プロダクトアウトで生み出したブリージングデバイスを市場に浸透させるためにBREATHERが実践したこととは?
インタビューの概要

業務の間に一息ついて、吸うものというとタバコが思い浮かべられるのではないでしょうか。BREATHER株式会社では非喫煙者でも一息つけるブリージングデバイス「ston s(ストンエス)」を販売しています。ニコチン・タールを含まず、カフェインやGABAを吸引して休憩を取れる商品です。競合する商品がほとんどないといえる「ston s」が市場の認知をどのように獲得し売上を伸ばしたのか、また、今後の展開についてCEO兼CTOの御神村友樹さんに伺います。

ブリージングデバイスとは?誕生の背景と得られる効用

――「ston s」はブリージングデバイスとして販売されています。まず、ブリージングデバイスがどういった背景から誕生した商品なのか解説いただけますか。

御神村さん:弊社は「休み方改革」をやりたいという想いで2019年に誕生しました。「働き方改革」については長年問われており、休暇を増やしたり、労働時間を短くしたりと制度的に働く時間を減らす取り組みがあります。そして、それと同等以上に効果的な休息をどのように取るのかが重要だと考えたのです。それが「休み方改革」をやりたいと思ったきっかけになります。

仕事を多く抱える方、家事や育児と仕事を両立される方などは、1日に何度も場面が切り替わり、息をつく間もないことがあるかと思います。そういった方が、場面場面をうまく切り換える休憩の取り方として“呼吸”に目を向けました。“呼吸”は吸うことで交感神経を優位に、吐くことで副交感神経を優位に、自律神経のバランスを整えるための効果的な手段なのです。

自律神経のバランスを整える、もっというと人のオン・オフなどのモードや気分を自意識的にコントロールする製品開発の着想をしています。そこから、“呼吸”のサポートに提供価値を置いた、「ブリージングデバイス」という今までにない商品を作ることを決意しました。ブリージングデバイスを利用するときの吸う行為に注目するとタバコのイメージがあるかもしれないですが、吐くことも含め、一息ついてもらうために”呼吸”に寄り添うことが欠かせなかったのです。

代表の御神村さん
代表の御神村さん

0→1で認知を得るための成功事例

――今のお話でブリージングデバイスが社会の課題から潜在的な市場があることはわかりました。しかし、喫煙者以外が”呼吸”からひと休みを想起することは難しいかと思います。ブリージングデバイスを市場に認知してもらうために、どのような取り組みを行ったのでしょうか。

御神村さん:まずはオンラインから販売を始めました。販路は自社サイトとAmazon、楽天市場の3つです。

自社サイトはアクセスを増やすために、立ち上げ時からSNSの運用を行っています。Twitterを中心に運用し、ブリージングデバイスの利用シーンや世界観を訴求しながら徐々にアクセス数を増やしていきました。また、公式アカウントのみの発信に限らず、ブリージングデバイスを利用している方にアンバサダーになっていただき、情報発信の協力をしていただきながら、徐々に認知を伸ばしていったのです。

さまざまな施策を試行錯誤しましたが、他のブランドやサービスとのコラボレーションは特に影響が大きい施策として何度もやっています。ヘアサロンやボディメイク、マインドフルネスなど異なる業種業態の方々とコラボレーションし、フォロワーや公式LINEの友達数を増やしながら認知が広がっていきました。

ヘアサロン「EARTH」とのコラボレーション企画
ヘアサロン「EARTH」とのコラボレーション企画

御神村さん:グランドコンセプトとして呼吸を重要視するブリージングデバイスに対して、多種多様な利用シーンに関するお客様の声が挙がってきております。仕事の合間のひと休みに使っていただく以外にも、面接前に気分を落ち着かせるため、キャンプ中に焚き火を見ながら、外見を綺麗にする美容院で身体の中から綺麗になるためなど、固定観念がないからこそ”呼吸”によって一息つけるシーンで利用いただけるように、今後もいろいろな企業様と積極的にコラボレーションを進めていこうと思います。

