【ゲストスピーカー】
松浦 悠介さん
株式会社ビビッドガーデン 取締役
直産EC「食べチョク」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
農業の課題に直面した「食べチョク」が描く、産直ECの新しい形
柳田さん:ビビットガーデンさんといえば「食べチョク」が代表的ですが、取り組みは何年前から始められたのでしょうか。
松浦さん:当社は、農家や漁師から直接購入できる産直EC、いわゆる“産地直送型マーケットプレイス”を運営しています。2023年時点で創業7期目、サービス開始から6年目になります。
柳田さん:産直といっても食品ECの一種ですよね。コロナ禍では食品ECが追い風になったと思いますが、サービスの開始はそれ以前ですよね。
松浦さん:そうですね。ただ、「食べチョク」への注目が高まったのは2020年頃です。農家さんや漁師さんの販路が一気に失われた時期で、追い風というより“なんとかしなければ”という思いで取り組んでいるうちに、気づけば数年が経っていたという感覚です。
柳田さん:サービス開始当初から産直ECとしてスタートされたとうかがっていますが、どんなきっかけがあったのでしょうか。当時はまだチラシなど紙媒体が主流だった印象です。
松浦さん:代表の秋元の実家が農家だったのですが、廃業後に畑を訪れる中で農業の課題を強く感じたそうです。そこで「農家や漁師がしっかりと儲かり、継続できる環境を作れないか」と模索する中で、「食べチョク」が生まれました。
柳田さん:農業の課題という大きなテーマから始まったのですね。
松浦さん:農業にはさまざまな構造的な問題があります。その一つが流通構造です。市場では「〇kg〇円」と量で価格が決まる仕組みのため、しっかり稼ぐには大量生産が前提になります。もちろんその方法もありますが、「少量でもこだわりのあるものを適正な価格で販売できないか」という発想から始まったのが「食べチョク」です。
柳田さん:農業は、たくさん作らなければ儲からないどころか、存続すら難しいと聞きます。コスト負担も大きいですよね。
松浦さん:そうなんです。初期費用の負担が非常に大きいのが現実です。例えばビニールハウスを建てるだけでも数千万円かかる場合があります。しかも、建ててもすぐに売上が立つわけではなく、収穫までに時間がかかる。そうした構造が大きなハードルになっています。
柳田さん:そうなると、なり手が減るのも無理はないですね。
松浦さん:実際に新しく農家や漁師になろうという人はまだ少なく、「儲からない仕事」というイメージが根強いと思います。
柳田さん:たしかに、実家が農家でも就農しない人は多いです。やはり課題は価格決定力でしょうか。
松浦さん:そうですね。大量生産で稼ぐスタイルもありますが、新規就農の方は広い土地を確保できないケースが多い。その場合、利益率の高い良いものを作るしかありません。狭い畑でも、こだわりを持って高付加価値な作物を作る方々がきちんと収益を上げ、続けられる環境を整えたいと考えています。
柳田さん:「食べチョク」に出品している方の中には、ご自身の代から農業を始めた方も多いのでしょうか。
松浦さん:農業や漁業を初めて始めた方も一定数いらっしゃいますし、ネット販売が初めてという方も多いです。コロナ禍で飲食店への卸先がなくなり、個人向け販売に切り替えた方も少なくありません。販売形式や求められるサイズ感なども異なるため、最初は苦労された方が多かったですね。
柳田さん:既存の農家の方は方法の変化に戸惑いながらも対応できそうですが、新規就農の方にとっては厳しい環境に感じます。それでも取り組む方は強い思いがあるのでしょうね。
松浦さん:そうだと思います。しかも「食べチョク」では単に販売するだけでなく、“誰に売ったのか”がわかるのが特徴です。購入前に「この野菜はどう食べるのがいいですか?」と質問できたり、商品が届いた後にお礼のメッセージをもらったりすることもあります。
これまで一次産業の方々は、「自分の野菜がスーパーの料理キットに使われているらしい」といった間接的な情報しか得られませんでした。「食べチョク」では購入者からの直接のフィードバックが届き、それが励みになったり、品質改善につながったりするのが大きな特長です。
