづくりへ

――着実にツインバードのリブランディングが進んでいることがお話を通して感じられました。ツインバードのこれからについて、より力を入れていくことなどあれば教えていただきたいです。

浅見さん:以前までのツインバードはプロダクトアウトで高い技術を持って作りたいものを提供していました。新しいブランドラインではもっと生活者起点で、ユーザーが何を求めているのか、どんな「不」を持っているのか理解し、解決できるものづくりが最も重要といえます。

ツインバードの独自性は燕三条で歴史を築いたことです。企画開発から製造販売、アフターサービスまですべての機能を内包化している強みを持っています。この強みに生活者視点を加えて磨き込み、差別化することがポイントになってくるでしょう。

古川さん:ブランド定点調査により、新しいブランドラインに接触した方の購入意向が高いことがわかっています。認知や好意度、推奨度などの指標がさまざまある中で、最もファン度を上げたいと思っています。お客様から愛されるブランドになるように調査分析をしながら、地道に数値を伸ばしていきたいです。

リブランディングを目指す企業に向けて

――お客様の「不」を解消できる生活者視点のものづくりについては、ぜひ読者の方に「匠プレミアム」と「感動シンプル」の商品を見ていただきたいです。最後に、企業が一般にリブランディングを実現するために、どのような意識を持つことが必要か教えていただけますか。

浅見さん:リブランディングはお化粧ではありません。中から整えること。つまり、自分たちが目指す方向を決めて、社員の気持ちを合わせることが必要です。また、ブランディングのベースには品質が必要条件になります。お客様への約束となる高い品質の商品やサービスをお届けすることがポイントになるでしょう。

ツインバードも同様に商品を起点にしたブランディングを行っています。想いを込めた商品を作り、一人でも多くの方に使ってもらうことで、差別化された我々ならではのものづくりをご理解いただけると思います。時間がかかることなので、地道にコツコツ、ブレずにやっていくことが大切でしょう。

今回、この記事をご覧いただいたECを運営している方やメーカーの方に少しでも参考になればいいなと思います。まだまだツインバードの認知度は低いです。昨年、代表が本を執筆しましたので、今回のお話に興味を持っていただいた方は、より細かく書かれていますので、ぜひご一読を。

昨年発売された『ツインバードのものづくり

インタビューを通して:一朝一夕ではなし得ないリブランディング

ロゴや社名を変更するお化粧や会社の新方針を打ち出すことでリブランディングは終わりません。それが社内に浸透しきらなければ、長い期間積み重ねられて作られた明文化できない企業文化を変えることは非常に難しいことといえるでしょう。

特にツインバードにおいては商品企画から開発などの川上から、アフターサポートまでの川下まで協力会社とともに一貫した体制を構築しています。いずれかの工程で違った方向を向いている社員がいては、お客様の体験の質は下がってしまうでしょう。規模が大きくなればなるほど、難易度が高くなるリブランディングですが、一朝一夕ではなし得ないことを理解しながら、一歩ずつ前進していくしかないように、本取材を通して感じました。

ツインバードの「匠プレミアム」と「感動シンプル」は、他社にはない独自性の高い家電といえます。ぜひここまでお読みいただいた方はこだわり抜かれて作られた商品を下記のURLからご覧になってはいかがでしょうか。

■匠プレミアム
https://www.twinbird.jp/brand/takumipremium/

■感動シンプル
https://www.twinbird.jp/brand/kandosimple/

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