商品理解を浸透させるためにオフラインコミュニケーション

――既に市場がある他のブランドやサービスとのコラボレーションは、プロダクトアウトで作られた商品の認知を広げる取り組みとして、他の企業でも応用ができそうですね。認知を拡大できたとしても、お客様に商品を正しく理解していただかなくては、購入や購入後に継続してもらうのは難しいかと思います。ブリージングデバイスの知識を正しく理解し、購入していただくために工夫したことはありますか。

御神村さん:オンライン広告を活用し、興味を持っていただいた方に購入いただく機会は徐々に増えていきました。しかし、購入前に弊社からお伝えしたいメッセージを完全にご理解いただけているかを考えると、オンラインのみで商品の情報を余すことなく伝えることに難しさを感じていたのが本音です。

2022年に入ってエントリーモデルである新商品の「ston s」を発売したことでオフラインでの取り組みを開始します。従来の「ston」は充電が必要であったり、専用カートリッジの差し込みが必要であったりと、吸えるようになるまでひと手間かかっていたのです。新商品の「ston s」では、そういった手間を一切排除し、開けたらすぐに吸える仕様になっています。「ston」を利用いただいていた方々に何度もインタビューを重ねて改良をした結果を反映しています。

オフラインでの取り組みで効果を発揮できるようになったのはこの改良があったからです。初めての方に説明する際、吸い方などの基本的な操作方法ではなくブリージングデバイスに関する理解を深めることに時間を割けるようになりました。

箱から出すと、吸うだけで利用できる「ston s」
箱から出すと、吸うだけで利用できる「ston s」

御神村さん:街中や商業施設でのポップアップストアやオクトーバーフェストのようなイベントに出店しています。タバコではなくヘルスケアデバイスであり、ウェルネスやウェルビーイングに貢献している商品であるため、テナント様やイベントの主催者様からの評判が良いのです。

対面でお客様に”呼吸”の重要性をお伝えすると多くの方に共感いただけます。その場で商品をお試しいただき、購入いただくまでの購入率は非常に高いです。加えて、商品をしっかりと理解いただいた上で購入されているので継続率がひときわ高い傾向にあります。

新たな気づきにつながるお客様の声

――オフラインの場合、一度に伝えられる人数に限りはありますが、実際に商品を試しながら対話を通して理解を深めてもらえるため、お客様を増やすための堅実な手段であることがわかります。お客様とコミュニケーションを取る中で、想定しなかった気づきを得られることもあるのでしょうか?

御神村さん:オフラインの場だけでなく、オンラインで購入いただいたお客様からも時間を頂いてユーザーインタビューを積極的に行っています。実際にご利用いただいているお客様の声は自分たちが気づいていない商品の価値を教えてくれるのです。

例えば、「ston s」はタバコではないためニコチン・タールゼロを謳っていますが、水蒸気ですので糖質とカロリーもゼロになっています。商品の特徴として押し出すには弱いかと思っていたものの、お客様の声を聞くとエナジードリンクや間食の代替品として活用しているため、重要なポイントであることがわかったのです。

非常に広いシーンで利用される商品であることから、新しい気づきを得るためにお客様の声を継続的に聞き続けることが市場に受け入れてもらうために必要なことだと思います。

体験会でコミュニケーションを取る様子
体験会でコミュニケーションを取る様子

――オンライン・オフライン問わずお客様との対話を欠かさないことで、どういった形で市場に受け入れられているかを認識するアクションが重要だと感じました。オンラインとオフラインを連動させる取り組みはありますか。

御神村さん:OMO施策の一環としてLINEを活用しています。認知を広げることも重要ですが、購入からリピートしていただくまでの顧客導線を設計することにはこだわらなければいけません。

例えば、オフラインで接点を持った方であっても、まずLINEの友だち登録をしていただきます。どの会場をきっかけにLINEを登録したのか簡単なアンケートに答えていただくと、お客様の情報がLINEのCRMツール内に登録されます。その情報に合わせた最適なカスタマージャーニーをベースにお客様一人ひとりに適切なタイミングと必要な情報をお伝えできるよう試行錯誤してきました。

アカウント運用から7ヶ月で3万人の方にご登録いただき、一般的な健康サプリと比べると2倍を超える購入継続率が出ていることから、地道な動きが結果につながってきたように感じます。

