
全国に300ヶ所以上の販売店へ商品を卸しているミレー・マウンテン・グループ・ジャパン株式会社(以下、ミレー)は2017年に自社ECサイトを立ち上げて以来、試行錯誤をしながらも順調にオンラインの売上を伸ばしています。メーカー企業として、卸先となる販売店と協力しながらブランド全体の売上を伸ばす動きは必要不可欠でしょう。今回はミレーでイーコマース・マネージャーを務める奥村武さんに、卸先が多数ある中でどういった価値提供をオンラインによる直販で行うのか、お話を伺いました。
この記事の目次
日本に合わせたローカライズで愛されるブランド
――まず、ブランドや商品など、ミレーについて教えていただけますか。
奥村さん:ミレーはフランス発の登山に特化したブランドです。おかげさまで、2021年に100周年を迎えることができました。日本には1960年代後半に輸入されたことが始まりです。
商品のラインナップとしてはザックやアパレルがメインです。フランス規格の商品も扱っていますが、売上の大部分を占めるのは日本規格の商品となっています。フランス規格の場合、極寒の雪山に耐えられる、現地の方の体格に合わせた商品となるため日本でニーズが多い規格とはいえません。
日本規格の商品は白馬山案内人組合とパートナーシップを取って、日本の気候に合っているか、日本人の体格に合っているかなど様々な角度から意見を頂き、商品開発へと活かしています。こういった取り組みを通して、機能や性能に徹底的にこだわり抜いて、日本国内でのローカライズが進んでいます。
会社全体としてECに注力することが決まり、日本では2017年7月からECの運用が始まりました。

直販と卸のバランスを保つ工夫
――ECによる直販が始まる以前、基本的には卸先による販売店がミレーの売上を支えていた形になるかと思います。ECサイトを立ち上げに際して、卸先との関係を良好に続けるため配慮したことなどありますか?
奥村さん:ECによる直販の売上が伸びた今でも、やはり卸の売上が当社としてはメインです。その中で、ECで行うセールなどイベントに関する内容は各販売店を担当する営業チームにしっかりと共有するよう努めています。年に1回、セールスプロモーションのポリシーを作成し、全社の承認を得てから施策を行っているのです。
私自身、ECに携わって12年になりますが、自社ECと卸のバランスを上手く保つのはなかなか難しいことだと長年やっていて感じます。とはいえ、昔と比べて、ブランドが自らECで直販することが当たり前になっていて、EC側の部署にとって運用しやすくなっている社会的な変化が起きています。
例えば、ミレーオンラインストアでは毎年1回アニバーサリーセールを実施しています。初めて実施した際は社内外からいろいろなご意見をいただきましたが、昨年行われた4回目では当初に比べてご理解いただけているように感じております。お客様への告知の仕方など、営業チームと話し合いながら開催している効果だと実感しております。

直販だからこそ出せる価値と魅力
――お客様へ視点を移したときに、卸先の販売店とECによる直販とで提供できる価値や売り場としての機能など、どのようなところに違いが出るのでしょうか?
奥村さん:リアルの販売店ではお客様が実際に商品を手に取っていただけます。登山用品は時として命を守る大切な役目を持つものなので、ザックを背負っていただいたり、アパレルの着心地をお試しいただけたりすることは、店頭ならではの利点といえるでしょう。
一方で、卸先の販売店ではカラー・サイズ展開に限りがあるため、気に入った商品があってもその場で手に入らなかったりすることがあります。また、他社ブランドの商品が置かれているため、機能的な効率性を上げるための重ね着(レイヤリング)をご提案しきれなかったり、お客様にとっての最善を尽くすのが難しかったりする場合もあるのです。
ECサイトであれば、まず機能面やブランドからお伝えしたいことをしっかりと押し出していけます。それによって、お客様にとって最適なご活用方法を提案できる利点はあるでしょう。また、サイズ展開や商品のラインナップについてもECサイトは豊富に揃えています。
例えば、日本が暑い時期であっても欧州の標高が高い山に登ることがあれば店頭に並んでいる商品では防寒対策を充実させづらいかと思います。オフシーズンの商品や前年のシーズンの商品をアウトレット価格でお求めいただけるのは店頭ではやりづらい、ECサイトならではの強みです。
他にも、店頭で購入する場合、事前に何を用意する必要があるか下調べが必要になるかと思います。当サイトではシーンに合わせたコーディネートを複数掲載しています。行き先の山やアウトドアのシチュエーションに合ったコーディネートを手軽に見つけて購入いただけるので、初心者のお客様で合っても詳しい知識を必要としない仕組みになっているのです。

販売以外の役割を提供するECサイトへ
――ECサイトを拝見すると様々なところに商品の機能性やレイヤリングについて情報が載っているため、サイトを眺めているだけで登山用品に詳しくなれそうな気がしました。自社ECサイトを通して、お客様にどのような購買体験を感じてもらいたいでしょうか?
奥村さん:当サイトはECサイトとブランドサイトの両面の要素を持っています。「どんな商品があるのかな?」と訪れたお客様にカタログとしてご覧いただき、楽しめるような情報を出すことを心掛けています。
自社ECサイトでお買い求めいただくにあたって、ミレーというブランドを伝えて、感じてもらうことが重要だと思っています。同じ商品をお買い求めいただくとしても、ブランドが好きなのか、たまたまその商品が好きなのかを比べると、長くお付き合いできるのがどちらかは明らかです。
ECサイトである以上、お顔を合わせて魅力の説明をすることはできませんので、サイト上での表現の仕方は工夫が必要です。新型コロナウイルスの影響で初めてネット通販を利用するお客様が増えた感覚があります。だからこそ、自分にとっての常識でわかってもらえると思わずに、ECの知識をゼロベースにして、お年寄りの方でも使いやすいサイトになっているのか考えるようになりました。

奥村さん:これから充実させていきたいこととしては、日本規格の商品開発をしている社員が同じオフィスにいるので、日本におけるミレーのブランドの表現をもっと強めていきたいと思います。ブランドサイトとしての側面で、販売店の方々にカタログ代わりに活用いただくこともあるため、サイト内にはあえて難しい言葉で表現されているところもあります。
ミレーは登山において重要な雨や汗による濡れや蒸れから解消できることを強みにしているブランドです。その情報をお伝えするために、登山初心者の方でもわかりやすい表現と、素材や調質性にこだわるような玄人の方が満足するような表現のバランスに配慮しながら、工夫していこうと思います。
インタビューを通して:売り場に合わせた強みを活かして顧客満足度を高める
メーカー企業が直販をするにあたって、卸先との連携は欠かせない要素です。店頭で商品を手に取ったお客様がネットでの販売価格を確認することも少なくない中で、相互にとってメリットのある取り組みを行うためのバランスを保つことは、難しいながら避けられないことだと思います。
「機能面やブランドからのメッセージをしっかりと伝えていきたい」という奥村さんの想いがコンテンツとしてサイト内に充実しています。このような取り組みによって販売店にとってもお客様にとってもミレーにとってもメリットのある「三方良し」の形を取れると感じられました。
サイトを拝見すると利用シーンを具体的に想起しやすい工夫が施され、想起しやすい具体的な事例からストレスなく商品ページまで遷移できることがわかります。ユースケースが限られている商品やジャンルを取り扱っている事業者様は参考にしてみてはいかがでしょうか。
▼ミレー(MILLET)公式オンラインストア
https://www.millet.jp/
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