
メンズコスメという言葉は今でこそ市民権を獲得し、男性専用の化粧品が多く販売されるようになりました。今回は、1999年からメンズコスメブランド『ザス』を販売している日本ブレーンキャピタル株式会社の代表取締役である野々下さんにインタビューを行いました。20年以上メーカー直販を行う中で培われた元祖D2Cとしてのご経験についてお伺いしています。
この記事の目次
20年以上前から始まっているD2Cとしての取り組み
――まず、メンズコスメの『ザス』についてどのようなブランドかお話を聞かせて頂けますか?
野々下さん:ザスでは1999年からメンズ向けの化粧品を販売しています。化粧品などのスキンケア系の商品や、ファンデーションやテカリを抑える皮脂吸収クリームのようなベースメイク系の商品も取り揃えています。

野々下さん:ブランドを立ち上げてから20年以上経ちましたが、メンズコスメの市場は徐々に浸透しつつも、まだまだスキンケア止まりでベースメイクまで手を伸ばしていない方が多くいらっしゃる印象です。そんな中、弊社では脂性肌のような課題を持ったお客様に応えることに一貫してこだわっています。また、むやみに値引きをして、商品価格が崩れてしまうとブランド価値自体が落ちてしまうため、そういった点にも気をつけています。
例えば、頻繁に値引きを行ったり、卸による販路拡大をしたり、価格の統制が取れなくなることはブランド価値がコントロールできなくなってしまうばかりか、品質低下の懸念もあるため過度に行わないようにしています。実際に、ご縁がありAmazonのベンダーセントラル(Amazonに商品を卸して販売してもらう形態)を利用させていただいたのですが、価格をコントロールする難しさや利益率の状態を理由に、現在は休止状態とさせていただいています。
更に、販路を大きく拡大せずに可能な限り直販にすることは、製品の十分な品質管理と自社内にお客様のデータを蓄積して、そのデータを把握した上で次の一手を考えられるようになるという大きなメリットがあります。
時代の変化に合わせた施策の設計
――メンズコスメを扱ってから20年以上の間に市場環境や社会環境が変わってきたかと思います。そういった環境の変化にはどのように適応してきたのでしょうか?
野々下さん:多少失敗があっても前へ前へと挑戦し続けることが大事だと思います。今と昔では市場環境が変わっていることがあるので、常に施策をテストしながら運用しています。
例えば、昔は新規獲得のためにサンプル品を無料で提供していました。当時はどんなに安くてもお金をかけてコスメを試してみようという男性が少なかったため、まずは無料で商品を試してもらうことに注力しました。商品を試して、気に入ってもらえれば本商品にしっかりと引き上がっていたので、戦略として間違っていなかったと思います。
その後、女性向けの化粧サイトの広告枠に掲載をしないかという提案を広告代理店から受けたんです。そのときは「女性が見る化粧品の広告枠にメンズコスメを出してもターゲットが違うんだから費用対効果が悪い」と伝えたんです。すると「男性と同じような肌の悩みを抱えている女性もいると思います。女性の脂性肌向けの商品という切り口で出稿してみませんか」と提案を頂きました。折角のご提案だし、新しい試みとして面白いかもしれないという思いで半信半疑でやってみたところ、反応が非常に良かったです。それからは女性の方にもアプローチするようになりました。当時 “メンズコスメ女子” という新しい言葉も生まれて、女性の方からもサンプル品の申し込みが増えていきました。しかし、無料で提供していると何度も偽名で申し込む女性が増えて来たため、やむなく有料に切り替えました。
脂性肌は男性特有の悩みではなく、女性にとっても同様の悩みを抱える方が増えたことを感じています。女性が社会進出で男性と同じような仕事をすることが増え、競争意識や闘争心によってホルモンに影響が出たのではないでしょうか。