プロダクトアウトの商品が市場に受け入れられるための3つのポイント

――お客様の声を聞きながらカスタマージャーニーマップを繰り返し改善し、着実に成果を出して成長してきたBREATHER ですが、最後にプロダクトアウトで商品を発売するにあたって、市場に受け入れられるために重要なポイントを教えていただけますか。

御神村さん:大きく3つのポイントがあると思います。

まず、大前提としてプロダクトにストーリーがあることが必要です。どういう想い、どんなコンセプトで商品を開発することになったかのストーリーがなければお客様は共感いただけず、商品を購入していただくことは難しいかと思います。

次にカスタマージャーニーを常に意識することです。お客様に認知いただいてから購入いただくまでを細かく見たときに、決済を完了するまでの遷移の流れやデザインなど、カスタマージャーニーがひとつひとつ最適化されているかを注意しなければいけません。

すべての積み重ねが掛け算になってお客様がファンになっていただけると思っています。1つでもゼロになっている要素を作らず、常に最適な状態であり続けることを意識して改善し続けることです。もともと開発出身ですので、購入体験でも「神は細部に宿る」精神を大切にしたいと思っております。

最後に、商品が利用されるシーンと、そのシーンにいるお客様像を明確にすることです。更に、そのお客様にとってどんな価値やメリットを提供できるのかセットで考えられることが必要です。

「ston s」であれば、そもそも使用シーンとして、仕事中の会議と会議の間や、ゴルフの大事な一打の前など、多様性があります。当然それぞれのシーンでのお客様・価値は異なります。したがって、シーンを切り出して、この3点を具体的にするのです。ブランド認知が低い状態で市場認知を獲得するためには、マス向けの大きな施策をやるよりも、まずこの具体化した3点でお客様に何ができるのかコミュニケーションの形まで掘り下げて戦略を組むことが大事だと思います。

プロダクトアウトといえど、マーケットインの考え方をバランスよく行ったり来たりしながら、お客様と向き合うことがブリージングマーケットを築くために大事だと、これまでの経験を通して感じました。

ブリージングマーケットを確立に向けて躍進するBREATHER

――最後にBREATHER としての今後の展望をお聞かせいただけますか。

御神村さん:ブリージングマーケットを確立していきたいと思います。平成の30年の歴史の中でミネラルウォーターは大きく市場を伸ばしました。今では水を買って飲むことが当たり前になっています。安心安全なお水を買って飲む清らかな世界観が定着しました。

この歴史をメタファーとして考えると、「良い呼吸」の市場価値もあると思っています。人は呼吸を1日で約29,000回していますが、その中で意識して呼吸することは何回あるでしょうか?意識的な呼吸の重要性は頷かれる方が多いと思います。その一方で、意識的な呼吸の習慣化ができている方は極端に少ないというのが実情です。ブリージングデバイスは、この意識的な呼吸の習慣化のサポートを通してお客様の心身を整えることに貢献していきます。呼吸の本来持つ価値の意味づけを行い、社会に存在するさまざまなパーソナルペインの解決に寄り添っていきたいです。

そして、呼吸の本来価値に気づいているプレイヤーが少しずつ増えています。この動きを他のプレイヤーとともに協業しながら拡大していき、呼吸の市場を確立していければと思います。

屋内での体験会
屋内での体験会

インタビューを通して: 想い・目的から結果としての「プロダクトアウト」

BREATHERの御神村さんは、「プロダクトアウト」で進めようと思ったのではなく、“呼吸”をサポートしたいという想いから結果的に「プロダクトアウト」になったことがインタビューでわかりました。

商品開発やマーケティングの手法に、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の2つがあげられます。どちらが優れている手法かという議論もありますが、あくまでも手法の一つであって、大事なのは目的ではないでしょうか。そのうえで、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」ならではの特徴を把握して、進めていくことが大事だと思います。

「プロダクトアウト」で新たな市場を開拓したいとお考えの方は、BREATHERの御神村さんのお話しは参考になるのではないでしょうか。

■BREATHER Official Store
https://official-store.breather.co.jp/

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