柳田さん:まさに、一次産業のD2Cですね。
松浦さん:そう言っていただくことも多いです。作業場で梱包しているので、土付きのにんじんや磯の香りがする箱がそのまま届くこともあります。そうした“手触り”や“空気感”まで含めて届くことに驚き、面白いと感じていただける方が多いですね。
一次産業特化だからこその“鮮度”と“愛着”で差別化
柳田さん:特に水産物は、楽天市場やYahoo!ショッピングといった大手プラットフォームでも数多く販売されていますが、「食べチョク」ではどのように差別化されているのでしょうか。
松浦さん:差別化のポイントは大きく2つあります。1つ目は「愛着」です。どこかの業者が販売している魚ではなく、「〇〇水産の〇〇さんが一生懸命に獲った魚」として販売している点が特徴です。
大手モールで扱われている水産物の多くは、業者が仕入れて販売しているもので、必ずしもD2Cではありません。食べチョクでは販売できるのは生産者本人のみとしており、この点が大きな違いです。
2つ目は「鮮度」です。直販のみの仕組みのため、食材が獲れてから購入者の手元に届くまでの時間が1〜2日ほど早いケースが多くあります。一般的な流通では、一度倉庫に入れて保管してから発送されますが、食べチョクではその日に獲れた食材を夕方には発送できます。一次産品において鮮度は何よりの価値であり、そこに強みがあると考えています。
柳田さん:鮮度が高く、他では買えないものを購入できるのは大きな魅力ですね。
松浦さん:食べチョクでは小ロットでの販売も可能です。出品者から出品費用をいただかず、誰でも簡単に出品できる仕組みになっています。そのため、大規模な流通には乗せづらい“たまに獲れる魚”や、“作業場の片隅で少しだけ作っている珍しい作物”なども販売できます。一般の流通では扱われにくいもの、モールでは売りづらいものが並ぶのも魅力の一つです。
柳田さん:必ず決まった品数を揃えなければいけない、という決まりもないのですね。
松浦さん:出品量はさまざまで、ラインナップも季節によって変わります。同じ農家さんでも、春と秋では商品がまったく違うこともあります。
柳田さん:漁に出たらたまたま珍しい魚が獲れたので、そのまま販売する。そんな柔軟さも面白いですね。
松浦さん:まさにその通りです。スマートフォンで写真を撮って出品できるので、そうした対応も簡単にできます。
柳田さん:まさに“一次産業のD2C”にふさわしいプラットフォームですね。一般的なEC事業者の場合、自社サイトに加えてモール出店も行い、多店舗展開していくケースが多いですが、農家や漁師の方々が商品を撮影して複数のプラットフォームに出品するのは大変ですよね。
松浦さん:本当にそうなんです。皆さんとにかく忙しい。売りたい気持ちやお客様の声を聞きたいという思いはあっても、複数のモールに出品する手間が大きな負担になります。
そこで私たちは、できる限り作業を集約し、食べチョク内で完結できる仕組みを目指しています。キャンペーン施策やリピート購入を促す仕掛けを設け、プラットフォーム内で「売れる」・「顧客とつながれる」環境を整えています。
さらに、“誰でも簡単に出品できる”ことを徹底的に意識しています。ITリテラシーには個人差があり、中には「ネット出品は初めて」という方も多くいます。そうした方が作業で行き詰まらないよう、エンジニアも含めて手厚くサポートしています。
柳田さん:たくさん売ることを目的とした一般のプラットフォームと違い、食べチョクでは“ここにしかないもの”が集まっている印象です。
松浦さん:珍しいものももちろんありますが、それだけではありません。たとえば「すごく美味しいものが獲れたから、まずは食べチョクに出そう」と思ってもらえるような場にしたいと考えています。
ファンが待っていて、納得の価格で買ってくれる。そんなプラットフォームであれば、自然と良いものが集まってくる。私たちは、“良いものが集まるマーケットプレイス”でありたいです。
柳田さん:まさに、農業・漁業・酪農など一次産業に特化したプラットフォームですね。
松浦さん:一次産業に特化することで、コンセプトが明確になり、利用者も商品を探しやすくなります。「食べチョクには美味しいものがある」という信頼感を確立し、その状態を維持していきたいと思います。