野々下さん:その後、サンプルは無料で提供したり、有料にしたりと状況を見て変えてはいますが、最近は有料で提供しています。ジェンダーレスという言葉があるように、男性も女性に近い感覚になっていると感じます。メンズコスメという市場が広がったことも、男性が有料のサンプル品を抵抗なく購入する機会につながっているかもしれません。
ECモールを活用した販売術
――自社ECサイト以外にもAmazonや楽天市場、Yahoo!ショッピングなど複数の店舗を展開していますが、それぞれどういった形で活用しているのでしょうか?
野々下さん:まず、売上の構成比をお伝えすると、Amazonがダントツで高いです。昔から男性ユーザーが多いとは言われていますので、そういった要素が強いのかもしれません。ECモールは、リターゲティング・リマーケティング広告をECモール側で出稿してくれるため、店舗や商品ページに訪れた方に対して、自社で広告を出して追いかける必要がありません。これがECモールならではの魅力だと思います。
また、ECモールで運営するにあたって、大型のイベントは欠かせません。楽天市場のスーパーセールやAmazon Prime Dayなどそれぞれのユーザーがお買い得のタイミングを待っているので、売り手側もここぞとばかりにイベントに便乗するわけです。Amazonのタイムセール枠は販売実績がないと掲載できないため、日頃から売上を作るために検索対策としてスポンサープロダクト広告を活用してお客様に認知してもらえるような施策を心がけています。
InstagramなどのSNSで初めて弊社のブランドを知るお客様には、Amazonや楽天市場に誘導しています。お客様にとって、初めて買う場所が自社サイトというのはハードルが高いと思うんです。モールで買って、気に入ってもらえれば自社サイトに来てくれれば良いと思っています。このロジックが直販ならではのメリットといえるでしょう。
定期通販にこだわらない自社ECサイトのリピート施策
――自社ECサイトでは、買ってもらうためにどういった工夫をされているのでしょうか?
野々下さん:どの店舗で購入したのか、今までに何回購入してくれているのかなど、お客様の情報はすべて社内データとして管理しています。そのデータを基に、『ザスポイント』を発行して、注文伝票に載せてお送りしています。『ザスポイント』は、弊社の自社サイトで買い物をする際に使えるポイントです。
自社サイトで購入すれば5%、それ以外の店舗では4%ポイント還元しているのですが、リピーターの方たちはどんどんポイントが溜まっていくので、自然と自社サイトに流れてくる仕組みになっています。

野々下さん:さらに購入回数や購入金額に応じて、会員ランクを設けています。定期通販のように決まったサイクルで商品をお届けしなくても、自分のペースで継続的に購入しているお客様がお得になるような取り組みです。他にも、会員向けにシークレットセールも行っており、会員ランクが高くなるほどお得に買えるようにすることで、自社サイトでのリピート購入するきっかけを作っています。
――最後に日々の店舗運営において気をつけていること、これからD2Cなど物販を始める方に向けて今までのご経験からメッセージはございますか?
野々下さん:売り手になると売ることばっかり考えてしまいますが、買い手の立場になって考えることが大事だと思います。私は常に買い手側の立場に立って、お客様と信頼関係を築くことを心掛けています。集客のための広告やSEOなどの検索対策は、その時々で経験を通して知識を増やし、環境に合わせて施策を行っていきました。その際、考えた戦略が上手くいかないことは十分ありえます。失敗しても、「同じ失敗を二度と繰り返さない」という気持ちで、経験値を積み上げていくことが大切です。失敗をしたからこそわかることがあると思います。失敗を恐れずに新しい事をトライし続ける事が大事だと感じています。
ブランドを始めてから20年以上経ちますが、一気に売上を大きくして自分の手の届かないところまでお客様を広げていくよりも、小さくてもお客様1人1人と密な関係を取りながら継続的に購入してもらえるように地道にやっていくことが成功の近道だと思っています。前にいた会社では1つのヒット商品に頼ってしまった結果、その商品が売れなくなった途端に会社はみるみる傾いていきました。
その時々で状況は変わっていくため、現状に甘えずに次の手を考えて行動し続けないといけません。売れてくると偽物が出ることもありますので、公式店舗として常にお客様のニーズに合わせた唯一無二の商品を提供する必要があると思っています。見た目の派手さやかっこよさにこだわるより、製品の良さを分かっているお客様とともに、これからも地道に頑張っていきたいと思っています。
インタビューを通して:時代の変化に適応しながら継続している元祖D2Cの姿
ニッチな課題に対して満足度の高い商品を自社生産で提供するスタイルは、いわゆる最近でいうところのD2Cの形を取っていると思います。あくまで自社がお客様と向き合える範囲で商品を展開し、長く続けている姿勢には、群雄割拠している今の時代のD2Cブランドが今後どうやってお客様と向き合っていくかが示される1つの答えのようにも思えます。
メンズコスメのザス(公式通販サイト)
https://www.zas.co.jp/
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