生産者の“個性”を活かす、出品しやすい仕組み
柳田さん:コロナ禍は続いていますが、人の動きは徐々に戻りつつあります(2023年1月撮影時点)。その中、オンラインでは選択肢が非常に多く、「探し始めるとキリがなく、時間を取られてしまう」と感じることがあります。特に“美味しいもの”というのは、判断が難しいですよね。
そうした中で「美味しいものを探すなら食べチョク」というように、カテゴリーを絞って探せる点が魅力だと思います。産直に特化しているからこそ、美味しいものが見つかる、他では買えないものがある。そこに独自性があり、サービスの強みになっていると感じます。
松浦さん:おっしゃる通りで、“美味しいかどうか”はネットでは判断しづらい部分です。だからこそ、商品を見て「買いたい」と思ってもらうには、ストーリー性や写真の美味しそうな見せ方、中身のわかりやすさといった一定の基準が必要だと考えています。その基準を保ち続けることが、産直ECにおける難しさの一つです。
初めてネット販売に挑戦する方も多い中で、「売れる見せ方の基準」を整えるのは簡単ではありません。「この魚は本当に美味しい」「この野菜を食べてほしい」という強い思いがあっても、それをうまく伝えられない方も多く、そこが産直ECならではの課題でもあります。ただ、だからこそ私たちはそこに寄り添い、支援していきたいと考えています。
柳田さん:ユーザー目線で見ても、食べチョクは選びやすく、独自性があると感じます。一方で、生産者にとっても、農業や漁業を続けながら出品しやすい仕組みになっているのではないでしょうか。
松浦さん:“使いやすさ”の工夫には特に注力しています。生産者の方々は本当に忙しいので、出品作業が手間にならないよう、少しでもスムーズに行えるよう設計しています。
柳田さん:プラットフォームとしては一定の出品数を維持する必要がある一方で、生産者側は日々の作業で忙しく、たくさんの商品を出すのが難しい。その中で、出品しやすい設計は重要ですね。出品しやすければ、珍しい商品も自然と集まりやすい。
松浦さん:まさにそこです。私たちは現場を支援するために、さまざまな取り組みを行っています。
例えば「食べチョク学校」では、毎月オンラインセミナーを開催しています。テーマは、写真の撮り方や商品説明の書き方などさまざまです。生産者同士が集まり、実践的な勉強会を通じてスキルを高めています。
農家さん、漁師さんにはそれぞれ特徴があります。野菜や魚へのこだわりを語るのが得意な方もいれば、文章表現は得意でも写真が苦手な方、逆に写真は上手だけど文章が短い方もいます。そうした“得意・不得意の凸凹”を少しでも底上げする場にしたいと考えています。
柳田さん:その“凸凹”こそ面白いですね。想いがある方が多いのは想像できますが、「写真が上手な農家さん」というのは意外で、興味を引かれます。
松浦さん:たとえば岐阜県の農家さんで、旦那さんの実家に嫁いで農業を始めた方がいるのですが、もともとカメラマンだったため、写真が非常に上手なんです。カメラのスキルを武器に、農産物の魅力を伝えています。
また、接客が得意な方は、同梱物に手紙を添えたり、丁寧な返信を心がけたりと、ホスピタリティあふれる対応をされています。
柳田さん:就農前のキャリアでは、百貨店で接客をしていた方や、カメラマンとして活動していた方など、個性を活かせる環境があるのですね。
松浦さん:そうですね。中小規模の事業者さんが多いので、役割分担をしてチーム戦で取り組んでいる印象です。それぞれの得意分野を活かして、ブランドづくりや販促に取り組まれています。
おわりに:産直ECがつなぐ、生産者と顧客の新しい関係
松浦さんのお話からは、「食べチョク」が単なる販売プラットフォームではなく、生産者と顧客を近い距離で結ぶ“場”として進化してきた姿が浮かび上がりました。
鮮度や独自性を強みに、生産者が自らの想いを届けられる仕組みを整え、顧客との温かなやり取りを“価値”に変えている。その姿勢は、一次産業の課題に向き合いながら、ともに成長していく産直ECの新たな可能性を感じさせます。
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